平塚先生「その弁当はお前が作っているのか?」
沈黙を最初に破ったのは先生だった。
あれこれ話題を考えてはいたが、結局はこの人のペースに身を任せてしまう。
比企谷「いえ、妹が作ってくれています。」
平塚先生「そうか。お前の妹はしっかりしてたしな。まあ、専業主夫になるなら料理が出来ないとだぞ比企谷」
比企谷「それには心配及びませんよ先生。料理は得意ですし、養ってもらえるとあらば掃除、洗濯、何であろうと家のことは完璧にこなしてみせます。」
俺は胸を張ってみせた。
平塚先生「はあ…まったく。君にはもう少し甲斐性というものを思考に取り入れてほしいものだよ。」
先生が口に含んだお箸の先が目に映る。
瞬間、一気に自分の中で官能のスイッチが入った。
もぐもぐと動く軟らかそうな唇。
モノを飲み込みうねる喉。
スラッとした首筋に視線を滑らせると、ボタンの開けたカッターシャツの隙間から鎖骨が目に入った。
いつも肩のラインを包んでいる白衣も今は着脱され椅子にかけられている。
比企谷「っ…!!」
チラチラと先生の体に視線を這わせているうちに、弁当から視線を上げた先生とバッチリと目が合ってしまった。
ひときわ大きい拍動とともに熱い血が心臓から全身に供給されていくのを感じる。
だが、この胸の鼓動の原因は、嫌らしい視線を這わせていたことによる後ろめたさからではなく、平塚静という女性へのトキメキからだった。
平塚先生「あまり食が進まないのか?」
比企谷「いえ、少し休憩してただけです」
そこから二人は終始無言で完食した。
比企谷「タバコ吸わないんですか?」
平塚先生「ああ。ここでは吸わないことにしてるんだ。個室だと匂いが付いてしまうしな。私だけの部屋ではないから。」
比企谷「まあ、そうですね。」
平塚先生「いつもは、ここで食べた日には職員室に行って吸っているよ。」
なるほど。となると、もしかしたら俺は食後の一服を邪魔していることになっているかも。
比企谷「俺、そろそろ帰りますね。」
平塚先生「ハハハ、まあ待て比企谷。気を使ったのか?タバコなんか吸うよりも私はこうしてお前と時間を過ごしたい。これは私からの頼みだ」
比企谷「…分かりました。」
時折、沈黙を交えながらも俺は先生と他愛もない会話をしながら昼休みを過ごした。
特にこれといって話さなければならないことも全く無い状況で、好きな相手と過ごす事の幸福を身に染みて知る。
結局、先生は俺になぜこの部屋で弁当を食べたがったのかを聞こうとはしなかった。