オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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双子と吸血鬼

「よし、指輪による転移は問題なく作動してますね」

「基本的にユグドラシルと同じと考えても悪くなさそうだな。そのあとは要検証と検討と言った所か、やれやれ未知の探求と検証ってビギナー時代を思い出すねぇ」

「全くです」

 

<リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン>。ギルドメンバーの指に嵌められている指輪であり、彼らの絆の印でもありギルドの証明でもある。これを用いればナザリック地下大墳墓内で名前のついている部屋であれば自由に転移することが可能になる。指輪の力の行使はユグドラシル時代から何度も使っているが、この理解不能な状況下で無事に作動してくれるかは不安が付き纏っていたのだが無事に転移が成功したようで安心した。二人がともに転移したのはナザリック地下大墳墓の第六層、円形闘技場(コロッセウム)がある階層。ここで階層守護者達と待ち合わせしているのだが矢張り早く来すぎてしまったらしい、未だ誰もいない。

 

「とあぁっ!!ブイブイッ!!」

 

そんな二人を出迎えるかのように一人の幼い少女が舞い降りてくる。飛び降りたにも拘らず重さのない羽根のような軽やかな着地に魔法は感じさせない、肉体の技巧のみというのに驚かされる。着地してVサインを浮かべるのだったが逆に今度は彼女自身が驚愕に目を見開いていた。

 

「アッアアアッアーカード様ぁぁぁぁあああっっっ!!?」

 

そんな彼女も驚きながらも必死に自分を抑えつけながらダッシュでモモンガとアーカードの元へと駆けていくとすさまじい速度で跪いてみせる。まるで自らの感情を表現するかのようだ。

 

「アーカード様っお帰りなさいませっ!!再び御逢い出来た事を心から喜ばしく思います!!」

「お前も元気そうで何よりだアウラ。長らく心配を掛けたな、すまない」

「アーカード様が謝る事など何もありません!!私は、再びアーカード様と御逢い出来た事が嬉しいんです」

 

と敬意と喜びを示すように頭を下げながら述べるアウラにモモンガはあることを思い出した。アーカードはこの階層を守護するNPCを作った【ぶくぶく茶釜】と仲が良かったっというよりも彼はギルドメンバーほぼ全員と仲が良かった。唯一仲が良くなかったのは【るし☆ふぁー】位だろう、まあ彼に関してはモモンガもあんまり好きではないが……。

 

「私もだ。またお前に会えた事を嬉しく思う」

「うううっそう言って頂けるなんてとても光栄です……」

「所でアウラ、マーレの姿が見えないようだが……」

 

モモンガがそういうとアウラが若干怒りながら振り向き自分が飛び降りた高台に向けて声を出す。そこにはもう一人の階層守護者が居るのだが、何か事情がおりてこないようだ。

 

「マーレ何やってるの!!?早く降りてきなさいよぉ~!!」

「無、無理だよぉおねえちゃん……」

「アンタねぇ、折角モモンガ様とアーカード様がいらっしゃってるのよ!?失礼だから今すぐに来なさい!!」

 

そんな強気の声に押されているのか漸くもう一つの影が降りてきた。降りてきたのは杖を持った少女……に見えるのだが実際は少年でありアウラの双子の弟であるマーレである。この二人は酷く対照的というか、アウラは男の子っぽい服装、マーレは女の子っぽい服装をしているというかマーレに至ってはスカートまで履いてるので見た目は完全に少女である。だが男だ。

 

「お、お待たせして申し訳ありませんモモンガ様、アーカード様」

「何気にしてなどいないさ。それにしても……いやなんでもない」

『アーカードさん、今絶対茶釜さんの事思いましたよね』

『……本当にあの姉弟の闇って深いな』

 

と内心で二人を生み出したプレイヤーであり人気声優でもあるぶくぶく茶釜に若干の頭痛を覚えるのであった。

 

「ここに来たのは少しの実験の為だ」

「了解しました!あ、あのモモンガ様がお持ちになっているそれって、伝説のアレですよね!?」

「ああ。これぞ我がギルドの誇る最高位のギルド武器<スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン>」

 

高らかにスタッフを掲げながら自慢するかのようにやや早口で語っていくモモンガにアーカードは慈しみを込めた視線を送る。確かにそれは自分たちギルドメンバーが様々な物を費やして完成させたギルド武器、誇り高く思って当然ともいえる。語っていたモモンガは暖かい視線を送られている事に気づいたのか咳払いをしてそれを中断し実験を開始すると通告する。アウラとマーレは標的でもある人形を引っ張り出してそれを設置する。それらを魔法で焼き払い、次に火の精霊を召喚などしているのをアーカードはそれを興味深そうに見学しながら自らの中に意識を向けてスキルなどを確認してみる。使用可能なスキルはすべて把握し体内の魔力まで把握出来た。

 

「アーカードさんは如何しますか、模擬戦するなら何か召喚しますけど……」

「いや俺は基本的に武器を使うからな。今それは宝物庫だ、また今度にしよう」

「あっそうでしたね、あ、あの……宝物庫って俺も一緒に行った方がいいですかね」

 

と召喚した精霊とアウラとマーレが戦っている間に二人は会話をする。そんな中でモモンガはアーカードの武器についてどうするかを聞いた。彼としては絶対に行きたくはないのだろう、だがアーカードの安全を考えると一緒に行った方が良いだろうというのも理解しているので苦悩している。

 

「……できれば来て欲しいですけど、多分大丈夫でしょう。俺のスキルは防御系が多いですし何かあっても生き残る可能性は凄い高いです」

「ああっそういえばアーカードさんってタンク系でしたもんね」

 

アーカードは基本的に誰かの盾となるラインを構築し、そのラインを長時間維持し続けている間に後方から相手を殲滅してもらうというのが得意な戦術だった。それも彼が保有しているスキルに回復や防御系のスキルが豊富なのも言える。全盛期にはたった一人で数百人の敵を引き続けた上に全てを全滅させるという事も達成している。味方としては頼もしいが敵になると酷く厄介なタイプなのである。

 

「俺が攻撃全部受けてその間にたっち・みーさんが切り込むとかもあったなぁ」

「懐かしいですね、敵から泣きが入る位に不死身でしたもんねアーカードさん」

 

そんな話をしている間に精霊が双子に倒されていた。流石レベル100のNPCでこの階層の守護を担当しているだけはあると感心する。それでも本来の戦い方からすれば大分手加減しているような戦いなので、実際はこれ以上というのだから頼もしい。それに拍手を送る。

 

「見事な戦いぶりだ。流石だなアウラとマーレ、ぶくぶく茶釜さんも鼻が高い事だろう」

「えへへへっそうでしょうかぁ~」

「ア、アーカード様にそう言われると照れちゃいますよぉ~」

 

嬉しさのあまりに身を嬉しさで捩っている二人は本当に幼い子供のように見える。実際に二人はダークエルフという種族で長命として有名なエルフとしては70代である二人はまだまだ子供の範疇になる。しかし本当に愛らしい姿だ、仲良し姉妹にしか見えない……だが、マーレは男だ。そんな中で闘技場内の空間の一部が歪み始めていく。そこから一つの影が入ってくる。

 

「おやぁっ私が一番でありんす、かっ……」

 

闘技場へと表れた小柄の少女は思わず言葉を止めながら手に持っていた傘を落とした。絶世という言葉が似合うほどの美しさを持つ少女はアーカードと同じように酷く肌が白い、そんな彼女はモモンガの隣に立つアーカードを見た瞬間に言葉を失っていた。そしてアウラとマーレも顔負けな速度で駆けていく、その際に胸が不自然な動きをしながら何やらズレているのだがそんな事なんて気にせずに跪いて言葉を出す。

 

「アーカード様御戻りになって下さったのですね!!?」

「ああっ元気そうで何よりだな……心配を掛けた」

「何を仰いますか!?始祖の吸血鬼たるアーカード様からそのようなお言葉を掛けて頂くなんて畏れ多くございます!ですが……私は、嬉しく思います……心より、そう思います……」

 

そう言いながら大粒の涙を流している少女、彼女はナザリック地下大墳墓 第一~第三階層守護者を務めている真祖の吸血鬼であるシャルティア・ブラッドフォールン。始祖であるアーカードには大きな感情を向けているのだろう。アーカードは自分が居なかったせいでこんな美少女を泣かせてしまった事を深く悔いながら、涙を流したまま跪く彼女を軽く抱きしめる。

 

「ア、アーカード様!?」

「すまなかった、すまなかったなシャルティア……だがもう安心してくれ、私はもうナザリックからいなくならない。もう何処にも行かないさ……」

「ぁぁっ……アーカード様……」

 

その言葉に深い安心感を覚えたシャルティアは涙を流すことをやめてアーカードに抱きしめられることを満喫しつつ至福に包まれていた。それをアウラとマーレは何処か羨ましく思いながら見つめて、モモンガはそれを見て自分が作ったNPCにもこんな思いを抱かせているかもしれないのだから会いに行った方が良いのか、と思うのであった。

 

この後、シャルティアがアーカードから名残惜しそうに離れた際にアウラから胸がズレていると言われて慌てて物陰に隠れつつそれを直して戻ってきてからアウラと軽い喧嘩を始めるのだが、それはまた別の話。




オーバーロードを見て思った事、あの姉弟の闇はマジで深い。

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