生徒会長は砕けない   作:雨魂

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生徒会長の微笑み

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 それから僕たちは魚を捌いていた果南さんと鞠莉さんと合流し、四人で協力して何とか火を点けることに成功した。

 

 火が点いた後はみんなで手分けをして枯れ葉なんかを集めてきてそこに火を移し、綺麗に捌かれたヤマメを焼いて食べた。なぜかお茶のセットを持ってきていた鞠莉さんに紅茶をもらい、ヤマメの塩焼きとダージリンの紅茶を合わせていただく、という何とも奇妙な経験をした。

 

 比較的標高の高い場所で、雲のない晴天を見上げながら僕らは山登りの疲れを癒した。山にいるだけで心身共に癒される気がするのはなんでだろう。

 

 僕らが話をしながら休憩している間、ダイヤさんはほとんど口を開くことはなかった。果南さんと鞠莉さんに話しかけられて一言二言返事をすることはあっても、僕らの会話に入ってくることは一度もなかった。

 

 そんな彼女を気にしながらも、話しかけるまでには至らなかった。本当は話したかったさ。でも、そうされることを望んでいないのは彼女が纏う空気を見ればすぐにわかった。だから声をかけなかった。

 

 しばらく休憩をしてから、僕らはまた山頂に向かって歩き出した。二つ目のチェックポイントであった広場から山頂は思っていたよりも近く、五人で山頂まで登り切り、それから写真撮影をしたり、山びこを聞いたり、他にも色々なことをして僕らは宿泊所へ向けて再度出発し、今に至っている。

 

 

 

「─────晩ごはんはカレーライスみたいデースッ!」

 

「あはは。鞠莉のテンションは下がらないね」

 

「あったりまえでしょー? だってこーんなグッドなロケーションの中にいるのよ~?」

 

 

 

 学校指定の体育着に着替えた鞠莉さんと果南さんが、僕らの近くでそんな話をしていた。時刻は現在午後四時半前。辺りが木々に囲われているこの場所には既に夕暮れが訪れている。空を見上げれば、橙色の中を数匹の鴉が飛んでいるのが見えた。

 

 全部の班が山登りを終えて、宿泊所の玄関前に集合している。鞠莉さんが言っていたように、これから野外調理場でカレーを作って食べるらしい。

 

 僕の目で見る限り、クラスの女子たちは学校にいるときより雰囲気が柔らかくなっていた。それは僕らの計画通りで、吉兆であると言えよう。

 

 だが、その代償が払われるのは世界の理。

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

「だ、大丈夫かお前ら。全員目が死んでんぞ」

 

「もう完全にやり切ったって感じだね」

 

 

 

 僕と信吾の前には男子たちの亡骸(生きてはいる)。ほとんどの男たちの目がさっき食べたヤマメと同じ色をしている。

 

 理由もよくわかる。普段話さない女子生徒と会話して、尚且つ彼女たちの下僕のようにフォローにまわっていたのを、遠巻きながら見ていたから。

 

 ある男子は転んでしまった女子をおぶって山頂まで駆け上がっていたり、はたまたとある男子は川に流された女子の帽子を取るために服を着たまま川を泳いでいたりしてた。他にも目を疑うような無茶ぶりをしてる奴がいて、笑おうにも笑えない場面が多々あった。

 

 全員が男子校出身であることも考慮すると、この数時間は地獄にも等しい時間だったに違いない。いや、楽しんでくれていたとは思うけど、疲労感は間違いなく感じている。

 

 僕も疲れた。こんなに長い時間、同級生の女の子と話をすることも今までなかったし、気を遣うのも神経の薄皮を削られるようで、体力よりも精神が疲労している。

 

 でもそのおかげで男子たちは自分の班の女子たちと打ち解けることができたようだった。それは僕らが立てた計画通りだったから、素直に安心した。女子生徒が持っていた男子生徒への認識もこれで少なからずは良くなったものだと、自分なりに思ってみたりする。

 

 

 ……一人だけを除いて。

 

 

 

「シンゴー、ユーヒぃ」

 

 

 

 名前が呼ばれ僕と信吾は同時に同じ方向を向いた。少し離れた所で鞠莉さんが手を振っている。彼女の隣には果南さんがこっちを見て立っていた。

 

 僕らは顔を見合わせてから、彼女たちの方へと近づいて行く。山登りで疲労した足は歩くと少し重く感じた。

 

 

 

「どうかした、鞠莉さん」

 

「ンフ? なんかね、果南がシンゴがいなくて寂しいって言うから~」

 

「なっ!? ちょっと鞠莉っ! 変なこと言わないで!」

 

「え~? マリーはホントのことを言っただけなのに~」

 

「………………」

 

 

 

 鞠莉さんに用件を訊いた途端、こんな会話が始まった。果南さん、顔が赤い。むしろ鞠莉さんのセリフに拍車をかけているようにしか見えないんだけど、その辺はどうなんでしょうか。

 

 隣に立っている信吾も目を細めて彼女たちのことを見つめてる。耳がちょっと赤い。たぶん照れてる。鞠莉さんの言うことは僕もわかる。この二人は本当にお似合いだと思うから。

 

 

 

「あはは。で、本当の要件は何かな」

 

「イェースッ。そろそろクッキングを始めようかと思って~」

 

 

 

 そう言うことか。たしかに時間的にもそろそろ始めなくてはいけない頃だろう。いつまでも暗い森の中にいたらカレーの匂いに誘われて熊なんかが出てくるかもしれないし。

 

 そうしていると、調理場の方からダイヤさんが現れた。そして彼女は宿泊所の玄関の前に立ち、持っていた拡声器を口に当てる。僕らは黙ってその姿を見つめていた。

 

 

 

『それではこれから夕食づくりを始めますわ。材料、料理器具などの準備は既に終わっています。十八時ちょうどに食べ始められるよう、手分けして調理に当たってください』

 

 

 

 宿泊所前にある駐車場で休んでいた生徒たち全員に向かってダイヤさんは言う。簡潔で必要最低限の言葉。無駄なものが嫌いそうな彼女らしいな、と思った。

 

 生徒会長の言葉を聞いて、生徒たちは駐車場から調理場へと移動し始める。

 

 

 

「じゃ、私たちも行こっか」

 

「そうだな」

 

 

 

 僕たち四人もその流れに乗って歩き出す。そんな中でも、僕は生徒会長へ視線を向けていた。

 

 ダイヤさんは、仲良さそうに話をしながら移動している生徒たちを見つめている。そこには男女の垣根はもう、ほとんど見受けられない。

 

 彼女がそれを望んでいたのかどうかは知らない。けれど、僕たちが望んでいる光景はそこにあった。

 

 願わずにはいられなかった。あの子も、この中で一緒に話をできたらいいのに、と。

 

 

 

「…………」

 

「…………ぁ」

 

 

 

 そんなことを歩きながら考えていた時、あるものが目に映り、思わず足を止めた。

 

 今のは見間違いか? いや、違う。今はっきり見た。明らかな変化が、この目には映っていた。そして記憶にも鮮明に残っている。

 

 

 

「? 夕陽、どうかしたか」

 

 

 

 足を止めたことに気づいた信吾が、振り返ってそう問いかけてくる。その声が聞こえなくなってしまうくらい、夢中になってしまっていた。

 

 

 

「…………ううん。何でもない」

 

 

 

 小さな嘘を吐いて、ようやく目線を外した。それからはもう、彼女の方を向かなかった。

 

 僕が見たものは多分、ここにいる男子生徒は誰も見たことがない。

 

 どうしてあの子はそうしていたのかはわからない。わからないけれど、僕は満たされてしまった。

 

 

 

 生徒会長は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 

 

 

 

 僕の目が春の幻に囚われていなければ。見ている景色が白昼夢でないのなら。

 

 

 

 ダイヤさんはたしかに、笑っていた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ではみんなでカレーを作るデースッ!」

 

 

 

 お玉を掲げた鞠莉さんがそう言うとおーっ、という声が上がる。やはりというかなんというか、男子のテンションは低い。ほぼ全員が死んだ目をしながら満身創痍の状態で調理器具を空へと掲げていた。大丈夫だろうか。包丁で手を切ったりしないでね。

 

 ご飯も飯盒で炊かなくてはいけないらしく、時間と人数を考えるとなかなか大変な作業になりそうだった。

 

 分担は決まっていないけれど、料理ができない僕は必然的に飯盒の方へまわるしかなさそう。

 

 

 

「んじゃ、とりあえず班で分かれてやってみるか」

 

「そうだね。じゃあ信吾はどっちに行く?」

 

「ん~、俺は材料でも切ってくるよ。味付けは女子たちに任せる」

 

「なら私も信吾くんと同じでいいかな」

 

 

 

 訊ねると、信吾と果南さんはそう言ってくれた。僕もこの二人が一緒の方が安心できる。

 

 

 

「そっか。なら鞠莉さん、は…………」

 

「めちゃくちゃハイテンションで男子たちに絡みに行ってるな」

 

「あの子は勝手に何かしらやるから放っておいていいよ」

 

 

 

 声をかけようとしたら鞠莉さんの姿はなかった。視線を移すと、疲れ切って動かない男子たちを奮い立たせに? 行ってくれたらしい。鍋の裏をお玉で叩いてカンカンと音を鳴らしてる。あの子はお母さんか何かなのか。いずれにせよ、果南さんの言う通り彼女なら自分から動いてくれそうなので、改めて役割を決める必要もないだろう。

 

 

 

「夕陽はどうするんだ?」

 

「僕はお米を炊いてくるよ。悪いけど、料理はできないから」

 

「え? そうなんだ。夕陽くん料理が得意そう顔してるのに」

 

「はは、それってどんな顔?」

 

 

 

 果南さんにそう言われ、笑って誤魔化した。料理はやらないわけじゃない。ただ、できないだけ。

 

 

 

「そうだったな。なんだっけ、包丁恐怖症?」

 

「先端恐怖症、だよ。包丁恐怖症でも間違ってはないけどさ」

 

 

 

 信吾に向かって言う。料理ができない理由は、いま言った通り。それ以上も以下もない。

 

 

 

「先端恐怖症?」

 

 

 

 果南さんが首を傾げて僕の顔を見つめてくる。あまり馴染みのない言葉だから、知らないのも仕方ないのかもしれない。

 

 

 

「そう。先が尖ってるものを見るのがダメなんだ」

 

 

 

 理由は僕も知らない。幼い頃から先が尖っているものを見たり、突きつけられたりすると自然に過呼吸になってしまい、具合が悪くなってしまう。

 

 特に包丁がダメだった。他のものならば触ったりするくらいには問題ないのだけれど、包丁やナイフだけは近くで見るのも触ることもできなかった。原因は今でもわかってない。小さい頃精神病院にかかったこともあったけど、結局詳しい理由は判明しなかった。

 

 ひとつ、医者に言われたのは『過去のトラウマが大きな原因になりやすい』ということ。先天性で先端恐怖症になることはごく稀で、何か過去に先端にまつわる恐怖を感じたりした記憶が原因となりやすいらしい。この恐怖症について知っているのは、それくらいだ。

 

 

 

「へー、そう言うのがあるんだ」

 

「うん。自分でもなんで怖いかよくわかってないんだけどさ」

 

 

 

 頷く果南さんに言う。僕は自分が先端恐怖症になってしまったわけを知らない。記憶の中にもそんな思い出はひとつとしてない。あるのは小さい頃から包丁を見るのが極端に嫌いだったという記憶だけ。それ以外は、何も覚えていない。

 

 

 

「…………あれ? そう言えば、ダイヤも」

 

「かなーんッ! ジャガイモの剥き方教えて~」

 

 

 

 と、果南さんが何かを言おうとしたとき、鞠莉さんが彼女の後ろから突然ぬっと現れた。そしてなぜか背後から果南さんの胸を触り始めた。どうしてかは知らない。知らないが、それは僕たち男子からすればすごく下半身に厳しい光景だった。

 

 隣にいた信吾の顔がとんでもないことになってる。無理もない。気になってる女の子の胸が揉みしだかれてる光景を目の当たりにしたら、色々思うこともあるだろう。

 

 

 

「ちょ、ちょっと、鞠莉っ! やめてよっ、こんな所で」

 

「ンフー? じゃあお風呂でなら続きをしてもいーのかしら~?」

 

「い、いいわけないでしょっ」

 

 

 

 そんなやり取りをしてる二人を見て、男子たちはヒートアップ。『うぉおおお!』とか夕暮れの森に向かって雄たけびを上げてる奴もいた。あの、さっきまで死んでませんでしたか、あなたたち。夜の入浴時間は気をつけよう。あのバカな男たちは間違いなく女風呂を覗きに行こうとするだろうから。

 

 果南さんと鞠莉さんのお陰で男子たちは復活した。この歳になって欲望の強さを理解した。本当に男ってバカだと思う。

 

 とりあえず、先端恐怖症の話は水に流れたようだった。僕としてもそれでよかった。変なことであまり気を遣わせたくはなかったから。

 

 気を取り直して、ご飯を炊く準備をする。班ごとに飯盒が二つと釜土が一つ貸してもらえるらしい。でも、人数に対してカレーの材料がかなり多いように見えたのは気のせいだろうか。

 

 

 

「じゃあ、そっちは任せたよ」

 

「おう。美味い飯を炊いて来い」

 

「よろしくね、夕陽くん」

 

 

 

 信吾と果南さんにそう言って、自分の班の飯盒を取りに行く。釜土にも火を点けなくちゃいけないから、少し急がないと。

 

 飯盒を二つ持って、調理場から離れた釜土の方へ向かう。等間隔に横並びになっている釜土。左から順に使用する班分けがされている。

 

 その数を数えながら、僕は自分の班の場所へと近づく。すると。

 

 

 

「………………」

 

「あれ。ダイヤさん」

 

 

 

 僕が使おうとしていた釜土の前には既に先客がいた。いや、同じ班なのだから先客という表現はおかしいかもしれないけど。

 

 そういえばさっき拡声器を使って生徒たちに声をかけていたときから彼女の姿は見ていなかった。てっきりダイヤさんも調理組に混ざっているのかと思ったんだが、それは違ったようだ。

 

 

 

「ダイヤさんは、あっちに行かないの?」

 

「…………私がこちらにいては、いけませんか?」

 

「そんなことないけどさ。ダイヤさん、料理とか上手そうだから」

 

 

 

 勝手な先入観を口にしてしまう。けど、本当に思ったからそう言った。

 

 するとダイヤさんは首を横に振る。淡い夕日の色に染まった綺麗な黒髪がふわりと揺れた。

 

 

 

「いえ。私は、別に」

 

「そうなんだ。じゃあ、僕と一緒にご飯を炊いてくれる?」

 

 

 

 そう言うと、ダイヤさんは頷いてくれた。でも目線は相変わらず冷たい。さっき見たあの笑顔は、やっぱり見間違いだったのだろうか。

 

 

 

「あなただけでは時間がかかります。特別に手伝って差し上げますわ」

 

「ありがとう。やっぱり優しいんだね、ダイヤさん」

 

「べ、別に優しくなんてありませんわ。変なことを言わないでください」

 

 

 

 褒めてあげたのに、彼女は腕を組んでぷいっとそっぽを向く。怒らせちゃったかな、と思いながらも完全に拒絶されたわけではないことに安心した。

 

 

 

「思ったことを言っただけなのに」

 

「それが変なことだと言っているのです」

 

「厳しいね、ダイヤさんは」

 

「ですから…………」

 

 

 

 微笑みながら言うと、ダイヤさんはため息を吐いた。ちょっと呆れてるような顔。そんな顔もするんだ、と当たり前のことが特別に思えてしまった。

 

 少しずつでも、そう言う当たり前の表情を見せてほしい。怒った顔や不機嫌そうな顔ではなく、女の子としてのダイヤさんの表情がもっと見たかった。

 

 願わくば、さっき見たあの笑顔を僕に見せてくれたらそれ以上に嬉しいことなんてない。まぁ、それは今後の課題として取っておこう。

 

 徐々に闇に包まれていく森の方から、柔らかな春風が吹いてくる。熱を帯びた心が少しだけ落ち着いていく気がした。

 

 

 

「なんだか、あなたと話をしていると調子が狂いますわ」

 

「それはごめん。話さない方がいい?」

 

「そうではありません。ただ…………」

 

 

 

 そこまで言って、ダイヤさんは口を閉ざした。目線を斜め下に下げて、何かを言おうか言うまいか悩んでいるように見える。

 

 次の言葉を黙って待った。待つのは嫌いじゃない。待たされるのも嫌いじゃない。それが、心を惹かれる相手ならなおさらのこと。

 

 森の方から、名前の知らない鳥の鳴き声が聞こえてくる。周りには他の生徒がいるのに、その声が気にならないくらい綺麗な鳴き方だった。

 

 他の生徒の存在よりも、目の前に立つ一人の女の子に意識は向かっていた。まるで、彼女のことしか見ることができなくなる魔法の眼鏡をかけたような、不思議な感覚がそこにはある。

 

 もちろんそんなことはない。でも、たしかに僕は黒澤ダイヤという女の子に夢中になってしまっていた。

 

 なぜか無性にあの玩具の宝石を握り締めたくなった。今はネックレスとして首に掛かっているからできないけれど。

 

 

 

「なんでもありません」

 

「えー。教えてくれてもいいのに」

 

「あなたに言う筋合いはありませんわ」

 

「じゃあもっと仲良くなったら教えてくれる?」

 

「……あまり変なことを言うと怒りますわよ」

 

「残念。怒られないように注意しなくちゃ」

 

 

 

 いつも怒ってるじゃん、と心の中で言った。ダイヤさんは目を細めて僕のことを見てくる。

 

 彼女が言おうとした言葉は少し気になったけれど、言いたくないのならそれでいい。彼女の言葉の通り、僕らにはそんな筋合いはないのだから。

 

 正直、こうして彼女と話ができるだけでよかった。内容はなんだっていい。僕の言葉に反応してくれる。声を聞かせてくれる。それだけでよかった。

 

 こんなことを信吾に言ったら多分、怒られちゃうな。それとも変な奴だ、と笑われるだろうか。僕としては別にどっちだっていい。

 

 ただ単純に、この子と話ができるのならそれでいい。

 

 

 

「ほら、無駄な話をしている暇はありません。早くやりますわよ」

 

「はーい」

 

()()は伸ばさない」

 

「はいはい」

 

()()は一回」

 

「はい」

 

「よろしい」

 

 

 

 なんだかとても楽しい世界にいる気がした。幸せな場所、と表現してもいいかもしれない。こんな気持ちになるのは久しぶりだった。

 

 まったくあなたはルビィですの、とため息交じりに言いながらダイヤさんは釜土に火を点ける準備をし始める。

 

 そんな姿を見て、やっぱり自分が彼女に惹かれていることを自覚した。

 

 

 

「お母さんみたいだね、ダイヤさん」

 

「………………っ」

 

 

 

 その後、火が点いた炭を投げつけられそうになったのは多分、忘れていい思い出。

 

 

 

 





次話/裸の宝石
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