オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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終幕・ヤルダバオト

「ええいっ!!」

 

セラが構える<スーパークロスボウ>から放たれていく矢、通常のそれとは比較にならない速度で弾幕を張っていく。がそれらを正確に、まるで全ての弾道を理解しその先に置くかのような射撃を行いながら矢を撃ち落としていく射撃の持ち主がセラと戦っている。

 

「全く冗談じゃない!!飛んでくる矢の真正面に銃弾を叩きこんで迎撃するなんて、どういう芸当なんだか!!」

「ありがとう」

「そりゃどうもっ!!!」

 

マガジンを交換しながら放たれてくる弾丸を回避する。セラはイビルアイと共にモモンとヴァンがヤルダバオトを討つまでの時間稼ぎとして配下のメイドたちと戦いを行っている。ナーベは3人を受け持ち、イビルアイとセラは二人と戦っていた。どちらも仮面をつけたメイドだがその戦闘能力は最高位冒険者であるイビルアイですら油断を許さない程の力を秘めている。接近戦を仕掛けるメイドと後方から銃による援護を行うメイド、コンビネーションも絶妙で攻めるに攻めきれない。

 

「<水晶防壁(クリスタルウォール)>!!今の内に矢を!」

「有難う!」

 

イビルアイも接近戦を仕掛けてくるメイドを相手にしながらも、自らの周りに水晶の盾を展開し攻撃を防御しながら広い視野で適時セラの援護を行っている。殴りかかってくるメイドの拳の威力にかなりの勢いで水晶が薄くなっていくのに顔をしかめながらも援護を忘れない、彼女も超一流の冒険者である。だとすればお互いに一対一での実力の凌ぎ合い。対抗こそできるが互いに巨大な一撃を加えることが困難。移動しながらの戦闘を続け、互いが背を預けるような立ち位置になる。

 

「ヒィ~全く勘弁してほしいですよ、矢を空中で撃ち落とすとかマジ勘弁です」

「全くだ。彼方のメイドの拳の威力も半端じゃない、そちらに行ったらかなり危険だ」

「私もヴァンさんから格闘術は叩き込まれてますけどクロスボウ(これ)の腕程じゃないですからね……そのままそっちでお願いできますか?」

「任されよう、そちらも悪いが彼方を頼む。奴の援護を抑え込んで貰えるのはありがたい」

「了解です」

 

クロスボウを力強く握りしめながら目の前のメイドが此方をの動きを伺っている、それを破るかのように爆発と土煙と共にナーベが飛び出してくる。身体に傷を作りながらもセラとイビルアイは体勢を変えて彼女を加えて三方向を警戒するような形を取る。

 

「ナーベさん無事?」

「問題ありません、ですが……矢張り侮れませんね」

「お前も相当な腕前の魔法詠唱者の筈だが……魔皇を名乗る奴の部下なだけあるという事か」

 

ナーベの相手をしていた3人のメイド、自分達が相手をしていた者達と互角と考えてもそれを三人と一人で渡り合っていたのだから寧ろ彼女の力量の高さが伝わってくる。ある意味相性の良さもあるかもしれないが、そうだとしても十分過ぎる力。だが此処からは三人で全てのメイドを相手にする必要が出てくる、中々にやばい状況だが……イビルアイは負ける気がしなかった。あのヴァンのチームメイトと一緒にいる、だから絶対ここは突破できるという確信がある。

 

「私が高さを作る、それに合わせてくれ」

「分かりました。ナーベさんもそれでいいですよね」

「分かりましたセラ……さん」

 

反撃に転ずる作戦は決まった。ならば後はそれを実行するだけ……と魔法を行使しようと時だった、一際巨大な大爆発が巻き起こった。爆炎の中を突っ切るように吹き飛んでくるのは魔皇ヤルダバオト、それを追うように爆炎の中から飛び出してくるのはモモンとヴァン。モモンの腕力で投げられたヴァンが強烈な蹴りを加え、ヤルダバオトはごろごろと地面を転がって倒れ伏す。それを見たセラ、イビルアイは顔を明るくしながら声を上げる。

 

「ヴァンさん良かったっ!!」

「ヴァン様っ!!」

「無事だったか、だが……矢、使いすぎだろ。やれやれだから小娘のままなんだお前は」

「(ああやっぱり……マスターも罪作りな人ですねぇ……まあ彼女はOKでしょうけど)ううっ……」

 

そんな風に軽くセラに対して然りを飛ばしながらも軽く頭を撫でてやり、それを踏まえてもよくやったと褒めるヴァン。そんなセラを羨ましそうに見るイビルアイだったが、その直後に周囲のメイドたちが一気に距離を取った、ヤルダバオトへの攻撃を見て後退するのが最善と思ったのだろう。

 

「さてっ、続きをするとしようヤルダバオト。好い加減お前も本気を出したらどうだ」

「そのようで、では全力で行かせていただきます」

「掛ってくるがいい、ヤルダバオト!!」

 

互いに一気に駆け出していく、そして互いの得物がぶつかり合っていく。甲高い音を響かせながらも一息を吐けば十数の技がぶつかり合う。それほどまでにヤルダバオト、モモン、ヴァンの力量が異常な領域に入っている。だがヤルダバオトも負けずにヴァンを蹴り飛ばす、苦しげな息を漏らしつつも魔力を丸鋸へと回しながら構えを取る。トリガーを握りしめると魔力の刃が形成されていき巨大な翠の丸鋸が出現する。

 

「はぁぁぁぁっっ……<剛・撃斬>!!」

 

アンダースローのようなフォームから繰り出されるそれはヴァンの元から離れてヤルダバオトへと向かっていく。地面を抉りながら前へと進んでいく魔力の刃、モモンはそれを助けるかのように足蹴りしながら後方へと引く、真正面からそれを受ける形になったヤルダバオト、だが彼にも焦りの色は全く見えない。

 

「<悪魔の諸相:煉獄の衣>ムゥウン!!!」

 

全身がら獄炎を放ち、それを纏いながらも飛んでくる刃を真正面から受け止める。そして身体から炎が刃へと引火していく。魔力で形成された刃は通常であれば物理的に砕く事は出来ない、だが魔力で生み出された獄炎はその魔力を糧に炎を強めていく。魔力は全て炎にくべられる薪にされてしまい消えてしまう。

 

「地獄の炎……」

「ええっ如何なる炎に対する耐性を所持していようとも、無傷という訳には行きませぬ」

「モモンっ!!」

「ああっ!!」

「「<凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)・改>!!」」

 

モモンが取り出したのは二つの剣、それはリザードマンが所持する至宝に酷似している剣。その片方をヴァンへと手渡したモモン、そして二人は刃へと魔力を供給していく。氷の刃は朧げに光を放ちながらも徐々にその光は強まっていく。

 

「その武器は……!?」

「「<二重氷結爆散(ツイン・アイシー・バースト)>!!!」」

 

二人が振るう刃、魔力によって起動した術式が巻き起こすのは絶対零度の氷河を丸ごと召喚するかのような冷気と氷の山。それが土石流のようにヤルダバオトへと流れ込んでいく、それと纏う煉獄の炎がぶつかり合い一気に冷却された事になる爆発が生じる。霧が生じ視界が悪くなる中でヤルダバオトは未だに健在だった。だが冷気によるダメージは確実にあるのか、スーツの各部が凍り付いている。

 

「本当に貴方方は御強い……!!」

「お前もな」

「<剛・撃斬>が通じないのは誤算だった、さらに上げるべきだった」

 

そこにあったのは敵同士の会話、というよりも同僚同士の会話に等しい重さの無い気軽い会話だった。彼らにとって今の戦いなどそこまで大きくないという事なのだろうか。イビルアイは思わずなんという二人だと声を上げてしまう、彼女とて最高峰の冒険者。だがそれを遥かに上回る高みに彼らはいる、世界は広いという奴だろう。

 

「提案があるのですが、宜しいでしょうか」

「なんだ」

「この辺りで引きますので、勝負はこの辺りにしませんか?」

「なっ!?」

 

イビルアイは何を言い出すのだこの悪魔、と思う。王都を襲い仲間の命を奪っておいて自分が劣勢になったら戦いをやめるというのか、許される事ではない!と魔法を唱えようとした時だった、ヴァンが手を上げてそれを止める。

 

「断ったら、王都全域を悪魔で襲うつもりだろう」

「ご明察。流石ヴァン殿、そのような頭の悪い小娘よりも何千倍も聡明な方だ」

「その聡明なお嬢さんの仲間を殺したお前が言うな、そのせいで彼女も怒っているんだ」

「それは申し訳ございません。それで受け入れて貰えるでしょうか」

「私は構わない。お前が大人しく配下の悪魔を連れて引くのであれば」

「勿論でございます、これ以上は我々としても望むべきではありませんので」

 

メイドたちを自らの背後へと回らせる、そのまま大人しく帰るという意思表示だろう。

 

「ではこれにて撤収させていただきます。残念です、アイテムを回収するという目的を果たせないのは」

 

そう言い残すとヤルダバオト達の姿は転移の光で掻き消え後には何も残らない。同時に王都を覆っていた炎の光も消え失せ、炎によって遮られていた空が浮かんでくる。既にかなりの時間が経過していたのか夜の時間が終わり、夜明けが始まっているのかうっすらと空が明るくなり始めていた。

 

「うわぁ~いやったぁ~勝ったぁ!!流石はヴァン様だぁ!!」

「有難う、だがしかし……離れてくれるとありがたいんだが……」

「照れなくてもぉ~♪」

「いや照れてるとかそういう事じゃなくて……」

「(う~んマスターを狙いの人が一人増えた……まあマスターいい男ですもんね)」

 

王都から完全に悪魔は撤退していた、ヤルダバオトの言葉に偽りはなかったという事だろう。そしてその激しい戦いを締めくくるかのようにヤルダバオトを撃退した二人の英雄の勝鬨が王都の大きく木霊した、それが告げる戦いの終わりと勝利は王都に安堵と高揚を齎す。こうして王都を震撼させた魔皇ヤルダバオトの襲撃は幕を閉じた。


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