鋼鉄の博愛主義者 作:ことり
これからもよろしくお願いします!
僕は、何故ここにいる。
僕は確かに、アーリンの村にいた。戦いこそしていたが、この戦場には確実にいない。
僕はタイムマシンを使っていないぞ? そもそもピム粒子がないのであったとしても使えないのだが。
思考を巡らせていると、僕の体が、目が勝手に動き何かを捉えた。
視線の先にいるのは、水流を渦が巻くようにして静止させているストレンジ。そして、自らの右腕を訝しげに見ているサノス。
いったい今は、どう言う状況だ。戦いは、どうなっている。負けたのか? それとも、1400万605分の1を、勝ち取ったのか?
ズキリと、頭が痛んだ。
そうだ、やらなくては行けないことがある。
突如として、右半身が焼かれるような引き裂かれるような、否、言葉では到底言い表す事など不可能である程の苦痛に襲われた。
これは、マズイ。即座に何か対処をしなくては。
けれども体は何もしようとせず、勝手に右手を掲げ……
指を鳴らした。
その瞬間、今までのとは比べものにならない程の痛み、そして苦しみが右手を中心に発生した。
体の全てが、骨が、肉が、臓器が、細胞が、壊れていくのが分かる。
いったい、何、が……
そして、瞬きをして、目が開いた時には、僕は再び水流を止めているストレンジと、自らの右腕を訝しげに見ているサノスを捉えていた。
なんだ、これは。何が、起こって、いる。
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「お、おじちゃん!」
「止まりなさいアーリン!」
私達の為に戦ってくれたあの方が倒れた次の瞬間、私の娘、アーリンはあの方へ向かって駆け出していた。私の制止の声など聞かずに、サーヴァントなど意にも介さずに。
このままではアーリンが殺されてしまうかもしれない。それなのにも関わらず、なんで私の足は動いてくれないの。
隣町の惨状を知っているから? だから、自分の身が可愛くて動いてくれないの?
「あら、可愛らしい子。どうしたの?」
「お、おじちゃんに何したの?」
アーリンは、震えながらそう言った。サーヴァントに向かって、目を逸らさず睨みつけながら。
お願い……ここに戻って、その方なんて放っておいて。
けれど私の思いは虚しく、アーリンはあの方とサーヴァントとの間に立ち続けた。周りの人は、私も含めて全員、何もせずにアーリンをじっと見ていた。
「そうね、それを言う必要はあるかしら?」
「あるもん……おじちゃんは、私を乗せてお空をいっしょに飛んでくれたんだもん……」
なんで、そんな昨日今日会ったばかりの人の為に頑張れるの?
なんで、その為だけに私の愛しい娘は命を投げ出そうとしているの?
「ふふ、可愛らしい子」
そう言うとサーヴァントは、先端に三日月型の穴が空いた円盤をつけた杖をアーリンに向け……
「でも、教える事は出来ないわ。だってあなた達はみんな死んでしまうのですも……あら」
遂に、私の体は動いてくれた。アーリンとサーヴァントの間に割って入ろうと、足が駆け出してくれた。
アーリンを救えるなら、私はどうなったっていい。そう、思えた。
私は、サーヴァントが何かをする前にアーリンとサーヴァントの間に入れたのだ。
「どうか娘は、娘だけは、殺させないでください……」
サーヴァントの杖の先に、紫色の模様が浮かび出る。
その模様が、輝きだす。
私の懇願は受け入れてくれるのだろうか。それを信じるしか、道はないのだけれど。
私はアーリンを背中に守りながら、硬く目をつぶって覚悟を決めた。
どうかアーリンだけは……
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一体何度繰り返しただろうか。
一体何度、この苦痛を味わったのだろうか。
なのにも関わらず、この体は行動を止めようとしない。変わらず指を、鳴らし続ける。
だが、今回は違った。僕自身の意思で、体を動かすことができた。
逃げてしまえと、僕の中の何かが言う。もう、あんな苦痛はうんざりだ、と。
僕はその声に……従わなかった。
この行動が何をもたらすのか思い出すことはできない。なぜこのような状況になっているのかも。
それでも、一つだけ確信できることがあった。
それは、この行動が何かを救うであろう、という事。
それだけを信じ、今度は自らの意思で指を鳴らした。
パチン
今回は、再び初めに戻る事はなかった。
その代わり、体の感覚は、消え失せてしまったが。
そして、少し意識が飛んだ。気がついた時にはサノスとその軍勢は消え去り、僕はどこかに横たわっていた。
ああそうだ。全て思い出した。
僕は、ガントレットを使用して、この戦いに終止符を打とうとしたのだ。その代償として、命を支払う事となってしまったが。
ぼやける視界の中、ローディがやってくるのが分かった。
そしてピーターに、ペッパー。
お疲れ様。
ああ、確かに、少しだけ疲れたかもな。
勝ったよ、スタークさん。
そうか、僕は、僕達は、アベンジャーズは、サノスに勝ったのか。それだけが、ずっと気掛かりだった。それならやっと……
ゆっくり眠って。
そうだなペッパー。ゆっくり、眠れる……
……いや、待て。僕はまだやるべきことがある。
サーヴァントを、倒さなければ。モーガンと同じくらいの歳の少女の為にも、温かく美味しいスープをくれたあの家族の為にも。
そして、僕自身の為にも。
体に力が戻ってきた。スッと立ち上がる。
破損していたスーツはいつのまにか全て修復され、傷ついていたはずの体は万全の状態へと戻っていた。
リパルサーを使い、空を駆ける。
一瞬にして小さくなった戦場を見下ろすと、ペッパーと目があった気がした。
貴方を止めようとした事が、私の一番の過ちよ
ふと、タイムトラベルをする前に彼女に言われた言葉が聞こえてきた。それは、きっと『いってらっしゃい』の代わりなのだろう。
僕はもう、この世界での役目は終わったのだと悟った。
「じゃあ、行ってくるよ」
僕はそう一言呟くと、上へと向かった。
上に、さらに上に。
意識を、浮上させるんだ。
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「どうか娘は、娘だけは、殺さないでください……」
目を覚ますと、もうストレンジやサノスの姿は無かった。
そのかわりに、僕を守るようにして立っているアーリン、その彼女を守ろうと前に立つ母親の姿があった。
なるほど、状況はあまり良くないらしい。
敵の杖の先に紫色の魔法陣が一瞬にして展開されていく。
こいつも魔術師か?
だが、そんな事は今は関係ない。とにかく、アレを発動させてはまずい。そう判断した僕は、背中からリパルサーを発射して瞬時に起き上がり、敵に向かって生成したブレードを飛ばす。
ブレードはまっすぐと敵に向かって飛んでいくも、敵が即座に上空へと退避し、後ろにあった民家へと衝突した。
クソ、新しく建てたばかりなのに、とぼやくサングラスをかけた老人を横目に、僕は敵を見据えた。
「……何故すぐに動けるの。自らの死の記憶を何度も繰り返したのでしょう? 名だたる英雄達ですら動けるようになるまである程度の時間が必要だったというのに」
「さあ? もしかしたら僕は死の女神に嫌われてるのかも」
僕は、空へと飛んで奴と戦おうと
「おじちゃん……」
したところでアーリンに話しかけられた。声から察するに、本当に心配だったのだろう。
僕は子機を出して敵の攻撃を防ぐ準備をした後、アーリンの頭に手を乗せた。
「大丈夫だよ」
「ほんとに?」
僕が大丈夫だと言っても、アーリンはまだ心配そうだった。
僕はアーリンの頭を軽く撫でると、手を離した。
「ああ、何故なら」
僕はアーリンを見つめながら、少しばかり宙に浮いた。
そして……
「
再び敵を見据え、上昇する。
さあ、反撃の始まりだ。