ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第91話:今、強くあれるのは / Sachi

*** Side Sachi ***

 

 

 

サチは一人、27層の主街区にいた。

 

 

「…」

 

 

トラップにかかり、ギルド全滅の危機に陥った迷宮区がある層。

私達のギルドにとっての悪夢の層。

とはいえ、あれからシグレ達と行動するようになり、このあたりの層であれば楽に攻略できるであろう力をつけている。

 

 

「…もう一回、あそこに行けば…シグレの辛さ…分かるかな」

 

 

ぼんやり呟く。

けれど、足は動かない。

足がすくんでいた。

理由なんて、分かっている。

…怖いんだ。

 

 

「駄目だなぁ、私…」

 

 

シグレはこの臆病さを忘れるなって、言ってた。

けど、シグレみたいに、無茶な敵を相手にしても立ち向かえる強さが欲しい。

シグレ…貴方はどうやって、あそこまでの強さを手に入れたの?

貴方はどうして強い敵に屈することなく、気高くあり続けることが出来るの?

ぼんやりと、眠り続けるシグレを思う。

一度、彼がまだ月夜の黒猫団の一員だった時、聞こうとしたこともあったけれど、その時は聞けなかった。

今考えれば、上手くはぐらかされてしまったなぁ、と思う。

そこまで考え。

 

 

「っ…だめだめ、こんな事考えちゃ…!シグレは死んじゃったわけじゃないんだから…」

 

 

弱気な考えを振り払う。

この前聞いた、シグレの過去。

それは、少なくとも私にとっては壮絶なものだった。

家族も、住む場所も失くし、なんとか生活できている、という程度。

そういう意味では、きっと私は恵まれている。

家族も、家も、ある。

そんな私には、きっと彼の辛さを理解することはできないだろう。

けれど、それでも。

 

 

「…」

 

 

私は、彼の支えになりたいから。

だからせめて、強くなりたい。

…だから、私は一歩を踏み出す。

 

 

 

そうして、フィールドに出る。

 

 

「せいっ!」

 

 

今の私なら、この辺りのモンスターは一撃で倒せる。

黒猫団でシグレと出会って。

彼がいなくなってから、キリト達と出会って。

その出会いが、今の私の強さを作っている。

皆と出会うことがなかったら、きっと私は弱いままで、フィールドに出ることすら怖くて。

この世界から逃げ出したくて、一人、自分を殺してしまっていたかもしれない。

 

 

「やぁっ!」

 

 

でも、今。

私はこうして、戦っている。

戦えている。

それはきっと、いや、絶対にシグレのおかげだと、胸を張って言える。

技術的な意味での、戦いの強さ。

そして、大切なものを守るために戦うという意味の、心の強さ。

シグレはきっと、その両方を持っている。

けれど、何故だろう。

同時に、シグレに感じる、彼の脆さ。

一部を崩されてしまったら、そこからすべてが崩れてしまうのでは、と思わせるほどの何か。

 

 

「……」

 

 

武器を納め、街に戻る。

初めは陰鬱な気分を払うための狩りのつもりだったが、意味がなかった。

心配ばかりが募る。

いくら戦えるとはいっても、こんな気持ちで戦ってはいけない。

きっと、シグレならそう言うだろう。

 

 

「…」

 

 

どうか、無事に目を覚まして欲しい。

そう、仮想の月に祈りながら、私は街に戻る。

 

 

 

 

*** Side Sachi End ***


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