ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Asuna ***
「…そんな事があったのね」
アスナは一人、彼女の親友であるリズベットの武具店に来ていた。
名目上は武器のメンテナンスだが、彼女の武器はそれほど傷んでいなかった。
そんな中、一人で来た事を揶揄うリズベットだったが、事情を聞き、神妙な感じになってしまう。
「…ごめんね。そんなことがあったなんて知らなくて、私…」
「ううん、いいの…シグレ君は死んじゃったわけじゃないし」
リズベットは謝るが、アスナは笑顔で。
その笑顔も、親友である彼女だから分かるのか、無理した笑顔だと察していた。
だからこそ。
「…あんまり我慢しなくていいんじゃない?」
「え?」
「平気なつもりなのかもしれないけど…無理してるの、バレバレよ?」
リズベットに言われ、アスナは作っていた笑顔を崩す。
「…今の私があるのは、シグレ君のおかげだって…だから、私…」
「うん…」
「あのままだったら死んでた私を、助けてくれた…あの人を、助けたいって…思ってたのに…!」
「うん…」
感情が溢れたのか、涙を流して想いを吐露するアスナをそっとリズベットが抱きしめ、彼女の頭を撫でる。
そうするのが最善か、なんてリズベットにさえも分かっていない。
でも、そうしないと、アスナが壊れてしまいそうに見えて。
「目の前で、シグレ君があんな目に遭うのを見せられて、何もできなくてぇ…!」
手が届く距離にありながら、何も出来ない。
それは果たして、どれだけ精神的にきついだろう。
きっとそれは、想像を絶する。
「…私こそ、ごめんね…アスナが辛い思いをしてるのは分かってるけど、こんな事しかしてあげられない…」
いくら親友とはいえ、こういう時にどうしたらいいか、なんて答えは持ち合わせていなかった。
こんな時に何もできないで、何が親友か、とリズベットも自身を責める。
だからこそ。
「…だから、シグレが目を覚ましたら、絶対に連れてきなさいよ。親友を泣かせた罰として、一発殴ってやらなきゃ…気が済まないわ」
いつも通りの調子で接することしか選択肢がなかった。
けれど、アスナにとってはそれが励ましになったのか。
「…もう、リズったら」
「あら、一発じゃ足らない?どうせここ圏内だから、何発殴っても死にはしないわよ?」
「ふふ…」
それがアスナのツボに嵌ったのだろうか、肩を震わせて笑い出すアスナ。
「…いっそ、決闘でっていうのは…どう?」
「私があいつと?一発も食らわせられずに負けるわよ。あいつフロアボスを一人で撃破できるんでしょ?」
逆にこっちが死ぬわ、とリズベットが笑う。
そんな事を言ってるとアスナがだいぶ調子を戻したのか、リズベットから離れ。
「…じゃ、私が鍛えてあげるから。ばっちり強くなってね?」
「ちょ…アスナ、本気?」
「私の代わりに一発、殴ってくれるんでしょ?」
頬に涙の跡を残しながらいい笑顔で言うアスナにリズベットは苦笑しか出ない。
こりゃ藪蛇だったかなぁ、等とリズベットは考えていたが、目の前の親友の笑顔に、まぁいいか、とも思っていた。
「じゃあまずは…私から一本取ってみてね?」
「無理に決まってるでしょ!?」
*** Side Asuna End ***