オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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夜会

エ・ランテル外周部の城壁内の四分の一、巨大な区画を丸ごと使用しているのは共同墓地。これほどまでに巨大な区画を使うのは理由がある、死者が集まる場所、生者が死を迎えたその場所には不浄なる命が生まれてくる場合が多い。墓地に不浄なる者、即ちアンデッドが発生したとしてもある程度の数ならば隔離出来る。定期的に冒険者が墓地の中へと入ってアンデッドを狩り、より上位のアンデッドが湧くのを防止するようにもしている。だが、その墓地では衛兵たちが大騒ぎを起こしていた。

 

―――墓地を埋め尽くさんとする限りのアンデッドの大群が迫っている。

 

途轍もない数のアンデッドが壁をよじ登ろうとする、それらを阻止するために槍を振り下ろしては持ち上げ再び振り下ろすのを何度も繰り返す。腐敗臭が嗅覚をマヒさせるかのような長い時間、それだけを繰り替えす。自分達の役目を必死に行い続ける作業を繰り返していく、だが徐々に疲労が溜まっていく。疲労という概念がないアンデッドはただただ壁を登ろうとしてくる。衛兵の隊長は後退の命令を出す、自分達だけでは到底対応しきれない。応援を待って殲滅するしかないと思っていた時の事、更なる絶望が到達した。

 

集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)。自分達だけでは決して倒せないような巨大なアンデッドが姿を現した。壁すら余裕で超えてくるような巨体に絶望を感じていた時だった。その巨人の頭部が消し飛んだ。そしてそれと同時に地面に見事なグレートソードが刺さった。

 

「やれやれっ賑やかな夜会な事だ、そうは思わないか友よ」

「夜会というには品もないな。こういうのは運動会というのだよ、墓場でな」

「成程、夜にするには最適だな」

 

そこへ現れたのは屈強な魔獣を連れた全身鎧の戦士、そしてテンガロンハットを被った漆黒の男とそれらに続くようにしている二人の女性。彼らが着用している金属製のプレートを見て冒険者か!?と希望を抱く中でそれが銅のプレートであることに気付きそれらが無に帰そうとするが、グレートソードを片手で引き抜く姿を見て希望が再び燃え上がる。

 

「門を開けろ、この先に用がある」

「よ、用がある!?今この先の墓地はアンデッドが山ほどいるんだぞ!?無数の数のアンデッドが!!」

「それがこの私に、モモンに何か関係があるのか」

 

圧倒的なほどに自信を持つ戦士に衛兵は威圧され、何も言えなくなる。だがそんな事知った事かと、隣の男であるヴァンは帽子を被り直しながら手に武器を構えながらセラに視線を送る。

 

「私も同意だな、では行くとしよう。行くぞセラ、スマイン」

「はいっヴァンさん!」

「承知したでござる殿!」

「おいおい置いていくなよ、行くぞナーベ」

「ハッ!!」

 

そんな言葉を残してその一団はまるで小さな溝を超えるかのような軽快さで壁の向こう側へと行ってしまった。嵐が過ぎ去った地のような静けさが衛兵の間に広がっていく、そしてどれほどの時間がたったのか分からない中で衛兵たちが気付いた。アンデッドの呻き声が全くしない。壁の向こう側を恐る恐る視界に入れると居たはずのアンデッドの群れが居ない、それどころか遠くからは剣戟の音が聞こえてくる。

 

「俺達は、伝説を見てるのか……?漆黒の戦士、いや―――漆黒の英雄たち……」

 

 

「しかし凄い数でござるなぁ!!ふうぅんぬうでござるぅ!!」

「ええいっ何時もの銃で吹き飛ばしたい!!」

 

とスマインの背に乗りながら文句を言いつつも正確な狙いでアンデッドたちの頭部を吹き飛ばしていくセラス。アンデッドに弓などは相性が悪い、それらを腕前でカバーしているが矢張り効果は薄め。余計に矢を撃つ羽目になっている。特にアンデッドは生命に対して反応する性質を持っているにスマインを集中的に攻撃している。それらをセラスがフォローしつつ自慢の尻尾で一気に薙ぎ払っていく、流石に尻尾の一撃は耐えきれないのか次々と崩れ去っていくアンデッド。

 

「セラス殿、矢の数は大丈夫なのでござるか?目的はあくまでそれがし達が倒したという理由作りなのでござろう?」

「そうね……もうマガジンは3つ使っちゃったしもう良いかもね。マスター予定通りのマガジンを使い切りましたぁ!!」

「よしっでは一気に終わらせるか」

「了解ですマスター」

 

それを皮切りにモモンガは<中位アンデッド作成>を発動し自らの下僕となる物を作り出し、それらにアンデッドの相手をさせていく。有象無象程度のアンデッドは中位のアンデッドで無双できるので心配ない、更にこの墓地に何者かが侵入しないように、した場合は追い返す用の下位のアンデッドも作成しておく。これでいざという時は遠慮なく自分達の全力を出す舞台が出来上がった。そして進んでいくと霊廟らしき場所で何者かが儀式を行っている様子が見える、念の為にスマインを見張りとして待機させたままで前へと進んでいく。

 

「カジット様……」

 

儀式を行っている内の一人が小声で中心部にいるローブの老人に言う。小声だろうと自分達にとっては聞こえる、声をかけるにしても名前を出す時点でアウトだ。

 

「良い夜だな、こんな夜にこんな儀式を行うのは無粋だぞカジット君とやら」

「……貴様らアンデッドの群れを突破してきたのか?」

 

儀式を邪魔されたからか、それとも名前を呼んだ一人に苛立っているのか忌々しげにカジットが質問を投げ掛けてきた。それにはアーカードが答える、さぞ退屈そうに答えてやる。

 

「あの程度のアンデッドなど軽く飛べば簡単だ。随分とめでたい頭の持ち主だな、いや寂しい頭か」

「偽りを吐くとはな……そんな筈がなかろうが」

「それは君たちの勝手にすればいいだろう、私達の目的は君たちが攫った少年だ。彼を返すのならば殺すまではせん、それと―――そこにいる女は顔を見せろ。刺突武器を持っているだろう」

 

カジットは一瞬言葉に詰まる、自分達だけだと言おうとする前に問題の人物が出てきてしまった。霊廟から一人の女が顔を出す、愉悦に歪ませながらも自分の優位を信じ切っている表情と甘ったるい声が特徴的な女。

 

「あっははっいや~バレバレみたいだったしさ。隠れてても仕方ないなって思ったからいいよねカジっちゃん」

「貴様……」

 

気軽そうに話している中、セラスが<伝言>でアーカードへと言葉を飛ばす。

 

『マスター、あの女はそれなりにレベルがあるみたいです。あと武技……ってやつでしたっけ、それも使えるっぽいです』

『ほうっ?』

 

セラスの基本職はガンナー、後方支援が主で狙撃や射撃系のスキルを多数習得しているがそれだけではなく観測手(スポッター)としても活動が出来るように相手の情報を引き出すスキルも習得している。流石にスキルなどの詳しい情報を得るには至近距離から見る必要があるが、今回はそれが良い方向に働いている。

 

『詳細は分からないですけど……』

『いや使えるのが分かっただけで十分だ、では奴はこの世界ではそれなりの強者という訳か……』

 

僅かに考え込むとセラスとの<伝言>を切ると即座にモモンガへと繋げる。

 

『モモンガさん、ちょっと我が儘良いですか。あの女で実験をしたい』

『実験ですか、どんな実験を?』

『眷属化の実験。この世界の人間を眷属にしたらどうなるのかを試してみたい、魅了(あっち)はニグンに使ったけどこっちはまだだし。それにするなら強い奴をしたいんだ』

『分かりました。確かにアーカードさんのスキルの検証も必要ですもんね。んじゃあいつらはちゃっちゃと倒しちゃいますね』

『んじゃあの女の動きは俺が縛りますから、その間に掃除を』

 

瞬間、<魅了の魔眼>を発動してそれでこちらを見つめながらニヤニヤしている女を見る。ちょうど視線が合ったことで彼女の目にアーカードの瞳が映り込んだ。その時から彼女の内側から噴火する火山のマグマのように沸き立つものがあった、身体が熱くなり脳が沸騰するような感覚。女としての本能が疼いている、そんな感覚に魅了されてしまい思わず座り込んでしまう。

 

「ぁぁっ、ぁぁぁっ……」

「おい一体どうしっ―――」

 

刹那、疾風の如く駆けるモモンガとナーベラル。二人が持った剣が一閃され、彼らの首が瞬時に落とされた。彼らには何が起こったのかも分からぬまま、意識と命は闇へと葬られた。死んだ場所はちょうど墓地なのだ、ある意味ちょうどいいかもしれない。目の前で仲間が殺されたであろうにも拘わらずに女は動かない、正確には朱に染まった頬と恍惚とした表情でアーカードを見つめたまま動かなくなっていた。そしてアーカードはその女へと近づいて行く。

 

「お前の名前は」

「クレ、マンティーヌ……クレマンティーヌです……」

「そうか、ならばクレマンティーヌ―――お前は私の物だ」

 

そう問いかけると彼女、クレマンティーヌは益々恍惚に表情を染めながら自らを見下ろすアーカードに悦びに満ちた声で頷いた。




アーカードはエロ光線を使った!

クレマンティーヌはメロメロだ!


大体こんな感じ。

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