バグ多きこの世界で生き残れたら上等だと思う【旧名:昔だからこそ】 作:翠晶 秋
「セーリャッ!!」
「っ、きゅ、急になんですか……って、その背中の子は?」
「わかんねぇ!急に倒れたんだ、回復頼めるか!!」
「あっ、はっ、はい!では、そこに横にしてください!」
セーリャが槍杖を部屋に取りに行っている間に、アリスとその荷物を降ろす。
息が荒い。額に汗が滲んでいるし、時折ぴくりと苦しむように眉間に皺が寄る。
強さ
テロ◀︎
セーリャ
強さ:テロ 残りスキルポイント0
剣撃3
魔法0
召喚MAX
ラッキースケベMAX
???0
っくそ!
こんなときに限ってスキルポイントがねぇ!
あったとしても、焦ってる状態でバグ技ができるとは限らないし……!
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アイテム
薬草×3◀︎
リンゴ×10
肉×4
【調味料】×18
薬草を取り出してアリスの額に貼り付ける。
本当は水とかに浸けて湿ってるやつの方が多分効果が高いんだけど……!
「お待たせしました!」
セーリャがアリスに向かって回復魔法を掛け始める。
ただ、玄関先でやっていたので教会の全員がなんだなんだと部屋から顔を出した。
「お、おかえりなさいテロさ……アリスちゃん!?」
「ちょっと、そこで会って……そしたら急に倒れたんです。なにか心当たりは?」
「……!少し、待っていてください!」
シスターもぱたぱたと部屋の方に向かっていき、やがて一つの小瓶を持ってくる。
蓋を開けると、こどもが嫌がりそうなツンとした香りが漂ってきた。
これって……スタミナドリンク……。
スキルのクールタイムを縮めるためのものだ。
「アリスちゃんは時々それを飲んでいました……瓶の形が同じというだけなので、本当にそれを飲んでいたのかはわかりませんが……」
「いや……これと同じ形の他のドリンクはここらへんじゃなかなか買えません。多分、これです」
もしもこれを常飲の薬のように使っていたのなら、きっとこれを飲んでいなかったのが原因だ。
スタミナドリンクをアリスの口元で傾けると、苦味で顔を顰めながらもアリスは飲み込んでくれた。
汗がひき、眉の動きがなくなる。
なんとか……一息ついたか。
しかし、なぜスタミナドリンクを?
スタミナドリンクはどれだけ飲んでも構わなかったはずだから、なにか理由があって飲み続けないと倒れる身体になってしまったのだろう。
「……うう」
「テロさん!目が、覚めました!」
「お疲れ、セーリャ。休んでて」
アリスが上体だけ起こして頭を押さえる。
やがて意識がはっきりしてきたのか、その赤い髪を垂らして口を開いた。
「……もしかして私、襲われたのかしら?」
「今は冗談言ってる場合じゃないぞ。ここは教会だ」
「……そう。ありがとう……」
「安静にしてくださいね。回復魔法はかけましたが、また倒れるとも分かりませんので」
「口の中が苦い。アレを飲んだのなら、きっと大丈夫ね」
「そんなことよりも、スタミナドリンクを飲まないと倒れるっていう不思議な現象について教えてくれ。そんな体質なのか?」
「それは少し、言いたくない……う、そんな怖い顔で見ないでくれるかしら……話すわよ……」
◇
私は旅人として家を出て、やがてこの街にたどり着いたの。
その頃は魔法も今よりも使えなかったし、アレを飲まなくても大丈夫だったのだけれど……。
「……洞窟の大蜘蛛?」
「そうなんだ!最近のところ若い娘が大蜘蛛に連れ去られて、呪いをかけられて帰ってくるんだ!ウチの娘もついこの間、帰ってきたと思ったら家で倒れて……!頼む旅人さん、あんたに戦える力があるなら。あの大蜘蛛をどうにかしてくれ!このままじゃ、娘がおっちんじまう!」
増長していたのかしら、あの頃の私は。
一人で洞窟に乗り込んで、大蜘蛛の手下を駆逐しつつ進んでいたわ。
そうして、蜘蛛糸で体を縛られて転がされている女の子たちを見つけたのだけど。
「ウツクシイ……カワイイ……」
「ご登場、かしら?」
「キエエエエエエエエエッ!!!」
私は使える魔法全てを以って大蜘蛛と戦ったわ。
でも、あの大蜘蛛の外皮は硬い。全力で魔法を放ったのに、できたのは脚を一本吹き飛ばすことだけ。
結果、逃がすことができたのはたった三人だけ。彼女たちが呪いをかけられているかはわからないし、洞窟の中にはまだ呪いをかけられていない子もいたはず。
……それで、私は大蜘蛛に呪いをかけられて、見逃されて無様にも帰ってきたの。
それからは悲惨だったわ。
今までたくさん使えていた魔法が、一度放つだけで全身が悲鳴をあげるの。
呪いはとても協力で、常に私の中から何かが抜け出る感覚があったわ。今もそう。
けれど、魔法を連発するためにアレを飲んだ時、急にその感覚が無くなったの。
どうしてかはわからないけれど、飲み続ければ呪いの進行を遅めることができる。
だから、いつかあの大蜘蛛を倒して、呪いを解くの。
……これが、ことの全てよ。
◇
「セーリャ」
「はい」
「行くぞ」
「はい」
「い、いくってどこに……」
「決まってんだろ」「決まってます」
「「呪いを解くため」」
完璧に揃った俺たちの声を聞いて、アリスが顔を上げる。
その顔には焦りが浮かんでいた。
「そんなの悪いわ!あなたたちは関係ないのに、どうして……!」
「アリス……さんで、いいんですよね」
「え、えぇ」
「自己紹介が遅れてすみません。私はセーリャって名前です。少し、良いですか?」
「な、何かし、ら……?」
セーリャはアリスを抱きしめた。
アリスの頭を撫でながら、優しい声で、聖母のような笑みで。
「よく頑張りましたね。えらいですよ」
「っ……」
「あなたは私が護ります。もう、一人で頑張らなくていいんですよ」
「私は……ただ、許せなくて……」
「とっても偉いです。あとは、私たちに任せてください」
「……うう……」
アリスの涙は、今にも溢れそうだった。
だが、それをこらえて言葉を紡ぐ。
「私も連れて行って」
「……」
「わたしだけ、なかまはずれはいやよ」
「……しょうがねぇ。行くのは明日だ。準備を整えて、大蜘蛛を退治しに行く」
「はい」「えぇ」
「アリス。本当に、よく頑張ったな」
「……っ……ぐ、ひぐ……っ」
嗚咽が漏れ始め、セーリャの肩に顔を埋めたアリス。
シスターがアリスの背中に触れ、優しく声を投げかけた。
「アリスちゃん」
「…………ぁぃ」
「今晩は、アリスちゃんの好きなシチューですよ」