バグ多きこの世界で生き残れたら上等だと思う【旧名:昔だからこそ】   作:翠晶 秋

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夜道

ダイニングルームに行くと、すでにちびっ子たちが待機してらっしゃるではないか。

 

「さ、シチューができましたよ。いただきましょう」

「あーい!」

「スプーンどこ???」

「いてぇ!口の裏噛んじった!」

 

シスターが許可を出した瞬間に子供たちがシチューにがっつく。

……ゲームのころは軽快な音楽とともに日にちが変わって、食事シーンなんて一度もなかったからこういう光景は新鮮だ。

空いている席二つのうち一つに座ると、隣にセーリャも座ってきた。

シスターが空いた皿にシチューをよそってくれる。

 

「あ、すみません」

「シスターさん。いただきますね」

「どうぞ。おかわりは自分で取ってくださいね」

 

なんて清楚なんだこの人……。

手元にあったスプーンでシチューをすくい、口に運ぶ。

ミルクの風味が口いっぱいに広がり、程よい温度が身体中に広がる。

具のこれは……鶏肉か?これも、ほろほろと口の中で解けるようだ。

つまり。

 

「「おいしい……!」」

「あら、そうですか?嬉しいです」

「本当においしいです」

「ですよねテロさん!じゃがいもも中までちゃんと熱してあって、ほくほくで……!」

「ただのクリームシチューじゃないよな!!」

「ふふ、照れてしまいます。……実は、安物ですが隠し味に白ワインを入れてあるんです」

「「それか〜!!」

 

気づけば、机を囲んでいる子供たちのように料理にがっついていた。

そういえば、俺とセーリャは昼ごはんを食べていなかった。

空きっ腹に濃厚な旨味が染み渡る。

パンとシチューを詰めた胃は極上の幸福感を発している、

 

5、6分後には全員、

 

「「「「ご馳走様でした!」」」」

 

鍋を空にしてしまった。

あ、いや別にシスターもちゃんと食べてたから。俺らが食っちゃってシスターの分忘れてたとかそんなかわいそうなオチないから。

 

「お風呂入ってますがお二人はどうされますか?」

「兄ちゃん一緒に入ろうよ!!」

「……って言ってるのでそうします」

「あら……すみません。面倒をおかけします」

 

この教会の人間、本当に人が良すぎる。

このゲームが流行ってた時代でも、シスターが恋しくて最初の街から旅立てなかった人や、ストーリーを進めずに協会を守ってた人もいたらしい。

画質が悪く、ボイスなんて入るわけがないゲーム時代でもここまでファンが多いのだから、その世界に入り込んだ今、シスターがこの世界で一番の聖人であることはもはや決定事項だ。

 

……実際、この教会に真っ先に来た理由は、効率を考えたというのもあるが、3、4割型シスターがどうなっているのか一眼見たかったというのもある。

 

「それでは、こちらが部屋の鍵となります。セーリャさんは……」

「あぁ、言うの忘れてた。セーリャ、俺たちの他にもここで部屋を借りてる人がいて、相部屋になりそうなんだけど……」

「なるほど、構いませんよ。じゃあ、夜はテロさんがベッドを使ってくださいね」

「……?や、俺の部屋は俺一人だけしか使えないけど……?」

「え……?相部屋ではないんですか?」

 

……?なにか情報の齟齬が発生している気がする。

相部屋?ベッドは俺?

……もしかして。

 

「セーリャさんは俺と同じ部屋で寝ると思ってらっしゃる……?」

「……え?」

「いや、その、女の子が部屋を借りてるから、女の子同士で部屋に……って……身の危険があるから……」

 

しばらく虚空を見つめていたセーリャだが、やがてようやく合点がいったのか、

 

「……!〜〜〜〜!!」

 

と顔を赤くし、

 

「ああああああああああッ!!!!」

殴りing(現在進行形)ッ!!!!」

 

俺に殴りかかってきた。

痛む頬を押さえながら話を流す。ちゃんと理解してくれたようで、セーリャはその女の子と相部屋となった。

ちなみに、まだ外出中らしく、女の子にはシスターがちゃんと事情を説明してくれるとのこと。

というわけで、俺はちびっ子たちと風呂に入る前にやることをなすために教会から出てきました。

 

やることとは何かって?

ははぁ。お忘れですな?

 

「いらっしゃいませ……」

「ちょっと買い取りをお願いしたいんですが」

「はぁ……わかった。何を売るつもりだい」

 

夜ということもあってか雑貨屋の店員がため息をつく。ほんなら夜営業しなさんな。

アイテムボックスから自然のポンチョとバブルゼリー1個を出す。

……もちろん、虚空から取り出したことを悟られないように。

 

アルラウネのドロップ品である木材は、クエストで必要なために取っておく。今売りに出しちゃうと、あとでまた売値の倍の値段で買わなければいけなくなるからだ。

 

「……モンスターのドロップアイテムってとこか」

「偶然倒して、はい」

「自然のポンチョは確かアルラウネのレアドロップだった気がするが……アンタ、ダンジョンでも潜ったのか?」

「ちょっとね」

「ふうん。さして強そうでもないが……運が良かったんだな」

 

呪われたバイオリニストみたいな感じで痩せてるのに、結構口が達者なんだよなこの人。

 

「その運に免じて……そうだな、これくらいだ」

「どうも」

 

その呪わリストさんがくれた袋には、うん……まぁ、まぁまぁまぁ。こんなもんかってお金が入ってる。

微妙に足りるかなぁ……って時間時間。時間優先で行こう。

 

「あいどうも!」

「ありゃした……」

 

夜の道をひた走り、次は……そう、ここだよここ。

……相変わらず入るのに勇気いるなぁ………。

 

「いらっしゃいま……え?男?」

「男ですが……」

「は、はぁ……」

 

ランジェリーショップ。

主に女物の下着を扱うこの店は、ゲームでも始めて入るときドキドキしたものだ。

まぁドットだから結構残念だった……が、ここはゲームの世界。もちろんグラフィックとかそういう次元ではなく、そこにあるのはたしかな現実(リアル)

 

「ど、どのようなご用件で……?」

 

セーリャの下着を買いに来たわけだが……やはりセーリャがいないと厳しかったか?

そもそもゲームでは下着とか買う必要がなかったっていうか、ここで買えるアイテムはプレイヤーの想像を掻き立てるだけの貧弱アイテムしかなかったというか、でもこの世界に来た以上必要なものだし……。

なんとかごまかせたらいいんだけど。

 

「実はその……孤児を拾いまして」

「まぁ」

 

間違ってない。

 

「その子、一丁らしか持ってないらしくて、風呂に入ったあとに不便だろうと……」

「そうなんですか」

 

嘘ではない。

 

「えーと、これくらいの大きさの女の子で、パジャマなども見繕ってくれると嬉しいんですが……」

「……わかりました。しかし、胸部の下着は微調整が必要な部分がありますので、後日またお越しいただけると幸いです」

「……すみません」

「えーとでは……これとこれと……あとパジャマ……?これと……はい。袋に入れておきますね」

「ありがとうございます」

「値段はこちらになります」

 

なっ!?

女物の衣服ってこんなに高いのか!?

アルラウネのレアドロップってとこが効いたのか、金額はギリギリ足りた。

紙袋に詰まった女物の衣服をひっさげて店をでる。

教会に向かう途中、乾燥の魔法のスクロール───使い捨ての魔法が使える巻物───を、それこそ財布に氷河期を訪れさせつつも購入し、今度こそちゃんと帰路に着く。

俺の服は……まぁ、洗ってすぐ乾燥させればいい。余裕が出たら買う予定だが……。

あぁ、なんと生々しい生活感あふれる世界。本来ならこの金で武器を買い、クエストで金を稼いでいたはずなのに。

……まぁ、セーリャはすでに杖槍(じょうそう)を……杖と槍を合わせたレア武器を持っているのだから、別に戦えないわけじゃないけど。

 

あと、勇者候補になると宣言しなければ……。

国が覇王を倒す勇者……候補をこぞって探しているために、雇われた試験官の傭兵と戦って、勝っても負けても、ある程度の強ささえ顕示できれば勇者候補として支援が受けられる。

宿は教会があるからいいとして、食べ物や装備の初期支援はありがたい。ぜひ支援を受けたい。

つまるところ、次の目標は勇者候補として志願すること。

それと、試験通過後、手早くギルドに登録してクエストを受けられるようになること。

 

はぁ、やることがいっぱいだ。

でも、そのやることのどれもが、やったら得になることばかりだからさぼれもしない。

コントローラーのときはダッシュすれば結構早くクリアできたんだけど……いざゲームの世界にってなったら意外と重労働だ。

……と、そんな考え事をしていたのが悪かったのだろうか。

 

どん、と、軽くぶつかってしまった。

 

「っ……」

「す、すみません、ぼーっとしてました」

「あ、え、えぇ、こちらも少し考え事……を……?」

 

赤い髪の毛をツインテールにし、右目に眼帯をしている女の子。

その視線が、やたらと俺の足元に注がれている。

気づけば、手に持っていた袋がない。

つまり、俺の足元には……。

 

「へ、変態……」

「違うッ!誤解が生じている!壮大な誤解が!!」

「こんな真夜中に女性用下着を買う男に誤解があるの!?」

「ですよね!!自分でも結構怪しいなって思ってた!!」

「きっ、今日のところは見逃してあげるわ。でも、次にあったら通報するわよ」

「……重々……存じております……」

「……わかったわ。ほら、わかったら早く行きなさい」

「すみませーん……」

 

中身をかき集め、袋を抱えて走り去る。

……しかし、赤髪に眼帯?明らかにモブキャラじゃないし、ストーリーに関係するようなキャラクターで、そんな特徴の子はいただろうか。

 

「ところで、どこに行くの?」

「えっ。あっちに」

「……そう。どうやら私の知っている方角のようだけれど……あなたがご近所さんなのかしら」

「……そういうことになるんじゃないですかね」

「間違っても私の下着は「盗まねえよッッッ!!!!」……本当かしら」

「信用が大暴落」

 

ああ、思い出した。この子は───

 

「とりあえず、住所だけは聞いておくわ。あっちの、どの辺りに住んでいるのかしら」

「教会の空き部屋に、連れとご厄介になってます」

「えっ?」

 

この子は。

 

「その教会は、私もご厄介になっている教会だと思うのだけれど……」

 

物語中盤で強制的に仲間になるが、うまくいけば序盤で仲間にできる、魔法使いの……アリスじゃないか。

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