「優しい? 違う、騙されているんだ……目を覚ませ!!
いいか? アイツは存在価値の無い奴なんだぞ。生きている意味が無いんだ」
『!!』
かすかに眉を寄せる薫。
昔の――茜の記憶でもよぎったのだろうか。
普段なんでもないような表情でいつも聞いていた薫の表情がかわった。
「でも…………はい」
一瞬、反論しようとしたクロームだったが、おとなしくツナの言う事を聞いた。
『(そんな言葉……聞きたくない)……ハァ』
思わず声に出しそうになったその言葉は、飲み込んだ。
ため息をつき、歩き出す薫。
「ちょっと、待てよ!!」
歩き出した薫をすぐに呼び止めるツナ。
「そうよぉ……ごめんの一言ぐらい、言いなさいよぉ!」
『お前らには言われたくないね……行くよ、和』
そう言い、さっきよりも速足で歩き出した。
いつも以上に感情を出していた薫だったが、それを誰も気にはしなかった。
まるで、薫のことなど目の前にしていても、見ていないとでも言うようだ。
それほど、本当の薫を見ていないのだろう。
だからこそ、真実にも気付かないのだろうか……
「あ……あぁ」
それに、少し焦りながら急いで追いかけて帰る和。
そうして、二人は帰っていった。
「なんだよ……クローム、大丈夫か?」
呼び止めに答えず、歩いていった薫をツナは少しイラついたように見つめたあと、クロームに問いかけた。
何か言いたげな表情をしたクロームだったが、小さく頷いた。
〔その一方では〕
『……』
「……」
二人とも黙ったまま、薫はまだ、早歩きで、和はその後ろに付いていく。
いつも隣を歩いている和だったが、なぜだか、今彼女の隣を歩くことは出来なかった。
それをさせない雰囲気を薫は出していた。
言うならばそれは――悲しみ。
口には出さないが、明らかにいつもと違った。
それをわかっていながら、今このときに隣を歩いてやれない自分を殴りたい気分だった。
「か、薫……?」
だが、意を決し、先に口を開いたのは和だった。
『……何?』
和のほうを向かずに、歩きながら返事をする薫。
「何か、様子変じゃないか?」
『……』
何も答えず、歩き続ける。
「薫!! 何か、あったなら言ってよ!!」
薫の横に行き、心配そうな声色でそう言う和。
だが、はっきりと薫の顔を見ることはできなかった。
『……何も無い』
だが、薫は何も言おうとはせず、ただ歩き続ける。
薫もまた、和のほうを見ようとはしなかった。
「嘘だ……様子、変だし……何か、あったんだろ? 隠し事は、すんなよ……?」
『……』
和の言葉に、薫は急に立ち止まる。
「薫?」
薫が立ち止まった数歩歩いてしまってから、和も止まって振り返った。
『和だって……』
和が薫の名前を呼んだ数秒後に薫は口を開いた。
「え?」
『和だって……僕に何か、隠していること無い?』
和のほうは見ずに、俯いてそう聞く。
少し吐き捨てるような乱暴な声だった。
その声に少し驚きながらも、和は朝登校中にも聞かれた電話のことかな、と考える。
「俺? ……俺は、何も無いけど……」
だが、やはり和は答えなかった。
薫に心配をさせたくないと思っての行動だったのだが――
『……そっか』
だが、薫の反応は明るいものではなかった。
薫の考えは違ったのだ。
2度の問い。彼女は本当のことを話してくれるのでは、とどこか考えていた。
だが、何も言わなかった和に思わず怒りをぶつけそうになった。
それでも、その怒りを押さえ込み、小さくそう返した。
「……うん」
薫の反応に少し戸惑う和。
『分かった……(じゃぁ、何で隠れて電話するんだ?)』
結局、何も言わずそう言い、ゆっくり歩き出す薫。
「……薫?」
和の横を通り過ぎてしまった薫のほうを向き、名前を呼ぶ。
明らかに様子のおかしい薫のことを心配してのことだ。
だが、振り返った薫は――
『分かったから……僕も、何も無いよ』
笑顔だった。
「〔ゾクッ〕……あぁ」
そんなことを思っては駄目だ、そう思ったが、和はその時、確かに薫を怖いと思ってしまった。
薫の笑顔は、いつもと違う。
あの時から、ずっと一緒に居る和には分かった。
その笑顔は、少しの憎しみと悲しみが混ざった……複雑な笑顔だった。
そんな薫の笑顔を見て、和はそれ以上何も言えなかった。
『……帰ろうか』
すぐにいつもの笑顔に戻りそう言う。
そして、また先に歩き出す。
「……そう、だな(何だ……今の……)」
和は複雑な気持ちで、薫の後ろに付いていった。
〔家〕
『ただいま♪』
ドアを開けると、そこには龍が立っていた。
『あ、龍』
「……」
『なんだよー、おかえりぐらい言ってよー』
いつものことなので、たいして悲しむことでもないのか、薫は少し軽い調子でそう言った。
「……行って来る」
そう言い、ドアに手をかける。
『全く……で、これから任務?』
「あぁ」
『そう……良い結果報告を期待しているよ♪』
「……御意」
そう言い、龍は出かけていった。
『……執事かよ』
靴を脱ぎながらそう言う。
「……いつもだろ?」
『そうだね』
廊下を歩きながら、少し、笑いそう言う。
「……」
やはり、いつもと変わらない薫に戻っているようだ。
さっき、怖いと思ってしまった彼女は全くいない。
いつもどおり、ファミリーには優しい彼女だった。
『ところで、和も今日は任務だよね?』
「え? あ、あぁ」
『頑張ってね。気をつけて』
「あぁ……まぁ、着替えてから行くけどな」
そう言い、部屋に入る。
それを見てから、薫も部屋に入る。
『……フゥ』
薫は軽くため息を吐いてから、着替えもせず黙って玄関に向かった。
〔玄関〕
『……』
黙ったまま、玄関のドアに立っている。
しばらくたっていると
「あれ? 薫? 何して……」
任務へ行く準備が出来た和が来る。
『……お見送り』
微笑みながらそう言う。
「あ、そうなんだ?」
不思議な顔をしながら、靴を履く和。
普段しない行動をする薫に今日一日和は戸惑ってばかりだ。
「よし……じゃぁ、行って来る」
ドアを開け言う。
『行ってらっしゃい』
手を振りながら言う。
『あ、和!』
少し、歩き出した和を止める。
「何だ?」
振り向きそう問う。
『……僕の事、気にしなくていいから』
そんな和に薫はいつもの笑みを崩さないまま、そう言った。
最後の言葉の意味って何!?
てか、薫も色々抱えてますなー……いけませんなぁ。
まぁ、ツナたちのこともあるみたいですけどねー
ちなみに、本編にでてきた「隠れて電話」は、4話くらい前の「内緒の電話」からです
更新遅すぎてみんな忘れてないかな?
最終編集日 2017/12/17