鋼鉄の博愛主義者 作:ことり
体調を崩してしまったり、忙しかったりした為、遅れてしまいました。
本当に申し訳ございません。
数秒間の間、沈黙が食卓を支配した。
「なあ、今のなんだが……」
「ごめんなさい、話は後で。……今は、中に隠れておいてください……」
そう言ったアーリンの母親は、どこか焦った様子でアーリンを連れて外に出て行ってしまった。
全く、一体今の声はなんだ? なぜ彼女達は焦って外に出て行った?
その疑問を解消すべく、僕は窓へと近づき気配を殺しながら外を見た。集まった住人達で隠れてしまってよく見えないが、どうやら中央に声の主がいるらしい。
どうにかして見れないかと目を凝らしていると、住人達の間から少しだけ声の主の姿を見ることが出来た。そして……自分の目を疑った。
見る事の出来たのは一瞬だったので、本当に僕の見間違いかも知れない。出来る事ならば、見間違いだという事を信じたい。
住人達の中央にいたのは、白と青の甲冑を身に纏った騎士だったのだ。周りの住人達の様子から察するに、中世の騎士のコスプレをしただけの人間ではない事は確かだ。
だがそれはおかしい。
保安官や開拓者ならまだ分かるが、中世の騎士だ。
ここはアメリカだぞ?
まあ、何にしろ僕はこの場から動くことができない。
できれば穏便に行ってほしいが……
窓を少しだけ開けて、外の声を聞く。さて、一体なにを話しているのか……
「先程言った通り、昨夜この村に
なるほど、つまりは僕か。
奴の言うマスター、恐らくはサーヴァント、使用人の雇い主だろう。と言うことは、彼がサーヴァントか?
確かにあの甲冑と剣は恐ろしいとは思うが、なぜだろう。どこか腑に落ちない。
と、少し考え事をしているとどうやら事態が進展したようで、外から何やら声が聞こえてきた。
「……誰も名乗り出ないか。ならば、そこの女。前に出ろ」
と言うと、甲冑の男は誰かを指名して自らの前に出てこさせる。
一体何をするつもりなのか、それはすぐに分かった。その行動は、考えうる限りの最悪に近いようなものだった。
「あと十秒以内にソレを差し出さないのなら、この女を殺す」
甲冑の男が殺すと言ったのは、見たことのない女性だ。きっと、この村に住んでいる誰かなのだろう。
奴の気配から、これがジョークではない事が分かった。にも関わらず、騎士が実際に剣を振り上げいつでも女におろせる姿勢で固まっているのに、女は一つも抵抗しない。
一体なぜ彼女は抵抗しない。
それは決して自分を殺す事は無いという安心感からか、それとも抵抗したところで何も変わらないという諦めからか。
そんな最中でも、騎士は数を数え始める。
「十、九」
呼び出された女性は固く目をつぶってその瞬間を待っていた。
諦めて、いるのか。彼女は。
「八、七」
周りで見ている連中も何も言わずに黙っている。
なぜアーリンは名乗り出ないんだ。出会ったばかりの僕の為に、古くから知っている人を犠牲にするのか?
「六、五」
甲冑の男の手に力が入り始める。
僕は左手だけにスーツを纏い……
「四、さ」
「少しばかり数を数えるスピードが早いんじゃないか?」
外へと出ていった。いや、ドアを開けそのドアにもたれかかったの方が正しいか。
開いたドアにもたれかかりながらそう言った僕は、左手を隠しながらゆっくりと歩いて甲冑の男のもとへと近づいた。
「なんだ、お前は」
「そうだな。天才、金持ち……は今はちょっと違うか。にプレイボーイ、博愛主義者。後は、謎の飛行物体」
近づいてみて初めて分かった事が二つ。
一つは、甲冑の騎士が一人ではなかった事。目で見えるだけで、二人はいる。
それともう一つが、彼らがここに来た方法だ。
騎士達の後方、距離にして約十メートルの位置に、羽根の生えた
冷静を装ってはいるが、正直少しばかり混乱している。先程から頭の中に疑問が生まれ出てやまない。
だが、それはそれとして。僕は甲冑の男、道の中央に女性を呼び寄せた男に向かって歩いているのだ。
「なるほど、お前が報告にあったモノか」
そう言った男は、剣を女性に向かって振り下ろそうとした。
すかさず左手を男に向け、攻撃する。左手に展開されたスーツから機械音が流れ、手の平から出たリパルサー波が男の胸部に当たった。リパルサーが胸の部分にあたった男は、呻き声を上げながら後方へと吹き飛んでいく。僕は、彼が民家へと突っ込むのを横目に、胸の中央で青く光るリアクターに軽く触た。
次の瞬間、リアクターからナノマシンが展開していき瞬く間に僕の体をスーツで包みこむ。
「おいおい、別にその人が女性だからって訳じゃないが、それは酷いんじゃないか?」
耳に入ってくる自分の声が多少くぐもった響きへと変わり、視界は外の風景を写した画面に移り変わった。それと同時に、僕の心が戦闘用へと切り替わる。
感知した敵の数は、今吹き飛ばした男を含めて二人。どうやら隠れている敵などはいなそうだ。
「貴様ッ! 自分が何をしたのか分かっているのかッ!」
「何って、人助けだよ」
それ以外の何者でもない。
だが僕の答えに納得していないのか、男は憤慨し切りかかってきた。いや、少し違うかもしれない。
この攻撃に乗った感情は、憤慨だけではない。どこか、焦燥感の様なものも合わさっている。
とにかく、この攻撃を正面で受けても別に構わなかったのだが、念のために後方に飛んで彼の剣を回避し、リパルサーでこれまた吹き飛ばした。
ふむ、この程度の奴らがサーヴァントなら案外なんとかなりそうだ。
一緒にいたあの小さいドラゴンも襲いかかってくるかと思ったが、どうやら逃げ出してしまったらしい。つまりは、僕の勝利だ。
リパルサーの出力をゼロにして、拳を突き立て着地する。
振り返って住人達を見たが、彼らは俯いて何かを呟いているばかり。
なんと言っているのか聞き取れば……
「サーヴァントを呼ばれた」「サーヴァントを呼ばれた」「サーヴァントを呼ばれた」「サーヴァントを呼ばれた」「サーヴァントを呼ばれた」「サーヴァントを呼ばれた」「サーヴァントを呼ばれた」「サーヴァントを呼ばれた」
「あら、全滅してしまったのね。残念」
突如、女の声がした。
目の前の住人達からではない、かと言ってほかにいるはずもない。
だが、F.R.Y.D.A.Y.が検知した。先ほどまでは確かに誰もいなかったはずの、空。そこに何者かがいるのを。
目線をそちらにやる。警戒し、いつでも反応ができる様にゆっくりと。
目線を向けた先にいたのは、漆黒のローブを纏った女だった。漆黒のローブを纏った女が、その身一つで浮かんでいた。
「まあ、彼らも最後には手柄を立てられたのだし、いいでしょう」
僕は女から目を離さなかった。
一瞬でも隙を見せれば終わる。そんな予感がしたのだ。
そして、実際にその予感は正しかった。
一瞬、ほんの一瞬だけ、女から注意を背けてしまった。
背後の住人達をどう守るか、その為に一瞬だけ。
その一瞬が命取りだった。
気がついた時には、僕は何故か膝から崩れ落ちていて、意識が何かに吸い込まれる感覚に陥っていた。
「まさか新しくサーヴァントが召喚されているとは思わなかったわ。見たところマスターはいなさそうだから、野良ね」
僕が、サーヴァント?
なんの冗談だ、と思いながらも僕は…………意識を手放してしまった。
そして
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ふと目が覚めた時、僕は戦場にいた。
戦車が地を這い、銃弾が飛び交う、と言った戦場ではない。
雄叫びをあげた部族が宇宙の敵と戦っている。
赤いスーツに身を包んだ少年が、何かを持って移動している。
至高の魔術師が水流を止めている。
お調子者達が気楽に敵を撃っている。
そして、正義の青い英雄が、敵のリーダーと戦っている。
これは……
そうだ、思い出した。
これは、サノスとの戦い。
………