バグ多きこの世界で生き残れたら上等だと思う【旧名:昔だからこそ】   作:翠晶 秋

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若さを求めた大蜘蛛の慟哭

真っ直ぐに飛来するは大蜘蛛の1番の得意とする蜘蛛糸攻撃。

あれに捕まったが最後、ぐるぐる巻きにされるか捕食を受けるかどちらかだろう。

 

「避けろっ!」

「はいっ!」

「っ……!」

 

三人で別方向に散開することでターゲットを決めさせる。

一番近かったセーリャに視線が向くが、セーリャも黙って攻撃を受けるわけがない。

指輪の能力で加算された身体能力で大きく飛び退き、こちらに視線を送った。

いい判断だ。既に俺はチャージを完了している!!

 

「ハァッ!!」

「ギシャア!?」

 

バキッという背中が割れる音が洞窟内に響く。

クリティカル! 確率をここで引き当てたっ!

 

「ギシャア!!!!」

「っとと」

 

振り返りの勢いを乗せた触肢をとっさに避け、再びチャージを始める。

蜘蛛の脚は複数本あるため、すぐさま次の攻撃がくる。さてはターゲットを俺に移したな!?

っ、右から! これは払うしかない! ダメージは与えられたけど、実質チャージが一回無駄になったか!!

ちっくしょう、バグ技を使う暇がねぇ!?

 

「セーリャ、背中を刺せ!」

「やってみます!」

 

どんどん壁際に追いやられていく俺だが、俺はチームで戦っているんだ。

様子を伺っていたセーリャに指示を飛ばし、どうにか打開できないか考えてみる。

召喚スキルはマップ移動時に使えるスキル、つまり戦闘時には使えない!!

 

「せぇい!!」

「シャアアアアアアッ!!!!」

 

っし、蜘蛛が怯んだ!!

すぐさま蜘蛛から離れて体勢を整える。

周囲を見渡し状況を確認!

 

「っきゃあ!!」

「下がって回復に専念しろ、セーリャ!」

「でも、そしたら戦う人がテロさんだけに……!」

 

大蜘蛛のすぐ近くにいたセーリャが攻撃を受ける。咄嗟に盾として差し出された腕が切り裂かれた瞬間にセーリャの【HP】が消費され、傷が塞がっていく。

セーリャはまだ呪いにかかっていない女性。かかったらどうなるのかわからないが、魔法を使えなくなるのは痛い。ここは下がらせた方がいいだろう。

 

つっても確かに、メインアタッカーとしては装備が心もとない。今の俺じゃ斥候程度が限界。

せめて、剣を買うか人を雇うかすればよかった!

あ、俺ら金がねえんだった! ダメじゃん!

 

「私が出るわ!」

「純後衛職じゃねえか!無理すんな!」

「大丈夫!ねぇ、その槍を貸して!」

「え、あ、はい」

 

セーリャが素手で自分の回復を始める。

杖槍を受け取ったアリスが俺の隣に立つ。

 

「くっそ、どうしてこうなった!!」

「盾くらいにはなれるわ」

「カワイイ……ニクイ……! アアアアアア!!」

「ほら。あちらも、私が目当てみたいよ?照れるわね」

「紙装甲が何言ってんだか! だったら俺が隙を作る! 隙ができたら突っ込め! 魔法は使うな、何があるか分からん!」

「わかったわ……!!」

 

今の会話のうちにチャージを済ませる。

本当はバグで一度の攻撃を重ねて沢山の斬撃にするやつをやろうと思ってたんだけど……作戦変更。

全力で走って大蜘蛛に近づいて振りかぶる!

俺一人で前足4本の触肢攻撃を防ぎ切るのは不可能! だったら、やれることは一つ!

 

「【ため斬り】(投)(かっこなげる)!!」

「ガッ……!?」

「メニューッ!!」

 

戦闘中にメニューを開く!

がんばれ俺、頭と体を別に働かせろ!

メニューを操作しつつ、投擲されたナイフに怯んだ大蜘蛛の懐に潜り込む。

くるりと回転して背中を陣取ると、メインで使っていた二つの触肢を持ち上げた!!

 

 

 

メニュー

アイテム ずかん

そうび 地図

話す◀︎強さ

 

 

 

『今は 話しかけられない!』

 

それで、良いんだ!!

俺も全身がぶれ、会話メニューがそのまま残る。

 

『今は 話しかけられない!』

 

いつまでの脳内に機会音声が響くが、これで、イベント判定と同じになる!

 

「ギシャア!シャア!」

「あっばっれるなぁ!アリス!行け!」

「えっ、あっ!?」

「早く!」

 

俺の体に残りの触肢が突き刺さる。

だが、今の俺はバグで会話モード! アリスに、決定的な指示は出していない!

そんな俺に、当たり判定なんてあるわけねえだろ!!

 

「ッ、あああああああああああッ!」

「ぐががっ、ニクイィィィィィィ!!」

「せえいっ!!」

 

俺ごと胴体を貫いた一撃。

だが、まだこいつは息絶えてない。

圧倒的な火力が、仕留めるためには必要だ。

その圧倒的な火力がないから苦戦している?アホか、今まで何を考えていたんだ俺は。

 

「最後の一撃だ! 遠慮なく撃て!」

「はあああああああッッッ!!」

「ニクイィィィィィィ!!!!!」

 

 

轟音。

 

熱。

 

破壊。

 

今ここに、アリスがどうして終盤まで重宝されるキャラなのかを示す、最強の魔法が炸裂する───

 

 

 

 

青い空の下、少しばかり、外を駆ける女の子が増えた気がする。

それを追う姉もいれば、祖父の手を引いてゆっくりと歩く孫の姿も見える。

明らかな、平和であった。

 

「んっ、ん〜っ……」

 

赤髪を爽やかな風に揺らした女の子は肺いっぱいに空気を吸い込むと、軽く伸びをして見せた。

スキルのクールタイム……ガッツや生命力と呼ばれるそれらを吸い取っていた呪いは、今はどこにも見受けられない。

明らかな平和が、そこにあった。

 

全力の魔法を放ってアリスがぶっ倒れた翌日。

その晩の内に、呪いで生命力を吸い取られて眠り続けていた女の子たちの体調が一斉に良くなり、朝には元気に飛び起きるようになった。

 

「テロさん、あれ食べたいです、この前の氷のお菓子!」

「装備を整えるためだ、節約節約」

「そ、そんな! 私、頑張ったのに!」

 

会話モードバグで当たり判定が無かった俺だが、指示を出して『会話』を終了させてしまったため、あのあと爆発に巻き込まれてそのままごっそりとHPを持っていかれてショックで気絶した。

気がついたら、真夜中だというのに必死に俺に回復魔法をかけていたセーリャが目の前にいて、おかしくて笑ってしまった。

アリスと俺を運んでくれたのはセーリャだったようだ。最近、セーリャが指輪のステータス加算能力をフルに使っている。

とにかく、今回の1番の功労者はセーリャだ。

 

……だというのに、報酬はあまり美味しく無かった。

どうやらここの偉い連中は、この()()()()を大きな事件とは捉えていなかったらしい。

呪いの存在も立証できず、もちろんそこに事件解決量は発生しない。

結果、我々が手に入れたのは大蜘蛛の素材や糸を売った金だけとなる。

その金だって、アリスがぶっ放した魔法で吹っ飛んでいて使えるところはろくになかったし、運搬や探索者の雇い金としてかなりの量が差し引かれ……考えたくない。

 

思わぬところでこのゲームのブラックなところが浮いてきたような気がするが、

 

「……救ったのよね。ここを。護ったのよね、笑顔を」

「やりましたね、テロさん!」

 

まぁ、この二人の顔を見てるとそれもどうでも良くなってくる。

 

「あぁ、二人が頑張った結果だ。ちゃんと、この街は救われてるよ」

「……そうね」

「それとセーリャ」

「?」

「一個だけな」

「!」

 

露店に駆けていくセーリャを見ていると、対してそこらの少女と変わらないんじゃないかという気がしてくる。

幸せそうにオレンジ果汁のアイスを頬張る功労者は、ここ1番の笑顔を見せた。

 

 

 

 

「連れて行きたいところって?」

「まだまだ。こっちよ」

 

こんなところ、ゲーム時代では行けなかったぞ。物理的に。

森を抜け坂を上がり、茂みを分けて進んでいく。

 

「ここよ」

 

かき分けた先に、風が吹き抜ける。

柔らかい光で満ちた景色は、今までの苦労や涙がちっぽけに見えるような……そんな、美しい景色だった。

 

「こんなところ、あったんだな」

「知っている限りでは私しかここを知らないの。どう?ここから見下ろす街は、最高でしょう?」

「あぁ……綺麗だ」

 

願うなら、いつまでもここにいたい。

肺いっぱいに澄んだ空気を吸う。

感動した。

 

「……ねぇ」

「ん?」

「あなたとセーリャは、結婚しているの?」

「ぶっ!? いやぁ……多分、してる」

「多分?」

「婚約したのって、この指輪の能力なんだ。式もあげてないし、なし崩し的になってしまったし……。セーリャは自分のことを妻だって言い張ってるけど、アイテムに縛られた結婚なんて……なんか、違うだろ?」

「……そう」

 

アリスが、何かを考えるように街を眺める。

歌う子供、笑う旅人、眠る年寄り、二つ目のアイスを食べるセーリャ。あっ、あいつ値切ったお釣りで別の店からもう一本買ったな。

 

「折り入って、お願いがあるのだけど」

「……?」

「私を貴方達の仲間に入れてもらいたいの。二人を邪魔するつもりはないんだけど、私も魔法が沢山使えるようになったんだし、その……ええと……」

「ええと?」

「……ダメ、かしら?」

 

セーリャはきっと、いや確実に……笑うことだろう。

もしくは、ぽかんとした表情を浮かべるかもしれない。

「え?仲間じゃなかったんですか?」と。

そしてそれは、もちろん俺も同じ。これから先、アリスの火力は必要不可欠だし、何より……。

 

「よろしく、アリス」

「……っ!うんっ、よろしくっ!!」

 

すっごく、可愛いんだ。

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