オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~ 作:魔女っ子アルト姫
「……」
「え、えっとマスター元気出してください!!シャルティアさんが気絶しちゃったのだって嬉しすぎた余りですっだからマスターからの贈り物が気に入らなかったとかそういう訳じゃありませんって!!」
「その通りで御座いますヴァンさー……ん。あれほどの至宝を頂いたのです、嬉しさのあまりに気を失ってしまったとしても致し方ないという物です!」
「(相当ショックだったんだろうなぁ……アーカードさん)」
シャルティアへの褒美を送ってから既に数日が経過している、モモンガ達は冒険者としての活動のためにエ・ランテルへとやってきていたのだが冒険者組合長から呼び出しを受けたので待合室にて組合長を待っていた。その間にもヴァンは帽子を深々と被ったまま無言を貫き通していた。未だにシャルティアが自分からの贈り物で気絶してしまったというのを気にしているようだ。アーカードには一切の害意も悪意もかけらもなかった。大きな手柄を立てたシャルティアへの褒美として十分な物になる為に作ったものだった。しかしそれが気絶させるという結果に繋がってしまい酷くショックを受けてしまっていた。
「いい加減に戻って下さいよヴァンさん、仕事に差し付えますよ」
「……分かってる、仕事は確りするさ」
そう言いつつ帽子を少し上げる姿を見てセラスとナーベラルはややほっとする。彼とて
「さてモモン君、改めて先日のアンデッドの発生事件の解決について感謝する。君たちが早急に対処をしてくれなければエ・ランテル全体にアンデッドが跋扈している事になりかねなかった」
「いえ大したことはしておりません。それに我々はリイジー・バレアレさんからお孫さんの救出の依頼を受けました、その依頼を達成する過程においてアンデッドに遭遇し掃討したというだけ事ですのでお気になさらず」
「くっくっくっ……いやはや君は大物だね。君たちが破壊した残骸を調べた所、あそこには
『なっ!!?』
共同墓地では自分達の名声を高める為にクレマンティーヌの眷属化、ンフィーレアの救出が終了した段階でモモンガがアンデッドを召喚して敢えてそれを倒してここにはそれだけの奴らがいたんだぞという事をアピールしたつもりだったが如何やら正解だったらしい。アインザック組合長と共に入ってきた魔術師組合長テオ・ラケシル、ミスリルの冒険者プレートを持つチームが驚愕に慄いている。骨の龍は魔法への絶対耐性を持つ魔法詠唱者にとっては天敵、それが3体もいる中でアンデッドの軍勢を葬ったというのか!?という驚きに包まれていた。
モモンガ達にとっては赤子の手をひねるような物だが。骨の龍の魔法耐性はあくまでも第六位階以下、それ以上の魔法を行使出来るモモンガとナーベラルにとってはその程度の魔法耐性なんて紙同然。そして吸血鬼であるアーカードとその眷属であるセラスにとっても敵ではない。二体はモモンガ達が直々に倒したが、最後の一体はクレマンティーヌの吸血鬼となった能力を見る為に戦わせてみたが本人曰く人間の時とは比べ物にならない力と速さを出せたらしく瞬殺した。
「そこで君たちにはミスリルの冒険者として昇格を認めたい。本当は更に上へと認めたい所なのだが……」
「いえ問題はありません。特例を作りすぎますと他の冒険者たちの反感を買いかねません。いい判断だと思いますよアインザック組合長」
「そう言ってくれると助かるよ、さあこれを受け取ってくれたまえ」
そう言って差し出してくれるミスリルの冒険者であることを認めるプレート。それを受け取って銅のプレートと交換する。これだけの事をやってのけたのだから反対意見などでない、出たとしても黙殺されるに決まっているのだから冒険者も歯ぎしりをするだけで何も言わない。そして組合長の話はまだ続いた、どうやらエ・ランテル近郊で冒険者チームが吸血鬼と遭遇し殺されたという話だった。女の冒険者も生き残ったらしいが即座に引退して何処かに行ってしまったらしい。
『アーカードさん、これって……シャルティアが世界級アイテムをゲットする前にやってた事と合致しますね』
『ああっつまりその生き残ったっていうのが俺達がポーションを与えたあのブリタって冒険者だったのか。やれやれあのポーションが変な事にならずに済んでよかった……』
シャルティアは任務の過程で襲い掛かってきた死を撒く剣団を撃滅させたという、たった一人だけ逃してしまったという話だがそこは問題ない。世界級アイテム入手で十分過ぎる程に相殺出来ている。そしてその後に吸血鬼のクラスペナルティ<血の狂乱>が発動してしまい、近くにいた冒険者も血祭りにしてしまったらしい。そこで自分達が与えたポーションを持っていたブリタと遭遇し投げられたポーションを浴びて<血の狂乱>が解除されたという。そしてその後に世界級アイテムを持った集団と遭遇し戦闘、アイテムを入手したという流れだと聞いている。
『そう言えばアーカードさんの<血の狂乱>は抑制されてるんでしたっけ?』
『ああっ俺の世界級アイテムがデメリット部分を消してくれてる。マジで便利だよこれ、ついでに眷属認定されてるセラスと多分クレマンティーヌも無くなってると思う』
『ほへぇ~……流石運営認定の専用世界級アイテムですねぇ』
「そしてその吸血鬼の外見は生き残りの冒険者が証言してくれた、それでもかなり大まかだが……銀髪で大口だというのだ」
それを聞いた途端にヴァンが机を叩きながら立ち上がった、皆驚きながらも彼を見つめるが言葉を失っていた。ヴァンは修羅にも思える程の憎悪を燃やした憤怒を体現したような表情を作りながら荒い息を吐く。そしてその隣で顔を青くにしたセラが汗を流していた。
「落ち着けヴァン」
「だがあいつだ、間違いなくあいつなんだぞ!!?あいつなんだぞ理解しているのかモモン!!!俺の、俺達の……!!!」
「落ち着けと言っているんだ大馬鹿野郎!!ここで激情に駆られるお前が奴を討てると思っているのか!?」
「っ……」
モモンも苛立っているかのような大声を出してヴァンを叱咤する、それを聞いてヴァンは苦虫を嚙み潰したようにしながら口を閉ざし謝罪をしながら席につき直した。モモンも落ち着き始めたヴァンを見て分かればいいんだと言いながら席につき仲間のいきなりの事を詫びる。
「申し訳ございません、私の仲間が……お詫びいたします。その吸血鬼は私たちが追ってきた吸血鬼だからだ」
「何!?」
「非常に強力で凶暴なやつでね、私たちは冒険者になろうとしたのも奴らの情報を集める為だったんだ」
「奴ら……!?奴らとは、吸血鬼は複数なのかねモモン君?」
「ええっその片割れ、銀髪に大口の吸血鬼。その名前は……」
と此処でモモンの口が止まった。名前は適当にカーミラにしようと思ったのだが、余りにもベターすぎてこれではプレイヤーに筒抜けすぎる、急いで別の名前を出さなければと思ったのだが……全く思いつかない。困ったモモンガは<伝言>でアーカードに助けを求める。
『すいませんアーカードさんっ吸血鬼の名前の知恵を下さい!!』
『考えてなかったんかい!!?』
『カーミラとかエリザベートとかしか思いつかないんですよぉ!!』
『ああ~……なるほどな。分かった分かったんじゃ俺が言うから……』
『ありがとうございます!』
「……奴の名はヴェローシュカ、奴は俺達が必ず殺す……!!」
「……聞いてもいいかね、君たちはなぜその吸血鬼を追うのか」
アインザックは酷く気になった。ヴァン・ヘルシングという人物の事は聞いている。見た目こそ何処か厳格そうな印象をこそ与えるが本人は温厚で気さく、ジョークにジョークで答えたり、笑って話をしてくれたり子供と一緒に遊んだりもしたという。そんな彼がここまでの激情に駆られている理由を知りたかった、ヴァンはモモンに目配せをすると彼は少しだけ頷いた。
「……奴は俺達の故郷を壊した、様々な物を奪った。その報いを受けさせる……それが目的だ」
そう答えるとヴァンは一刻でも早く準備をしたいと申し出てセラを連れて部屋を退出していた。モモンも彼の精神安定のためにもそれが良いだろうと進めた。そして此処からモモン率いるチームの目的は故郷を蹂躙し残虐の限りを尽くした吸血鬼の討伐であると広まる事になる。同時に彼らは異国の貴族、もしや王族ではないかという噂が流れるのであった。
「いやぁ流石アーカードさん、中々の熱演でしたね」
「ふふんっ久しぶりのロールプレイだからな、力を入れてしまったよ」
まっそれは全部嘘なんですけどね、彼らにそんな目的などない。全ては自分達が名声を高めて速く最高位冒険者となってその立場を利用してでの行動の為。
「にしてもよくも即興であんな物語作れましたね……俺には絶対無理ですよ」
アーカードが作ったのは自分達の故郷を蹂躙した二体の吸血鬼、それらを追う自分達のストーリーだった。無論前もって作ったのではなくその場で作った物である。
「この位出来ないと
「ウルベルトさんも驚いてましたもんね……アーカードさんのアドリブ力によるシナリオ修正」
「あれは大体素でシナリオブレイクしたペロロンチーノのせいだ」
ヴェローシュカ:映画「ヴァン・ヘルシング」に登場するドラキュラ伯爵の花嫁であるヴェローナ、マリーシュカから取った名前。この映画にはもう一人の花嫁であるアリーラという吸血鬼も登場する。