オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~ 作:魔女っ子アルト姫
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「殿~!!大殿~!!」
「アーカード様ぁ~モモンガ様ぁ~!!」
転移完了後、こちらに駆け寄ってくる大柄の影。それはスマインとそれに騎乗しているクレマンティーヌであった。スマインに合わせられて作られた防具と騎乗の為の物も見事に身体にあっているのか、以前よりも屈強な印象を与える。通常の馬と騎馬の違いのような物を感じる、それに乗っているクレマンティーヌも様になっている。目の前に止まったスマインは身体を沈めながら騎乗者が降りやすいようにし、クレマンティーヌもそれを有難く受け取りながら降りて軽く撫でている。訓練で二人の間にそれなりの関係が生まれているらしい。
「ご苦労、それで問題の森精霊とやらは何処にいる」
「森精霊のピニスン殿はこの先に居られるでござる。某は殿たちの<転移門>が見えたので迎えに参上したのでござるよ大殿」
「そうか、では森精霊のところまで案内してくれ」
「承知致しました、こちらです」
クレマンティーヌが先導する形でそこへ向かっていく。アーカードは主としてスマインに乗るがモモンガは乗るのを嫌がったのでそのまま歩き。森の賢王とも呼ばれる魔獣であるスマインだがその容姿は巨大なジャンガリアン、モモンガからしたら出来れば避けたいのだろう。
「大殿、本当に某に乗らなくても宜しいのござるか?殿に作っていただいた防具は二人まで乗れるでござる」
「い、いや私は良いさ。直接の主人であるアーカードさんを確りと運んでくれ」
「承知致したでござる!殿如何でござろうか、実はクレマンティーヌ殿に快適にお運びするための練習に付き合ってもらっていたのでござる」
「ふむっ確かに以前よりも乗り心地が良いな」
「そう言って頂けて嬉しいでござるよ~」
照れくさそうにしながらも嬉しそうに尻尾で頭をかくスマイン、彼女はアーカードの事を殿と呼ぶ。そしてギルド長であるモモンガはアーカードの上という事で大殿という呼び方をしている。
「やったねぇ~マインちゃん、練習の甲斐があったじゃん」
「これも全てクレマンティーヌ殿のお陰でござる」
「いやいや私は何もしてないよ~」
その様な会話を挟みつつも一行は森の中を歩みを進めていく。そしてやや拓けていて場所に出るとそこに目的の森精霊が待機していた。木々の枝と葉に幻影のような物を投影しているような姿をしているなんとも形容しがたい姿をしている者、それが森精霊だった。まあ姿云々は異形種の集まりであるナザリックの収めている自分達が言える事じゃないかと内心で思う二人であった。
「お待たせ~ピニヤン」
「いやアタシの名前はピニスン。ピニスン・ポール・ペルリアなんだけど……」
「愛称というやつでござるよ。某もスマインという名前でござるがマインとよく呼ばれるでござる」
「そ、そういうもん……?し、しっかしまた凄い人が来たね……あっ人って言ったら失礼になったりしちゃう?」
どうやらクレマンティーヌとスマインは森精霊とそれなりに良い関係を築く事に成功しているらしい。これはこれで有難い、下手に騒がれて一から説明する事も省けるしそれなりに情報も引き出しやすくもなっている。お手柄と言える。
「いや問題ない。私がクレマンティーヌとスマインの主であるアーカードだ」
「私はモモンガだ、まあ関係的にはアーカードの上司だが実質的には同格だから気にするな」
「あっこ、これはご丁寧に……そ、それにしてもアーカードさんとモモンガさんでいいんだよね。凄い力をビンビン感じるよ……ここの二人も凄い力を感じるのにそれ以上って……」
ピニスンは二人から溢れている風格と力に戸惑いを見せている、クレマンティーヌですら自分よりも遥かに格上で到底届かないような存在である筈なのにそれ以上の存在がいるというのが信じられなかった。だがこうして直面するとそれも理解出来る、そして同時に希望も湧いてくる。この二人ならばあの魔樹を封印してくれるのではないかと。
「それでクレマンティーヌ達に接触したのは魔樹に関しての事だったな」
「そう、そうなんだよ!!もうすぐ復活しちゃいそうなんだよ!!?アタシは魔樹の近くで生まれちゃったからもう怖くて怖くて……何時本体の樹が終わっちゃうかも解らないんだ……」
気落ちしたように語るピニスン、確かにそれは運が悪い。生まれてみたら近くに世界を滅ぼす魔樹が封印されていて、しかも復活が近くなっているとか不幸というレベルの話じゃない。何と災難なんだ……。
『どうするよモモンガさん、俺としては森精霊は正直言ってどうでもいいんだが』
『う~ん……でも森精霊って事は植物を育てる事に長けていると思いますし、利用価値はあると思いますよ。第六階層で行ってる植物園での実験とかにも良い影響を与えそうですし。それに……』
『それに?』
『なんか、余りにも不憫すぎて……』
『それは分かる』
「成程。では私たちがその魔樹、ザイトルクワエを倒してやる」
「えっ……ええええっっ!!!?いやいやいやそうして貰えれば凄い有難いけど相手は世界を滅ぼせる力を持ってるんだよ!?そんな簡単に引き受けちゃっていい問題じゃないよ!?」
アーカードの余りにも軽い発言にピニスンは素っ頓狂な声を上げながら困惑する。散々世界を滅ぼす力を持つとかとんでもなく危険だという事を伝えているのにこれほどまでに簡単に言われるとは思いもしなかったのだろう。
「まあタダとは言わんさ。君には私たちの本拠地に移住して貰い、そこで植物の飼育を手伝ってもらいたい」
「ふぇっ?えっ条件ってそんだけなの、えっ世界を滅ぼす魔樹を倒してもらう条件がそれ!?」
「不服か?」
「いやいやいやいやそうじゃなくて釣り合って無くない!?」
「私たちとしては釣り合ってる」
「ええっ~……」
ピニスンは若干呆れ返っている。そして少し考えてから自分の本体である樹を傷付けないように気を付けて欲しい事だけを念押ししてそれを了承した。ピニスンの移住はクレマンティーヌとスマイン主導で即座に行われていき、最後はモモンガの<転移門>でナザリックへと送り付けられた。倒してからでも良かったのだが、あの様子では自分達の実力を見せたらギャアギャア騒ぎそうだから先に退かしたとった方が正しいのだが。その直後である、大地を裂くように巨大な樹木が身体を眠りから覚ますかのように起こしていく。余りにも巨大な樹、というよりも塔に近い魔樹。それは巨大な6本の枝を伸ばしながら叫ぶように大口を開けながら周囲の木々を口と思わしき場所へと放り込んで咀嚼していく。
「あれが噂のザイトルクワエか……全長100mといった所か。枝はそれ以上……300は位か」
「ガルガンチュアよりも遥かにでかいですけど……確かにこれは世界を滅ぼす魔樹って言われても納得ですね。それじゃあレベル計りますね」
モモンガは懐から水晶のようなモニターを取り出すとそれ越しにザイトルクワエを見つめる。それは相手のレベルや詳しい情報などを得る事が出来るスキルを発動できるマジックアイテム、一週間に一度しか使えないが念のために持ってきたのだ。
「ザイトルクワエ、体力は……測定範囲外。ほうほう、そしてレベルは……」
「如何したよ」
「解散ですアーカードさん、あれのレベル80~85でした」
「……守護者待機させる意味、なかったな」
「「はぁっ……」」
世界を滅ぼす魔樹、ザイトルクワエ。それを前に二人の男は溜息と共に肩を落とした。
ユグドラシル基準ではレベルに10の差があれば勝ち目はない。メタを張っていれば戦えるが、レベル100のモモンガとアーカードからすれば世界を滅ぼす魔樹はただの雑魚にしか過ぎなかった。