買ってきた煙草は親父の仕事用ではない鞄の中に入れておいた。
……俺が煙草を買ってきたことがバレたら流石に何か言われそうだから、もちろん家族には黙って。
それにしても、どうやら名前は違うものの地形や建物の配置は大体同じらしい。
椚ヶ丘中学校なんてものは前のところにはなかったが……。
まぁ、他にも所々違うところはあるし気にすることもねーか。
そういうことで迷子になる心配もあんまりないし少し遠くまで行ってみてもいいが……、今日は自分の部屋を探索するか。
他人、しかも中学3年生のプライベートを覗き見するようで罪悪感はあるが、この世界で生きていく限りいつかはしなければならないことだし、家宅捜索だと思ってやるか。
そんな風に考えて始めた自室内の物の把握だったが、色々と調べてみると思わぬ物が出てきた。
「日記か……」
多少気は引けるものの、読んだ方が間違いなく『俺』への理解は深まるだろう。
心の中で『俺』に謝りながら、俺は日記を開いた。
『○月○日
俺が原因不明の病気だと診断されて、早くも2週間が経った。
まだ完璧に気持ちの整理がついたわけじゃないが、俺はこれからのことを忘れないように、日記をつけることにした。
今の経過から見ると、段々弱ってはきているもののまだ命に関わるような状態ではないから学校へは行けるらしい。
未知の病気だからもしかしたら突然治るかもしれないとも言われた。
2週間経って、気持ちの整理もついていないが、まだ死ぬかもしれないなんて実感もそこまで湧いていない』
…………日記っつーよりも、闘病記録って感じだな……。
『○月×日
今日は浅野と浅野の家で遊んだ。
帰った後でお袋に何をしたのかと訊かれて、国名縛りのしりとりで1時間激戦を繰り広げた後で世の中に存在する物質の化学式を順番に言って先に言えなくなった方が負けというゲームをしたと説明したら、何故か微妙な顔をされた』
それは遊びとは言わないんじゃねェのか……?
『俺』は結構な変わり者だったみてェだな。
それにしても浅野って……まぁ、別に珍しい名字でもないし、理事長とは赤の他人って可能性の方が高いか。
『浅野に病気のことは、言えなかった』
……。
『でも浅野には、浅野にだけは、いつか必ずちゃんと話す。
俺の親友には、きちんと話しておきたい』
……親友だったのか。
そこから読んでみた結果、出てきた名前は『浅野』『赤羽』『渚』『千葉』それから、『榊原』だった。
中でも親友と明記してあっただけあって、『浅野』の登場回数はダントツだ。
『渚』というのは名字じゃないように見えるが、だとしたらどうしてこいつだけが下の名前なんだ?
まぁ、それは今考えても仕方ないか。
日記を読む限りだと、『浅野』と『榊原』は同じA組のクラスメイトで、『赤羽』と『渚』と『千葉』は別クラスだったみたいだな。
あとは、体育祭の時に出てきた『岡野』と『片岡』くらいだが……、こいつらは運動能力についてすごいと書いてあっただけだから恐らく直接的な関わりはないだろう。
……俺はこいつらに会ったとき、どんな顔をすればいいんだろうか。
どんな風に対応しても相手を悲しませる未来しか見えなくて、どうしたもんかと少し困りながら続きのページを開く。
『×月○日
毎日少しずつ、でも間違いなく体が弱っていっていることも、このままいけば俺は死ぬってことも、全部。
浅野は一瞬だけ今まで見たことの無いような悲しそうな顔をして、それから俺の胸ぐらを掴んできた。
……それから……すごく、なんというか、怒られた。
浅野に怒られたのは初めてで……なんだ、その、びっくりした』
急に文面が拙くなったな。
『その後、俺は初めて浅野の泣き顔を見た』
!
『……浅野は小学生の頃から1番気の合う俺の親友で、家族みたいなもんだ』
文面も大人びてるし、石垣なんかよりもよっぽど落ち着いてることは日記から明らかだが、それでもまだ中学生だ。
……いつ来るか分からない死がどれだけ恐ろしいかっただろうか。
それに……身近な人間の死がどれだけ心を抉るか、俺は身をもって知ってる。
『……俺の大事な人たちが、俺が死んでも悲しまないような人間だったら良かったのにな』
その1文に『俺』のどれだけの想いが込められているか、同じように誰かを悲しませた俺にはほんの少しだけ、分かる気がした。
『…』はニコイチルールを守るべきだと言う方がいらっしゃったので修正します!!
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ええで
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更新はよ
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更新ゆっくりでいいからいい話頼むで