ステイタス上がらないけどスキルがチートだから問題ないよね!……多分 作:アステカのキャスター
ソードオラトリア12巻が面白過ぎて泣ける。
地面を蹴り抜き、すれ違いざまにモンスターを切る。背後のモンスターが断末魔の悲鳴を上げ、崩れ落ちる。
どれほどモンスターをそうしてきただろう。考えるよりも早く次なる獲物を求め、
あの言葉を聞いて、惨めな自分が恥ずかしくて、笑い種にされ侮蔑され失笑され、挙げ句の果てには庇われるこんな自分を僕は初めて消し去ってしまいたいと思った。
青年の言葉を否定出来なくて、言い返すことすら出来なくて、彼女にとっては路傍の石に過ぎなくて、そんな自分がたまらなく許せなかった。
『ゲェ、ゲェ』
「ハアァァァァァァァァ!!」
新たにモンスターを見つける。巨大な単眼を持つ蛙のモンスター、『フロッグ・シューター』。それに向かって地面を蹴り、ナイフで裂く。あり得ない速度で迷宮の下層を降りていく。まだ冒険者になって半月しか経っていない中、どう考えてもおかしい。
ベルはそんな事も疑問に思わずに6階層に足を踏み入れる。
ビキリ、ビキリと【ステイタス】によって強化された五感がその不穏な音を拾っていく。薄緑色に染まった、ダンジョンの壁面。そこから壁が破れた。
「あれは……」
現れたのは『影』だった。身の丈は僕と同じくらい。その体躯は頭から足先まで黒一色で限りなく人間に近いシルエットをしている。唯一、十字の形を描く頭部に顔面と思わしき手鏡のような真円状のパーツがはめ込まれている。
「『ウォーシャドウ』……」
得物を握り直し、構える。がしゃりっ、と後方からも音が上がった。振り向くとそこにはもう1体のウォーシャドウが産まれ落ちていた。『新人殺し』と呼ばれたこのモンスターに対抗できる最低のステイタスはLv.1のFは必要だ。集団で囲まれれば素人に勝ち目は無い。
(距離を取って、体勢を……な!?)
バックステップ直後に背中に伝わる固い感触。
いつの間にか、壁際まで追い詰められていたのだ。
致命的な隙を見せた獲物に、ウォーシャドウの一体が一気に詰め寄る
「くっ、うおお!!」
繰り出される大振りに合わせて、右手に持つ短刀でカウンターの刺突を叩きこむ。
まっすぐ怪物の胸部を貫いたその一撃は、体内の魔石を見事に砕いた。
同時に、左腕を切られた痛みが襲う。切り裂かれた、深くは無いがダメージはある。血が垂れたナイフは『ウォーシャドウ』を切り裂き続けるが、あくまで対等に戦えているだけだ。集団に囲まれた。
「ぐっ……ああああああああああああああああっ!?」
今度は背中を鋭利な爪で裂かれた。集団戦で怖いのは背後を取られることだ。ダンジョンで背中を取られない為にはパーティーや装備が必須だが、今は酒場からダンジョンに来た為、装備はコートと護身用のナイフだけだ。
「ぐっ、くそおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ナイフを持ち替えてモンスターに立ち向かった瞬間
「────全く、自暴自棄は良くないよ。ベルくん」
とてつもない速さの銀色がモンスターを通り過ぎる。
魔石を抉られて消え去るモンスター、風に棚引く長い銀髪、背は自分より少し小さいがその背中を2度も見た。
ウォーシャドウのさらに後方から小さな影が飛び込んできて、勢いそのまま右端の奴を殴り飛ばし、他の二体まで地面に転がしてしまった。一連の映像を網膜に焼き付け、そこでようやく人影の正体を知った。
「……ふう」
「……トワ、さん?」
今日初めて会ったトワが、夜中の人気のないダンジョンにいた。
「こんなところで何してるんですか、トワさん!」
「こっちの台詞さ。さっきの酒場で何があったか聞いてしまってね。君を追っかけて来たんだよ」
「っ……」
つまりは連れ戻しにきたということだ。こんな夜中に、装備もなしに、しかも入ったこともなかった新たな階層への無謀な攻略を止めに。それは、正しい。ああ、どこまでも理屈の上では、正しい判断だった。
だけど。
「……帰ってください! 僕はまだここで強くならなきゃいけないんだ!」
意地が。なけなしの矜持プライドが。帰ることを全力で拒否していた。
「断るよ」
「なんで! 何をすればいいかじゃない、何もかもしなければならないんだ! それを邪魔するんだったら……」
パァン!!
ベルの頰に痛みが走る。トワはベルの頰をスキルを使用せずに叩いた。困惑しながらも頰を抑えるベルに胸倉を摑みかかる。
「いいかいベルくん。悔しくて見返したいから強くなりたい。何もしなかった自分が許せないから強くなりたいって気持ちは分かる。けど、今君がやっている事は明らかに
トワは珍しく怒っていた。
温厚そうな彼はベルの胸倉を強く掴んで引き寄せた。同じ体格だったから顔は近いが、トワは気にしない。
「強くなりたい。その気持ちを否定するつもりは無い。けどね、今君が護身用のナイフで装備もなしにダンジョンに入った。食い逃げもした。今も君は多くの人に迷惑をかけた」
あの時、心配していたシルさんや女将とか色々、トワが言うべきでもないが、あの時は迷惑をかけた。反省するところは反省するのが常識だ。
「挙句、自暴自棄でダンジョンに潜った。悔しいから、強くなりたいと言う気持ちをぶつけるのは構わない。誰しもがある事だ。けど、今の君がやっているのは自分を大切にしない
トワの目はまるで断罪する神のような目をしていた。故に体が動かない。まるで神威に当てられたような金縛りにあったような感覚がベルを襲う。
「──いいか、よく聞け
さっきまでの優しい雰囲気から一変して口調すら変わる。とても2日前冒険者になったとは思えないほどに、そんなトワがベルに口を開く。
「俺は
掴んでいた手を離すとベルはドサッと体から力が抜けてその場に跪く。
トワはため息をつきながら魔石をポーチバッグに回収する。そしてベルくんの肩に手を置く。
「まっ、それが分かれば俺はそれ以上怒らないよ。強くなりたいんだろ? 俺は手を出さないからこのままダンジョン攻略していこうぜ」
「さ、さっきと言っている事が真逆!?」
「何言ってんだ。俺は自暴自棄は見逃さないけど、強くなりたいって言う男の子の意思は尊重するよ? 俺はあくまで君が倒れたら回収するのと、君が斬ったモンスターの魔石を回収するだけさ。強化種が出たら危ないし」
「うっ……」
「っと、その前に──ー」
ベルの怪我だ。腕と背中は浅くはないが血が出ている。
これは俺の魔法を使うチャンスではないか? そう思った俺は詠唱を開始する。
「【冥府の神よ見るがいい、貴様らの役目は終わりだ】」
「っ!? 詠唱……トワさん魔法を……!?」
「【人は死を克服した、我が命ある限り、人々の幸福を砕かせはしない】」
ステイタスは【ロキ・ファミリア】にいた山吹色の髪をした可愛いエルフを模倣する。Lv.3で魔力限界突破してんですけど……あの子マジパナいな。ともあれ、初めて使う回復、その効果を見る為にも詠唱を紡いだ。
「【
魔法が発動するとベルの体に優しい赤い光が纏われている。【
「す、凄い……傷が……!」
「さあ、ベルくん。これ以上は俺は何もしないけど、ついては行く。あとは君次第だ」
「で、でもお店に迷惑が……」
「開き直って迷惑かけれるだけかけちゃいな。あとで謝りに行くのは当然だけどね?」
まっ、お金払ってるしそこまで怒らない……と思いたいが、もうこの際迷惑かけれるだけ迷惑をかけてあとで死ぬ程謝ってまた1日ダンジョンに潜ればいい。だって俺はトラブルメーカーだしね。結構正論を口にしていても迷惑かけているのは事実だし。
「さあ、頑張れよベルくん。ウォーシャドウが8体、死なない限り俺が治してやるから思いっきりゴー!」
「よし、やってやる!」
「行ってこい!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
こうして一夜が明けるまでダンジョンに潜っていた。
ベルの体力と精神が尽きるまでトワはただただその姿を見届けていた。
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「トワさん……」
「ん?」
「僕は馬鹿でした……」
「否定はしないよ」
「何もしてないくせに期待してた……」
「そうだね」
「弱い自分が悔しい……」
「うん……」
「トワさん」
「なんだい」
「……僕、強くなりたいです」
「……君ならなれるよ。英雄にだってね」
「……ありがとう……ございます」
安心したのかベルは寝息を立て始めた。トワは起こさないようにベルを背負い、彼のホームを目指した。ミアハ様に旧友の神が住んでいる場所を聞いておいてよかった。
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「遅過ぎる……!」
錆びれた教会でヘスティアが呟く。
もう時刻は夜明け間近にも関わらずベルが帰ってこない。これは何かあったと考えた方がいい。
心配になったヘスティアが探しに行こうとしたとき、扉をノックされる。
「ベル君!」
この教会の隠し部屋を知ってるのはヘスティアとベルだけ。ならばノックしたのはベルだと思い扉を開けると、
「こんな時間に失礼します。神ヘスティア」
トワの言葉にヘスティアは彼が背負っいる少年に気付いた。グッタリと気を失っている少年を。
「俺はトワ・クラヴィウス。【ミアハ・ファミリア】の新参者です」
「ベル君!」
「心配しないでいいですよ。傷はもう治ってます」
気を失った後、トワは魔法を使って治癒していたので傷は完治している。
「一晩ダンジョンに潜っていたからかなり消耗しています。ゆっくり休ませてやってください」
「ダンジョン⁉︎ 何を考えてるんだい、しかもこんな格好で!」
「まあ男の子だから色々あったんですよ」
ベルが気絶しているせいか何故かトワに叫ぶヘスティア。
「ベルくんは強くなりたかったんだ」
「……何があったんだい?」
「それは俺が話して良いことじゃないので」
トワはベルをベットに寝かせるとここにもう用は無いとばかりに立ち去ろうとする。しかし、何かを思い出したように立ち止まる。
「神ヘスティア」
「な、何だい?」
「この子は多分強くなる。【剣姫】や【猛者】すら超えれるほどにね。この子が英雄になりたい気持ちを大切に。あっ、あと重傷とかなったら【ミアハ・ファミリア】を頼ってください。生きてさえいれば俺は治しますので」
静かにトワは微笑む。この少年は英雄への道を踏み出したのを確信して、背を向けてホームを出ようとする。
「当たり前さ。大事な僕の大切な子だからね。ありがとうトワ君、ベル君を助けてくれて」
『────ありがとう先生! 私の大切な友達を助けてくれて』
「え──?」
トワは後ろを振り返るとそこにはヘスティアしかいない。
今聞こえた子供の無邪気な感謝の声が聞こえた。
今の声は……幻聴?
「? どうしたんだい?」
「あ、ああいえ何も……」
そんな幻聴は耳から消えていた。不思議に思いながらも俺は【ヘスティア・ファミリア】の廃教会を出て行った。
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翌朝、
俺がいつも通りギルドに行ってエイナさんに挨拶すると、エイナさんはヒクついた笑顔で挨拶を返し、
「トワ君、すこ──────ーし“お話”しようか…………!」
有無を言わせぬ迫力で別室に連れて行かれた。
別室の椅子に座り、エイナさんと向かい合う。あと、正直な事言っていい?あっ、死んだわこれ。
「そ、それでエイナさん…………お話とは…………?」
明らかに機嫌が悪そうなエイナさんに対し、俺はビクビクしながら尋ねる。
エイナさんは笑顔だが、目が笑っていない。やだ器用
「トワ君、私ね…………ついさっき面白い噂を聞いたんだ♪」
何だろう?
エイナさんの顔は笑顔で、声も音符がつくほど軽やかそうなのに、何故か冷や汗が止まらない。今日は記念碑か?俺の墓が建てられちゃう日なのか?(困惑)
あれ?前にも同じことがあったような気がしますマル
「う、噂ですか…………?」
「うん♪ その噂の内容がね、【ロキ・ファミリア】のベート・ローガ氏が新人にしか見えないヒューマンの少年と喧嘩したって噂をね♪」
「へー、ソレハスゴイウワサデスネー」
「それでそのヒューマンの少年の容姿が、長い銀髪に銀色の目の【剣姫】そっくりな見た目だったんですって♪」
「へー、ソウナンデスカー、ジャアオレダンジョンニイッテキマース」
逃げようとした矢先にガシッと力強く俺の肩を掴んだエイナさんの額には青筋が浮かんでいた。逃げるのは良くないと思ったので俺は本心を包み隠さずに伝えた。
「トワ君弁明は♪」
「反省はしているが後悔はしていない☆」
この後正座しながら二時間程こっ酷く怒られた。