オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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異世界での違い

少女、エンリはまだ幼い妹の手を引いて必死に走っていた。恐怖に怯えながらも必死に走っているが、それでもまだまだ遅い。そんな妹を必死に励ましながら足を動かし続ける、背後から迫ってくる金属音と笑いながら迫ってくる騎士から逃れる為に。突如として始まった虐殺、何故そうなるのかも理解出来ないままに村の中の人たちが殺されていく、恐怖でしかない。

 

「キャアッ!!」

「ネムッ大丈夫!!?」

 

引っ張られた手の先では妹が木の根に躓いてしまったようだ、必死に立たせようとする間に騎士が一気に距離を詰めて剣を振り被ってくる。ネムを庇う様に体全体を盾へ、妹を抱きかかえるようにする。背中に激痛と熱が襲い掛かる、斬られている。どうすれば妹を助けられる、如何すれば……と必死に考える中、突如として騎士たちの動きが止まった。何がと思う中、顔を上げるとそこには―――仰々しくも豪華なローブと杖を持った男と赤いロングコートを纏った美丈夫が立っていた。

 

 

 

「戦意もない幼い子供を襲おうとするとは……<心臓掌握(グラスプ・ハート)>!!」

 

<人化の指輪>を装備した影響か、少し痩せている男へと変貌しているモモンガ、だが変わっているのは見た目だけでステータスなどは変化していない。そして少女を助ける為に彼は魔法を行使する。魔法は簡単に分けて一から十まで区分できる、そして数字が上なほどに上級の魔法となる。そして今モモンガが行使するのは死霊系魔法の第九位、心臓を握り潰し相手を即死させる魔法。例え抵抗されたとしても朦朧状態になるのでモモンガはこの魔法をよく行使する。だが、それを受けた騎士は即死して倒れこんだ。

 

「成程な、人を殺しても恐怖も動揺もないか……本当に私は人間をやめているようだ。まあその事は後だ、魔法は通じる、成程問題ないな」

「ばっ化け物!!?」

「化け物か」

 

現れた男にいきなり仲間が殺されてしまった騎士は怯えながらも剣を構えて叫ぶ、だがそれを見てアーカードはニヤ付きながら笑う。

 

「ならばそれに相対している貴様は何だ。人間か、犬か、哀れな愚か者か。どちらにせよ私はお前のような手合いは好かん」

「いっ―――」

 

直後に騎士は助けを乞おうとする、もうしないから許してくれと。だが目の前の美丈夫はそんな事は許す事はない、直後騎士の頭部が吹き飛ぶ。荒ぶる雷撃によって騎士の全身は焼け爛れ、頭部は粉々になっている。それをやったのはモモンガだった、第五位階魔法である<龍雷(ドラゴン・ライトニング)>を放った。実験のつもりで放ったのだがまさかこれで死ぬとは思っていなかった、レベルが100であるモモンガにとっては第五位階の魔法は適正な魔法ではない。この程度で死ぬ、という事はこの世界の人間はその程度であるという証明にもなる。

 

「弱いな、何を恐れていたかもわからんなこれでは」

「全くです。これなら外の調査を組み込んでも大丈夫そうですね」

「まだまだ検証は必要だと思うけどな」

 

そんな会話をするがアーカードはこちらを見つめて困惑している少女二人を見つめている、そんな彼女らに視線を合わせるかのように膝を曲げて目を見ながら話しかける。

 

「無事かねお嬢さん方」

「はい、あのあの助けて、いただいて……」

「大丈夫だ、君たちを危険に晒す者たちはもういない。安心しなさい」

 

そう応える中でモモンガはスキルの実験のためともしもこの世界に自分達以上の存在が居る事を警戒して、あるものを創る事にした。〈中位アンデッド作成 死の騎士(デス・ナイト)〉レベル的には自分達の半分以下の存在だが、これは酷く重宝していた。それは相手の攻撃を完全に引き付ける能力、そしてどのような攻撃を受けてもHPを1で耐えきる事が出来る。盾としては申し分ないモンスターだ。が、それが生み出される過程はユグドラシルとは異なっていた。自分が殺した死体へと霧が乗り移り取り込んで泥のように変化していき、肥大化していく。少女らにはきつい光景なのか、アーカードに大丈夫だと言われるまで酷く怯えている。

 

そして出来上がったのは2.5メートルほどの死霊の騎士。左手には身体の殆どを覆えるほどのタワーシールド、片手には両手で持つような巨大剣を握りしめている。悪魔のような死霊の騎士、それが完成する。

 

「死の騎士よ、この騎士の仲間がこの先の村にもいる。そいつらを消せ」

「オオオァアアアアアアアアア!!!!!」

 

咆哮、身の毛がよだつかのような恐ろしく本能へと訴えかけるかのような凄まじい咆哮。殺気を込めた咆哮をもって了承とした、モモンガは満足げに次へと進もうとするのだがなんと死の騎士はそのまま村へと走りだしてしまった。思わずあっけに取られてしまう。本来死の騎士は召喚者の周囲に留まるもの、だがこの世界には自由度が違うらしく忠実に命令を実行するために走り出していく。

 

「盾になるモンスターが守るべき者を放り出してどうすんだよ……この辺りもユグドラシルと違うみたいだから検証が必要か……」

 

直後、開いていた<転移門>から全身を鎧で包んだアルベドが姿を現した。彼女には申し訳ないが死の騎士の代わりに自分達の守りをお願いすることにしよう。

 

「準備に時間がかかり申し訳ございません」

「いやナイスなタイミングだアルベドよ。私とアーカードさんの守りを任せる」

「はいっお任せください!!」

 

至高の御身を自分が守れる、命令なのだが彼女にとっては至高の時間に置かれるに等しい状態。守護者統括の彼女ならば十全なる守りを展開する事が出来るだろう。そしてアルベドはアーカードに縋るようにしている少女二人に殺意を込める視線で見つめそうになるが、それをアーカードからの視線を受けて必死に抑えながら飲み込む。

 

「さて、君は怪我をしているな。これは治癒の薬だ、飲むと良い。そちらのお嬢さんは怪我はしていないようだな」

「あっありがとう、御座います……」

 

アイテムボックスから薬を取り出して与える、ユグドラシルプレイヤーは序盤にお世話になる<下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)>。その色に驚くような目をしながらも助けてくれた人たちの物だから大丈夫だろうと思って少女は一気に飲み干す。すると怪我は瞬時に癒えて痛みがなくなった。

 

「えっうそっ全く痛くない……!?」

「ふむっもう大丈夫だろう。ついでにこれも与えておこう、これは吹いた者に従うモンスターを召喚するものだ。ついでに魔法をかけてやってくれ友よ。私たちが居ない間に襲われたのでは意味がないからな」

「いいだろう友よ」

 

アーカードの言葉を受けてモモンガは二人に対して魔法を行使する。命を持つものが入る事が出来ない結界を展開する<生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)>。射撃攻撃を弱める<矢守り(ウォール・オブ・)障壁(プロテクションフロムアース)>を掛ける。これならば恐らく大丈夫だろう、これとアーカードが渡した<ゴブリン将軍の角笛>があれば何も心配する事はないだろう。

 

「さてと、死の騎士の事もある。そろそろ行くとしよう」

「ああっアルベド、守りは任せる」

「はっお任せください」

 

そして村へと向かおうとする三人に少女らはそろって頭を下げた。出会うことがなければ確実に殺されていたことだろう、それを助けてもらった感謝などしきれない。

 

「あ、あの出来ればお名前をお教えいただけないでしょうか!!?」

「……名前か。アインズ・ウール・ゴウンの支配者、モモンガ」

「同じくアインズ・ウール・ゴウンの銃、アーカード」


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