バグ多きこの世界で生き残れたら上等だと思う【旧名:昔だからこそ】   作:翠晶 秋

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やがて彼は英雄になることをまだ誰も知らない

ぶんっ。

空を裂いた一撃が俺の目の前を通る。

背中を逸らしてまでして避けたそれは手首を反転させるだけで次の攻撃準備を終え、再度こちらへ向かってきた。

 

「ぐっ」

 

かろうじて己の枝を滑り込ませ、顔面、致命傷だけは避ける。

木の枝なのにこの重さ。子供とてモンスターの跋扈する異世界の人間、甘く見てはいけない。

繰り出される連撃を避けつつ、攻守交代のチャンスを狙う。

 

力が足りない。スキルポイントの3を全て「剣撃スキル」に注ぎ込み、なんとかついていけるレベルに持っていく。

あぁ、スキルポイントが……先に上げておけばよかった剣撃スキル……。

 

新しくスキルツリーを入手するにはクエスト、そしてスキルツリーの【覚醒】には特定の場所へ行く必要があるから、現段階での戦力の強化は見込めない。

召喚は物量戦になるからダメ。魔法はやりすぎたら殺傷能力を持つ。少年相手にラッキースケベなんてどこに需要がある?

ならば、この戦いは剣術による単純な技量戦。

 

「おりゃ!」

「すきあり!」

「わっ!?」

 

足払いでバランスを崩させ、大きく踏み込んで剣を振るう。

バランスを崩しつつも振り下ろされる枝を自らの枝でガードした少年は、鍔迫り合いの内に体制を直して枝を振り上げた。

俺の腕が弾かれ、大きく隙ができてしまう。

 

「そこぉ!」

「ッ!」

 

ここは、崩されたバランスに身を任せて……!

 

「「「「なっ!?」」」」

「倒れた!?」

 

地面を背中につけ、俺がバランスを崩しつつも立っている前提の突きを交わす。

俺の上で、少年の枝が通過した。

少年の手首を掴んで自分の上を通過させる。

 

「うわっ、わわわっ!?」

 

そのまま起き上がり、あたふたしている少年に攻撃を繰り出す。

少年の剣は剛の剣。圧倒的な膂力で、相手の剣を打ち砕く。

ならば、こちらは柔の剣。相手の力を利用し、包み込むトリッキーかつストレートな剣。

 

「ッんぬ!!」

「わっとと」

 

飛び蹴りをしてきやがった。

本格的に技量戦になってきたな。

ちくしょう、俺弱すぎるだろ、こんな子供と拮抗してるなんて。

所詮、ゲーマーはゲーマーか……!スキルがMAXでも、本人に実戦経験がなければ赤ん坊と同じ!

 

けどさぁ……。

 

「テロさん……!」

 

あいつが通った試験を、俺が落ちるわけにはいかないよな!!

グッと大地を踏みしめ、次の攻撃に備える。

急に止まった俺を好機と思ったのか、少年が真正面から突っ込んできた。

 

「うおおおお!」

「…………!!」

 

タイミングを揃える。

ゲームではできた。いけるはずだ。

 

……。

 

…………。

 

今!

 

「疾ッッッ!!!!」

 

枝が、脇腹に食い込んだ。

 

少年の、脇腹に。

 

「ふぶうっ!!」

「あっやっちまった!!つい全力で!!」

「へ、へへっ……合、格……あふん」

「り、リックー!!!!」

 

リックが眠ってしまった。

カウンタースラッシュを再現するのに夢中になりすぎて相手が少年であることを脳内から除外してしまっていた!

 

「バカなんですか!?殴ります!!」

「現在進行形!!」

 

殴りing。

殴られた勢いで宙を舞いつつ、そんなことを考えた。

 

「子供相手になんであんな威力のものを!?」

「ご、ごめんて、ついうっかりしてて……」

「そのうっかりで命を落としてしまったらどうするんですか!!」

「ぐ……」

「起きたら謝ってくださいね」

「……はい……」

 

セーリャは鬼嫁なんだな……。

 

「あ゛!?」

「いえ、何もぉ!」

 

確かに、あの一撃が命を奪うことになるかもしれなかったことは確かだ。

反省しなければ。次は絶対、失敗しない。

 

 

 

 

コトコトの煮えるシチューの匂いに釣られてか、リックが目を覚ます。

リックには勝ったし、教会のみんなもリックに勝った実力者ってことで歓迎してもらえた。

でも、当のリックは気絶させられたわけだし、合格とは口にしたけど思うところもあるんじゃないか。

 

「んお?お前は……」

「改めて。新しくこの教会のお世話になるテロだ」

「テロ。……なぁテロ、今日の晩飯はなんだ?この匂いは……」

「シチューらしい」

「やった。シスターのシチューは絶品なんだぜ!」

「それは、楽しみだ」

 

しばしの間。

 

「……どうかしたか?」

「いや、今日の試合でさ」

「あ?……あぁ、俺がぶっ飛ばされたやつか?それを気にしてんのか?」

「まぁ、ね」

「ははははは!!」

 

急に笑われて目を丸くする。

リックは肩をぶんぶんと回して見せた。

 

「テロは俺よりでっかくて強いのに小さい男なんだな!これくらい大丈夫だぞ!!傷もできてないし、シスターにも怒られないな!」

「…………」

「なんだよう、真面目な顔して……。俺、なんか怒らせたか?」

「ううん。ただその、謝りたくて」

「大人ってのは、そうしないと気が済まないんだなー。……ん、わかった!存分に謝ってくれ!それで全部無しだ!」

 

どっちかって言うと、リックの方が大人な気がするなぁ……。

すげえわ、こいつ。将来有望だ。

 

「ごめん」

「よし!じゃあシチュー食いに行こうぜ!!」

「うん」

 

ベッドから飛び降り部屋を飛び出すリック。

それを追って俺も部屋を出ようとすると、影からセーリャが出てきた。

 

「‥…‥…」

「あっ……え、なに、聴いてたの?」

「座ってください」

「セーリャさん?」

「座ってください」

 

言われるがままに座ると、セーリャは俺の頭を包むように抱きつき、頭の天辺を撫でてきた。

 

「ちゃんと謝れて、えらい、えらい、ですよ」

「……あのさ、セーリャ?子供じゃないんだから恥ずかしいんだけども」

「プライドや誇りに過失せずに人に謝れるのはいいことです。大人は、荒れてしまっていますから」

 

やさしく言い聞かせるように、甘やかすセーリャ。

くそう。久しぶりに褒められた気がするからちょっと嬉しい。

 

「ママ……」

「ママじゃないです、妻です」

「いやこれは母だろう……お前いい母親になるよ」

「……っ。ごほん。それはそれとして、えらいですよ」

 

ちょっと顔を赤くしている。なぜ?

 

「……ま、そりゃどうも……」

「テロさんは陽気に見えて、どこかで何かを抱えているような気がします。隠さなくていいんですよ」

「……それは……」

「今聞きたいとは言ってません。テロさんの言いたくなったときに、言ってくださいね」

 

セーリャが離れる。

……クセになりそうだぞこれ?セーリャの母性すごいぞこれ!!

 

「さ、いきましょうか。シスターのシチュー、味見したんですがすごくおいしいですよ」

「そんなにか」

「そんなにです、ほら早く」

 

少し、人間として成長したように思う。そんな日。

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