時折、平塚先生のお尻の丸みへと視線を滑らせながら、俺は後をついていった。
平塚先生「ありがとう比企谷。ここへ置いといてくれ。」
白衣を椅子にかけながら、先生は慣れた手つきで書類を片付けていく。
この国語準備室は、さして広くなくいつもは平塚先生ともう一人の先生が使っている部屋だ。
平塚先生「よし、まあそこへ座れ」
もう一人の先生が使っているのであろう椅子へと座り、俺は平塚先生と向き合った。
平塚先生「単刀直入に言うが、クリスマスパーティーの企画の具合はどうだ?」
比企谷「はあ…まあ、何とかはなりそうです。」
今のところ、むしろ何とかなりそうにないが…。
とりあえず今日、雪ノ下達と一緒に玉縄の会議へ参加することは伏せた。
「本物がほしい」などと宣った後で、雪ノ下の名前を出すのがなんとなく気恥ずかしかったからだ。
平塚先生「そうか。逃げ道を用意する訳じゃないが、もしあれなら早めに相談してくれれば先生方に頼ることもできるからな。まあ私としては失敗しても、それはそれで良い経験になるだろうと思ってるから、あまりとやかく言うつもりはないが。」
比企谷「今回の事は一色主導でやってることなので俺からは決定しません。俺が一色の立場なら間違いなく平塚先生に丸投げしますけどね。」
平塚先生「まったく、可愛くないなあお前は。それに私は先生『方』と言ったのだぞ?」
比企谷「ええ分かってます。それでも俺なら平塚先生を頼りますよ。平塚先生なら一番正しい方向へ導いてくれそうなので。」
俺の今の言葉は、どこか押し付けがましく傲慢だろうか?
平塚先生「その歳でヨイショなんか覚えてどうする。」
比企谷「一応、専業主夫志望なので。でもこれは本当に思ってることですよ」
平塚先生「思ってても本人向かって言うもんじゃないな」
比企谷「言わなきゃ分からないこともあるでしょう?」
平塚先生「ほんっとうに可愛くないヤツだなお前は」
困ったように微笑みながら、髪を耳にかける姿に俺の心臓は一瞬にしてはね上がる。
チラリと目に入ったうなじと首筋に見とれながら、俺は今、先生と二人きりであるということを強く意識した。
平塚先生「あ、悪かったな比企谷。昼休みに時間を取らせてしまって。もう帰って大丈夫だぞ」
俺は出来ることならもっと話していたい。
こうして言葉を交わすだけで、こんなにも幸せになれる相手。
こんな風に密室で一対一で話せる機会などそうそうないだろう。
先生はカバンから弁当箱を取り出していた。
比企谷「先生」
平塚先生「なんだ?」
比企谷「えっと…ここで弁当食べてもいいですか?」
平塚先生「…………別にかまわんが理由を聞かせてくれるか?」
比企谷「いや、あの…」
これはしまった。
突発的に言葉を発してしまい、特にこれといった良い言い訳を考えていなかった。
まずいまずいまずい。
平塚先生「まあいい。お腹すいてるだろう?早く弁当を取ってこい」
見透かしたような笑みを浮かべる先生に助け舟をもらった俺はそそくさと準備室をあとにした。
さて、どのように言い訳をしよう。
先生と一緒に過ごしたいなどという邪な気持ちがバレてしまっているのではないかと思ったが、不思議と悪い気はしなかった。