由比ヶ浜「ヒッキーここにいたんだ!先生もヤッハロー!」
平塚先生「どうしたんだ由比ヶ浜?」
由比ヶ浜「ヒッキーを探してたんです!彩加ちゃんに聞いたら保健室だって言ってたから!先生はどうして保健室に?」
平塚先生「ああ、コース番をしてるときに虫に刺されてしまってな。由比ヶ浜は刺されてないか?」
一瞬ドキリとしたが、先生はもういつもの先生に戻っていた。
動揺や隙といったものは一切存在しない。
これが大人というものなのだ。
埋めようの無い差を見せつけられたようで、俺は無性に悔しく、歯痒く、そして、むなしくなった…。
由比ヶ浜「ん~、私は大丈夫だと思います!あの公園のとこですか?私の帰り道だし、私も気をつけないと…」
平塚先生「そういえば、由比ヶ浜は」
まだ体の中身が落ちたままの俺は、こうして二人が会話を進めるのを適当に相づちを打って聞くことしかできなかった。
とても自分から言葉を発する気にはならない。
口を開けば余計なものまででてきそうだ。
由比ヶ浜「あ、そうそう!ヒッキー!このあと優美子たちとみんなで打ち上げに行くんだけど、ヒッキーも来るでしょ!」
比企谷「逆になんで俺が行くと思ったんだよ」
由比ヶ浜「ええ~ヒッキー行こうよ~!」
比企谷「部活が休みの日ぐらい真っ直ぐ家に帰らせろ」
由比ヶ浜「葉山くんがヒッキーと話すことがあるって言ってるの!それにこれは、ゆきのんの部長命令だよ!」
比企谷「何その特権…。そもそも今日は俺、小町の晩飯があるし帰らないとだな」
と、その時、颯爽とした足音が開いたままのドアから入ってきた。
雪ノ下「小町さんの許可は取ってあるわ」
雪ノ下は自らの携帯のメール画面を俺に見せつける。
比企谷「ああ、そうかい…。全く俺の意見というものは無いのかね」
雪ノ下「存在しないわ」
比企谷「いや…あのですね…」
とここで平塚先生の綺麗な笑い声が漏れる。
平塚先生「あ~、すまない。君たちは本当に良い。私まで楽しくなってくるよ」
クックックとまだ笑いをこぼしつつも、一呼吸置いて先生は続ける。
平塚先生「比企谷。こういう言い方をするとお前は嫌うだろうが、高校生の時間というのは今しかない。嫌だろうがなんだろうが、こうして誘ってくれるヤツもいるんだから、今しかできないことをやってこい」
比企谷「なんか大袈裟ですね…」
平塚先生「ま、どちらにしろお前に決定権はないようだがな」
ニコッと笑い恐ろしいことを言ってくる。
いや…まあ事実だけど、教師がそれを言っていいのか教師が…
こうして冗談を交えながらも、先生と俺は全く違和感の無い会話を成し遂げて、無事に教師と生徒という前の関係性へと戻る。
絶対に縮まることの無い関係性へと…
こうして何の違和感もなく、難なく修復をこなしてみせるのは大人の力量といったところだろうか。
が、次の一言は俺の心を更に深い底へと落とした。
平塚先生「…高校生には高校生の時間がある…………。それじゃあな」
高校生は高校生同士楽しくやってろ。
決してそんな意味はないと思う。
マイナスな言葉ではないはずだ。
なのに、何度も何度も頭の中でこの言葉がグルグルと回り、俺を苦しめた。
大人と子供。その絶対的な差を強く認識させられた。
先生が去ったのちも、その事ばかりが頭を支配していた。
ピロンッ!と保健室に通知音がこだまする。
由比ヶ浜「あ、先生ケータイ忘れちゃってるよ!」
携帯の画面には通知バーが表示されている。
『ペアペアランド:メッセージがあります』
平塚先生のやっているスマホゲームか何かかな?
ペアペアランドが婚活アプリだと知ったのは、家に帰ってアプリを検索した、打ち上げのあとだった。