ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
ある朝。
「ぅ……」
シグレは差し込んでくる光に刺激され、目を覚ます。
無意識に、左手の甲を目元にやり、光を遮る。
「……?俺は、あの時…」
74層の戦いで、左手は落とされたはず、と疑問が湧く。
というより、それ以前に自分はなぜこの22層の家で寝ているのかが疑問だった。
両の手をベッドにつき、上半身を起こす。
「…」
いまいち目が冴えない。
寝ていたからだろうか、眠気が抜けきっていないのだろう、とシグレは考える。
74層での戦いを思い出しつつ。
「…?」
刀がないことに気づく。
あの戦いで修復不可能な破損をしたのだろうか。
自分の胸を貫かれて以降の事を覚えていないので、どうしようもなかったのだが。
そんな事を考えていると、部屋の扉が開く。
扉を開けた主は、まだシグレが目を覚ましていないと思っていたのだろう。
そうして入ってきたのは。
「…ストレア?」
「え……?」
ストレアだった。
けれどいつもの明るい様子はなりを潜め、それどころか目に生気が感じられない。
本当に同一人物かと、シグレですら疑いたくなるレベルの変わりようだった。
だからこそ、疑問形で名前を呼んだのだが、呼ばれた方は、期待していた、けれど今聞けるとは思わなかった声にハッと顔を上げ。
「シグレ……?」
刀を抱えたまま、シグレが目を覚ました姿を認識し、肩を震わせる。
そんな彼女が、衝動のままに動き出すまで時間はかからず。
「…シグレっ!」
シグレの刀を床に落とし、それには目もくれずに、家の中であることも気にしないかのようにシグレに一直線に駆け寄り、そのままの勢いで抱き着く。
「ぐっ…」
突然の事もあり、ベッドに仰向けに押し戻されてしまい、変な声が出るシグレだったが、ストレアは止まらない。
「シグレ…シグレぇ…良かった…良かったぁ……!!」
「…世話をかけたな」
「うぅ…」
ストレアを宥めるように両手を彼女の背に回し、軽く背を叩く。
宥める目的以外にも。
「……それはそうと、少し苦し…」
「っ…」
折角目が覚めても、今度は別の理由で気を失うのではと懸念したシグレが離れるように言おうとするが、ストレアは離れるどころか、むしろ力を強めてきていた。
さすがに普段の鎧装備は外しており、私服だったので痛みこそないのだが、肩を震わせながら抱き着いてくるストレアに本気で抵抗できず、されるがまま。
「シグレ…!」
遠慮なく体を押し付けてくるストレアだが、今のストレアの様子から突き放すという選択肢もなく、シグレは抵抗せず、されるがままでいたのだった。
それからどれくらい経っただろうか、戻ってこないストレアが気になったのか。
「…ストレア?」
キリトが顔を出す。
押し倒される体勢のためか、まだ眠っていると思ったのだろう、シグレに声をかけずに部屋に入ってきて。
「…シグレ、目が覚めたのか!?」
近くに来て、ようやく気付く、といった感じだった。
「そろそろ起きたいとは思うんだが…な」
やれやれ、といった感じのシグレ。
どうしたものか、とは思いつつ、今の状態のままキリトに話を聞くことにした。
とはいっても、特に何があったわけでもない。
ただ、74層での出来事から一週間が経っていた事。
その間は皆がここで、休息という名目でここで過ごしていたという事。
そんな中、皆が気落ちしていたが、ストレアの落ち込みようが一番酷かったという事。
「…そんなわけだからまぁ…それは、自業自得って事で。俺は皆にシグレが目を覚ましたことを伝えてくるよ」
苦笑しながらキリトは部屋を出ていく。
それから少ししてアスナとサチの突撃に遭い、シグレが更にもみくちゃにされるのだが、それはまた、別の話。