五等分のLOST COLORS (仮題) 作:シュヴァ剣欲しい
九月も既に半月以上が過ぎ、日本の各地でお祭りごとが開催し始める頃になってきた。
僕の家庭教師生活もようやく慣れがやってきたのか、スムーズに行えるようになり、彼女たちの小テストの点数も少しずつだか上昇傾向にある。
彼女たちと僕の勉強を賭けたゲームも今のところ負けることはなく、順調に勝ちを積み上げている。とはいっても、勝負しているのは一花と二乃だけで、他の三人は協力的だ。
「なんで休日まであんたと勉強しなくちゃいけないのよ……」
そう、対面に座る二乃の言う通り今日は休日だった。
公立図書館の一角で、読み書きができるスペース。ガラスから差し込む太陽の光が気持ちい一席に、僕と二乃はいた。
「君が賭けに負けたから」
「わかってるわよ、そんなこと。なんで休日なのって話」
「二乃が言ったんじゃないか。暇なのは土曜だって」
いくら賭けに負けたからといって勉強を強要させるわけにはいかない。
僕は彼女たちに都合がつく日を聞き出し、可能な限りその要望に沿う形をとっている。
「大体、勉強っていっても今日までずっと英語ばっかりじゃない。他の科目はどうするわけ?」
「二乃の自主性に任せる」
「はあ? なによそれ」
僕の言葉にペンを止め、顔を上げた二乃を目が合う。
「人に教わることも大事だけど、なにより自分から勉強することが大事だ。だから二乃やみんなの自主性に任せる」
「わからないところはどうするのよ」
「他の姉妹に訊くんだ」
「家庭教師だなんだって言っておいて結局人に投げるわけ? 最高ね」
二乃の皮肉に僕は「そうだ」と頷く。
「僕もいつかはいなくなる。でも姉妹は、家族はずっと一緒だと思うから」
「……」
「君たちの凄いところは苦手なこと、得意なことが被っていないことだ。だから互いに足りないところを埋め合いながら頑張ってほしいんだよ」
「家庭教師としては、失格かもしれないけどね」と付け加えると、二乃は黙ったまま再びペンを動かし始める。
数秒後、空白が埋められた問題文を僕へと突き付けてきた。
「ほら、できたわよ」
「……うん、完璧だ。流石は二乃だね。呑み込みが早い」
「―――ふん。で? もう終わり?」
「いや、まだ少し時間があるし最後にこのペーパーをやってみてほしい」
「よこしなさい」と僕が差し出した紙を受け取り、ペンを握りなおす二乃を確認し、僕は手元の本へと目を落とした。
「あんたも暇よね。休日に図書館なんて」
「まあバイトは休みだし、他にやることもないしね」
「友達と遊ぶとかあるでしょ」
そう言われ、一瞬本のページを捲る手が止まる。
……思い返してみれば、高校生活の一年と半年。僕は友達と呼べる人間を作ったことはおろか、誰かと休日を過ごしたことすらないのだと痛感する。
休日や放課後は新たな知識を得るための勉強やバイト、妹への面会で潰していて、そこには友達の姿形は一切なかった。
「もしかして友達いないの?」
二乃の少し小馬鹿にしたような、笑いをこらえているかのような言い方に、
「生徒なら五人いる」
「それはそれでどうなのかしらね……」
「二乃、集中」
手が止まっている二乃に対して言い、僕も読書へ戻る。
少しすると、また二乃が口を開いた。
「……なんで友達いないの?」
諫めるべきか、それとも無視するべきか。
だけども今の彼女の言い方は馬鹿にするような言い方ではなかった。まるで僕を心配するかのような口調だ。
僕は少し沈黙し、口を開く。
「作りたくないわけじゃないんだ。けど、みんなどこかよそよそしくて……」
半年経っても敬語を使われれば、踏み込み辛いのも間違いではないだろう。
「ヘタレね」
「うぐっ……」
二乃の直球の言葉に思わず呻く。
「周りがよそよそしくたって、あんたから行けばなにも問題ないじゃない」
「それは……そうだけども」
「自分が変わらなきゃ、なにも変わらないのよ。なにもね―――」
その言い方に、少しの違和感を覚える。
違和感を確かめる為に口を開こうとすれば、二乃が突き出した空白が埋められたペーパーで言おうと思っていた言葉は行き場を失う。
「はい、終わり。行くわよ」
「待ってくれ。採点が……って行く?」
「そうよ。ほら、立った立った」
二乃に急かされ、思わず言われた通りに立ち上がってしまう。
すると彼女は後ろに回り込み、早く歩けと言わんばかりに背中を押してくる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。本を返さないと」
そう言うと、彼女は押す方向をカウンターの方へと変える。
……器用だ。
01
二乃に連れられて歩き続ければ、着いたのは道路の縁に屋台や露店が並ぶ区画だった。
とは言っても道路は人で賑わっているわけではなく、並んだ露店等も骨組みが組まれているだけで、肝心の商品は並んでいない。
当然だ。ここの花火大会にちなんだお祭りは明日開催なのだから、やっていないのも道理だろう。
露店が置かれているせいで少し狭い横断歩道を二乃に先導されて歩く。
「……一体僕はどこに連れていかれるんだ?」
「うーん、マップだとここら辺なんだけど」
手元のスマートフォンに目を落としながら二乃が言う。
いくら横断歩道と言っても、今は屋台や露店で使うガスポンべや大型のゴミ箱等で足場が悪い。スマートフォンを見ながらの歩行は危険―――。
「あっ―――」
案の定、路地裏から露店へと伸ばされた線に足を取られて二乃の体制が崩れる。
予測していれば、行動も素早くできる。僕は一歩踏み込み、彼女の腰へと手を回して引っ張り、もう片方の手で二乃の膝を掬って持ち上げる。
スレショルドキャリーの出来上がりだ。日本では確か横抱きと言うのだったか。
「気を付けた方がいい」
「あ、りがと……」
「このまま運ぼうか?」
「なんでよっ!?」
「冗談だ」
二乃を下ろし、改めて問う。
「それで、僕たちの行くところは見つかったのか?」
「ええ。多分、あれよ」
彼女が指さした建物は道路の曲がり角に建てられた四階建てのビルで、一回の入り口にはメニューが書かれていると思われる小さなボードや、”営業中”とプリントされたのぼりが多数見受けられた。
「喫茶店か」
「そ。さ、行きましょ」
「足元注意でね」
僕がそう茶化すと、二乃は「うっさい」とそっぽを向いて歩き始めた。
02
僕らが入店した喫茶店は四階と屋上のツーフロアで店をやっていて、晴れの日は見晴らしのいい屋上でランチがとれることで有名なお店のようだった。
店に入って選ぶ席は当然ながら屋上で河川敷を流れる川を見渡せる一席。休日の昼ということもあってか座れるかどうか不安もあったが、幸い客の波が引いた直前らしく、呆気なく座ることができた。
ガラス張りの塀から景色を眺めながら、運ばれてきたバタートーストを一口かじる。
「美味し」
僕が感想を言う前に二乃が代弁してくれた。
焼きたてのパンに塗られたバターは香ばしく、ミルクティーがとてもよく合う。付け合わせのサラダは瑞々しく、添えられたオムレツは仄かな塩っ気があり、全体的な甘さを抑えてくれている。素晴らしいメニュー構成だと言わざるを得ない。
「いい眺めだ」
景色も良い。
今度僕も個人的に訪れてみようか。
「そうね。よく見えるわ」
まるで値踏みするかのように河川敷の方面を見つめる二乃に、
「花火大会をここで見るつもりなのか?」
「察しが良いわね」
「確かにいい場所だけど当日は混むんじゃないか」
「だから貸切るのよ」
簡単に言い切る彼女に思わず面食らう。
そうだった。彼女たちはお金持ちに分類されるお嬢様だった。
「……どうして僕を誘ったんだ?」
「なによ、いきなり」
オムレツを切り分けながら二乃は言う。
「花火大会の場所決めなら、五月や三玖や……他に適任がいるだろう?」
二乃……彼女は僕に良い思いを抱いていない。
それは最初対面した時に理解している。だからこそなぜ僕をランチに誘うのか、素朴な疑問だった。
「理由なんてないわよ」
「……え?」
また、僕は硬直する。
「逆にあんたは理由がいるわけ? 私とご飯食べるのにいちいち理由が」
「いや、それは……」
上手い言葉が見つからず言い淀む僕を横目に、切り分けた最後のオムレツを口に運ぶと二乃は短い動作で手を合わせて立ち上がる。
「冗談よ」
「……」
「さっきのお返し。べーっ」
そう言って小さく舌を出し、出口に向かう二乃を追いかけるように僕も立ち上がる。
「待ってくれ。僕も半分出す」
「いいわよ別に。貸切りの代金と一緒に払っちゃうから」
「そうもいかないだろ」
階段を降りつつ、譲れない部分を主張する。
そうか。
……”友達”というのは、こんな感じがするものなのか。
03
この街で物を揃えると言えば、様々な店が集まった巨大なモールだと市民全員が答えるだろう。
一階に食材や日用品を扱うスーパーから始まり、二階に衣類店、三階は玩具店等、”とりあえず”ここに来れば生活に必要な物が手に入る場所だった。
「男手がいるんだから使わない手はないでしょ」というのは二乃談で、現に僕は今片手に食材や飲料が入り膨らんだポリ袋を持っていた。
食材だけに留まらずどうやら軽く衣服の補充もしたいようで、僕らはモール二階の衣料品店エリアにてウィンドウショッピングに勤しんでいた。
「あ、これ可愛い」
「浴衣か」
ガラスの向こう側に立つマネキンに着せられた日本特有の衣服、浴衣に足を止めた二乃に、僕も止まる。
「丁度いいし変えちゃおうかしら」
「今着てるやつはもう着れないのか?」
「そうじゃないけど、変えたい気分なの」
「女の子ってそういうものよ」と続けられれば、男としてはなにも言い返せない。
軽くポーズしたマネキンを見比べながら二乃はガラスの前をゆっくりと往復する。
しばらくすると、なにかを言いたげに僕へと向き直る。
「どう思う?」
似合うのを選べ、と言っているのだろうか。
彼女とフィーリングが合うかはわからないが、意見を求められて断るほど性悪でもない。
ここは一つ、無難に選んでみよう。
「……右から二番目」
そう言って僕はウィンドウの黒地に白の花模様が織り込まれた浴衣を指さす。
浴衣を一瞥し、腕を組んだ二乃は一言
「フツーね」
「二乃はどうなんだ?」
「私は……これ?」
なぜ疑問形なのかはさておき、二乃が指さした浴衣は白地に黒の花模様……。
「ただの色違いじゃないか」
「はあ? 全然違うわよ。大体黒の浴衣ってなに? 喪服かなにか?」
「……似合うと思って選んだだけだ」
僕がそう言うと、二乃はにやりと笑って
「ふうん。ちゃんと私のことを考えて選んだわけね。感心感心」
「他に誰を考えて選ぶんだ?」
「うーん……五月辺り?」
「どうしてそこで五月が……」
僕の呟きを無視して二乃は店の中へと入っていく。
ついていく間もなく、彼女は中から店員を連れて戻ってくるとマネキンを指さして
「あの黒い浴衣が欲しいんですけど」
04
わからない。
彼女―――二乃の考えがわからない。
陽は既に沈み始め、夕焼けが家々の向こう側に見え始めた頃。彼女たちが住むマンション、ペンタゴンへと荷物を運びながらそう思う。
確かに三回ほど家庭教師として彼女と勉強をする時間を過ごしたが、果たしてそれで最初の”受け入れ難い”気持ちを払拭できるものなのだろうか。
僕が上手くやれたのか、それとも彼女が理解を示してくれたのか、可能性を考え始めればキリがなく、気が付けばマンションのオートロックの前まで来てしまっていた。
「ここでいいわ。ありがと」
「……ああ」
「どうかした?」
「いや、二乃。君は―――」
僕を信用してくれたのか? とは言えなかった。
踏み込むべきか、それとも一線を引くべきなのか。午前の図書館で彼女に言われた、「ヘタレ」という発言が脳内で巡る。
「変なの。でもまあ、わかったでしょ?」
「なにが?」
「―――これが、友達と遊ぶってことよ」
―――。
「ランチしたり、ショッピングしたり。ゲームセンターとか行ってみたりして……」
ああ、本当に。
なんて僕は馬鹿なのか。
信頼とか、理解とかではない。彼女はただ僕のことを心配してくれてただけなのだ。
友達がいない、僕のことを。
一人の人間として心配してくれていただけの彼女に、僕は家庭教師としての立場を忘れれず理解だの信頼だのと結び付けて悩んで……愚かにもほどがある。
「……ありがとう二乃。とても、楽しかった」
「そ。ならいいわ。頑張って友達作りなさいよ」
「ああ。貸しが一つできたな」
そう言うと、二乃は煙たがるように手を振って
「そんなつもりでやったんじゃないわ」
「君はそうでも、僕は貸しがあると思ってる。なんでも言ってくれ、助けになると約束する」
彼女は少し悩むような仕草をし、
「あんたが悪い奴じゃないってことはわかってるつもり。でもまだ私は自分で頑張りたいの」
「……そうか」
「だけどいつか―――迎えに来て」
二乃はそれだけ言うと、背中を向けてオートロックのガラス、その向こうへと帰っていく。
「……?」
残されたのは疑問と僕と、妙に冷たい夜風だけだった。
(パカラッパカラッ
事の顛末
・コピーもペーストもした覚えがないのに文章がダブる。
・しかも二か所以上。
・投稿しようとするとブラウザが落ちる。
・キレる(今ここ)
昨日の変な文章を見てしまった兄貴たちには申し訳ナス…