『感情が計算できるならとっくに電脳化されてる。計算できずに残った答え、それが人の気持ちというものだよ。まあ、そういう私も計算違いばかりしているから、結婚できないんだろうけどな。』
あの一件以来、ふとした時にこの言葉がグルグルと頭の中で回っていた。
比企谷「平塚先生…………」
ソファにぐったりと横たわりながらボソッと呟く。
(小町に聞かれてないよな…?)
そんなことを思うのも何回目だろう。
こんな風にリビングの一室で呟くことで何かまじないめいた効果で願いが叶う気がしていた。
比企谷「はぁ………」
俺はいつからあの人に惹かれていたのだろう。
具体的にこのタイミングでとは思い出せない。
ただ、強くあの人と一緒になりたい、未来を共に過ごしたいと意識したのはあの言葉を聞いた時だ。
「私も計算違いばかりしているから、結婚できないんだろうけどな」
自嘲気味に笑った先生の顔はひどく色っぽかった。
あんなに強くて芯のある女性が、弱い部分を見せてくれたのだ。
その瞬間に俺はあの人に強く女を感じ、思いきり抱き締めたい衝動にかられた。
ただ、あの時の俺は心臓をバクバクとさせるだけで、目を合わせることもできず、言葉ひとつかけることができなかった。
それからというもの、俺は先生に会える学校を楽しみに待ち望んでいる。
金曜の放課後に悲しさに暮れることになろうとは、昔の俺には到底考えられなかったことだ。
もはや、あんなに好きだった土日休みは今では胸を苦しめる拷問でしかない。
あの人に会いたい。あの人をずっと眺めていたい。あの人を知りたい。あの人と言葉を交わしたい。
その想いは日に日に増していくばかりだった。
現代文の授業中、俺の視線はチラチラと平塚先生へと注がれていた。
いや、むしろ授業中の生徒の態度としたら良いのだろうが、俺の眼差しはそういう優秀なものではなかった。
白衣の上からでも分かる胸の膨らみと柔和な腰つき。
その白衣のすき間からチラリと見えるつり上がったヒップ。
さすがに凝視はできないが罪悪感に苛まれながらも、下卑た瞳でチラチラと観察を続ける。
先生がこちらへ向くとどうしても気恥ずかしさから、目を背けてしまうが、また先生が黒板へ何かを書き始めると、ノートに写しながらもチラチラと視姦を再開するのだった。
そうして60分の間に俺の股関は何度も軟化と硬直を繰り返す。
キーンコーンカーンコーン
終業のチャイムが鳴り、昼休みが始まった。
生徒たちはガヤガヤとそれぞれのグループへと固まっていく。
平塚先生「おい。比企谷」
ドキッと一瞬心臓が高鳴る。思わず目を伏せてしまった。
比企谷「何ですか?先生」
平塚先生「ちょっとこれ運ぶのを手伝ってくれ」
先ほどの授業で集めたプリントだ。たまたま一番前の席の俺を雑用に使ってやろうというところだろう。
比企谷「はぁ。まあいいですけど、それ俺が運ぶほどですか?」
平塚先生「運ぶほどだ。それに、お前には少し話しがある。」
俺は、先生と共に国語準備室へと入っていった。