「これしか、方法が無いんだ」
『くっ……誰、だ……』
ヨロヨロと立ち上がり、痛む頭を抑え、必死にその人物を見ようとする薫。
相当衝撃が強かったようで、頭から血が流れてくる。
霞む視界の中、必死で上を見上げ人物の顔を見ようとする薫。
そこに居た人物は――
「……悪いね」
そう相手が呟いたと思うと、再び、頭に衝撃が走った。
かろうじて見えた相手の手に握っていたものは――トンファー。
トンファーを武器とする人物は、薫には一人しか思い浮かばなかった。
『……雲雀……恭、弥』
お前も謝ったりするんだな、という言葉は口にできないまま、名前だけ呼び、その人のほうへ倒れ込んだ。
その人物は、薫の言ったとおり、雲雀だった。
自身のほうへと倒れてきた薫を難なく受け止める雲雀。
「ごめんね……薫……」
雲雀はそう呟き、薫を少し抱きしめてから、薫を抱え、そのまま歩いていった。
「……ハァ、ハァ……ここにも居ない」
走って薫を探す和。
まだ目が覚めたばかりということもあり、体力の消耗が激しく感じる。
「そうだ……こういうときは、薫の行きそうな場所を……探……して」
そう呟きながら、立ち止まる。
息を整える目的でもあったが、それとは別に、もう一つ。
「行きそうな場所って……どこだ?」
和には分からなかった。
薫の行きそうな場所なんて、一つも思いつかなかったのだ。
いつも一緒に居たのに……
和は拳を強くにぎり、歯を食いしばる。
「何で……何で分からないんだ……」
絶望的だった。
自分は薫の何を知っているんだ? そう思った。
昔もそうだった。
昔――薫が茜だった頃、幸せそうな笑顔でいつも笑っていた。
本当は、いつの日からかどこか、その笑みに陰りがさしていたことに気付いていた。
だが、茜はいつも楽しそうに笑っていた。
弱音なんて全く吐かなかった。
だから、大丈夫と思っていた。
そう思っていたから、ろくに茜のことを知ろうとせず、目を背けていた。
昔の事も、今の事も、何も知らないままだった。
結局、何も変わっていない。
ただ、自分では分かったフリをしていただけだった。
だから、行きそうな場所なんて、分かりもしない。
「……くそっ! どこに居るんだ!!」
ただ、そうやって叫ぶしか出来ない自分が嫌だった。
大きく頭を振りながら周囲を見渡す。
すると、視界の端に何かがうつりこんだ。
「……ん? ……アイツ……薫!?」
『……』
薫はさっきの衝撃で眠ったまま。
全く、目を覚ます気配が無い。
「……」
そんな薫を見守るように、ずっと抱え歩いていく人物。
自分もよく知る、学ランに風紀の紋章をつけた彼。
「薫……だよな?」
二人を後ろから付けていく和。
「もう一人は……雲雀? どこ向かって……!!」
何かに気づき立ち止まる。
「……」
深刻そうな顔で、和はその場を去った。
「……」
とりあえず、家に帰ってきた和。
「帰ってきたんだな……で、どうだったんだ? 居たのか?」
真っ先にそう聞いてきたのは裂だ。
彼も言わないだけで和の様子から薫のことを心配しているようだ。
「居た……けど」
小さく首を横に振りながら言う。
その和の反応に裂が眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
「……雲雀 恭弥に連れて行かれた」
「え? 薫が、普通についていくわけ……」
「見たところ、気を失っていた……たぶん、アイツにやられたんだろう」
拳を握りながらそう言う。
「やられた? 薫が? まさか……それに、ソイツは味方じゃ無かったのか?」
一緒に聞いていた奈津が少し後退りしながらそう言う。
「でも……間違いない……」
「何だよ、それ……それじゃぁ、アイツは裏切ったのかよ!?」
「まだ、そう決まったわけじゃない……アイツにも、何かあるのかもしれない」
「何で、和がアイツを庇うんだよ……このまま、薫をアイツに任せるのかよ!!」
和の胸倉を掴んでそう言う奈津。
「やめなさい!!」
ずっと、黙っていた星が大きな声を出し止める。
珍しく、星の声が部屋に響く。
その声で全員の視線が星のもとへ集まった。
「……ごめん」
手を離し、そう言う奈津。
それに対し和は小さく首を振る。
「とりあえず、会議にしましょう……話し合いはそこでするわ」
いつもおとなしい星の声にみんな驚き、おとなしく星に従う。
〔会議室〕
「では、会議を始めるわ……今回は『どうやって、薫を助け出すか』で、いいわね?」
「あ、あぁ」
それから、どんどん会議は進んでいく。
「……では、さっきの作戦を明日決行します」
「明日? 今日じゃないのか?」
驚きの表情でそう言う。
「えぇ、今日はしっかり体を休め、明日に備えなさい」
そこで、会議は終了した。
「……」
「和」
部屋に戻る和を呼び止める星。
「?」
「薫には、お礼言わないとダメよ」
「え?」
何故というような顔をする。
「……今日の朝までは、ずっと、和の傍に居たんだから」
「そうなのか?」
「えぇ」
それだけ言って星は歩いていった。
「そうだったのか……」
和は少し嬉しくなるのを感じた。
こんなときに非常識だとは思いつつも、笑みをこぼさずにはいられなかった。
「とりあえず、連れて来たものの……」
『……』
「これで、正々堂々戦えるね」
薫を見ながら、呟く。
「……君は、僕のせいで、人を信じなくなるのかな?」
その問いかけに返事はなかった。
その後も、薫は目を覚ますことなかった。
〔次の日〕
『……ん』
ゆっくり目を開け、起き上がる。
「やぁ、起きたんだね」
『!! お前……』
雲雀を思い切り睨む。
「……さぁ、僕と勝負でもしようか」
『勝負だと……?』
「そうだよ」
『やってやるよ……今度こそ……お前を殺す』
そのときの薫の目には、憎しみでしかなかった。
薫はただ、狂気に囚われていた。
その目を見て雲雀は少しだけ口角を下げ、トンファーを振り上げた。
〔その頃、和たち〕
みんな準備できたようで、玄関に集まっている。
「では、行きましょうか」
そう言葉で、みんな薫の居るところに向かう。
「ココだな」
そう言い、中が見える場所を探す。
「……!?」
中が見える大きな窓があり、そこで見た光景は、嘘のようだった。
「和? どうかした……何だ、あれ……」
そこで見た光景は、薫と雲雀の対戦。
ただ、いつもと違うのは、明らかに薫が負けているところだった。
『このやろぉぉぉ!!』
そう叫びながら雲雀に向かって、鎌を振る。
「……遅いよ」
そう言いながら、それを簡単に避け、トンファーを振る。
〔ガンッ〕
派手な音をたて、薫に直撃する。
『くっ……』
倒れ込む薫。
「今の君は弱いね」
少しつまらなさそうな顔でそう言う雲雀。
そんな雲雀をにらみつける。
『ふざけるな……僕が弱いなんて、許される事じゃない……!!』
痛みに耐え、立ち上がりながら言う。
さっき、トンファーが当たった場所からは、血がでている。
「……薫が負けるなんてこと……あるのかよ?」
「普通は無い……でも、今の薫だったらありえる……
気持ちが昂って、自分でも体のコントロールが利かないんだろう」
「そんな……これも、アイツのせいか……」
怒ったように拳を握りながらそう言う奈津。
周りのみんなも同じように深刻そうな顔で勝負を見ていた。
『くそ!!』
自分でも分かっていた。
今の自分では勝てない事を。
でも、分かっていても止められなかった。
さっきから、雲雀はあるところしか狙わない。
そのあるところと――昨日、強い衝撃を受けた場所だった。
同じところを何回も、何回も殴られ、それでも立ち上がる。
「わぉ……まだ、立ち上がれる力が残ってるのかい?」
『……』
「でも、もうそろそろ限界だね」
そう言い、最後の一撃を薫に向けて、振り下ろす。
〔パリィィィン〕
薫の頭とトンファーとの間は数センチほどだった。
ガラスの割れる音。
その音で、雲雀の動きは止まった。
『「!?」』
同時に音のした方を向く。
そこに立っていたのは――
「ふざけやがってぇぇぇ!!」
そう叫び、銃を向ける奈津だった。
えー、今回は怒り狂った薫だったので、勝てないという………
何も考えずに、怒り任せに動くと危険だからね~
それから、和の心情(?)的なかんじのものも書いてみました。
一緒に居ても、やっぱ、分からないことは分からないですよね。
最終編集日 2017/12/28