ゾルディック家の喰種【連載版】   作:政田正彦

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強い者、それは、護る者。


2話「ツヨイモノ×ソレハ×マモルモノ」

「クソッ!!なんなんだよ、あのガキはッ!?」

 

「俺が知るかよ!馬鹿野郎!」

 

 アプカーノファミリーの幹部。双子のノナトラとツチノラは現在命の危機に瀕していた。

 最初は、ただの侵入者だと思っていた。部下に任せておけば大丈夫だろうとタカを括っていた。

 

 部下から聞いた話だと侵入者はガキ一人。

 

 普通の成人の男が完全武装をしていたとしても、一人でマフィアの根城に乗り込むなど、自殺行為に他ならない。だが実際はただのガキが、武器も持たずに正面玄関から侵入したという。

 

 どこのクソガキだか知らないが、たまにある事だ。マフィアは、金にならない殺しはしない。だからこうして舐めた態度を取ろうと殺されることはない。と。

 

 部下の一人が、その侮りは間違いだとその身を持って知らしめる為、まず彼の足を撃った。

 

 

 それが殲滅開始の合図となり、撃った部下は弾が着弾するより先に、後ろの壁……10mは先まで吹き飛ばされ、壁と天井のシミにされた。

 

 それを皮切りに戦闘、いや、そのガキによる蹂躙が始まった。

 ものの数分で本部は壊滅状態に陥り、幹部である自分たちは命からがら脱出し、今、夜の街を息を切らしながら走り回る羽目になっている。

 

 

「クソッ……しかし流石にここまでくればもう追ってこないだろ。」

 

 

 息を切らしながら、走ってきた道のりを、誰もいない裏路地の狭い道を眺める。無論ここに留まる訳ではないが、誰も追ってきている様子はない。息を整えるために立ち止まり、兄弟にそう言ったノナトラだったが……同意する返事が帰ってこない。

 

「おい、ツチノラ?」

 

 振り返ると……そこにツチノラの姿はなかった。馬鹿な、先程までそこに居たはずだ!あの野郎、俺を置いて逃げやがったのか!?

 

 そう思い憤怒に顔を染めた次の瞬間、悍ましい殺気を頭上から感じ、まさかと上へと視線を上げると……「逃げ、ろ……ノナ、トラ……勝てない……こいつは、化物だ」……腹を赤黒い何か触手のような物に貫かれ、今まさに事切れそうになっているツチノラと、その触手を操り、蜘蛛のように壁に張り付き、こちらを冷たく見据えるガキの姿があった。

 

「……!!その赤黒い触手!その真っ赤な瞳!そして真っ黒な外殻……!!そうか、お前が……!!」

 

 ノナトラは彼の正体……いや正確には、裏社会において密かに広まっている都市伝説的な存在について心当たりがあった。

 

 赤黒い触手を腰の辺りから生やした暗殺者の少年……その瞳はまるで血のように赤く、触手はどこまでも標的を追いつめ、貫く。彼はその身を真っ黒な外郭に覆っており、暗闇で彼に出会ったなら……死を覚悟しなければならない。

 

 彼のことを裏社会ではこう呼んだ。

 

「黒の……死神……」

 

 それが、ノナトラの最後の言葉となった。路地裏には夥しい量の血液と臓物だけが残り、他には何も残らなかった。

 

 

 

 

 

 黒の死神。

 

 近年ゾルディック家で新たに暗殺者として暗躍し始めた少年の二つ名。

 本名、トルイ=ゾルディック。

 

 これは彼が13歳の頃の話である。

 

 彼は13歳にして如何にしてここまでの暗殺者に上り詰めたのか、そして、その念能力とは一体何なのか?

 

 それを話すにはまず、時をトルイが鎖から解き放たれた頃まで遡ろう。

 

 

 

 彼のその異常な能力の正体が発覚したきっかけは、彼が父シルバによって念能力を習うより更に前だ。

 

 トルイはあの真っ白な精神空間で前世の自分を喰らったあの瞬間、直感的に、彼は自分の中に目覚めた念能力の存在に気付いた。

 

 

▼  ▲

 

 

念能力【僕は喰種だ(グール)

 

系統:特質系(強化系・具現化系・操作系の全てに該当する為)

 

○身体能力(筋力を始めとし、感覚器官や耐久力)が爆発的に上昇する。

○赫子(鱗赫)が出せるようになり、自由自在に操れる。

○戦闘時や興奮時に目の色彩(黒目)が赤くなり、強膜(白目)が黒くなる。

○血肉を貪る事で、その者のオーラを自分のものに出来る。それによって、オーラの上限値を底上げする事も可能である。

 

制約

●空腹感が人の血肉(念能力者かどうかは問わない)でしか満たせなくなり、味覚も変化する。

●この念能力は“常に発動”しており、“解除不可能”である。(赫子の出し入れは可能)

 

誓約

●食事を摂らずに数週間ないし数ヶ月以上経過した場合、重篤な飢餓状態に陥り激しい頭痛や幻覚、判断力の低下を伴うようになる。

●普通の食事を強引に摂ると激しい吐き気に襲われる他、一時的に著しく弱体化する。

 

▼  ▲

 

 

 

 彼は思う。まんま東京喰種に登場する喰種そのものではないか、と。それを念能力として落とし込んだら多分こうなる、とでもいうべき念能力。無論、この世界はあくまでH×Hの世界である為、Rc細胞も、CCGも、そもそも、グールならともかく、喰種という単語そのものが存在しない。

 

 そしてトルイも、念能力によって喰種のようなものに目覚めたとはいえ、やっている事は前世で見た漫画・アニメの、喰種という設定を模倣し、具現化し、再現する念能力を手に入れているだけに過ぎない。

 

 ……だが、模倣とはいえ、”人の血肉でしか飢えを満たせない”という点では全く同一の存在であると言えるだろう。

 

 

 

 

「……もう要らない」

 

 そう言って、トルイはベッ、と口に含んでいた脳を吐き捨てた。

 

「……やっぱり、あんまり強くなった感じがしないな」

 

 じっ、と自分のオーラを見ながらそう呟くトルイ。とりあえず制約によって人の血肉でしかやはり強くなる為には念能力者の肉を喰らう必要がありそうだと彼は思う。

 

 恐らく、「○血肉を貪る事で、その者のオーラを自分のものに出来る。それによってのオーラの上限値を底上げする事も可能である。」とは、つまりは念能力者を食えば更にオーラが手に入るということだろう。

 

 それ自体が強さとイーコルという訳ではないだろうが……多いに越した事はない。

 

「もっと……もっと強い奴を喰べないと。」

 

 彼は、これがもっと純粋かつ単純に強くなれるような……ドラゴンボールだったなら、ワンピースだったなら、とあるだったら、ジョジョだったら、NARUTOだったら、BLEACHだったら、Fateだったら……こんな面倒なことをしなくても良いのに、と何度か悪態をつきそうになった。

 

 

 だが、現状としてトルイの置かれている環境は非常に恵まれていると自覚した。

 

 なんせ、彼のいる家は人殺しが容認されているどころか、それを仕事としているような一族であり、常により優れた暗殺者となるためにはどうすればいいのだろうか、と模索するような者達である。

 

 こうして喰種もどきとして目覚めた今では、ここほど恵まれた環境はそうはないだろう。

 

 なんせこちらから「殺したり喰ったりしてもいい人間」を探す必要もなく、あちらから自分の食事が多額の報酬付きでやってくるのだから。

 

 彼の念能力……の一部と制約と誓約について聞いたシルバは彼が生まれてから何度目かの驚愕に顔を染め、人間としての食事を取ることが出来ず、まるで、いや、まさに人喰いの化物となった自分の息子に底知れぬ恐怖を抱いたが……。

 

 シルバは彼に何度かテストのつもりで依頼を受けさせ、そして難なく念能力者を相手に生き残った彼を、その念能力者を糧に更に成長していく彼を、一族の一員として認める事にした。

 

 デメリットもある。そして常識から大いに外れている。更に運用も楽ではない。だが、得られるメリットは既に息子が自身の体で、成長という形で示していた。

 

 

 

 

 

 

 

トルイがツチノラ、ノナトラの暗殺依頼から帰宅する帰りの電車で、トルイの携帯に着信がかかる。画面を見ると、弟からのようだ。

 

 

 

『もしもし兄さん?そっちは終わった?』

 

「丁度帰りの電車に乗ったところだよ。そっちは?イル」

 

『こっちもあっさりだったよ、トル兄』

 

 

 電話の相手の少年の名はイルミ=ゾルディック。

 本来のH×H本編でのゾルディック家の兄妹の長男であり、この世界ではトルイの弟、そしてゾルディック家の次男、トルイとは一つ違いで、現在は12歳である。

 

 ちなみに、彼はまだ念能力に目覚めて間もない。修行の意味も兼ねて、トルイやシルバの仕事について来たりする事もあるが、未だに苦戦した様子を見たことがないあたり、やはりイルミも暗殺者としては相当な才能を持っているのだろう、とトルイは自分を差し置いて静かに戦慄している。

 

 三男となるミルキは今この場には居ない。ちなみに現在はまだ五歳の彼は流石にまだ引きこもっていないし、デブでもないし、オタクでも無ければPCを叩いてもない。彼にもこんなに可愛い時期があったんだなあ、等と考えてしまった程である。

 

『ああそうだ、母さんから伝言』

 

「うん?」

 

『弟が生まれたから家に顔出せってさ』

 

「ん、分かった。もう今回ので今日は終わりだから、すぐ帰るって伝えておい……ああ、やっぱいいや、こっちから電話しとく」

 

『そ。俺はもう先に帰ってるから』

 

「うん、じゃあ気をつけて帰るんだよ、イル」

 

 

 そう言ってトルイは電話を切る。切られた向こう側では、イルミが「俺が何に気をつけろって?」と首を傾げているのは語るまでもない。

 

 

 さて、あっさりとした口調で告げられたが、キルアが誕生した。

 

 

 だが、事前に彼がどのような苦難に立ち向かうことになるか……という事を知識として知っているとはいえ、今はそれほど、弟が誕生したという以上の感慨深さは無い。

 

 トルイは既に十年以上前に一度アニメを見た程度しか知識が無い。

 

 故に、自分の存在のせいで原作の流れがある程度変わってしまうことに対して対策が取れないだろうし、変わったとしても、既にこの世界の住人として生きている以上、物語を気にする程の余裕はない。

 

 彼が前世で生きていた時点で完結していないのも要因の一つだ。

 最終的にバッドエンドでした、ならまだそうはさせまいと必要以上に原作に関わることも吝かではないのだが。

 

 結局、トルイは「自分が原作に関わる必要性を感じない」という理由で、そこまで積極的に関わろうと思えなかった。

 

 キルアはキルアだ。彼なら自分が居なくても大丈夫だろう。原作でもそうだったんだから。

 

 

 トルイが家に帰宅すると、そこには久々に見る母、キキョウの姿があった。ベッドの上で横になりながら赤子をその手に抱くその姿は、どこからどう見ても、ただの母親そのものである。

 

「ああ、トルちゃん、おかえりなさい」

 

「ただいま、母さん」

 

「帰ったか。見ろトル、男の子だ」

 

「電話でも聞いたよ。それで、なんて名前なの?」

 

「キルアっていうのよ」

 

 キキョウが嬉しそうにそう答えながら「ねぇ?」とキルアに語りかける。ああ、こうして見れば普通の家族なのに、とトルイは内心複雑な気持ちになった。

 

「そっか……立派に育つんだぞ、キルア」

 

 そう言って優しくキルアの頭を撫でる。撫でながら彼の今後の受難(主に幼少期の地獄)を思うと少しだけ涙が出そうになった。こんなに可愛いのになあ、と。

 

 この数年後に続けざまにアルカが生まれ(この際色々とゴタゴタがあるがそれについては保留する)、そしてカルトが生まれた。

 

 

 そして、その二年後にキルアがゾルディック一族の血を一層濃く受け継いでおり、ずば抜けた暗殺の才能を持っていることが判明した。トルイはこの際シルバに呼び出され「お前には本当に申し訳ないんだが、次期当主はキルアにしようと思うんだ」と言われる事となる。

 

 無論トルイはそれを「そりゃそうだよね」と当たり前のように受け入れ快諾した。

 

 原作では「なんでイルミじゃダメなんだ?」と物議を醸す後継者問題だったが、この世界でも原作同様、トルイでもイルミでもミルキでもなく、やはりキルアが選ばれる事となった。

 

 トルイは知らないことだが才能だけで言うなら同じ時期のトルイと比べてもそう大差無い、どころか、シルバをもってして「こいつは化物だ」と思わせた程の念の才能はキルアには無い。

 

 

 問題なのは、ゾルディック一族の血だ。

 

 

 トルイは頭髪が上半分だけが銀髪で、下半分は黒髪である。

 目は射殺すような鋭い眼光で、しかし色彩は普段は黒色で母親の色を受け継いでいる。体格は、筋肉質だがすらっとして引き締まっている。

 

 このように、見事にシルバとキキョウの血をどちらも受け継いでいるのだ。

 だが逆に言えばゾルディックの血は半分しか受け継いでいない。

 

 そうなると問題となるのは、もしトルイが当主となればその子供はゾルディックの血を半分以下しか受け継ぐことが出来ないという事である。

 

 もしトルイの持つ化物的な念の才能も受け継ぐ子が生まれるなら話は別かもしれないが……念はあまり遺伝がどうこう、といった話を聞いたことがない。

 

 既にイルミは操作系である事が発覚しているし、トルイは特質系、キルアは変化形とバラバラな事からも、念に遺伝等といった血は関係はないという事が明らかだ。

 

 

 よって、ゾルディックとしての血を一番色濃く受け継いで生まれたキルアこそ、この家の次期当主に相応しい、と考えられているのである。

 

 

「理由を聞かなくていいのか?」

 

「いいよ別に。それが父さんの判断なら……僕はそれに従う。それだけさ」

 

「……そうか」

 

 

 そう言ったトルイの顔はまるで機械か石像のように冷たい無表情であった。

 そのことに若干の寂しさのようなものを覚えるシルバだったが……そう育て上げたのは他でもない自分自身であると理解もしている。そして、それは必要なことだった。後悔など、どこにもない。

 

 

 

 それから更に数年が経過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キルアには三人の兄が居る。

 

 下から、三男のミルキ。10歳から引きこもって、見事なオタデブになっている。何かと自分のことを目の敵にしてきて、鞭などを持ち出して引っぱたいて来たりするウザイ奴。これで一族の中では一番頭が良くてネット関係、情報関係で言うなら恐らくこいつの右に出る奴は居ない。素直に頭は良い、そこは認めるが、やはり少し、こう……馬鹿なのが玉に瑕である。

 

 次男、イルミ。イルミと、父、そしてもう一人の兄によって訓練を受けていた事で若干の苦手意識がある。というかぶっちゃけ嫌いである。というか性格も顔も母キキョウ似なのが無性に嫌いである。人をモノ扱いしてくるし……感情があるのかないのか分からない顔も、不気味で仕方ない。

 

 

 そして長男、トルイ()()()

 

 

「ほら、どうしたの?かかっておいで、キル」

 

「だっ!クソッ……!これなら、どうだ!」

 

「うん、隙有り」

 

 

『K.O!』

 

 

「だぁっ!!?また負けた!!チクショー!!」

 

 

 

 こうして一緒にゲームをやる程度には、トルイ兄さんとは仲が良い。というか、一族の中で彼が一番まともな存在だとキルアは思っていたりする。キルアが暇そうにしているとこうしてゲームに誘ってくれたり、仕事に「ついてくるかい?」と連れて行ってくれて、そして大抵帰り道でどこか寄り道して、遊んでから帰る。

 

 ただ「俺も戦いたい」なんて言うと「キルアには今回の相手はまだ早いかな」と言ってはぐらかされるのだが、これで食い下がるとボコボコにされる。

 

 勝てる気がしない、という意味ではトルイもまたキルアにとって全く勝てるビジョンが思いつかない相手である。少し睨まれただけで足が竦む。そういう意味では兄弟の中で一番苦手だ。

 

 ただ、そう、なんていうか……唯一、兄らしい事をしてくれる兄とでも言えばいいだろうか。

 

 

「もう一回やる?」

 

「やる!今度はそっちのキャラがいい!」

 

「いいよ。じゃあ今度は僕がこっちのキャラを使おうかな」

 

「俺が勝ったらチョコロボ君一年分って約束忘れてないよね!?」

 

「もちろん」

 

 

 キルアはトルイ兄さんの事が嫌いじゃない。




登場人物紹介③
【キルア=ゾルディック】
この世界では第四子として、兄弟の中でも随一の才能を持って生まれた四男。
次期当主筆頭候補でもあり、殺しの才能はピカイチ。
原作との違いとして存在するトルイとは時々ゲームする程度に仲が良い。


登場人物紹介④
【ミルキ=ゾルディック】
三男。兄弟の中でもピカイチの頭脳を持って生まれるが、頭の良い馬鹿の典型とも言うべき性格の持ち主で、キルアからは「ブタくん」と馬鹿にされている。
トルイの事は、殺しの才能ではなく戦闘の才能なら敵なしの兄だと思っており、仲もそれほど悪くないが、特筆する程良くもない。


登場人物紹介⑤
【イルミ=ゾルディック】
次男。兄弟の中では一番暗殺者らしい冷酷な性格の持ち主だが、一番兄弟を愛しているのもまた彼であり、キルアを一人前の暗殺者にすることを考えて日々生きている。
トルイの事はその実力は認めているが、嫌いなタイプだと思っている。

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