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夏休みが明けて、学校生活のサイクルに身体と頭が慣れ始めたある日の事。六月にあった体育祭の時と同じように、クラスメイト全員でミーティングをすると信吾が言い出した。九月の中旬にある文化祭についてみんなで話し合いたいとの事。イベント事には異常に熱くなる信吾の性格を分かってきたクラスメイト達は、今回もその提案に乗ってくれた。
長い時間を同じ箱の中で過ごして来たからか、クラスの団結はさらに固いものになった。あの灼熱のように熱かった体育祭で優勝してから、この三年一組は完全に纏まった感じがする。この感覚を持っているのは恐らく僕だけではないだろう。
いつも通りに授業をこなし、時は放課後。クラスメイト全員は自分の机の椅子に座りながら話し合いが始まるのを待っている。ほとんどの部活動が最後の大会を終えた為、大抵の生徒はすぐに家に帰るのが最近の流れになっていたので、こうして放課後に残っているのは何だか久しぶりな気がした。
「────よし。全員揃ったな」
毎度恒例の台詞から始まる話し合い。僕たち男子は飽きるほど聞いているけれど、女子生徒達も段々慣れて来たみたい。
「それでは、話し合いを始めますわ。書記は──」
「僕がやるから任せてよ」
「では、夕陽さん。お願いいたしますわ」
例の通りに教壇にはまとめ役の信吾とクラス委員長のダイヤさん、そして書記である僕が立っている。この役割も定着してきたようで何となく嬉しい。書記なんて誰がやっても同じだろうけど、敢えて僕を選んでくれるのなら喜んで引き受ける。字が上手いと褒められるのも嫌な気はしないし。
クラスメイトが全員いる事を確認してから、信吾は口を開く。
「今日は文化祭についてのミーティングだ。ま、今回は体育祭の時みたいに勝ち負けがある訳でもねぇし、ざっくばらんにみんなで何をやるかを決めようぜ」
「本日はクラスの出し物を二種類決めますわ。何でも良いのでアイデアを挙げてください」
信吾とダイヤさんが概要を簡単に説明する。するとすぐにクラスメイトの手が上がった。
「ダイヤー、質問がありマース」
「鞠莉さん。どうぞ」
手を上げたのは鞠莉さん。何やら気になる事があるらしい。というか僕も気になってる事がある。見るとクラスメイト全員、魚の小骨が喉に引っかかったような顔をしているので同じ事を考えていると思った。
「どうして今年は出し物が二つなの? いつもはひとつだったでしょ?」
「ああ、たしかに。そこんところどうなの、生徒会長」
鞠莉さんの疑問はやっぱり僕が感じていたものと同じ。クラスメイト達も頭を頷かせているところから抱えている疑問はみんな一緒だったみたいだ。
普通ならクラスでの出し物はひとつ。ああ、でも僕らが居た男子校の文化祭は少し違っていた。普通に教室でするアトラクションや喫茶店はもちろんの事、もうひとつ例外的な出し物が存在した事を思い出した。まさか。
「私も何故かは分かりませんが、今年は普通の出し物の他に、ステージの出し物を各クラスで挙げるよう実行委員から言われましたの」
「「「「ああ」」」」」
ダイヤさんの訝しむような言葉に男子達が全員納得の頷きをみせる。そんな光景を見た女子達は首を斜めに傾げている。どうやら予感は的中したようだ。またもや僕らの男子校にあったシステムを輸入してきた輩が居るらしい。今回は騎馬戦みたいに危険なものでもないけど、それなりに面倒なもの。
「どういう事?」
椅子に座って腕組みをしている果南さんが訊ねてくる。それを聞いた信吾が小さなため息をついてから説明を始める。
「簡単に言うと、劇でもバンドでも芸でも何でもいいから、クラス毎で何かしらの出し物をするんだよ。そんで、一番盛り上がったクラスには景品が貰える」
「シンゴ、どうしてそんなに悲しい顔をしてるのデース?」
「ああ。ちょっと去年の記憶を思い出してな。あんまり気にしないでくれ」
簡潔に内容をまとめた信吾が窓の外に視線を向けていた。分かる。去年のあれはなかなか厳しいものがあった。軽音楽をやっているクラスメイトの男子が奇抜なハードロック・ビジュアル系バンドで攻めようとか言い出し、それに混ぜられた信吾は大変な目に遭っていたから。ステージの上でボーカルとして歌を歌いながらシャンプーをする人間(信吾)を生まれて初めて見た。人は多分、ああいうものを黒歴史と呼ぶのだろう。あの時の写真は信吾のお願いで全て灰にした。一枚だけこっそり持っているけど、あれはいつか果南さんにあげる事にしよう。
「そういう事でしたの」
「そうそう。なら、まずは教室でやる出し物を決めようぜ」
気を取り直した信吾はクラスメイト達にそう投げかける。すると近くの席の生徒同士で話をし始めて教室は少し騒がしくなる。
そんな光景を教壇の上から眺めながら、僕も何をしたいか考えた。
言わずもがな、高校での文化祭はこれが最後。それを良い思い出で終わらせる為に何を選ぶか。どうせならありきたりなものではなくて、ちゃんと記憶に残るようなものがいい。
いつか大人になった時にふと思い出して、あの時は楽しかった、と心から思えるような時間を創り上げたい。そうしたいと願えるのは、この教室で過ごす日々が本当に楽しいものだから。
いつまでもみんなで一緒に笑っていたい。男子校時代も楽しかったけれど、僕は今が一番良いと感じている。最初から創られてあった関係性ではなく、ゼロから創り上げたこのクラスの雰囲気。それを大切に思わない訳にはいかない。このクラスメイト達と最高の思い出を創り上げる為なら、どんな事でも出来る気がした。
このまま卒業する事が出来たらそれは本当に喜ばしい事。……でも、このままでは居られないのもちゃんと分かっている。前に進まなくてはならない。今、手のひらにある何かを自らの手で砕き、新しいものを創り出さなくてはならない。
もしそうなった時、僕は僕のままでいられるのだろうか。このクラスも、素敵な状態のままで残っていてくれるのだろうか。
「夕陽さん?」
「っ。どうしたの、ダイヤさん」
ぼんやりと考え事をしていると、隣に立っていたダイヤさんが不思議そうな表情を浮かべながら顔を覗き込んできた。あまり人がいる時に考え事をしないと前に決めたのに、うっかりそれを破ってしまった。反省しよう。
「いえ、何やらぼーっとしているように見えましたので、声を掛けただけですわ」
「ごめんごめん。何をやろうかなー、って考えてたらぼんやりしちゃってた」
「しっかりしてくださいね。これが最後の文化祭なのですから」
ダイヤさんにそう言われ、一度頷いてみせる。そうだ。これが最後の文化祭。今はそれを成し遂げる事だけを考えよう。後の事は終わってから考える事にする。
本当にそれでいいのかは、僕にはまだ分からない。
「────で、何個か候補が挙がった訳なんだが」
教卓の前に立つ信吾が黒板の方を振り向き、僕がチョークで書いた文字を見つめる。三十分ほどの間でやりたいものをみんなに挙げてもらい、そこから多数決をして最終的に二択まで絞られた。
没になった出し物の中には、定番の飲食系やお客さん体験型のアトラクションなんかがあった。アクアリウムとかプラネタリウムとか、なかなかセンスの良いものも飛び出して来たけど、難しいという事でダメになった。本音を言うと、どうやってやるのか少し見てみたかった。あと、新日本プロレスショーとか挙げたの誰。誰の徳になるんでしょうかそんなもの。やったらやったでコアなファンが出来そうな気がするのは僕だけだろうか。
そうして人気が出そうな二つが残った。僕としてはどちらも楽しそうで良いと思う。
若干一名、死ぬほど嫌そうな顔をしている男が居るけれど。
「……“お化け屋敷”と“男装&女装喫茶”。とりあえず二つ目のアイデアを出した奴、表に出ろ」
候補を読み上げた信吾は眉間に皺を寄せながら、クラスメイト達の方を向く。何故か男女のほとんどがキラキラした目で信吾の事を見つめていた。ああ、もうこれ決まったも同然じゃないの。むしろお化け屋敷は信吾が逃げ道を作る為に残した感じも否めない。
「では、この二つのどちらをしたいか最後に多数決を取りますわ。お化け屋敷が良い方、挙手をお願いいたします」
「おい、ちょっと待てお前ら」
ダイヤさんの声に上がる手は一本。教卓の前に立つ、僕の親友の腕だけが天井に向けられている。
「次に、男装&女装喫茶が良い方」
「「「「「はーいっ!」」」」」
「頼むから冗談だと言ってくれ……っ!」
信吾を除いた全員の腕が上がる。ダイヤさんまでも手を上げていたのは少し驚きだったけど、何となく人気が出そうな出し物なので納得してくれたのかもしれない。その原因になってくれているのは、教卓に突っ伏して涙を流す橘信吾くん。恐らく彼が女装をしてメイドをやれば、この教室は沢山のお客さんで埋め尽くされる事だろう。女子にも男装が似合う果南さんが居るし、これ以上ない選択だと思う。
「全会一致のようですので、教室での出し物は男装&女装喫茶に決定いたしますわ」
「「「「「賛成っ!」」」」」
生徒会長の言葉にクラスメイト達は揃って明るい声を返す。一人だけ手を上げてなかった男は居たけど、ダイヤさんは無視する事にしたみたいだ。頑張ってね信吾。この教室に来るお客さんはみんな信吾目当てで来るだろうから、休む暇なんてないと思うよ。
一つ目の出し物はすんなりと決まってくれた。続いてステージの出し物を決める事にしよう。
「…………いや、ちょっと待ってくれ」
だが、往生際の悪い男が待ったをかける。もういい加減諦めればいいのに。絶対に覆らない事は確定してるんだからさ。
「橘さん。何か言いたい事でもあるのですか?」
「あるよ、つーか大ありだ。お化け屋敷がダメな理由を誰か教えてくれ」
ダイヤさんが問い掛けると、信吾はそんな事を言い出した。言葉を聞いたクラスメイト達は全員『はぁ?』みたいな顔をしてる。気持ちは分かるけど、あんまり虐めないであげて。
「シンゴ、往生際が悪いデース。ジェントルマンらしくしてくだサーイ」
「何とでも言え。これ以上新たな黒歴史を作る訳にはいかないんだっ」
「もう、シンゴったら我がままなんだから~。果南、お願い」
「え、私?」
歯切れの悪い信吾に痺れを切らした鞠莉さんは、何故か果南さんにバトンタッチした。反応からして、果南さんも何をすればいいのかイマイチ分かってないようだった。だが。
「イエースッ。こういう時はガールフレンドである果南から言ってあげた方が効果があるに決まってマース! みんなもそう思うでしょーッ!?」
「「「「「イエースッ!!!!!」」」」」
鞠莉さんのハイテンションな問い掛けを聞いて、威勢の良い声とともに拳を突き上げるクラスメイト一同。この一体感は見ていて非常に気持ちが良い。特に信吾と果南さんが絡むとこのクラスは異常な一体感をみせる事に最近気づいた。
夏休みが明け、二人が付き合い始めた事は間もなくクラスに知れ渡った。ばらしたのは他でもない鞠莉さんなんだけど、特に悪びれる様子もなくいつも通り『シャイニーッ!☀』とか言ってた。
前々から応援していたクラスメイト達は信吾と果南さんを温かく祝福。恥ずかしそうに真っ赤な顔をしてお互いを気にし合う二人を見て、数人の男女が心臓を押さえながら倒れたあの事件はもう忘れよう。夏休み明けの学校初日は、初っ端からそんなハートウォーミングな出来事から始まった。
恋人同士になったからといって、二人の距離感はあまり変わった感じはしない。普通に話をしているのを見ているとむしろこっちの方がドキドキしたりニヤケてしまう。どうでもいいけど、信吾と果南さんが絡んだ時の尊さは異常。二人とも
クラスメイト達もみんな二人を優しい目で見守っていた。たまに尊さに耐え切れず倒れる生徒が居るのは問題だけど、それはまた別の話。ここまで周りに愛されるカップルも居ないと常々思う。
そんな二人を見て、素直にうらやましいと思った。嫉妬をする訳じゃないけれど、幸せそうな二人を見ていると、僕もそうなってみたいって思わずには居られなかったんだ。
「…………」
果南さんが黙って席を立つ。クラスメイト達の目線が彼女の鮮やかな青い髪に注がれる。信吾を説得する何かを言おうとしているのか。でも頬がほんのり赤いのはどうしてだろう。
果南さんは少しの間、何かを悩むような顔をしてから、教卓の前に立つ信吾の事を見つめた。そうして彼女はこちらへと歩いてくる。その姿を見て、信吾は口を閉ざして真剣な表情を浮かべていた。
教室がシン、と静まり返る。廊下からは生徒の話し声、窓の外からは鳴く蝉の声が聞こえて来た。
「果南……?」
静寂の中、信吾が口を開く。机と机の間を通って、教壇までやって来た果南さん。顔を俯けている為、彼女の表情は読み取れない。
どんな方法で信吾を説得するのだろう、と多少の期待を込めながら彼女の横顔を見つめる。ダイヤさんは綺麗な黒髪を指先で弄りながら青い髪の女の子の事を眺めていた。
この教室の中だけが世界から切り離されたのではないか、という錯覚に陥る。そうなってしまうほどに、美しい
「…………やだ」
「え?」
壁に掛けられた時計が刻む秒針の音が九つほど鳴った時、青い髪の女の子は遂に口を開いた。だが全ては聞き取る事が出来なかった。
そして、果南さんは顔を上げて可愛らしい唇を開き、目の前に立つ恋人へと言葉を放つ。
「お、お化け屋敷……やだ」
「…………」
静けさの中に、そんな短い言葉が零される。否、言葉だけではない。僕の目の中に入ってきたのは、顔を恥ずかしそうに朱色に染めながら上目遣いで信吾を見つめる果南さん。いや、ちょっと待ってほしい。なんだ、あれは。いつもは大人っぽい雰囲気を醸し出しているあの果南さんが、あんな子供のようなあざとい表情をしている……だと?
あまりの破壊力に自分の目と耳を疑ってしまった。ああいうのを巷ではギャップ萌えというのだろうか。うん、あれはダメだ。僕でさえもうっかり卒倒しそうになってしまった。正面から直視していたら間違いなく倒れていた自信がある。表情を見ていない筈の男子数人も、机の上に突っ伏しながら胸の辺りを掻き毟っていた。無理もない。
その威力を込めた言葉と表情を、真正面から至近距離で食らった男一名。彼は間違いなく倒れて保健室送りになる、と思っていたのだが。
「────く、っ」
信吾は顔を真っ赤にしながらもなんとか耐えていた。めずらしいこともあるもんだ。多分だけど、果南さんのおねだりの破壊力よりも女装する嫌さ加減の方が僅かに上回ったのだろう。しかし、確実にダメージは与えられている。あと一押しで彼は倒れる筈だ。
そう思っていると、後ろの方の席から追撃が飛んでくる。
「果南は昔っから暗い所やお化けがダメなのデース。すぐに『こわい~』ってハグしてくるんだから~。ね、ダイヤ」
「そうでしたわね。恐らくルビィよりも怖がりですわ」
「──────もう無理だ」
「「「「「信吾おおおおおおおッ!!!」」」」」
信吾が鼻血を流しながら倒れた。大体予想通りの流れなので、全然不思議じゃない。
果南さんは倒れた信吾を見ながら苦笑いをしている。全てではないだろうけど、少し信吾をからかったのが彼女の表情を見て分かった。仲が良くて僕も安心するよ。
ダイヤさんは足元に転がる信吾を生ごみを見つめるような目で見下げてる。可哀想だけど、まぁ良いや。
そんなやり取りを経て一つ目の出し物が“男装&女装喫茶”に決まった。どうなるのかはまだ分からないけど、それなりに楽しそうなので期待して準備をする事にしよう。
◇
「────よし。気を取り直していこう」
教卓の上に両手を乗せて信吾が真面目な顔をして改めてそう言った。しかし、両方の鼻穴にはティッシュが詰まっているので威厳も何もあったもんじゃない。信吾へと向けられるクラスメイト達の目がどことなく冷たいのは気のせいじゃないだろう。
「次は、ステージでの出し物ですわね。どうしますか?」
「うーん。これについてはジャンルの幅が広いからなぁ」
ダイヤさんの言葉に、信吾が腕組みをしながら答える。
「全員でやる必要もないんだよね、たしか」
「ええ。渡されたプリントには各クラスでひとつの出し物をやればいい、としか書いてありませんので、人数制限はないようですわ」
そう言うと、ダイヤさんが概要が記されているプリントに目を落としながら答えてくれた。信吾が嘆いたように、この出し物については毎年頭を悩ませるのがお馴染みのパターンだった。この歳になって学芸会のような劇をしたりするのもいまいちモチベーションが上がらないし、脚本を考えたり小道具を用意するのも時間がかかる。かと言って数人でお笑いライブなんかをするのも迫力に欠ける。
前の男子校では純粋なクオリティの高さよりも、如何に奇抜な出し物をするかで勝敗が決まっていた気がする。だから記憶に残っているのは男達が法律的にヤバくなるギリギリのラインで様々な芸を披露する姿。
あれを文字にしてしまうと、この作品のタグに新しい赤文字を増やす事になるので止めておく。いったい何を考えてるんだろう、僕は。
「ならとりあえず、教室でやる出し物を担当する奴らとステージの出し物に出る奴らで分かれるか」
「そうですわね。偏りが出てもいけませんので、それは良いと案だと思いますわ。皆さんはどうでしょうか」
ダイヤさんが問い掛けると、クラスメイト達はみんな頭を縦に振った。
「じゃあそんな感じで行こうぜ。そんで、問題は何をやるかだよな」
信吾がそう言うけど、教室の出し物とは違って積極的な意見は飛んでこない。
何か無いかな、と思いながら隣に立つダイヤさんの顔を見る。すると何故か目が合ってあからさまに逸らされた。何かいけないことでもしてしまっただろうか。
クラスメイト達は話し合いをしたり、黙って腕組みをしたりしながらアイデアを考えてくれている。時々これがいいんじゃないか、という言葉も飛んでくるようになったけど、どれもしっくりこない。
せっかくだから全員の記憶に残るものがいい。それはもちろん良い意味で。男子校時代のあんな黒歴史に残るような出し物は誰も期待していない。
そう考えている時、一人のクラスメイトの手が上がった。
「ダイヤーっ。ベリーグッドなアイデアを思いついちゃいましたーっ!」
「鞠莉さん? それはなんですの?」
鞠莉さんが大きな声でダイヤさんにそう言う。他の生徒達も彼女の声が気になったようで、喋る事を止めて鞠莉さんへと顔を向けていた。
金髪の女の子は立ち上がり、太陽のような笑顔を浮かべて教壇の方を見つめている。何か相当良い案を思いついたみたいだ。何となく鞠莉さんの表情(ドヤ顔)を見ていたらそれが伝わって来た。
「それはね~……」
「「「「「それは?」」」」」
鞠莉さんは少しの
「────スクールアイドルデースッ!!!」
「「「「「いいね!!!」」」」」
彼女の高い声に、めずらしく女子生徒達だけが反応をみせる。僕を含めた男子生徒達は首を傾げて鞠莉さんの事を見つめた。
その言葉を聞いた途端、ダイヤさんが小さく『ぴぎっ』と言ったのが聞こえた気がしたけど、気のせいかな。
「スクールアイドル?」
「イエースッ。正真正銘、あのスクールアイドルを
鞠莉さんの言葉に疑問を投げた信吾。だが、その返事を聞いて新たな謎が生まれる。
「“また”ってどういう──」
「あああああっ! 待って待って言わないで鞠莉っ!」
信吾が再度訊ねようとした時、果南さんがダッシュで鞠莉さんの席まで近づいて彼女の口を手で塞いだ。見ると顔がこれでもかというほどの赤くなっている。どういう事だろうか。
ジタバタしている鞠莉さんを押さえつける果南さんの事を眺めながら、訳を知っていそうなダイヤさんの方に目を向けた。
そして、僕はまた赤いものを見つけた。
「…………っ」
「だ、ダイヤ、さん?」
僕の隣に立つ生徒会長も、顔を紅潮させて鞠莉さんの事を睨みつけていた。ちょうど果南さんと同じくらいの色の濃さ。でも今ある問題はそこではなく、どうしてダイヤさんまで顔を赤に染めているのかという事。
女子達は全員訳を知っていそうな表情をして、三人の事を見つめている。見当もつかない僕達男子は首を傾げる事しか出来ない。一体どういう事なんだろう。
「終わりっ、今日の話し合いはここまでにしよ、信吾くんっ!」
「……なんでそんなに焦ってんの、果南」
「いいから! 言う事聞いてくれないと一緒に帰ってあげないからねっ!?」
「よし、解散。みんな気を付けて帰れよ」
「ちょっと待ってよ信吾……」
強制的に話し合いを終わらせようとしてくる果南さん。そして彼女の意見を鵜呑みにする信吾。しかし、それはいただけない。どんだけ果南さんに甘いんだよ、君は。果南さんが皆まで言う前に食い気味で解散宣言をしていたくらいだった。そんな親友の姿を見て、思わずため息を吐いてしまった。
だが男子も女子も、ここで話を終わらせる事には反対のようだった。誰一人として席を立つ者はいない。それはそうだ。こんな中途半端な感じで終わらせたら気になって夜も眠れない。このままダイヤさんがおかしな反応をみせている意味が分からなかったら、本当に眠れなくなってしまいそう。
そう思って隣に立つ生徒会長へ訊ねてみようとした時、僕よりも先にダイヤさんは口を開いた。
「か、果南さんの言う通り、本日はここまでにします。各々、次の話し合いまで案を考えておく事。以上ですわ」
「あ…………」
生徒会長はそう言ってから頭を下げ、鞄を持って足早に教室から出て行く。クラスメイト達は全員口を閉ざして、ダイヤさんが出て行った前のドアへと視線を向けていた。
あの子が終わらせると言ったのだから、それに従わない訳にはいかない。クラスメイト達は様々な感情を表情に浮かべながらも、諦めるように席を立ち出した。
そんな中で、僕はさっきまで隣に居たダイヤさんの顔を思い出していた。どうしてあの子はあんな風に恥ずかしがっていたのか。
分からないけれど、問い掛ける本人が居ないのだから仕方がない。気にはなるけど、それはまた明日以降の楽しみとして取っておく事にしよう。
「帰るか」
「そうだね」
そうして、文化祭に向けたミーティングは終わったのだった。
次話/Aqours