ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

98 / 251
第94話:束の間の平穏

そんなこともあり、夕方。

 

 

「ただいま戻りましたー!」

「おかえりなさい、ストレア」

「今日は楽しかった?」

「うん!」

 

 

ストレアの元気な挨拶に笑顔で返すアスナ。

サチもストレアの元気な様子に、安心と微笑ましさが垣間見える笑みを浮かべている。

その様子がまるで家族のように見えたのだが、何も言わずにその様子を見て、軽く笑みを零す。

 

 

「…どうした?」

「いや…微笑ましい、といえばいいのか?」

「ん?あぁ…そうだな」

 

 

キリトが笑みの理由を尋ね、帰ってきたシグレの答えに納得する。

皆が皆武装を解除し、私服姿で過ごしている様子は、現実と遜色ない。

それは彼女らに限らず、キリトとシグレも同様だった。

 

 

「…あの光景、守りたいな」

「……そうだな」

 

 

キリトの言葉にシグレは同意で返す。

 

 

「キリト。少し…付き合え」

「なんだ?」

「…手合わせだ。実戦の勘を取り戻さないとな」

「なるほど……いいぜ。俺だって負けっぱなしでいられないと思って、素振りしてたんだ…成果を見せてやる」

「なかなか辛いリハビリになりそうだな」

 

 

シグレはキリトに訓練を持ち掛ける。

キリトの同意を確認するとシグレは木刀を二本取り出し、一本をキリトに渡す。

キリトもそれを受け取り、外に出る。

 

 

 

そんなこんなで、家の近くで気が邪魔にならない程度の場所。

 

 

「…ルールはどうする」

「前と同じで行こうぜ。初撃決着だ」

「分かった」

 

 

シグレが決闘の申請を出し、キリトが確認する。

カウントダウンが始まる。

 

 

「今度は、負けないぞ?」

「当然だな。俺は病み上がりだ…そんな俺に負けるようでは話になるまい?」

「…やれやれ、ハードルを上げてくれるなよ」

 

 

まるで決闘の直前とも思えぬ親しげな会話。

しかし二人は木刀を構え、互いから目を逸らさない。

カウント、残り10秒。

 

 

「それを言うならお前こそ、ボスを単独撃破する実力…きっちり見せてくれよ?」

「……いいだろう。全力で行く…その代わり」

 

 

そうして、カウントが0になる瞬間。

 

 

「後悔するなよ?」

 

 

シグレの声が聞こえたと思った瞬間、目の前からシグレの姿が、文字通り消えた。

それは比喩でもなんでもなく、キリトの目の前からシグレの姿が消えた。

そこにあるのは、シグレが移動する際に踏み込んだのか、揺れる草があるだけ。

 

 

「っ!?」

 

 

驚きながらもキリトは背後に気配を感じ、木刀を構えて背後に振り返る。

そこにはキリトの眼前に迫り、木刀を横薙ぎにする構えのシグレ。

普段のシグレとはまるで別人のような、本気で殺しにかかってくるような威圧感。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

息も乱さずに、正確に首元を狙ったシグレの横薙ぎ。

キリトには、それが、シグレについた『幻影の死神』の二つ名の事もあり、死神が振り下ろす鎌のように見えた。

気を抜けば、狩られる、と意識しながらも、シグレの攻撃を咄嗟に木刀で止める。

けれど、シグレは止められることも分かっていたかのように、鍔迫り合いをせずにすぐに後ろに跳ぶ。

 

 

「くそ…っ」

 

 

シグレはキリトに反撃を許さず、攻撃をしては距離を取り、を繰り返していた。

その間も、単に横薙ぎを繰り出すだけでなく、袈裟型に切り払ったり、突きの攻撃だったりバリエーションに富んでいた。

それだけに限らず、シグレの動きは落ちることなく、目に留まらぬ速さで、キリトの眼前、側面、背後、四方八方から攻める。

キリトにとっての幸運は、それらの一撃が彼にとってそれほど重い攻撃ではなかったということ。

だからこそ、キリトは持ち前の反応速度でシグレの攻撃を上手く防いでいた。

初激決着なので、一撃もらえば負けとなる。

だからこそ、キリトは防御の手を緩められない。

しかしそれが、キリトが攻撃に転じられない理由になってしまっていた。

 

 

「…このままじゃ、負ける…っ!」

 

 

端的に言ってしまえば、今のキリトはシグレに打たせ放題の状態。

だとすれば、一瞬の隙が負けに繋がるとキリトは直感的に悟る。

この状況を打開するために、キリトは一つの勝負に出ることにした。

…必ず、もう一度チャンスが来る。

その瞬間を、逃しさえしなければ。

シグレの高速な攻撃を凌ぎながら、キリトはシグレの斬撃に集中する。

 

 

「……」

 

 

一方のシグレは、攻めながら、キリトの目が変わった事に気づく。

シグレの斬撃を防ぐ事を諦めたわけではないことは、分かる。

それとは別に、何かを狙っている、と。

シグレ自身、キリトのその反応速度は恐ろしいものがあると感じていた。

少なくともここまでの攻撃を繰り返し、ただの一度も決定打にならなかったことは、彼が今まで戦ってきた中で初めてのことだった。

その為か、シグレの中では、若干の焦りが見えていた。

 

 

「ちっ…!」

 

 

その焦りを舌打ちに変えながら、シグレは木刀を振り下ろす。

 

 

「…そこっ!」

 

 

けれどキリトはその斬撃を待っていたといわんばかりに、自分の木刀を下から切り上げ、振り下ろされた木刀にぶつける。

これまでの打ち合いで、単純な力ではシグレより上だと考えていたキリトは、それで上手くいくという確信があった。

 

 

「っ…!?」

 

 

結果として、シグレは木刀を弾き飛ばされてしまう。

剣を失ったシグレの眼前に、木刀の切っ先を向けるキリト。

 

 

「…俺の勝ち、だな?」

「……そのようだな」

 

 

キリトの言葉にシグレが溜息を吐き、降参を認め、決着がついたのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。