オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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イビルアイ

「……成程。蟲のメイドを……ヤルダバオトの戦力にはそれと同等の物が他にもいると考えて行動をした方が良さそうだな」

「私もそう思う、仮にあれが本当にメイドであるならばそれと同等の力を持った者もいる事も考えられます」

 

ヤルダバオトが撤退した後、ようやく合流したセラと共に助けた少女、イビルアイから事情を聴く事に成功。内容は大体予想通りの物であり、八本指の拠点を襲撃中のエントマと遭遇し戦闘に発展したと言った所だった。エントマが後れを取るとは思えないがイビルアイは蟲特効の殺虫魔法<蟲殺し(ヴァーミンベイン)>で上手く立ち回っていたことが判明した。聞けばその魔法は彼女のオリジナルであるらしい、それを聞き自分達もオリジナルの魔法を生み出せる可能性が出てきた事に少々喜びを覚えるヴァンことアーカードであった。

 

「だがそのメイドを追い詰めたからこそ、ヤルダバオトの攻撃対象にされてしまったのかもしれないな」

「話を聞く限りだとそのヤルダバオトって奴は仲間に対して優しいって印象ですもんね」

 

遭遇戦闘、それで彼女らが戦ったことは理解出来る。エントマも可能であれば撤退という判断も下せた筈、倒すべきと判断したのかそれとも何かを侮辱されてそれを優先してしまったのか、それでもアーカードにとってはエントマはギルドメンバーである源次郎の子供のようなもの。そんな彼女を倒す一歩手前まで追いつめた、そう言われれば思う所がある。

 

「踏まなくても良い虎の尾を踏んでしまった……確かにそうかもしれない。しかしヤルダバオトは言っていた。王都の全域を地獄の炎で包むと、そんな奴に仕えるメイドがまともである筈が無い。私は仲間たちが戦いを挑んだのは正しい事だと信じている」

 

そんな奴の上の存在が目の前にいるんだよなと内心で思っているヴァンとそんな主人の内心を察して苦笑を内心で浮かべるセラ。だが彼女の言葉もある種正しい、同時に仲間へと向けている信頼と絆は固く強い物だという物を感じさせる。

 

「確かに、君の仲間への侮辱に当たるな。謝罪しよう、すまない」

「あ、頭を上げてください!?あなたのような素敵な方が私に頭を下げるなんて……ヒゥッ!?」」

 

素直に謝罪をするヴァンに姿にワタワタして必死に頭を上げるように頼むイビルアイ、そんな彼女は不意に高い声を上げて頭を抱えるようにしながら背を向けてしまった。それを見たセラはははぁ~ん……と何処かニヤついている笑みを浮かべながら軽く肘でヴァンを小突く。

 

「なんだセラ」

「いえいえ~……この色男~」

「……はっ?」

 

ヴァンはまるで意味が理解出来なかった。そう、自分が助けたイビルアイが―――自分に好意を抱いたなどと考えもしなかった。

 

「(素敵!?何を言っているんだ私は……ああもうだって、しょうがないじゃないか……!!久しぶりに少女らしい思いを抱いたっていいじゃないか……こんな強くて素敵で……そう、私より強大で素敵な戦士なんだから!!)」

 

とイビルアイはほぼ完全にトリップしながら自分の中に生まれたそれと格闘、いや殆ど抵抗する事もなく受け入れて完全に恋する乙女と化していた。彼女としても今まで抱いたこともないような強烈な思いに理性を溶かされていた。しかし肝心のヴァンは気付けていない。フォローをしておくと彼は別に鈍感という訳ではない。

 

「あのイビルアイ……さんでいいのかな。これからどうするか予定はあるか聞いてもいいかな」

「あっは、はい!!」

 

アーカードは自らの魔眼によって魅了されたクレマンティーヌが自分に恋愛感情を抱いている事は承知しているし玉藻が自分の事を愛している事も重々承知している。だが、現実世界でも女性との付き合いもなく交際などもした事もない彼からすれば、何かきっかけがあった二人は理解出来る。が、意識もせずにただ単純に起こした行動でそんな好意が生まれるという事を考えた事もなかったのでイビルアイの事が分からない。

 

「セラ、お前はモモンに連絡を取れ。奴の方でも情報を得られているかもしれん」

「分かりました」

 

命を受けたセラは頷きながら少し離れながら<伝言>を使用して連絡を試みる。その間にヴァンはイビルアイと共にヤルダバオトの攻撃で死亡したガガーランとティアの遺体を腐敗を防ぐ布で包んでいく。

 

「間もなく私たちの仲間が此処に来る手筈になっています。私たちのリーダーのラキュースは蘇生魔法を使用出来ます」

「蘇生魔法……ですがそうなると」

「はいっその蘇生魔法は第五位階信仰系魔法<死者復活(レイズデッド)>は復活時に膨大な生命力を消失させてしまうので即座の戦線復帰は難しいと思います」

 

それを聞き矢張り代償も無しに簡単に復活できる訳ではないと理解する。いわゆるデスペナルティ、生命力の消失というのはレベルダウンだろう。この世界でレベルを上げるのは相当辛いだろう……特にレベル100である自分のレベルが下がった場合、どうやって上げるべきかというのは考えておくべきかもしれない。しかし、これはある意味いい機会かもしれない。

 

「ふむ……セラ、あれを出してくれ」

「あれ……ああっあれですね、ちょっとお待ちを……えっと何処にしまったっけ~……あった!」

 

セラの荷物から二つの薬瓶が取り出されそれがヴァンに手渡される。それをイビルアイへと手渡す。

 

「こ、これは……?」

「これは一時的に生命力を増加させるポーションだ、二人に飲ませるのが良いだろう」

「そ、そんな貴重な物を!?そ、それならばヴァン様が飲むべきです!!」

 

聞いたこともないようなポーション、生命力を増加させる事が出来るという事は力の底上げが可能であるという事。それならばヤルダバオトに対抗できるヴァンこそが飲むべきだとイビルアイは主張するがそれには首を横に振って無理だという。

 

「残念だが私はそれを飲めない。それは失った生命力を補填する事しか出来ない、中身が少なくなった水を足す事が出来るが減っていない中身を増やす事は出来ない」

「そ、そうなのですか……?しかしこんな貴重な物を……」

「ならばこれが終わったら食事でも奢って貰おうか」

「えっ……食事を、ですか……?」

 

仮面で見えないが思わずイビルアイの瞳が丸くなった気がした、生命力を補填するというとんでもない物の代金が食事を奢る事で釣り合うというのだろうか。

 

「それの副作用は飲んでから二日以内にかなりの量の食事をとらなければいけない、補填した分の生命力分を食わなければならない。そこに随伴させてもらうだけで良いさ」

「……分かりました。有難くこれを使わせていただきます」

 

同時にイビルアイは更にヴァンに惚れ込んでいた、本当に御伽噺に出てくる英雄がそのまま飛び出してきたかのような素晴らしい人格者だと更に胸が高鳴った。そんな中でセラが声を上げた。

 

「ヴァ、ヴァンさんあれっ!!」

 

セラが指さす先には王都の一区画を丸々包むような炎が舞い上がっていた、地獄の炎というには美しい炎が壁を成して王都の一部を飲み込んでいた。

 

「あれは……まさかヤルダバオトが言っていた地獄の炎!!?」

「ヴァン様……!!」

「……ヤルダバオト」


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