鎮守府現代転移録   作:うみねこ06

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やらかしちゃった後始末のお話


プロローグ 初日、鎮守府『島』にて

 薄ぼんやりとした明かりに促され、意識が徐々に徐々にと覚醒していく。

 

 

 「ぅ……ぁ……」

 

 

 薄目を開けても濁る視界に対して、仮にもパイロットが情けない声を上げて、と自覚した意識の方はよっぽど正常である。お陰様で、どうにも自分の身体がよろしくない状態にあることはすぐに理解できた。なにせ視界はそんな塩梅だったし、全身がずきずきと痛むのであるから。

 

 痛みに記憶が刺激されたのか、その原因にはすぐに思い当たったものの、それはそれとして現状は疑問符をつけざるを得ないものだった。意識回復と同時にベッドで寝れるような贅沢は味わえないはずだったのに、次第にはっきりとしてきた視線の先には白色の天井があった。古典的名作からのお約束に基づけば知らない何とやらというべきだったかもしれないが、生憎と痛みとともに感じるベッドか布団としか理解できない感触と、規則正しい電子音のお蔭でそうも言えない。病院か、少なくともそれに類する施設に違いない。

 

 しかし、だとすればやはり疑問のある現状だった。確かに激痛の中、RF-4Jの緊急脱出レバーを辛くも引いた覚えはあったが、その後の記憶がなにもない。まぁ、恐らくは救助されたのだろうが、着水だか着地――たぶん前者だと思う――の記憶すら無い。いや、キャリアのこのかた、幸運にも墜落といった現象には無縁で居たから、そんなものなのだろうか? だが、意識不明で着水して、おそらく確実に時間がかかったであろう救助まで、よく呼吸が妨げられなかったものだ――。

 

 そこまで思考が回ったところで、彼はふと人影に気づいた。おそらく自分が寝かされているであろう寝具の脇、そこから女性――いや、少女が覗き込んでいるのに気づいたのである。

 

 短めの黒髪に、黒色のはちまき(何か文字が描いてあるが、まだ視界が滲んで読み取れない)をしたその少女は、どうやら驚きに身を固めているようである。と観察したところで、慌てたようにボタンを押す。ナースコールか何かだろうか。

 

 

 「あ、あのっ!」少女が口を開いた。幸いにして聴覚に異常はなかった。「だ、大丈夫ですかっ!? どこか痛いところはっ!? というか、喋れますかぁっ!!?」

 

 「な、んとか」

 

 

 どうやら自分よりもよほど混乱しているらしい少女をつぶさに観察しながら、彼は力を振り絞ってそう答えた。一体誰なんだろうか、と必死に考えている。未婚者の彼に、こんな子供は居ない。さりとて彼は一人っ子だったから姉か妹という線も消える。ついでに言えば、今は恋人すら居ないし、元カノもこんな容姿――というか、こんな幼くもなかった。もしかすると、実は記憶が混濁していて、新しい恋人だか婚約者だかのことを忘れている、という都合の良い展開もなくはないのかもしれないが、少なくとも今の所身に覚えはまったくない。

 

 

 「よ、よかったぁ」

 

 

 少女の身体から力が抜けた。どうにも、心底安堵しているようである。やはり、恋人か何かの存在を忘れてしまっているのだろうか。

 

 

 「あ、あの」

 

 

 しかし、それも一瞬のこと。少女が、すぐに居住まいを正した。声音も、真剣というか、落ち込んでいると言うか、ともかくそういった調子になっている。そして、混乱する彼の前で、少女が深々と頭を下げ、大きな声で意味のわからないことを言った。

 

 

 「げ、撃墜してしまって、本当に、ほんっとうに! 申し訳ありませんでしたぁっ!」

 

 「…………は、い?」

 

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

 「司令官さん。何かお飲み物は?」

 

 「コーヒーにしてくれ、羽黒。……貴官も如何です?」

 

 「……残念ながら、医者に止められていますので」

 

 

 先程、彼を混乱の坩堝に叩き落としたのとは別の少女――黒髪をボブにした、穏やかそうな女性が、『司令官さん』と彼女が呼んだ目の前の青年に頷くと、病室から静かに出ていった。所作が落ち着いていると言うか、こんな状況でなければ好感を抱くべき態度であるはずだが、残念ながら現状では意味がなさそうである。

 

 

 「彼女、は」

 

 「うちのヒショカン――あぁ、副官のようなものです」青年が朗らかな笑みを浮かべた。「私の信頼する右腕でして。恥を晒すようですが、少しでも難しい案件には付き添ってもらっているのです」

 

 

 はは、と笑い声を上げる。ヒショカンとは秘書官の意味だろうが、ともかくその彼女と同じく、人を不快にさせない不思議な笑みである。もし、これが普通の顔合わせであれば、やはり違和感や不愉快さを覚えることなどは微塵もなかっただろう。さすがの彼にもそれはわかった。問題は。

 

 

 「難しい、というか、問題はシンプルに、思えるのですが」

 

 

 自分の声に抑えきれない毒が含まれているのに気づいて内心冷や汗をかきつつ、それでも栄えある航空自衛隊のパイロットとして、彼は泰然自若を装いつつ青年を見つめ続ける。

 

 

 「貴官にとってはまさに」青年が頷いた。「我々は所属不明の武装勢力であり、貴官は――乗機を撃墜された上、虜囚の身となった。そういうご認識であることは理解しております」

 

 

 あのあと。駆け込んできた看護師と医者によって、あの少女にあれ以上を問いただすことは出来なかったが、もしあの言葉が事実だと仮定すれば、自分が置かれた状況は彼にとっては自明の――青年が説明した通りのことであった。

 

 事態は、本日未明にまで遡る。

 

 始まりは、自衛隊は一切関係のないところであった。相模湾沿岸の各自治体、警察、管轄する海上保安庁に対し、沿岸住民や漁船、航行船舶から相次いで通報が寄せられたのである。曰く、対岸が出来ている。曰く、海図にない島がある。曰く、接近を試みたところ、軍艦と思われる船舶多数が存在し、砲を向けられたため慌てて逃げ帰った。

 

 第一報こそ、あまりに荒唐無稽な内容を一笑に付した担当者たちは、第二報で首を傾げ、第三報に泡を食い、通報が二桁に達する頃には、少なくともなにか異常な集団幻覚か、極めて特異な蜃気楼が発生したことは確実と評価せざるを得なくなっていた。

 

 混乱は、そんな有様の各組織が横の連絡を取ろうとし、連絡をとった組織も混乱していることが判明した結果更に大きくなった。各自治体は県へ、警察は県警へ、海保は国交省へ、把握できた事態を緊急報として連絡し、始めそれらの報告の正気を疑った上位組織たちが、精査と確認の結果自らの正気を疑い始める頃には、混乱はついに首相官邸にまで届いていた。

 

 彼――小林三等空尉が上官が操るRF-4Jに搭乗し、該当地域の偵察飛行へ出撃したのは、そのような経緯の末、事態の情報収集を防衛省が望んだ結果であった。新島出現はともかく、軍艦らしき船舶の存在は、南西諸島問題で緊張を高めていた防衛省にとっては無視できない問題であるからだ。

 

 そうして百里基地を飛び立った彼らは、通報の通り『新島』を発見し唖然とした様子でそれを防衛省に報告することとなる。払暁の薄明かりの中浮かび上がった『新島』は、あからさまに異常なものであったからだ。島の北側は断崖絶壁で覆われ、その間近まで建物が迫っている。どうやら都市が存在する、というか都市島とでも言うべき建物の密度で、それは港へ向かえば向かうほどまばらになっていく。そうして、港には、通報にあったとおり、多数の軍艦のようなものが――。

 

 小林の記憶はそこから曖昧になる。機体が強い衝撃を受けたからだ。最後に覚えているのは失速警報、レーダー照射警報、その他アラーム、そして上官の脱出しろの声。その次は、頭を下げるあの少女の声だ。

 

 

 「秋月――貴官が目覚めた時に居た、あの少女からは詳しいことは?」

 

 「何も。すぐに医者と看護婦に囲まれましたからね」今度は慎重に声音を抑えつつ、小林が青年へと答えた。何しろ、自分の想像が正しくかつ最悪の場合、生殺与奪は目の前のこの青年が握っている。

 

 「そうでしたか」青年が深々とため息を吐いた。

 

 

 小林にとって緊張感の有る沈黙が病室を支配した。何しろ、この青年の対応次第で、自分の命が危ないのだ。いや、自分どころか、最悪の場合、一緒に脱出したであろう上官の命まで危なくなる。

 

 

 「コーヒー、お持ちしました」

 

 

 沈黙を破ったのは、青年の秘書官?であった。言葉の通り、お盆にコーヒーを1つ淹れている。喉が鳴った。医者云々は嘘であり、実際は毒やら自白剤やらを警戒して断ったのだが、先程来の緊張で喉が干からび始めていた。

 

 

 「ありがとう」

 

 

 それを美味そうに啜ってから、青年がさて、と声をだす。小林が気を引き締めた。何を言われることやら。

 

 

 「まず、貴官と貴隊に対し謝罪申し上げる」青年と秘書官が頭を下げた。「口先だけで信じてもらえないことは重々承知ですが、撃墜は本意ではありませんでした」

 

 「の、割に、警告射撃もなかったようですが」小林が眉をひそめながら答えた。

 

 「……これも信じていただけないかと思いますが、警告射撃は行ったのです」青年が頭を上げた。「貴機を撃墜に至らしめてしまった射撃も、威嚇射撃でした」

 

 「…………」

 

 

 小林の脳裏に、一撃で機体の胴体が引きちぎられたらしく、キャノピーの真上を飛翔していく機体後部が思い浮かんだ。青年が、はぁ、と小さくため息を吐いた。

 

 

 「貴官の身の安全は、当然保障します」青年が続けた。「目下、当鎮守府――いえ、我が国と、貴国との間に国交が存在しないため、帰還には時間が掛かるでしょうが、もうひとりのパイロット共々確実に戻れるように――」

 

 「やはり、仰木一尉も収容されていましたか」

 

 

 苦虫を噛み潰したような小林の声に、青年が羽黒、と秘書官を呼んだ。困り顔の秘書官が立ち上がると、失礼します、と部屋を立ち去っていく。

 

 

 「重ね重ね不手際をお許し願いたい」青年が再び頭を下げた。「秋月から話をされているとばかり。仰木いちい(イントネーションに苦労して発音していた)もこの病院に入院していただいています。尤も、軽症でしたので念の為の検査入院といった具合でして。すぐに貴官とお会いできるように取り計らいます」

 

 「それはありがたいです」小林が能面を貼り付けたまま言った。防大で受けた教育を必死に思い出しつつ、続ける。「……ご厚意に甘えて、一つお聞きしてもよろしいですか?」

 

 「なんなりと――と申したいところですが、軍機にふれる部分は」

 

 「わかっています。――ここはどこで、貴方は何者なのですか?」小林が、苦労して上体を持ち上げた。「司令官、と呼ばれていましたが、いくら木っ端士官でも自衛隊内であんたほど若い将官が居ないことはわかります。それに、先程『我が国』と言われましたが、私には日本人に――少なくとも日系人にしか見えない。なのに、その階級章も、自衛隊のものとはまるで違う」

 

 「……そうですね」青年が、柔和な笑みを崩さずに応えた。コーヒーカップを手慰みのように振ってから、小林を見つめる。「仰木いちいにも信じて貰えなかった説明でよろしければ」

 

 「お願いします」警戒しつつも小林が頷いた。ともかく、この状況への説明が欲しかったのだった。

 

 「で、あれば」青年が頷いた。「我々は――」

 

 「失礼しますっ!」

 

 

 病室の扉が開け放たれた。先程から羽黒と呼ばれていた秘書官なる女性だ。だが、先程までの穏やかな表情は一変し、血相を変えたというか、張り詰めた表情になっている。

 

 

 「どうした」青年が初めて眉をひそめた。駆け寄った秘書官が耳打ちしようとし、小林が不快げに顔を歪めたからだった。「誤解されるような真似は――」

 

 

 だが、叱責の言葉はそこで止まった。青年の顔もまた、みるみるうちに険しくなっていったからである。

 

 

 「馬鹿な」青年がうめいた。「この世界には、居ないんじゃ無かったのか」

 

 「正確には、いませんでした。過去形に変わりましたが」秘書官が青い顔で応えた。「私の権限で、鎮守府には甲種警戒体勢を発令しています。当直艦隊の出師準備、5分後に完了を予定」

 

 「そこが早いのだけが救いか、畜生」

 

 

 青年が立ち上がった。小林へと申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

 「申し訳ないが、緊急事態につき失礼します。場合によっては地下壕へ移ってもらう可能性もありますので予めご了承頂きたい」

 

 「ま、待ってくれ! 何が何だか」ついにたまりかねたのか、敬語も忘れて小林が引き止めた。

 

 「安心してください。万一に備えて秋月たちが――先ほど貴機を撃墜してしまった娘たちの艦隊が当地域の防空任務に就きます。異論有るとは思いますが、当面は我々に従って動いていただくのが、貴官の安全にも繋がります」

 

 

 ではこれで、と青年が足早に立ち去った。反論を許さぬ、将官としか言えない声音であった。申し訳なさそうに一礼して出ていく秘書官の後ろで、大慌ての医師と看護師たちの姿が見える。

 

 結局、小林は、外から空襲警報と思しきサイレン音が聞こえる中、病室にぽつねんと取り残されてしまうのであった。残念ながら彼の疑問が氷解するのは、現状最も鎮守府――横須賀鎮守府に近づいている日本人という立場を鑑みれば、よほど後になってからのことであった。

 

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

 状況は、と口を開こうとした提督が口を閉じた。明石が苦労して『こちら』の電波を受信するように調整したテレビの映像が全てだった。

 

 

 「ニューヨークだそうです」疲れた顔つきの少女――大淀が言った。「このニュース番組によれば、1時間前の映像と」

 

 

 提督が黙って頷いた。かつて、資料映像で見たことがあるニューヨークの町並みが、画面いっぱいに映っている。それだけならば、この世界が――国連海軍横須賀鎮守府が突如孤島化した上に、飛ばされてきた――いわゆる異世界転移としか言いようがない現象によって移動してきたこの世界が、まったくの平和状態である証拠として好ましいはずである。その町並みが、大炎上し――思い切り、深海棲艦らしき存在が映ってさえいなければ、だが。

 

 

 「この他、先程夕張さんが接続したインターネット回線によると、よ、ようつべ、ですか? にロンドン、上海、シドニー、サンフランシスコなどが炎上している動画がアップロードされています」

 

 

大淀が更に凶報を付け加え、メモ用紙を差し出してくる。一瞥した提督が目をつむった。脳内の記憶を漁らなくともすぐにイメージできる大都市の名前が十数個記載されていたのだった。

 

 

 「この世界に深海棲艦は存在しないという結論は早計だったか」提督が軍帽を苛立たしげに脱いだ。顔を思い切りしかめる。

 

 「現状では何とも言えませんよ、司令官」艦隊最先任軍艦――すなわち初期艦である吹雪が、宥めるように言った。「私たちと同時に転移したか、そもそもこの世界にも実は深海棲艦が存在していて、タイミング悪く攻撃が今になったのか。考えてみれば、深海棲艦の初出現に関しては未だに議論がありましたから」

 

 「哨戒に出した部隊には、事態の連絡と即座の帰投を命じています」大淀が頷いた。「偶発戦闘を嫌って軽武装を重視しすぎましたから、戦闘は危険です。それに、ここが襲撃される可能性も捨てきれません」

 

 

 提督が顎を手でもんだ。深夜1時――横須賀市役所から、市境から向こう側が海になっているという緊急連絡を受けて以来起き続けたせいで生えてきた無精ひげがじょりじょりと鳴る。忌々しい雑音だった。

 

 

 「今出せる、重装備の哨戒部隊を全部出す」提督が鋭い声を作った。「編成が終わっていると羽黒から報告は受けている。大淀、細かい哨戒範囲の設定は任せる」

 

 「承知しました」

 

 「吹雪、悪いが青葉と明石、それから夕張をすぐに呼び出してくれ」大淀の敬礼を見た提督が初期艦に向き直した。「差し当たって情報収集を強化する。ハードなスケジュールになるが、受信できる電波情報は全て把握したい」

 

 「了解」

 

 

 命令一下、弾けるように大淀と吹雪が動き出した。提督と同じく、現地時間で朝8時だというのに既に四半日以上働いているとは思えない鋭い動きだった。

 

 とりあえず最優先の命令を発した提督が、執務椅子に腰を下ろした。無造作に放り投げられていたメモ書きを取り出し、冷静に、現状の情報を再検討していく。

 

 横須賀市及び横須賀鎮守府――今やどう見ても相模湾っぽい地形にぽつんと浮かんでいる孤島になってしまったここは、行政区分上の市境がそのまま断崖絶壁と化すなど不安定に見えるが、地質学的には安定しているし、市警が出張って管制しているから問題はない。あらゆるネットワークから切り離されたため断絶しているライフラインは、水など市内に独立して存在していたシステムはそのまま生きているし、電気は鎮守府の全力で発電中であるから、長期的には問題でも今はなんとかなる。艦隊戦力は、転移による影響は一切なし。備蓄資源や基地航空隊を始めとする各種装備についても同様だ。

 

 ネックは、未だにこの世界との交流が出来ておらず――よりにもよって偵察機と思われる軍用機を撃ち落としたこと。つい先程までならば、時間を掛けて信頼醸成という選択肢一択であったのだが、深海棲艦の出現によってそうも言っていられない。援軍派遣や情報提供の遅れは百歩譲って許せるとして、まかり間違って敵扱いにされ、三つ巴で戦争に至っては地獄絵図だ。そこまで考えてから、ふと何かに気づいた様子の提督が秘書艦を――羽黒を呼んだ。

 

 

 「頼みが有る」はい、と応じた秘書艦に、提督が言った。「資料室から、深海棲艦の侵攻記録を引っ張り出してきて欲しい。日別――いや、できればもっと詳しく載っている戦史が良い」

 

 「はい」羽黒が意図を測りかねたのか、小首をかしげるように応答して、一拍置いて表情を真剣なものへ変えた。「まさか、我々の世界と同じ攻撃スケジュールになる、と?」

 

 「皆目わからん」提督が苦虫を噛み潰したように続けた。「だが、仮にそうであれば一刻も早く気づく必要がある。君たちが現れてくれる前、大東洋を分断されたのがあそこまでの苦境に陥った一因だからな」

 

 「仮に阻止できればそれ以上のことはない、ですか」大淀があとを引き継いだ。

 

 「もちろん、端から決めつけて空振りは最も愚かなことだが」提督が頷いた。「気が早いが、せめて長距離派遣部隊の準備は進めておくべきだろう。異議は?」

 

 

 大淀も羽黒も首を横に振った。ならば直ちに掛かれ、と提督が告げ、二人が駆けるように動き出した。執務室の電話機ががなり立てたのはちょうどそんなタイミングだった。

 

 

 「はい、執務室」唯一机の側に居た吹雪が呼び出しの連絡でふさがっているのを認めた提督が、受話器をとった。電話越しの相手が捲し立ててくるのを聞き取る。相手が落ち着いた頃には、提督の顔に深いシワが刻み込まれていた。

 

 

 「わかった。触接を継続してくれ。あぁ。そうだ」

 

 

 険しい声で命じてから、提督が受話器を置いた。何事か、と視線が提督に集まる。流石に、親しい面子に感づかれない話題ではなかった。

 

 

 「大淀」自分でも思っても見ないほどの低い声を出しながら、提督が口を開いた。「哨戒部隊出撃は取りやめ。待機している主力艦隊を緊急出撃させる」

 

 「了解」大淀が応じ、小声で続けた。「敵、ですか」

 

 「哨戒に出ていた基地空の陸攻が見つけた。確定情報だ」提督が執務室、その窓の外を見た。突貫でプロッティングさせた鎮守府の現在位置から考えれば、その先には。

 

 

 「戦艦4、空母2、その他艦艇6からなる深海棲艦が確認された。進路は――東京湾だ」

 




なお混乱する小林三尉の元に申し訳無さそうな秋月が再び出没し、
さらなる混乱に突き落とした模様
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