オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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魔皇って書くとなにか疼きますよね。主に心の奥にある封じておきたい何かが。


魔皇ヤルダバオト

私はその時思った。時噺や吟遊詩人が語る物語は決して夢物語なのではないと。目の前にて魔たる皇と戦い続ける漆黒の英雄、それは手のひらに装備する鋭く輝く丸い鋸がついたもので魔皇の攻撃を捌きつつも隙を見て鋭い蹴りを入れた。私は肉体的な技術には長けていないが仲間が長けていて、その技術を見るがそれと比較してあからさまなほどに痛烈な一撃だった。その最中、吹き飛ばされているというのに魔皇は懐から出したナイフを私へと向けて投擲した。あんな不安定な体勢で驚きながらも全く反応出来なかった。頭を貫こうとするそれを、漆黒の英雄は止めて見せた。あれほど早く飛んでくるナイフを容易く掴んで見せた。

 

「無事か?」

「えっあ、ああっ……」

 

思わずそんな声しか出なかったのだ、あと少しで死ぬところだったのだから当然だったかもしれないが驚きで舌が回らなかった。命の恩人に対してそのような言葉しか出せない。そんな私自身に腹が立った。もっと気の利いた言葉があった筈だと、この方は私の命をもう何度も救ってくださっているのだ。そんな方へと向けた言葉がそんな物で良いはずがないと悔やみ続けた、だが目の前の漆黒の英雄はそんなこと気にしていないと言わんばかりに優しく、勇ましい、頼り甲斐のある声で力強く言う。

 

「無事でよかった」

 

私を助けられてよかったと、完全な善意を言葉に込めて贈ってくれた。優しげな瞳からは私への思いが込められており、その目を見ていられなくなり思わず目をそらしてしまった。だってしょうがないじゃないか、あんな綺麗な目で見られたら見ていられない……と自分を正当化させながら仮面を付けていて表情がバレなくて良かったと安堵する。そして胸が高く高鳴った、その高鳴りはどんどん高くなっていく。

 

「おおっこれまでの攻防に加え今の一撃、そして私の攻撃から彼女をここまで完全に守るとは、このヤルダバオト心よりの称賛をお贈りさせていただきます!!」

「ふんっまさかお前のような存在に称賛されるとはな」

 

私も気付いている。目の前の魔皇のわざとらしいとも思えるような仰々しくわざとらしい演劇の役者のような所作はこちらを挑発し馬鹿にしている、自分もあの魔皇と同じく仮面をしているがその下でこちらをあざ笑っているであろう顔を殴り飛ばしたくなってきた。そんな中で英雄の行動に驚いた。片手のそれを投げ捨てると私の元まで歩み、私の身体を持ち上げ、片腕で抱きしめるように抱きかかえた。

 

「キャッ!?ヴァヴァヴァヴァヴァン様!?」

「突然済まない、だが守る為にはおそらくこれが最適だ」

 

そういう彼に私の脳内は沸騰寸前だった。長らく生きてきたされた事もない恐らく伝説と言われる勇者の片手御姫様抱っこ、それを私は体験している。もう思考が死にそうになってきた、なんとか絞り出した言葉は

 

「ぁぁっ……ヴァン様ぁぁっ……」

 

という言葉が彼に聞こえていないことを強く願う。

 

 

王国には3つのアダマンタイト級冒険者が存在する。朱の雫、蒼の薔薇、漆黒。その内の蒼の薔薇は女性のみで構成されている珍しい冒険者チーム。そのメンバーである女性としてみるには巨石を思わせるような大柄な体躯で筋骨隆々の戦士・ガガーラン。そんな彼女が八本指の拠点の一つへと踏み込んだ時、そこには人間の腕を旨そうに貪り食っているメイドの姿があった。真っ先にそれが化け物で人間に仇成すものだと看破し戦闘を開始した。

 

直後にチームメイトであるティアと共に戦うが、蟲を自在に操り武器や兵として使うメイド、エントマに苦戦を強いられて行く。がその最中に仲間のイビルアイが救援に駆けつけた、彼女は殺虫効果のある魔法を使えた為に戦いを有利に運ぶ事が出来、なんとかあと一歩のところまで追いつめる事に成功するのだが……そこに現れたのがスーツに仮面をつけた悪魔であるヤルダバオトだった。イビルアイが殿となってガガーランとティアを逃がそうとするが、ヤルダバオトはそれを嘲笑うかのように二人を殺して見せた。そしてその直後にヴァンが空から降ってきてその戦闘に介入した。

 

「(さて、どう出てくるか……デミウルゴス)」

 

ヴァン・ヘルシングこと、アーカードは魔皇を演じているデミウルゴスの出方を伺っていた。この戦いもデミウルゴスに加勢する事も良いが、他人の目があるのならば敵対するしかない。そもそもがモモンとヴァンの武勇をより広めるための魔皇なのだから。

 

「<悪魔の諸相:触腕の翼>!!」

 

バク宙から跳躍したデミウルゴス……いやヤルダバオトは翼を猛々しく広げる。正しく悪魔に相応しい禍々しい翼だ、その翼から夥しい数の鋭利で平たく薄い触手のような羽が打ち出されていく。抱かれている仮面を被った少女のような見た目をしたイビルアイはまずいと漏らすが、ヴァンは焦るつもりはなかった。片手に握っている小型回転丸鋸、それに魔力を供給してやると丸鋸から魔力の刃が伸びてゆく。それを掲げる、それは巨大な盾となって向かってくる羽を全て撃ち落としながらヴァンとイビルアイを守り続けていく。

 

「やれやれっ相変わらず魔力を食う奴だ、改良しないとダメだな!!」

 

丸鋸を振るうとヤルダバオトは羽の射出をやめていた。そして再び仰々しい礼を捧げていた、それでもヴァンは内心であれは本気で称賛してるんだろうなぁ……と思いながら胸の中の少女を抱え直す。

 

「(にしてもこの子痩せすぎだろ……ちゃんと食ってるのか?)」

「ヴァ、ヴァン様私は大丈夫です!」

「そうか、それならばよかった」

「(ああっヴァン様が私の事を心配して……!!)」

 

とある意味でのすれ違いをしている二人、そんな中でヤルダバオトは言葉を口にする。

 

「それではそろそろ引かせて頂きます。私たちの目的はとあるアイテムの回収です、これより王都の一部を地獄の炎で包みます。もし侵入してくるというのであれば、煉獄の炎が貴方方をあの世に送る事を約束致しましょう!!」

 

そう言い残して一気に上昇していくヤルダバオト、ヴァンは丸鋸を下ろす。あそこまで一気に距離を稼がれたら追う事は出来ない上に今の状況で追えばイビルアイを庇い切れなくなるのは必至。今の段階ではこれが限界だと告げるとイビルアイがヴァン様が私を思って……と小さな声で感動し始める。それに気づかずにこれからどうするかなと思うヴァンであった。




劇団ナザリックの公演の開幕で~す。

これから始まるのはイビルアイとヴァン・ヘルシングのラブコメでーす(嘘)。

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