あれから何やかんや航と一夏はクラス代表決定戦に向け、お互い自分のできることを精いっぱい行って来た。座学やお互いが得意とする剣道や武術などを復唱、時には航と一夏が相手しあうなど少しでも勝率を上げようと精いっぱい頑張っていた。
そして1週間経ち、ついに決戦の日。
ここは第3アリーナのピットにつながる廊下。そこに試合を臨む一夏と航、そして応援に来た箒と楯無がいた。一夏と航はお互いISスーツに着替えており、一夏はへそ出しのツーピースシャツにハーフパンツといった紺色のISスーツで、航は一夏とは違ってへそを出してないタイプだが、なぜかその上からパーカーを羽織っていた。
「ついにこの日が来たな」
「そうだな」
「最初の試合はオルコットらしいぞ」
「そうだな」
「更識先輩がオルコットの機体の動画持ってきてくれたから、少しは参考になったな」
「そうだな」
「一夏、体調は大丈夫か?ほら、スポーツドリンクもあるぞ」
「ありがとう箒。でさ……」
「うむ」
「俺の機体、いつ来るんだ?」
「……いつだろうな」
「いつだろうな……じゃねえよ!俺、どうすればいいんだ!」
そう、まだ一夏の専用機が到着していないのだ。このままでは学園の訓練機を使わなければならず、そうすればただでさえ低い勝率がガクンと落ちてしまう。それで頭を抱える一夏だが、箒はこれをどうにか励まそうと頭の中を回転させる。
「お、落ち着け!ほら、えーっと……落ち着け!そうすればどうにかなる!」
「そこ何かしろよ!余計気になるじゃねえか!」
「わ、私にどうしろというのだ!?」
そのまま言い合いに発展してしまう二人。だが内容は割と馬鹿らしく、どちらとなく笑ってしまえばそのまま二人とも笑いあってた。
そしてその光景を見てる航と楯無。
「あんな風に言い合えるなんて緊張解れてるみたいね。航は大丈夫?」
「ん、大丈夫」
そうは言うが、航は腕を組んだまま少しピリピリさせた雰囲気を出しているが不意に彼の口に小さく笑みが浮かんでるのが見えたため、邪魔してはいけないと楯無は何も言わずに彼の隣に居続けた。
それにしても遅い。さすがに相手を待たせるのは不味いと思い、楯無は航を先に戦わせるように上に通信をつなげようとした時だ。
「織斑君織斑君織斑君!」
その時、真耶が急ぎ足でこちらに向かって来た。そして到着するや、息を荒くしたまま少し咽ており、誰もがそれを心配そうに見ていた。
「そ、その、大丈夫、ですか?」
「はぁはぁ……織斑君、来ましたよ専用機!」
「さっさとしろ織斑。早く乗れ」
いつの間にやって来たのか千冬がすでにそこにいるが、一夏は専用機の名を聞くやとっさに千冬の方を向く。その後千冬姉と言ったため叩かれる一夏だが、その後機体はピットに搬入していると言われ、背中押されながらそのままピットに入ると……。
そこにいたのは白だった。
「これが、俺の……」
「はい。これが織斑君専用IS“白式”です」
そこに鎮座する1機のIS。それについて真耶が説明しようとするとき、一夏は無意識にその装甲に手を触れていた。
キィンと頭に入る感覚。何か懐かしさを感じた一夏だがそれもつかの間、時間がないため教師2人の力を借り、白式に乗っていく。
「そうだ。背中を預ける感じにしろ。あとはシステムが最適化してくれる」
そして展開されていた装甲が身を包むように締まり、一夏は動作を確認するように手足を動かす。
「すげぇ……前使ったヤツとは全く違う……」
「どうだ、一夏?」
教員としてでなく一家族として聞かれる一夏。姉に心配されている。少しふがいなく感じながらも、一夏は力ずよく、威勢のいい声で答えた。
「ああ、行けるよ千冬姉」
小さく笑みを浮かべる千冬。これなら心配せず送り出せる。コクリとうなずくや、それに反応してかカタパルトのゲートがゆっくりと開き始める。そこから映し出されるは青い空と、ぐるりと囲みこむアリーナの光景。
一夏はこれまで世話になった箒の方を向き、グッと親指を立てる。
「箒、行ってくるよ」
「……ああ、勝ってこい」
そしてカタパルトに足を乗せ、そのまま発射シーケンスを終え、そして出撃しようとする。
「一夏!」
この時航に呼び止められた。振り返るとそこには小さく笑みを浮かべた航が一夏めがけて拳を突き出していた。
「思いっきりぶちかましてこい」
「ああ!」
拳を合わせる一夏。
もう何も怖くない。一夏は己を鼓舞するように叫ぶ。
「織斑一夏、白式、行きます!」
強いGを感じながらも、一夏はカタパルトから射出され、そのままセシリアが待つアリーナの中へと飛んでいった。
アリーナの中央。そこにセシリア・オルコットはいた。
彼女の機体は全体が青く、4枚のフィン・アーマーを背に従え、まるでどこぞの王国騎士然とさせる気高さを見せる。そして彼女の手に握られてる、身長より大きい大型のレーザーライフル“スターライトmk-Ⅲ”がとても目立っていた。
「待たせたな」
「あら、来るのが遅いから逃げたのかと思いましたが……逃げずにいらしたのは褒めてあげますわ」
「そりゃどうも」
お互いの距離は50m。すでに試合開始の鐘は鳴っているため、いつ仕掛けられてもおかしくない。だがセシリアは余裕からかライフルの銃口を下ろし、ビシッと一夏に指を指して来た。
「最後のチャンスをあげますわ」
「チャンス?」
「わたくしが一方的に勝つのは自明の理。だからボロボロな姿をさらしたくなければ、今ここで謝るというのなら許してあげなくってよ」
その時、白式が敵ISの武装が射撃モードに移行と警告を表示。それを聞くや、一夏は目をスゥと細める。一夏は勝てるか分からなくても、ただで負ける気はない。
「それはお断りだ。俺には俺のプライドもある。そしてたとえ勝てなくとも、アンタに一矢報いて見せる!」
「そうですか……それではお別れ、ですわっ!」
「いっ!?」
そしてライフルからレーザーが放たれる。一夏はとっさに躱すが、それを待ってたと言わんばかりに2射目が放たれ、肩アーマーが破壊される。
「ぐぅ……!」
映像とはずっと違う、この衝撃や圧力。すぐにバランスを戻した一夏は再び放たれたレーザーをおぼつかない動きながらも躱していき、どうにかバランスを戻す。
「あら、少しは動けますのね。ならこれはどうでしょう。行きなさい、ティアーズ!」
ガチャンという音と共に彼女のフィン・アーマーから4つのビットが切り離され、獲物を見つけた狼のごとく一夏めがけて群がり、そして銃口から先ほどのライフルほどでなくてもレーザーが放たれる。
映像では知っていても、実物を見ると話は別だ。一夏はとにかく今は回避に専念しており、この状況を打開しようと必死に動き回っている。
「くそっ、装備は!?」
そして白式が選んだ武器を手に展開したが、それは1振りの近接ブレードだった。たしかに一夏は射撃の仕方など知らず、剣1つを振って来たためとても使いやすい武器だった。だがしかし、この状況下では無用の長物にしかすぎず、他に使えそうのがあるか現在展開可能な武器一覧を見るが、この展開されてるブレード1つ以外何も入っておらず、一気に絶望的な顔になってしまう。
「武器はこれだけか、よぉ!」
叫ぶと同時に咄嗟に地面に落ちるように動く。すると頭上をクロスするように数本レーザーが通りすぎ、そのまま一夏は地面すれすれを飛んで飛んでくるビットの範囲を少しだけでも狭くしようと努める。
「おほほ!この中距離射撃型のわたくしにそのような武器で勝とうとは愚かではなくて!」
様々な場所から飛んでくるレーザー。それを一夏は紙一重ながらも躱し、どうにか食らいつこうとする。だが距離を詰めればすぐに離され、ブレードを振うチャンスなどほぼ無い。
その間、ひたすら一夏はセシリアの攻撃を躱し続けた。
「試合開始から27分。よく持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」
「そりゃどうも!」
未だに射撃の雨が止まず、一夏は反撃するチャンスがいまだないことに焦燥感が募っていた。逆にセシリアは余裕の表情を見せており、どちらが優勢からはっきりと見えていた。
だがしかし、一夏も馬鹿ではない。ずっと逃げていたおかげでセシリアの機体の癖が少しだけわかったらしいが、やはり逃げることしかできない。
そして一夏は背を向けるようにして逃げ出した。
「くそっ……!」
「逃がしませんわ!」
一夏を追いかけるビット。だがそれが一夏の狙いだった。
「そこだ!」
咄嗟に振り返り、ビットを1つ斬り裂く一夏。それに驚いたセシリアは付近にいたビットの動きを止めてしまい、一夏は返し刃にそのビットを斬り裂き、そのばで火球に転じさせる。
「この……わたくしのブルー・ティアーズを!」
まさかビットが2機破壊されたことにより、セシリアは残りの2機に攻撃命令を出す。だが頭に血が上った状態のため少しながら雑な動きとなり、先ほどより穴が出来たのを見た一夏は展開されてたブルー・ティアーズのレーザーを無理矢理潜り抜けた。ビットが展開されてる間はセシリアはまともに動けない。その隙を狙い、一夏は切っ先をセシリアに向ける。
「しまっ……!」
「ここ、だぁああああ!」
後は突撃し、そのまま切り裂く。これが今一夏に思いつく唯一のチャンスだった。その距離はみるみる縮まり、もうすぐ届く。
「い、インター・セプター!」
だがしかし、叫び声とともに彼女の左手に咄嗟に展開されたショートブレードで、近接ブレードを受けるセシリア。
勢いで折れるかと思われたインター・セプターだったが、大きく火花を散らしながら近接ブレードを受け流し、勢いを流された一夏は思いっきりつんのめってしまう。
そしてお互いの体が接触してしまうが、セシリアは慣れないタックルで一夏を押し戻し、スターライトmk-Ⅲを一夏に向ける。
そう、最初を受け流すだけでよかったのだ。そのできた隙が一番の狙いだったのだ。
「甘いですわ!」
そしてスターライトmk-Ⅲの接射をまともにくらい、絶対防御も発動したことによって白式のシールドエネルギーが大きく減ってしまう。
そして一夏から距離をとったセシリアは、停止していたビットを再び稼働させ一夏を囲むように配置させる。
「驚きましたわ。初心者なのにわたくしの懐にまで飛び込んできたものは初めてですわ。その雄姿に讃えて、この一撃で終わらせて見せましょう」
そう言うと、ライフルの銃口を一夏に向けるセシリア。そしてロックオンしたとき、不意に彼と目が会った。この絶望的な状況下なのに、まだ諦めていないその目。セシリアはその気迫に少し飲まれそうになる。
「はぁ……はぁ……まだだ……まだ、終れねぇ……!」
「っ……!これでフィナーレですわ!」
そして引き金を引き、放たれたレーザーは一夏の胸部に直撃した。
「ぐあぁぁぁ!」
そのまま一夏は地面に墜落。その衝撃で大きく土煙が立ちこめ、彼の姿が見えなくなってしまった。
「一夏っ!」
それをピットで見ていた箒は叫び声をあげてしまう。
「機体に救われたな、馬鹿者め」
だが千冬は小さく笑みを浮かべ、じっと画面を見ていた。
「一夏、まだ終わってないだろ?お前の力はまだそんな物じゃない……」
航はグッと自分の拳を握り、力を入れる。
そして見つめる先、そこの土煙の中で一つ白が動いた。
「……確かに多少は出来ましたが、まあ、こんなものでしょう」
冷たい目で墜落した場所を見るセシリア。たしかに一夏は頑張った。だが彼女に食らいつくには実力も機体性能も足りず、最後のあの食らいつき以外は惨めにしか感じなかった。そして次の試合のため、ピットに戻って補給に向かおうとする。
だがセシリアは気づいていない。まだ試合終了のブザーが鳴り響いていないのを。
――警告!敵IS健在――
「なっ……!?」
セシリアは咄嗟に振り向くが、白式は土煙の中で姿が見えない。どうせ虫の息だと思いながらも、いつでも攻撃できるようにビットに指示を送る。
そして煙の中から声が聞こえた。
「まだ、終わってねえぞ……俺も、白式も!」
そして煙が一気に晴れたとき、そこにいたのは先ほどの時と違い、工業的な凹凸が消え、機体がシャープになり、白さが鮮明になった白式の姿であった。それに損傷した装甲も綺麗に修復されており、まるで進化したと言わんばかりの印象を与える。
「ま、まさか
そのことをショックに感じたセシリア。だが一夏はそれを後目に今の自分の姿に驚いていた。
レーザーが直撃する直前、
その名は雪片弐型。姉の使っていたISの専用武装“雪片”の名を継ぐ刀。それを見た一夏はグッと柄を握りしめ、これを手に入れたことに歓喜、そして姉に感謝した。
世界最強を手に入れた刀。それを継ぐものとして、この試合負けるわけにはいかない。
そして意志のこもった強い目でセシリアを睨みつけた。
「俺は最高の姉を持ったよ……」
「何を言っていますの……?」
「ああ、負けない。この刀にかけて……な」
その時、雪片弐式の刀身が割れ、そこから光の刃が伸び始める。
いったい何をする気か。まだ一夏はその場から動いていないがヘタに何かされる前にと、セシリアはすぐさま狙いを付けて、引き金を引く。だが一夏に当たろうとしたとき、白式がウィングスラスターを広げ、瞬時に回避されるや先ほどとは全く違う速度でセシリア目掛けて突っ込んできたのだ。
「くっ、ティアーズ!」
2機のビットがそれを拒もうと一夏の元に繰り出される。だがしかし先ほどと全く違う、滑らかな動きでレーザーを躱し、そしてすれ違いざまに2機のビットを斬り捨てる一夏。
「速い!?」
ライフルを撃つが、それを一夏が何度も躱していく。次第に距離が詰められ、このままでは一夏の得意距離に持ち込まれてしまう。
さっきとはずっと違う。一夏は機体に振りまわされそうになりながらもセシリアを追い詰めていき、そして雪片弐型を構え、時折掠めながらも突撃を止めない。
そしてついに、完全にセシリアを捉えた。
「これでっ!」
「甘いですわ!ビットは6機ありましてよ!」
そして腰だめに装備してあったミサイルビットを射出し、一直線に一夏に向けて飛ばす。もう躱すには今の一夏には難しい距離のため、このまま当たればただで済まないだろう。
「まだだぁ!」
だが一夏は雪片を振り投げ、そのまま回転しながら飛ぶ雪片とミサイルが直撃し、大爆発が起きる。いったい何が起きたのか分からないセシリア。だがしかし、ブルーティアーズが上からの警告アラートを鳴らす。
「上っ!?」
そう。煙を抜け出し、宙を舞ってた雪片弐型を掴んだ一夏は、セシリア目掛けて振り下ろしたのだ。
「うぉぉぉおおお!!!」
もう逃げ切れる距離でもライフルを撃てる距離でもない。このまま当たれば一気に形勢逆転だ。そう一夏は信じ、刃がセシリアを捉える。
「インター・セプター!」
だがセシリアはライフルをとっさに格納し、その手に出したのは先ほどのショートブレードだった。それを両手で支えて雪片弐型を受けるセシリアだが、今の一撃で亀裂が入り、一気にピンチに陥ってしまう。
「くぅぅ……!」
「おち、ろぉぉ……!」
力技で押し切ろうとする一夏。だがセシリアもそれに負けまいと力を込めるが、一夏が上から押してるのもあってどうしても押されてしまい、もう持たないため万事休すとなるセシリア。
そしてついに、インター・セプターが割れた。
「しまっ……!」
「俺の、勝ちだぁぁぁ!」
そのまま振り下ろせば一夏の勝利がほぼ決まる。誰もがそう思っていた。
『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』
「「えっ……?」」
ぴたりと刃がセシリアに当たる直線に止まった。
誰もが理解できてなかった。この一太刀を振り下ろせば勝利。だがしかし、一夏はその前に負けてしまっている。
「まったくこの馬鹿者め……」
その中、唯一理解している千冬は呆れたようにため息を吐くのであった。
中・遠距離系代表候補生が近接を疎かにするほど弱いわけがない。
さて、次回は「決戦 クラス代表決定戦 中」をお送りいたします。お楽しみに。