「裂?どうかした?」
箸を落としたのは裂だった。
みなの視線が、茜とXANXUSから裂へとうつる。
代表するように裂に問いかけたのは裂の隣に座っていた奈津だった。
「いや…別に……ただ、落としただけ」
そう言いながら、箸を拾う。
「…代えの箸がココにあるわよ」
そう言い、代えの箸を差し出す星だったが、
「いや…もう、お腹いっぱいだから……」
そう言い断って、裂は部屋から出て行く。
お腹いっぱいと言うが、朝食はまだたくさん残っていた。
いつもならば残さずたべ、むしろおかわりするぐらいなのだが、今日は残したことにみな不思議そうな表情をする。
『……食欲、無いのかな…?』
「いや、別の理由と思うよ」
茜の疑問に対し、察したような様子でそう言う奈津。
『そうなの?』
「うん……きっと、理由もすぐに分かるよ」
心配いらないよ、と続けて笑顔で言う奈津。
茜は奈津の言葉に少し考えた様子を見せたあと、奈津が言うのなら大丈夫だろうと思い頷く。
『…それなら良いけど……』
その後は、いつもより少し静かな朝食を済ました。
〔庭〕
『………』
食べ終わってから、庭のいつもの木のところで、ボーっとしている茜。
さきほどの出来事を考えていた。
『(さっきの、裂……何で、あんなに戸惑って、悲しそうな顔していたんだろう…?)』
奈津が大丈夫とは言っていたものの、やはりその表情から気になるのは仕方ないことだった。
だが、どれほど考えようとも茜の中で答えは出ない。
彼女はそれほど自分に関することは鈍感なのだろう。
理由が分からず、悩み続けていると――
〔ガサッ〕
近くから急に物音が聞こえる。
『!!』
驚いて、思わず立ち上がる茜。
最悪の敵の襲来という予想をたて、戦闘態勢に構える。
だが、その態勢はすぐに崩した。
そこにいたのは、敵ではない、裂だったからだ。
「……!!」
裂も茜に気づく驚いたような表情をする。
まさか、ここにいるとは思っていなかったのだろう。
なんとか、体を動かし、その場から逃げようとする。
『あ、待って!!』
急いで、腕を掴んで止める茜。
裂のほうが動き出しは早かったが、強さでは茜が断然上回る。
茜が裂の腕をつかむのに、数秒となかった。
「………」
茜から逃げ切るのは無理だと諦めたのか、おとなしく立ち止まる裂。
裂から力が抜け、逃げることはしないと判断した茜は手を放す。
そして、気になっていたことを聞くため、口を開いた。
『…何で、最近、私を避けるの?』
「それは……お前が…そうさせてるんだよ」
『……え?』
理解不能だった。
「…茜が…原因なんだよ」
『…何、で…?(……私のせいだったの…?)』
避けられているのが自分だけなのだから、その可能性は十分に考えていた。
だが、それを踏まえてもやはり、理由はわからなかった。
なので、改めてそう言われると、また分からなくなる。
「この際だから、はっきり言わせてもらう」
茜と向き合いそう言う。
その顔は緊張が含まれている。
茜もつられて緊張が走る。
何を言われるのかと、不安に思い、息をのむ。
裂のとる一挙一動に過敏に反応してしまう。
少しすると、裂が小さく息を吸い、茜をまっすぐ見つめた。
「俺が、お前を避けてたのは……嫉妬だよ」
少し、顔を赤くして呟くようにそう言う。
茜はキョトンと、そんな効果音がつくような表情をした。
誰に?私に?誰に対して?
疑問が絶えず浮かぶ。
『嫉妬…?』
驚きのあまり少し震えながらも発したその声に裂は頷く。
それも意味が分かっていないということに気付いていた裂は次の行動に移す。
「……つまり」
そう前置きしてから、裂は茜を抱きしめた。
『!?』
茜はさらに驚き、目を見開く。
驚きのあまり体が硬直するのを感じる。
思わず心拍数が上がる。
裂はそんなことを構わないかのように茜の耳に口を近づける。
「こういうこと……俺は、茜が好きだ」
囁くように言ったそれは、十分に近づいたため、茜にしっかりと聞こえた。
『好…き?』
「うん、俺はお前に恋愛感情を抱いている…の、ほうな」
『………』
何も言えなかった。
裂が自分をそんな風に思っているとは、考えもしなかったから。
〝テメェのファミリーの誰かが…テメェの事好きだったらどうすんだ?〟
不意にXANXUSの言葉が頭の中を過ぎった。
XANXUSは分かっていたのか…?
そんな事を思う。
〝好きだったらどうすんだ?〟
その言葉が、頭の中で、何回もループする。
『……ごめん(……分かんない……どうすればいいのか…分からないよ……)』
「……何で」
『…分からない……ごめん』
「分からないわけないだろ!?」
茜を離したと思うと、肩を思い切り掴む裂。
『いたっ……』
「あっ…ごめん………」
ゆっくり手を離す。
『ううん……大丈…夫……いきなりで、驚いただけだから………』
「…でも、納得いかないんだ」
呟くように言う裂。
悔しそうな表情をしている。
『え?』
「何で、またアイツなんだ?」
『何で…って、言われても……』
返事に困る茜。
理由を考えたことはなかった。
考えたって、答えが出るわけでもない。
「本当に…付き合ってるんだろ?」
『……うん』
「あんなに、苦しくて、悲しい思いしたのに……何で……」
『でも、やっぱり……好きだから』
それ以上でもそれ以下でもない。
裏切られようが、それでも好きだったのだ。
XANXUSが茜を愛したように、茜もまたXANXUSを愛していた。
長いすれちがいを経た今でも、それは変わらなかった。
「っ………」
想いの強さを感じた裂は声にならない声をもらした。
静かに肩を掴んでいた手が離れる。
その瞬間、茜が頭を下げる。
『本当にごめん!!』
告白と、今までの態度、二つに対しての謝罪だった。
「(…そんなの、最初から分かってたよ)……頭、上げて……」
『………』
申し訳なさそうに、ゆっくり頭を上げる茜。
裂はそんな茜の表情を一瞬真剣そうに見つめた後に――
「ふっ……ハハッ、ハハハッ」
笑い出した。
『…裂?』
思わずキョトンとする茜。
突然の裂の変化に戸惑う。
先ほどまでの、どこか緊迫した空気が一気に途切れる。
「アハハッ……ごめん、本気にした?」
『えっ?』
「全部、冗談だよ……茜が本気かどうか確かめただけだ」
『冗…談……』
安心からか一気に力が抜ける茜。
「おっと……大丈夫か?」
倒れかけた茜の体を支える裂。
その雰囲気にいつも通り戻っていた。
『うん…ありがと』
「…気持ちも確かめられたし、良かったよ……じゃ、俺は、部屋に戻るから」
そう言い、軽く手を振ると、走っていく。
『本当に…冗談……だよね?』
裂の後姿を見て、そう呟いた。
なんだか、悲しそうな背中に見えてしまったから。
「…ハァ……あー!!何が冗談だよ……全然よくねぇ……」
少し走ってから、しゃがみこんで呟くように言う。
(…でも、茜のことを考えたら…これが良いんだよな…?)
そう思って、立ち上がり部屋に戻った。
その想いを秘め、いつしか笑って祝えるように。
〔茜の部屋〕
戻ってきてから、ベッドに倒れ込む。
『…ハァ……』
〔ガチャ〕
茜がため息をしたのとほぼ同時にドアが開く。
そこには、XANXUSが立っていた。
『……どうした?』
「少し、話しがある……」
『…話?うん、良いよ』
そう言うと、中に入ってくる。
「………」
『それで、話しって?』
「…あぁ……明日の早朝に、俺らはイタリアに帰る」
……一応、裂との距離は解消?一件落着です………
まぁ、裂が身を引いたってことですねー。
自分より相手の幸せをーってやつですね。何気に優しい裂でした。
XANXUS、勝手に部屋入ってきちゃいましたね。
そして一難去って、また一難。