ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Sachi ***
サチは一人、27層の主街区にいた。
「…」
トラップにかかり、ギルド全滅の危機に陥った迷宮区がある層。
私達のギルドにとっての悪夢の層。
とはいえ、あれからシグレ達と行動するようになり、このあたりの層であれば楽に攻略できるであろう力をつけている。
「…もう一回、あそこに行けば…シグレの辛さ…分かるかな」
ぼんやり呟く。
けれど、足は動かない。
足がすくんでいた。
理由なんて、分かっている。
…怖いんだ。
「駄目だなぁ、私…」
シグレはこの臆病さを忘れるなって、言ってた。
けど、シグレみたいに、無茶な敵を相手にしても立ち向かえる強さが欲しい。
シグレ…貴方はどうやって、あそこまでの強さを手に入れたの?
貴方はどうして強い敵に屈することなく、気高くあり続けることが出来るの?
ぼんやりと、眠り続けるシグレを思う。
一度、彼がまだ月夜の黒猫団の一員だった時、聞こうとしたこともあったけれど、その時は聞けなかった。
今考えれば、上手くはぐらかされてしまったなぁ、と思う。
そこまで考え。
「っ…だめだめ、こんな事考えちゃ…!シグレは死んじゃったわけじゃないんだから…」
弱気な考えを振り払う。
この前聞いた、シグレの過去。
それは、少なくとも私にとっては壮絶なものだった。
家族も、住む場所も失くし、なんとか生活できている、という程度。
そういう意味では、きっと私は恵まれている。
家族も、家も、ある。
そんな私には、きっと彼の辛さを理解することはできないだろう。
けれど、それでも。
「…」
私は、彼の支えになりたいから。
だからせめて、強くなりたい。
…だから、私は一歩を踏み出す。
そうして、フィールドに出る。
「せいっ!」
今の私なら、この辺りのモンスターは一撃で倒せる。
黒猫団でシグレと出会って。
彼がいなくなってから、キリト達と出会って。
その出会いが、今の私の強さを作っている。
皆と出会うことがなかったら、きっと私は弱いままで、フィールドに出ることすら怖くて。
この世界から逃げ出したくて、一人、自分を殺してしまっていたかもしれない。
「やぁっ!」
でも、今。
私はこうして、戦っている。
戦えている。
それはきっと、いや、絶対にシグレのおかげだと、胸を張って言える。
技術的な意味での、戦いの強さ。
そして、大切なものを守るために戦うという意味の、心の強さ。
シグレはきっと、その両方を持っている。
けれど、何故だろう。
同時に、シグレに感じる、彼の脆さ。
一部を崩されてしまったら、そこからすべてが崩れてしまうのでは、と思わせるほどの何か。
「……」
武器を納め、街に戻る。
初めは陰鬱な気分を払うための狩りのつもりだったが、意味がなかった。
心配ばかりが募る。
いくら戦えるとはいっても、こんな気持ちで戦ってはいけない。
きっと、シグレならそう言うだろう。
「…」
どうか、無事に目を覚まして欲しい。
そう、仮想の月に祈りながら、私は街に戻る。
*** Side Sachi End ***