オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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セバス、騒動。

「本日ハコレマデトスル」

『承知致しましたコキュートス様!!』

 

リザードマンの集落にコキュートスの姿はあった。デミウルゴスとアルベド発案のマッチポンプ計画で救われたリザードマン達は従順にコキュートス、引いてはナザリックに忠誠を誓っている。大きな被害を被ったリザードマンの集落、それの復興を支援する段取りは既に形作られておりアンデッドらがリザードマンと協力して壊れた家の修理や様々な事を起こっている。そんなリザードマンの統治を任せられたコキュートス、彼は救世主という目で見られており尊敬と羨望の眼差しが強い。そして今行っているのはリザードマンを鍛え上げる事だった。

 

コキュートスの力を見たザリュースを筆頭に是非とも自分を鍛え上げて欲しいという声が多かった。最初こそコキュートスは彼らのレベルで自分の指導についてこられるのかとやや疑問もあったが、今は少しずつ成長していく姿を見るのも悪くないと思い始めている。何れ自分の教えた剣技で敵を打ち倒す、そんな光景に少しだけ心が躍りこれはこれでありだなとコキュートスは満足げに下顎を鳴らすのであった。

 

「ムッ……」

 

指導も終わりこれからナザリックに帰還しようとした時の事、唐突に彼に<伝言>が飛んでくる。それはデミウルゴスの物だった。至急ナザリックに戻るように、そして自分と共にモモンガとアーカードの供をしてほしいという物だった。無論と返答をし緊急帰還用の<上位転移(グレーター・テレポーテーション)>の巻物(スクロール)を手に取り発動させる。

 

「私ハナザリックヘト帰還スル。緊急事態発生時ハ巻物ヲ使イ私ニ<伝言>ヲ飛バセ」

「承知しましたコキュートス殿」

 

ザリュースは礼を捧げながら消えゆく救世主を見送った。そして彼は今日の指導で得られた手応えに頬を緩めながら無事だった自分の魚の養殖場へと足を進める。

 

 

「さてセバス、何故私たちがこの場にいるのかその説明はいるか」

「……いえ必要御座いません」

 

王国の屋敷、そこを拠点として活動を行っているセバスら。そこの一室にてセバスは珍しく汗をかきながら震えそうになっている身体を必死に抑えながら凛たる姿で立ち続けている。だがそれをいつまで目の前の御仁に維持出来るかはセバスにも分からなかった。目の前の客人用のソファに腰かけているのは至高の御方であるモモンガ、そしてアーカード。護衛と思われる守護者であるデミウルゴス、コキュートス。そしてアーカードの傍で待機しながら冷たい視線を投げ続けるアンデルセン。それらが此方へと視線を向けている、用件は理解出来る。だが冷や汗が止まらなかった。隣にいる自らが助けた女性、ツアレも目の前の状況に震えている。

 

「セバス、私やモモンガはお前が裏切りを企てているという事を思っている訳でもなければお前を罰するために態々来た訳ではない。だがな……セバス、お前はソリュシャンからこの事を報告するべきだと進言を受けていた、違うか?」

「……その通りに御座います、しかし報告すべき程の事ではない私が勝手に判断致しました……」

「ふむっ……」

 

セバスとアンデルセン、そしてソリュシャン。この三人で王都についての調べを進めていた、ソリュシャンは突然の事に驚きながらもセバスに何度も報告すべきだと進言を行い続けた。そしてそれが聞き入れなれない為にアンデルセンを通してアーカードへ報告を行った。この場合正しいのはソリュシャンだ、彼女からすれば何の予定もなく予想外の行動をしたセバスの行動を報告しただけなのだから。

 

「セバス、お前の口から聞きたい。彼女を助けた状況、お前の行動を全て話せ。真実を」

「承知致しました……」

 

セバスは自分がツアレと出会った時の状況、なぜそのような事をしたか、全てを虚言なく報告する。その際に娼館の男に必要以上の金を渡したことに若干眩暈を起こしたが話を聞き続ける。その内容にデミウルゴスはポーカーフェイスを続けているつもりだろうが青筋が額に立っている、コキュートスも苛立っているのかカチカチと威嚇するような音を下顎で鳴らしている。全てを話し終えたセバスに二人は何も話さない。最後に自分は二人への忠義も忠誠も忘れたわけもなく、裏切るつもりなど毛頭ないと締めくくる。

 

「……我々ニトッテ、優先スベキ事ハ至高ノ御方。御方ヨリノ命令、ソレヲ曲ゲテノ愚カナ行動、ソレガ許サレルト思ッテイルノカセバス」

「全く同意だね、今の君の言葉に信頼性があると思っているのかね」

「お前は仕えるべき御方の御気持ちと信頼を裏切ったに等しい、それを理解しているか」

 

容赦なく突きつけられるコキュートスとデミウルゴス、アンデルセンの言葉。それはセバスも重々承知している。だが自分に至高の御方を裏切る考えなどかけらもない事は理解してほしいとそれだけを思っている。冷たく重苦しい空間が広がっていく中で小さい笑い声が木霊した、それはアーカードの物だった。小さな声は次第に大きくなり、大きな笑いとなって部屋中に木霊した。

 

「ハハハハハハッ!!!!友よ聞いたか、矢張り我々の思った通りだ!!愉快だ、非常に愉快だ!!」

「フフフッ確かにな、ここまでピッタリだといっその事微笑ましく思えてくる」

 

突然の大笑いと微笑みを浮かべる二人にセバスは呆然とする。自分に何か笑われるような部分があっただろうかと思って思いつかない、何故笑っているのかも理解出来る。当然だ、それはたっちさんと重ね合わせている二人だからこそ笑えているのだから。

 

「セバス―――困っていたら助けるのは当たり前、だろう」

「ッ―――!!」

「矢張り、そうだったんだな。やっぱりたっちさんの子供だ」

 

それを聞いてデミウルゴスとコキュートス、アンデルセンは何故セバスが今回のような行動をとってしまったのかを理解出来てしまった。彼の生みの親であるたっち・みーは弱きを助けずに強者を名乗れるはずがないという思考を持つ善人だった。そんな考えにセバスも強い共感を覚えそれを実行に移したのだろう。

 

「セバス、ツアレ……だったな。そいつはお前に預けよう。お前の好きなようにするがいい、ナザリックで働かせようが何処かに送り出すのも好きにしろ。だが今回の任務によってお前に与える筈だった褒美はなし、それで帳消しだ。それからこれからは何かあったらすぐに報告しろ、ツアレの処遇についてもだ。報告、連絡、相談、報連相は基本だ」

「承知致しました、寛大な処置に感謝致します……!!」

 

セバスは深々と頭を下げてツアレを休ませるために退室していく、そしてそれを見送った二人にデミウルゴスは口を開く。

 

「モモンガ様、アーカード様。御二方の決定に異を唱える訳ではございません、ですがセバスの処分は本当に宜しいのですか?」

「疑問に思うか。だが褒美をなくすというのはセバスが行ってきた行いの全てを無に帰すという事だ」

「それに奴が仮にナザリックにツアレを迎え入れる場合にもメリットはある。これから私が人間の世界に干渉していく、その場合に備えて人間に対する対応を練習する相手にもなる。ナザリックには人間を卑下する見方が強いからな」

 

セラス曰く、ユグドラシル時代に起こったアインズ・ウール・ゴウンに1500人のプレイヤーが攻撃してきた事が人間を軽視、見下した考えの原因になっているらしい。これから人間に多く接する場合があるのでその考えは出来るだけ変えるべきと二人は思っているので、ツアレがナザリック入りする事は別に拒むほどの事ではなく、むしろ良い切っ掛けになるのではと考えている。

 

「今回の一件はこれまでだ。アンデルセン、王都での情報収集は十分と判断する。早急に館を引き払いナザリックへの撤収の準備を整えろ、セバスについても今まで通りに接してやれ」

「承知致しました、我が君」

 

この後、モモンガとアーカードは守護者を連れてナザリックへと戻っていく。セバスはツアレが自分と共に居る事を強く望んだ為にナザリックへと連れていく事を決定した。そして必要な手続きとデミウルゴスに頼まれた小麦の買い出しにソリュシャンへと向かって行った……が、まだ騒動は終わっていなかった。

 

「許さん……至高の御方を、我らがナザリックぉ侮辱した愚か者共がぁぁぁ……!!!」




ネタバレ、神父様キレる。

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