暗闇の中で目をつぶり、暖かい布団に包まれても俺の意識は覚醒していくばかりだった。
何も考えまいとしても次々と色んなことが脳を刺激する。
保健室での官能的なひととき…
そして、先生が悲哀に満ちた目で突きつけてきたあの人との絶対的な距離。
先生と生徒だから。
年の差があるから。
何度諦めようとしても、言い聞かせても俺の心は納得してくれなかった。
縮まることのない距離を実感する度に心は激しくのたうちまわる。
静かな寝室で俺の体の奥だけが悲痛な叫びをあげていた。
もし、交際できたとしても先生にだけ大きなリスクを背負わせてしまう。
それを承知で自分の気持ちをぶつけたのは、俺の醜いエゴだ。
ただ、一番俺の心を締め付けたのは先生が出会い系アプリを使っているということだった。
先生を取られてしまう。
もっと言うなら先生のことをよく知りもしない、先生と付き合うに値しない人間と巡り会ってしまう可能性があるのだ。
押し付けがましいのは分かっている。
自分だって先生の横を歩くのに値しない人間だ。
だが、軽薄な笑みを浮かべて先生の横を歩く男を想像すると、強烈な嫉妬心に苛まれた。
分かっている。
勝手に人の不幸せを憂い、相手方に嫉妬や怒りを持つなど愚かなことだ。
これは究極な俺のエゴだ。
「先生…」
気づけば俺は先生と同じ出会い系アプリに登録していた。
当然、先生は名前を変えているだろうし、この膨大な情報量の中から見つけることなど不可能だ。
そもそも見つけようなど思っていない。
俺は地域と年齢を絞り3人にメッセージを送ったところでようやく眠りにつくことにした。
未だに激しい感情と思考が往き来しているが、心にほんの少しだけ安らぐスペースができたからなんとか眠ることはできそうだ。
それでも俺はマラソン大会の疲れがなければ一睡もできなかったと思う。
目が覚めるとやけに外の光がオレンジじみていた。
時刻を見るとなんともう夕方だ。
起きるのもめんどくさいのでベッドでケータイをいじることにする。
昨日登録したアプリからの通知がきていた
「こちらこそよろしくお願いします。」
とだけ書かれたメッセージへの返信。
3人のうちどうやら一人だけ返信を返してくれたようだ。
メッセージだとやけに色々と話す気になれた。
サクラでもなんでもいい。
今は人から返事が帰ってくるというこのやり取りだけが、気を紛ら
わせる方法だった。
彼女は恵(めぐみ)さんと言うらしい。
中々、少年漫画などの内容にも詳しく話が合った。
何よりも、文章から伝わる知的な感じと、時折ちらつく少年心とに魅了されはじめていた。
彼女とのメッセージのやり取りに心が癒される。
何通もメッセージをかわすうちに、俺は課金というものを考えはじめていた。