それから放課後、一夏は第3アリーナの方でいつものようにセシリアからISの操作練習を習うことになっていたが、今日はいつもと違うメンバーがそこにいた。
「あら箒さん、やっと来ましたのね?」
「おぉ箒……箒?」
そこにいたのは量産型IS“打鉄”を纏った箒がいた。いつもの雰囲気と打鉄の姿が相まって、見事にサムライガールという様になる姿をしている。
そんな箒は打鉄内に格納されてる装備の名前を叫ぶと、その右手に1振りの近接ブレード“葵”を展開し、反対側の手を挙げて一夏を指さした。
「一夏!貴様を鍛えに来たぞ!」
「お、おう……?」
何か自信満々な箒。
「一夏、まだ近接訓練の訓練が足りてないだろう。だからISを借りてきたのだ」
「あぁ、たしかに近接訓練はな……」
実際してきてないわけではない。セシリアはインター・セプターを展開し、それで一夏と打ち合っていたのだ。いや、打ち合いっていたと言うよりセシリアは苦手な近接戦の相手を一夏にしてもらってるというモノだった。
だがその捌きっぷりは見事なもので、実際太刀である雪片二型を使ってるのにギリギリなところもあるものの、セシリアは10回中2回しかモロに攻撃をくらってない。
しかし、一夏からしたらつばぜり合いなどの状況がないため少し不満が溜まっており、むしろ今箒が来てくれたことを嬉しく思っていたりする。
「箒さん、一夏さんの相手するのはいいですが、まずは───」
「では、参る!」
「ちょ、箒さん!?」
「はあぁぁぁあああ!」
セシリアの言葉を聞かず、一直線に一夏の元へ向かう箒。そして振り下ろされる葵だが、一夏はそれを後ろに下がって躱し、一夏は雪片を箒めがけて横に薙ぐ。だがいつの間にか葵が上げられており、そのまま雪片を受け止める。
「甘いぞ一夏!私があのような動きで隙を見せると思ったか!」
一気に踏み込む箒。それによって押し込まれる一夏だが、それを力づくで押し返すや完全につばぜり合いの状態に入る。
「楽しいぞ一夏!私はとても、きゃあ!?」
「な、何だ!うおっ!?」
その時、彼らの周りに数発レーザーが降り注ぐ。さすがに驚いた2人はとっさに空を見上げると、そこにはスターライトmk-Ⅲを構えたセシリアがいた。
「全く、2人は血の気が多すぎますわ。今はわたくしが教官なのですから、ちゃんとわたくしの指示に従ってもらいますわ」
「だが近接は私の領分だ!」
「ええ、それは分かっていますわ。……はぁ、まあ今は好きになさってくださいまし」
それを聞くや、ぱぁっと嬉しそうな顔をする箒。そして改め葵を構えるや、それに応える様に一夏も雪片を構える。そしてお互い再び切り結び合う姿を見届けるや、セシリアは今自分が出来る、いや自分が出来なければならないことの練習を始めるが……。
「そういえば航さんは、今何をしてるのでしょう?あんな機体、まだ使いこなせてないでしょうし……」
不意に航のことが気になったセシリア。実際前の試合でも完全に使いこなせてる様子でもなかったため、きっとどこかで練習してるのだろうと思うが、あんなのがいて、他の生徒たちは集中できるのか……。
まあ気にしても何も始まらない。セシリアは自身の周りに展開したターゲット目掛けて射撃を開始した。
一夏たちが第3アリーナで特訓をしてる同時刻。
ここは第5アリーナ。学園には6つアリーナが存在しており、現在放課後にて自由に使えるアリーナは第2、第3、第4となっている。そのためそ現在この時間は基本閉ざされている第5アリーナだが、その中に銀色の龍、四式機龍が立っていた。
ただ機龍はジッと空を見上げており、まるで何かを待っているかの様だった。
『ピットより1機のISが発進』
その時、機龍からそんな反応が届いたため、航はピットのある方向を向く。そしてそこから1機の青いISが出てくるのを見たとき、ダラリとしていた尻尾が反応した。
そのISは水色を基調としており、上半身は他のISと比べて装甲が少ないように見えるが、腕部が機龍のと酷似しており、指が5本なの以外はほぼ機龍と言っても差し支えない。そして脚部も機龍のに似ており、がっしりとした脚部の先には4本の爪が備え付けられていた。
そして本体左右には
名は“蒼龍”。四式機龍の姉妹機であり、第三世代の機体、そして更識楯無の専用機である。
彼女はそのまま航の近くに降り、そのまま歩いて近づく。
「待たせたわね、航」
「ん、別に問題ないよ」
そうは言うが機龍の尻尾は先ほどよりも揺れており、まるで飼い主を見た犬の様にも見えたため、楯無はそれが可愛く見えたのかクスッと小さく笑った。
「それにしても……アリーナをわざわざ貸切にして大丈夫なのか?」
そう、この第5アリーナは今日は点検のため使用中止となっているが、その中楯無から航にISの調子を見てあげるって提案してきたのだ。そのためホントに使っていいのか不安に思ってる航であったが、楯無はいつもの扇子より大きな水色の鉄扇を展開し、それで不敵に笑みの浮かんだ口元を隠す。
「大丈夫よ。もう点検は終わっているし許可は得ているもの。それに私たちがやると他の人達の迷惑になっちゃうからね」
「それもそうか。じゃあ、頼むよ」
「ええ」
そして楯無はゆっくりと50mほど空に上がり、そのまま航を見下ろす形となる。航もそんな楯無を見上げ、ゆっくりと足を開き、いつでも準備万端だ。
「さて航、早速来なさい」
左指で誘うように手招く楯無。それに反応するかのように機龍の胸部から廃熱音が響き、そしてその巨体をかがめ、そのまま大地を踏み砕きながら一直線に楯無目掛けて飛翔した。
それと同時にバックユニットからミサイルが6、ロケット弾が12も同時に放たれ、それらが一斉に楯無目掛けて飛んでいく。
ミサイルやロケット弾で包囲し、その中央を機龍が突っ込む。それが航が四式機龍を用いて使う戦法だ。だが楯無はそれを破壊するための射撃兵装を一切展開しない。ただニコッと笑みを浮かべ、そして同じくミサイルが飛んでくる方向へと向かって突っ込む。
そのまま近接信管で一斉に爆破するミサイル群だが、煙を斬り裂き、そこから開いた鉄扇を盾にした楯無が現れる。
だがすでに機龍は至近距離に迫っており、その腕が楯無目掛けて振るわれるが完全に航の動きを見切っており、当たる直前に最低限の動きで回避している楯無は、楽しそうに小さく笑みを浮かべていた。
そのまま航とすれ違い、ほぼ急降下で地面に向かう楯無だが地面すれすれで方向転換し、地を這うかの如く高速移動をする。
「くそっ!」
同時に航も急速旋回し、楯無目掛けて速度を上げるが、それでも明らかに楯無の機体は速い。さらに複雑な機動を描きながら飛ぶため、機龍の攻撃がまともに当たらない。
「ほらほら、そんなんじゃ当たらないわよ。それとも私と鬼ごっこでもする?」
「待て!」
挑発に乗せられ追いかける航。そしてバックユニット、腕部レールガン、口部メーサー砲の全てを使った射撃を楯無に向けて放った。
「ふふっ」
だが余裕の笑みと共に下がりながら振り返り、その手に最初持ってた扇子を展開する。それを開き、そこにアクアナノマシンを少しばかり浸透させる。
「はぁっ!」
そのまま鉄扇が振るわれると、放たれたミサイルは全て彼女に届く前に全て起爆した。そして瞬時に体をのけぞらせるや、メーサーとレールガンの射撃を躱し、再び機龍との距離を開く。
「ほら、1回でも私に当てて見せなさい」
「それなら!」
航の声と共にギラリと機龍の双眸が輝き、スラスターの光が一層強く輝いた。
「
その巨体から見合わぬ速度。体の負担が大きいからと彼は言っていたが、まさかここで使ってくるとは。それで一瞬で距離を詰め、鋭い爪が楯無目掛けて襲い掛かる。かなりの至近距離であるが、それを上体を反らしたり、ステップを刻みながら躱し続ける楯無。
実際機龍が普通のIS大の大きさであったなら、こう上手くいかなかっただろう。なんせ相手は格闘技などにおいてはまともに相手したくない航なのだ。だが四式機龍はその巨体ゆえにパワーはあるが、動きにおいてはその巨体が仇となり、かなりの隙ができるのだ。ゆえに楯無はそれを利用して躱してるだけにしか過ぎない。
その時、楯無はちらりと航と模擬戦を始めてからの時間を見る。もうすでに30分は経過しており、もうそろそろこちらも仕掛けるかと考える楯無。
「うーん、時間も経ったわね。じゃあおいで、村雨」
余裕があるのだろう。航から距離を取り、わざとその名を挙げて彼女は武装を展開する。
その声と共に彼女の右手には、葵より一回り長く大きな近接ブレードが握られており、それを両手で構えた楯無は、空を強く踏むと同時に一瞬でその刃が届く距離へと踏み込んできていた。
「速い……!」
航のうめき声が響く。
その速度を乗せたまま楯無は体を大きくねじり、遠心力を乗せた村雨を機龍の横腹目掛けて一気に振るう。だが航もそれは分かっていたのか振うと同時に後ろに下がるが、楯無は無理矢理踏み込み、その一撃を機龍に当てることに成功する。
「ぐ、ぅ……!」
一撃が重い。脇腹に直撃したため機龍の巨体がよろけたが、そのまま身を捻って返し刃に尻尾で一気に薙ぎ払う。だが楯無はすでにその範囲外に下がっており、そのまま身を屈めるや一気に航の懐に入り込み、そのまま村雨で機龍を袈裟斬りする。
「こら、そこで足を止めない!」
楯無の追撃は止まらず、迫ってくる攻撃も受け流しながら何度も村雨で斬りつける。だがそれで黙ってる航ではなく、一瞬居合いの試製を取ったかと思えたら、音速を超える速度で尻尾を振ってきたのだ。
「ぐぅ、おあぁ!」
そして振るわれた尻尾を縦無は村雨で受け、大きく火花を散らしながらもどうにか受け流せ……なかった。途中から軌道が変化したため無理やり押し飛ばされた楯無は、すぐに姿勢を正すも瞬時に逆に体を回して放った尻尾の薙ぎ払いで吹き飛ばされた。
「くっ……!」
少しずつ成長していってる。それがわかる楯無は少しうれしいのか、小さく笑みを浮かべながらも剣を握りなおす。
そして再び迫って来た機龍の攻撃を躱し続けていたが、後ろに下がった際楯無は自分の後ろに尻尾が回り込んでることに気付かず、そのまま逃げ道をふさがれてしまう。
「しまっ!?」
そして突き出された右手。それはそのまま楯無の元へと向かい……。
「良い動きしてるじゃない……!」
だがしかし村雨を両手で構えた楯無は、後ろに押し込まれながらも真正面から攻撃を受けたのだ。
だがその巨体差もあり、航は力を込めればそのまま押しつぶせると思っていたが、いまいち思うとおりに押し込めない。
「航、忘れてない?蒼龍も結構力持ちなのをね……!」
そうは言うが実際パワーの差は埋められず、ジワジワと押される楯無。そして機龍のスラスターの出力が上がるや、そのまま無理やりアリーナの壁に叩き付けられる。
「かはっ……!」
次第に苦悶の表情を浮かべ始めるがその時、楯無はいきなり村雨を格納したのだ。
村雨が消えたため、バランスを崩した機龍は前のめりになってしまう。それと同時に楯無は機龍のお腹に抱き着き、いや抱き留めてそのまま機龍の顔を見上げた。
そして楯無の掌が機龍の胸元に添えられ、ニコッと可愛らしい笑みを浮かべた時だ。
「が、ぁ……!?」
航の断末魔と共に後ろによろめく機龍。だがバランスを崩したのか、そのまま下に落ち、強く地面に叩き付けられた。
「ねえ知ってる?鎧通しはIS戦でも使えるのよ。……でもやっぱり足が地面を噛んでないと威力が減るわね」
そうは言うが、最低でも筋肉に力を入れてないときに腹を殴られたかのような衝撃は発生する。そのため航はうめき声を上げながらもゆっくりと立ち上がろうとするも、大きくよろめき膝を着く。
だがその一撃で航は咽ており楯無はゆっくりと地面に降りて、彼の元に心配そうに近寄ってきた。
「その、大丈夫?やりすぎちゃった……?」
「げほっげほっ……あ゛ぁ……」
そしてどうにか立ち上がった航は呼吸を整え、だらんと下がっていた腕を上げ、再戦の意思を見せる。
「まだやるの?」
「もちろん、だ!」
スラスターを全開にし、楯無目掛けて突っ込む航。だが楯無も分かっており、彼女はある武装を展開した。
楯無を囲うように展開された
「全弾発射!」
楯無の掛け声とともに放たれる20のロケット弾とミサイル。それと同時に機龍のバックユニットからミサイル群が放たれ、お互い相殺しあうかのように爆発する。
だがその爆炎の中を斬り裂いて現れた機龍は右手を大きく振り下ろし、それを躱した楯無は再び機龍に肉薄し、村雨の刃を確実にその巨体に当てていく。
だが先ほどよりよろめいたりしない機龍。そのため先ほどの攻撃の手数が増え、そして村雨と機龍の爪がつばぜり合いになった時だ。バックユニットから楯無目掛けてミサイルが弧の字を描きながら飛び、それを後ろに下がって楯無は躱す。そして機龍の目の前でミサイルが爆発するが、その煙を斬り裂きながら機龍が再び現れた。
そして腕部レールガンからメーサーブレードを展開し、楯無目掛けて突っ込む。それに応えるように楯無も村雨を突きの姿勢で突っ込んだ。
そしてお互いの刃がお互いに届こうとした時だ。
ピピピピピピピ
アラームが鳴った。その瞬間、お互いの動きがぴたりと止まる。だが村雨の切っ先は機龍の喉元数センチ前で止まっており、機龍のメーサーブレードも楯無の側頭部を数センチ手前で止まっていた。
張り詰めた空気の中、先に動いたのは楯無だった。手に持っていた村雨を
「航、ご苦労様。今日の手合わせはこれでおしまいよ」
「終わった……あー疲れた……」
その時、大きくバランスを崩した機龍がそのままうつ伏せに倒れる。そしてその姿が解かれ、中にいた航がそのまま地面に投げ出された。
航は立ち上がろうとしたが、疲労がたまってるのかそのまま仰向けに倒れ、近くに立っている楯無に顔を向けた。
「あ゛ーきっつ……まだ引き出せたの村雨と扇子だけかよ」
「ふふ、まだまだね。でも少しずつ伸びては来ているわ」
楯無は航に手を差し伸べ、それを掴んだ航はそのまま立ち上がる。その後航は楯無によって逆お姫様抱っこされながらピットに戻り、蒼龍を格納した楯無と共にピット隣にある待機室にあるベンチに腰掛ける。
そしてお互いに今回の手合わせのことで話し合ってた時、航はあることを思い出す。
「そういえばなんで村雨みたいな近接剣入れてるのさ。刀奈だと蛇腹剣とか好きそうだけど」
「あー……実はね、政府から日本国家代表なら初代ブリュンヒルデである織斑先生を倣えって言われてね……。それで入れなきゃダメだったの……」
「えー……」
「まあ、これ1本で戦えって言われてないから他にもいろいろ入れてるけどね」
そんな無茶を要求されてることに呆れる航。だがそれでも使いこなしてるのだからとても恐ろしい。だが不意に航はあることが思い浮かぶ。
「てか刀奈が一夏の指導したらアイツ、とても強くなりそうなんだけど」
「あー、それでもいいんだけど彼次第かしら。夏休みまでの結果次第では私も考えておくわ」
まだ手を出すつもりのないらしく、楯無はパチンパチンと扇子を開いたり閉じたりしている。
その後お互いに更衣室に戻り、制服に着替え直した2人はそのまま一緒に寮に向けて歩く。
その帰り道の途中だった。航は特徴的なツインテールをした女子が不機嫌そうな顔をしながら寮へと向かっていくのを見かける。
「鈴……?」
何であんな顔なのか分からない。だがこの後めんどくさそうなことが起きそうだと判断した航は、少しげんなりとした表情を浮かべていた。
楯無さんは強いよ。国家代表だもん。