「え?」
『疲れたなら……逃げてもいいってことだよ?』
「何、言って……」
複雑そうな顔をしている和。
当然だ。和は薫から離れることを考えたことなんてない。
そんなこと思っていないのに、どうして、薫はそんなことを言うのだろう。
和には薫の考えが分からなかった。
自分の行動の何かがきっかけでそう思わせてしまったのだろうか。
和は自身が薫を裏切るようなことは一切してないと思っている。
そのとおりなのだ。和は薫を裏切っていない。
では、なぜそのようなことを薫は言ったのだ。
いくら考えても、その意図はわからなかった。
『……何でもない。じゃ、気をつけてね♪』
戸惑っている和を見て、いつものように笑い、そう言い、ドアを閉める薫。
「……」
結局和は、何も言えなかった。
少し不思議そうな顔をしながらも、今は任務を片付けようと思い、任務に向かったのだった。
〔薫は〕
〔バタッ〕
ドアを閉めてから俯く。
『……ハァ』
それから、ため息を吐く。
なんだか、すごく疲れた感じがする。
「何かあったのか?」
『!?』
驚いたように顔を上げ、その声のした方を向く。
そこには、奈津が壁にもたれながら薫を見ていた。
奈津はなんとも言えないような表情をしていた。
その様子から和と話してるときもずっといたんだな、と薫は思った。
『聞いていたんだ』
「……あぁ……何があったんだ?」
『別に』
「嘘だろ……あまり無理はするなよ?」
嘘だと言いながら、特に追求しようとはしない奈津。
少し、薫にとっては助かったような気もした。
なぜ、あんなことを言ったのか、それを今話す気にはなれなかった。
『何で、嘘だと思うんだ?』
「薫が人の気配に気づかないはずが無い……それに、変だし……様子が」
『……そんなに、変か?』
苦笑いでそう言う薫。
今回は全く隠せていないんだな、と思ってしまった。
いつもはもっと完璧に演技をするのに、やはり、ファミリーはその異変に気付くようだ。
「うん」
『……和にも言われた』
「そりゃぁ、和は気づくだろうな……薫の最も近くに居る奴だし」
そう言った奈津の言葉を聞いて、少しだけ考えるような仕草をした薫だったが、すぐに口を開いた。
『そうだな……でも、それは違うよ?』
「?」
『和は……僕に近い存在で、遠いから……』
少しだけ悲しそうな顔をしてそう言う薫。
その言葉に奈津は驚いたような表情をした。
当然だ。みんな、薫の一番近くにいるのは和だと思っているからだ。
もちろん、同じ時間を過ごす中では、和が一番一緒にいるのだろう。
だが、薫の考えは少し違った。
一緒にいたって、その人が、一番近い存在になるとは限らなかった。
――たとえ、どれだけ近い存在だったとしても……終わりは一瞬だ。
いくら強がっていても、薫もまだまだ幼い。
ツナたちに……大切な人たちに裏切られた記憶が残っていないわけじゃないのだ。
もちろん和たち、ファミリーのことは信じている。
和は自分の命にかえても、薫のそばに居てくれるだろうと思っている。
だが、心のどこかで、枷が外れないのだ。
相手がどれだけ自分を大切に思ってくれても、自分が、あと一歩踏み出せないのだ。
そのため薫の一番近いとされる存在は――
「遠い? じゃぁ、一番薫に近いのは誰なんだ?」
『……それはね……残念ながら、誰でもないみたい♪』
とても、悲しい答えだった。
誰でもない。
自分が近づくことができないのだ。そんな人できるわけもない。
薫は極力明るく言ったが、奈津の表情は明るくなかった。
「え?」
『ハハッ……疲れているだけだよ……ちょっと、出かけてくる』
そんな奈津を気遣うように、少し笑いそう言い、ドアを開ける薫。
「あ、気をつけてな!!」
奈津はまだ何か言いたげ表情をしていたが、そう言った。
『……心配しすぎだよ』
それに対し薫は、少し笑い歩いていった。
『……』
薫は無言で、ある場所に向かう。
その場所とは――
『着いた……』
そう呟き、ドアに手をかけた。
〔ガラッ〕
「っらしゃい! ……って、茜ちゃんじゃねぇか!! 久しぶりだなぁ!!」
『こんにちは……剛さん』
微笑みながら言う。
そう、薫が向かったのは、山本の家……つまり、すし屋だった。
剛が薫のことを、茜と呼んだことに対して、何も言わなかった。
「おう! 本当に久しぶりだなぁ……見ないうちにまたキレイになって……」
『褒めても何も出ませんよ』
「ハッハッハ、で、今日はどうしたんだい?」
『少し……武くんに話しがあって』
「武は、まだ帰ってないぞ」
『そうですか……じゃぁ、しばらく待ちます』
そう言い、席に座る。
「何か食うかい?」
『いいえ、今日はお金持ってきてないんで』
「いいんだよ! 久しぶりに会えたんだし、おっちゃんの、おごりだ!!」
『いいんですか? すみません……じゃぁ、えびください』
「えびが好きなのは、変わってねぇなぁ!」
そう言い、笑っておすしを握り始める。
久しぶりに会えたからか、剛はどこか嬉しそうな表情をしていた。
そこまで、嬉しそうにするわけを薫はわからなかった。
「武はどうだい? 迷惑かけてねぇか? 最近、茜ちゃんの話、あまり聞かねぇからなぁ」
お寿司を握りながら、そう聞く。
――そういうことか。
最近、ということは、以前までは薫――茜のことを山本は剛に話していたのだろう。
それが最近ではなくなってしまった。
つまり、今の薫のことを剛は全く知らなかったのだ。
剛の性格上、これで、久しぶりに会えてここまで嬉しそうにする理由も分かった気がした。
『はい……相変わらず、元気ですよ』
「そうかい……いやぁ、茜ちゃんみたいな可愛くていい子が、武の彼女ならなぁ」
『そんな、山本は、もてますし……それに、付き合う気はありませんよ』
笑いながらそう言う。
付き合う気はない、と言ったときばれない程度に、山本に対しての憎しみをこめたのは、気付かれなかった。
「そうかい、残念だな! へいっ、お待ち!」
『あ、ありがとうございます……いただきます』
そう言い、薫は少し嬉しそうにお寿司を食べ始めたのだった。
それから、しばらくして……
〔ガラッ〕
「ただいまー!」
「おぉ! おかえり!」
「……ん?」
『やぁ』
「どうしたんだ!?」
心底驚いたような表情をしてそう言う山本。
『ちょっと、話し相手になってよ』
「あ、あぁ……じゃぁ、とりあえずこっちに」
そう言い、山本の部屋に行く。
〔山本の部屋〕
「……」
突然の訪問に動揺を隠しきれていない山本。
そわそわしていて、目も泳いでいる。
『……この部屋に入るのも、久しぶりだな』
そんな山本を気にもとめていないように周りを見渡して言う。
「それで、話って……?」
『そんなに、警戒しなくても……』
自分で言って、それは無茶な話か、と薫は思った。
今までのことを思い返し、警戒しないほうがおかしい。
「……」
それでも、山本は少しだけ力を抜いた。
『……僕の事、剛さんには、言ってないんだね』
さきほどまでのどこか穏やかなものとは全く違う目つきに一気に変わった薫。
「薫の……こと?」
『そう。お前らのせいで、僕が眠った事とか……名前が、変わったとか、さ』
「……あ、あぁ」
『ま、言えるわけないか……自分が、元友達を虐めているなんてさ』
「!!」
図星をつかれ、焦りの表情がみえる山本。
もうしない、そう誓ったものの、それまでしたことが消えるわけではないのだ。
山本の記憶の中に確かにそのことは残っている。
それをつかれると、やはり心苦しいものがあった。
『自覚あったんだねぇ? ……まぁそんなことはどうでもいい』
「えっ?」
『何? 僕がそんな事言うために来るわけ無いじゃないか』
少し笑いながらそう言う。
「じゃぁ、一体……?」
『それはねぇ……』
そこで、言葉を切る。
「?」
『……何だと思う?』
「えっと……」
いきなりの質問に戸惑う。
『……フッ、それはね……少し質も〔ガチャ〕……?』
「茜ちゃん! お茶入れたから飲みな!!」
『あ……すみません。ありがとうございます』
笑顔でお茶を受け取る薫。
「……」
笑顔の薫を黙ってみる山本。
今の表情は、薫ではなく、茜だ。
どうやら、剛のことは、復讐対象だとは思っていないようだ。
自分のせいで、もしも親が……そう考えてしまうことがあったのだ。
なので、剛の前では、茜でいるというのを見て少し安心を覚える山本。
「じゃぁ、ゆっくりしていきな!!」
『はい』
〔ガチャ バタン〕
『……フゥ』
出て行ったのを確かめ、息を吐く。
「……」
『……』
黙ってお茶を飲む薫。
「それで、質問って、なんなのな?」
そう聞いてきた山本のほうを少し視線を向ける薫。
しばらくして飲みきったコップをおいて、薫は口を開いた。
『聞き取ってたんだ』
「一応……」
『ま、今回は良いや……もう帰る……ごちそうさま』
そう言い、立ち上がり部屋から出て行く。
その後ろに山本も付いてくる。
『お邪魔しました』
そう言い、家から出て行く。
「おう! また来いよ!」
『……はい』
最後まで、剛の前では茜としてそう言い、自分の家に帰った。
奈津は相変わらず心配性です。
薫にとって、近い存在の人は居ないようですね。ぼっちか………
えっと、山本の家に行ったのは、完全作者の気分ですね。
ちなみに、本編で分かったと思いますが、薫はお寿司ではえび好きです。
何故かって?作者がえび大好きだからだ!!
ちなみに、初めての予約投稿!
ちゃんと出来ているか不安ですね(; ・`д・´)
最終編集日 2017/12/17