オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~ 作:魔女っ子アルト姫
「……そういう事かよぉ……」
「どったよモモンガさん」
自室にてモモンガはアーカードに相談を行いながら自らがやるべき仕事を片付けていた。アルベドも席を離れているので平常時、自分達の素を出しながらの会話を行っている。何れはバラバラに仕事を片付ける事になるのでこういうのも今の内になるだろうなと思いながら。ブラック企業に勤めていたモモンガからすれば休む事なく働き続けているメイドや守護者達に眉を顰めており、如何にかしなければと頭をひねっていた。そんな中で上がってきた一つの報告書へと目を向けた時に脱力と共にそんな声が響いた。
「ほらっ近々リザードマンの集落を落としてナザリックの勢力に組み込むって話があったじゃないですか」
「ああっあったなそう言えば。最初こそは全滅させて全部をアンデッド化させる予定だったけど、それだと種族としての長所が皆殺しになるから保留にした奴だな」
「それです。それでなんとかリザードマンを配下に付けられる方向で進めていこうって言った奴です」
モモンガはまだこの世界にアーカード以外のギルドメンバーがいるのではないかという希望的な観測を持ち続けている。それもいるのであれば探し出したいという出来ればがつくような観測だ、それも気心が知れたアーカードが居てくれるからこそだろう。その為にもナザリックの戦力を増強して行く必要があると考えている。その工程の一部としてアンデッドによる軍勢を作ろうとしていたが、それも問題が起こる。
人間や亜人などを使用してアンデッドの作成を試してはいるが、アンデッド化させてしまうと完全にそれになってしまいその種族ではなくなる。例えばリザードマンであれば水かきが存在し水辺などでは高い機動力などを発揮できるが、これをアンデッド化させるとそれらが完全に死んでしまい能力としての多様性が皆無に近くなる。群は数だけを揃えばいいという物ではない、適切な役割分担をして運用してこそ。故にトブの大森林にある湿原に生息しているリザードマンを全滅させて勢力に組み込むという案は破棄された筈だった。
「配下にした場合とかは逆に色々面倒くさいけど、<エクスチェンジボックス>の実験目的でナザリック内にアンデッドたち使って作った大規模な畑とかあるからそっちから流用が利くだろうから多分大丈夫だろう」
「……それでデミウルゴスから上がってきた物です、見てください」
そう言われて回されてきた報告書、手に取って見てみる。すると思わずモモンガがそういう事なのか……と言ってしまった意味が理解出来た。確かにこれはそう思ってもしょうがない。そこにあったのは―――『ザイトルクワエを用いたリザードマン吸収計画』と書かれていた。
「そういう事か……成程な、ザイトルクワエを全く関係ない第三勢力とかそういうのに仕立て上げて俺達がそれを助けてリザードマンに良い印象を抱かせて配下に置くってわけか……ひでぇマッチポンプだな」
「でもかなり有効な作戦ですよね。しかも見てくださいよ、既に復興の資材搬入計画まで準備されてますよ。此処までやられるとマッチポンプもいっそ清々しいですね……」
「下手に恐怖や力で抑えつけるじゃなくて感謝の鎖で縛り、俺達への忠誠を植え付けるか……あいつ悪魔か」
「悪魔ですよ」
「そうだった」
こういった作戦に至ったデミウルゴスにも理由がある。アンデッド化に難色を示したモモンガとアーカード、これにデミウルゴスは閃いた。二人が目指す世界征服というのは圧倒的な力による単純な物ではない、アインズ・ウール・ゴウンは元々異形種救済を目的にしたギルドだと彼の創造者であるウルベルトが呟いていたことがあった。それらが結び付いて導き出した答えが、人間に迫害される異形種、それらを纏め上げた国を作り上げその国が天下を取るという物だった。故にリザードマンを配下にするマッチポンプ計画をアルベドと入念に協議を重ね、十全ともいえる準備を整えて提案したのである。
「スクロールの素材用としてはもう十分って訳か」
「素材としては一級品らしいです。素材用のザイトルクワエの複製……って言ったらいいんですかね、そっちを活用するらしいですね」
「抜かり無しって訳か……」
改めて計画書を見ても完璧すぎる計画だ。ザイトルクワエの活用方法からリザードマンの支援計画、頭からしっぽまで反対の要素がまるでない。此処まで有能だとその上に立つ自分達がその働きに見合う事が出来ているのかと軽く思ってしまう。
「全滅させるよりかは遥かにマシだとは思う。法国の事も考えるとやっぱり戦力はあった方が良いからな」
「そういえばニグンの方はどうなってんですか?」
「定期的な報告は来てる。どうやら法国は<傾城傾国>を俺達に取られた事に大慌てらしい」
「まあ世界級アイテムですからね」
<傾城傾国>を所持していた部隊はニグン曰く、スレイン法国最強の部隊とされる漆黒聖典。その漆黒聖典が未だに戻ってこない事実に相当慌てふためいているらしくニグン達の部隊である陽光聖典まで状況把握と<傾城傾国>の捜索に駆り出されているらしい。それらは既に手が届かぬ場所にあるというのに滑稽な事だとニグンは笑っていた。それを聞いてアーカードも笑って同意を示した。
「それでもまだまだ法国には最強の戦力が控えているらしい。クレマンティーヌにも聞いてみたが、人外領域すら超越した漆黒聖典最強の化け物。六大神の血を引くとされる先祖返りの人間の皮を被った怪物がいるらしい」
「……プレイヤーの子孫って事ですかね、そう考えると厄介かもしれませんね……」
「法国にはまだ慎重にならざるを得ないのが現状だ、その為にも一つ一つこなしていこう」
「そうですね」
このナザリックを守る為にも、自分達も力を蓄えていかなければならない。如何したって力は必要になってくる。いざとなればアーカードは自分の全てを開放する事も厭わない、地上に死を満たす大河を流す事も躊躇もない。全てはナザリックを守る為……。
「あっそうだモモンガさん、王都の奴からも報告来たぞ。問題ないってさ」
「了解です。それにしても大丈夫そうで安心しました……ある意味彼はナザリックで一番ぶっ飛んでますから……結構不安だったんですよ、どんな間接的な言葉でもナザリックか俺達を侮辱したら殺しそうじゃないですか」
「流石にそこまでじゃねぇよ、あいつは。あいつはナザリックの為に頑張ってる、まあ……ストレス溜まってそうだったから、見合う価値があればバレないように工作したらやってもいいとは言ったけどさ……」
「う、う~んまあそれならセーフ、なんですかね……アーカードさんの作ったNPCってなんかあれですよ。セラスだってスナイパーが持つような物じゃないでしょ砲は、なんであれ持たせたんですか」
「ギャップ萌えって奴かな」
「そうですか、では私は行く所がありますので失礼致します」
そう言って男は頭を下げて歩き出した。見た目は大柄でいかつく、左頬には大きな傷跡がある男はにこやか笑みを作りながらもそのまま拳を握りこんでいる。隣を歩く執事、セバスも同じような心境なのか顔をしかめている。二人が軽く相手をした相手は至高の御方を侮辱するに近い発言をしたので二人は内心では怒っていたが、その怒りに身を任せてはその御方に迷惑がかかると自制をしている。
「良いかセバス、抑えろ。あのような微塵のカスは御方々の素晴らしさなど理解しておらんのだ」
「承知しております……ですが些か不快ですな」
「ああそうだな―――次は殺す、必ず殺す……」
「殺気が漏れております、早急に館に戻るとしましょう―――アンデルセン様」
「ああそうだな……祈りの時間が近い、それを欠かす訳にはいかない」