オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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森の賢王

「これである種の安心があるな、ユグドラシル内のアイテムは基本的に同じという訳だ」

「ですね。<ゴブリン将軍の角笛>も予想通りな物ですし、そう思っていいんでしょうね」

 

この世界に来てから初めての戦闘を乗り越えて、穏やかな丘や森の近くを超えていくと漸く目的地のカルネ村に到着した……のだがそこには武装したゴブリンたちがまるで村の防備を固めるかのように存在していた。それらに武装の解除を促されるが、そこへモモンガと共に助けた少女の片割れであるエンリが現れた。彼女はンフィーレアと友人関係にある事もあって何の問題もなく村の中へと入る事が出来た。この村で少々の休憩を取った後に森へと入って薬草探しを行う事となる。

 

「しかし、本当になんで将軍なんだ?毎回思うが名前負けもいい所だろうに」

「ですよね。ユグドラシルでも偶に話題になりましたもんね、その度に検証やらが行われたけど全然わからないから結局運営のお遊びだって事になってましたけど」

「モモンさ~ん!!ヴァンさ~ん!!!」

 

二人で話し合っているとそこへンフィーレアがやってくる、どうやらエンリから話を聞いているうちにそれらを繋ぎ合わせていき、自分の祖母がやっている店にやってきた冒険者が見せたモモン達が与えたという赤いポーションの話を繋げた結果として自分達が村を救った二人だと気づいたらしい。それに殺気を向けるナーベをセラスが止めながら二人は言う。

 

「そうだな、私たちであることは否定しきれないな。君が黙っていてくれるのならば嬉しい限りだ」

「はいっ勿論です!この村を、エンリを救ってくださった方々にご迷惑になるような事なんて絶対にしません!」

「(なるほど、恋か……)ならばこれはコネクション作りの一環と我々は捉えるさ。君もそれでいいだろう、そうすれば君にも何れ赤いポーションを渡す時が来るかもしれないぞ」

「はっはい分かりました!!これからもよろしくお願いします!!」

 

これでンフィーレアは自分達に協力的な現地人という事になるだろう、下手に脅すよりも感謝という名の鎖の方が

余程強固で頑強な関係を生み出せるという物だ。これはこれで怪我の功名という奴だろう。

 

「さてと、そろそろ薬草採取へ赴くとするか。案内を頼むぞ私たちの依頼人君」

 

茶目っ気を含ませたウィンクにンフィーレアは笑顔で答えながら先に行って待っていると駆けだしていく、そんなウィンクにナーベラルとセラスは思わずトキメキを覚えたりもするのだがそれはまた別の話である。

 

 

「ここからが薬草の採集ポイントになりますので護衛をお願いします」

 

漸く本題である薬草採取へと入る事になる、森の賢王と呼ばれる強大な魔獣のテリトリー。そのテリトリーが故にある種安全は確保されているが件の魔獣が問題になる位だろう。それでもモンスターと遭遇する可能性が高まりかなり危険な行為であるので冒険者である皆は入念に準備を整えてきた。

 

「まあモモンさん達が居るなら何とかなるだろ、あれほどの力を持っている方が一緒なら心強いですし」

「頼りにされるとしましょう」

「えっと万が一森の賢王と出会った場合なんですけど、出来れば倒さずに追い返すことは可能ですか?」

「テリトリーの変動を気にしているのだな、問題はないだろう。仮にも賢王と呼ばれているなら知性も高いだろうし上手くやれば双方の利益にならないと理解して貰えるだろう」

 

仮に獣性が強く話が通じないとしても力でねじ伏せて上下関係を教えてやれば獣は大人しくなるだろうとアーカードは秘かに思っている。というかそっちの方が手っ取り早い。そして同時にモモンガは<伝言>アウラへと飛ばして森の賢王を誘き出すように指示を出す、敢えて戦う事で名声を高めようのが目的。流石に倒すのはまずいらしいので爪の一本や尻尾を切り取って持ち帰る程度にしておいた方がいいかもと今の内に打ち合わせをしておく。

 

 

「……おい不味いぜ、なんかでかいのがすげぇ速度でこっちに来てる……!!」

 

順調に薬草採取が行われていき、十分な量に達しようとしていた時の事だった。ルクルットが森の異変と凄まじい気配が迫ってくるのを感知。馬の速度などではない、それ以上の速度で木々の間を縫うように爆走しているのがわかる。

 

「森の賢王か!?」

「分からないけどそう仮定した方がいいかもしれねぇ!!やべぇなこのままだと直ぐに来るぞ!!」

「では打ち合わせ通りに此処はモモン殿らにお任せし、我らはンフィーレア殿を連れて退却するとしよう!」

「それが一番だ!!ニニャ、急げ!!」

「はいっ!!」

 

前もって決めていた通りに手早く荷物を纏めて来た道を戻っていく皆、ンフィーレアは気を付けてくださいというがそれにヴァンは力強いサムズアップで答える。そして去っていくのを確認すると武器を取り出しながら迫りくるそれに構えを取る。そしてその直後に木々の隙間から突如としてとんでもないスピードで鞭のようなものが身体を貫かんと迫る、モモンがそれ完璧に受け止め、セラがそれが来た方向へと矢を放つが全く手応えもなくそれは再び森の中へと消えていく。

 

「鋼鉄並の物があれほどに自由自在……普通に厄介だな」

「加えて伸縮自在か長いというのも加えるべきだろう」

 

―――それがしの初撃を完璧に防ぐとは……天晴でござる。

 

「「……それがし……ござる?」」

 

響いてくる声の言葉を聞き返すかのように呟いてしまう、そんな言葉をギルドメンバーの「武人武御雷」と「弐式炎雷」がそんな言葉を使っていたような気もする……確か大昔にいた侍が使っていた言葉だとか、武御雷は侍の中でも島津が最強……だとか、島津には妖怪がいるだとかなんとか言ってた気もする。

 

―――さて、それがしの縄張りに土足で侵入してきた者よ。いま退くのであれば、先程の見事な防御、そして矢の冴えに免じて追わずにおくでござるが……どうするでござるか?

 

「愚問だな。そういう貴様こそ姿を見せたらどうだ、賢王というのは名前だけか」

 

―――言うではござらぬか……ならばそれがしの偉容に瞠目し、畏怖するがよいでござるよ!

 

声と共に木々の間から声の主が姿を遂に姿を見せる。その姿を見たモモンガとアーカードは思わず言葉を失った、まさかこんな魔獣が居るなんて思いもしなかった、いやユグドラシルでもいなかった。彼らの常識では当てはまらない魔獣がそこにいた。

 

 

―――驚愕に動揺、それに支配されているようでござるな。それは正しい反応でござる、生物として正しい反応でござる。

 

ナーベラルとセラスはそんな事ないと二人の顔を見る、モモンガはヘルムで見えないがそれでもアーカード徒と同じく驚愕している事は分かった。まさか至高の御方である二人を驚愕させるなんてと思う中で、モモンガとアーカードは呟いた。

 

「「お前の種族……ジャンガリアンハムスターって言わないか?」」

 

その言葉に森の賢王は、木々の間からつぶらな瞳をぱちくりと瞬きさせながら姿を現した。余りにも巨大で20メートル近い尻尾が異様ではあるが、どう見ても見た目はジャンガリアンハムスターだ。

 

「なんとぉ!?もしやそれがしの種族を知っているのでござるか!?」

「ま、まあ知っているというか……仲間がお前に似た動物を飼っていたというか……」

「で、では是非教えてほしいでござる!ぞれがしは是非とも同族に会いたいでござるよ。同族がいるのであれば、種族を維持するという責任があるのでござる。子孫を作らねば生物として失格でござる故……」

 

酷くさびしそうに森の賢王は呟いた。彼からしたらずっと一人で同じ存在がいるかもわからなかった、出来る事ならば同じ存在に会いたくて堪らないというのが伝わってくるが、思わずモモンガは顔を背けた。アンデッドの自分は既に子供を作れないから失格なのだろうかと真剣に考えてしまっている。そんな賢王にアーカードは近づいて優しく身体を撫でる。

 

「そうか、確かに寂しいものだ……孤独は常に自分を蝕んていく。そして心を侵食していく……お前も家族が欲しいのだな」

「そうでござる……一人なのは嫌なのでござる、分かってくれるのでござるか……?」

「うむっ私も一人きりだったことがある、孤独に耐えながら仲間に会える日を待ち続けていたよ」

 

思い出すは心臓の病のための闘病生活、自分が有能であった為に会社が関係を持っている富裕層に取り次いでくれたおかげで自分は十分な治療を受ける事が出来た。その過程で一部の富裕層に目を付けられて、接待などを強要されたりもしたが、まあ生きていられるのでそれも今となればよかったとさえ思える。

 

「私たちが知っているお前の種族は酷く小さく、大人でも手のひらに乗る程だった。だがどうだ、私達の下に来るならばその力で同族を探してやることもできるぞ」

「ま、真でござるか……?しかし、何故それがしにそこまでの事を……」

「孤独を知る者としての温情というやつだ、受け取るか?」

「……是非とも、受け取らせてほしいでござる。そしてそれがしを貴方様、殿の配下に加えてほしいでござる……触れられて分かってござる。途轍もない力を感じるのでござる、そんな方にお仕えしたいでござる」

 

予想外の事が起こったが、森の賢王はアーカードの配下に入る事となった。これならンフィーレアの要望も叶える事も出来ただろう。そんな賢王を連れて森を出て皆の下へと向かう……が問題の賢王がこんなに愛らしい姿をした魔獣など知って落胆しないだろうか、というかこれで明らかに自分達の名声を高める事なんて絶対に出来ないとモモンガとアーカードは思っていた……が

 

「凄いなんて立派な魔獣なんだ!!」

「(……はぁっ!!?)」

「(えっ)」

 

とニニャが叫ぶのを皮切りに次々と声が上がる。

 

「こうして傍に立っているだけで、強大な力と英知を感じるのである!!森の賢王という名は伊達ではないであるな!!」

「確かにこりゃナーベちゃんを連れられるし、セラちゃんの親父さんなだけはあるぜ!!」

「これほどの魔獣に私達だけで相対したら、皆殺しにされていましたね……流石モモンさんとヴァンさんだ!!」

 

「……ナーベは如何思う?」

「強さは別として、力を感じさせる瞳をしていますね」

「……セラス、お前は?」

「とても屈強で賢い魔獣だと思いますよ」

「「……嘘だろ」」

 

この時、モモンガとアーカードはやっぱりここは異世界なんだなと強く実感するのであった。


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