バグ多きこの世界で生き残れたら上等だと思う【旧名:昔だからこそ】 作:翠晶 秋
「5体目!!」
「次、後ろ!!」
「ッ!!」
アリスの指示で振り向きざまにナイフを投げれば、タイミングよく蜘蛛の腹に突き刺さる。
地に伏した蜘蛛からナイフを抜いてドロップアイテムを回収する。
「大蜘蛛の残党を5体撃破。……正確には6体だけど、とにかくクエスト達成ね。依頼人のところへむかいましょう」
「お疲れ様です」
アリスがパーティメンバーに加わったことから、俺たちは本格的に資金を集め始めた。
スキル解放のためにモンスターを倒す必要もあったし、俺もそろそろ上等な武器が欲しいからな。
蜘蛛の糸を巻いた棒を袋に詰めると、アリスが手をこちらに向ける。
「?」
「功労者を荷物持ちにさせるわけにはいかないわ」
「いや、いいよ。むしろ帰り道なんかあったら魔法ぶっ放してもらわなきゃだし」
「……不服ね」
「いいんだよ。な、セーリャ」
「はい。甘える時は甘えるのが女の子です!」
セーリャは下手に荷物を持とうとは言わない。
俺が意地でも荷物を背負うことを理解してるし、それよりも周囲の警戒をしたほうが俺のためになると知っているから。
「それにしても、この洞窟を取り替えしてなにかメリットがあるのでしょうか? 蜘蛛の根城になるくらいですから、それほど価値があるようには……その、見えないのですが」
「さぁ? 洞窟に住んでいた蜘蛛とかのモンスターが森にでるのがまずいんじゃないか? よくは知らんけど」
「なるほど。そうしたら、木こりもおちおち休めないわね。 勢力を拡大されたら、森全体が蜘蛛の支配下に置かれることになる……そういうことでしょ?」
「たぶんね」
セーリャがぽんと手を叩く。納得したみたいだ。
森のしめっぽい空気の中を、セーリャとアリスが並んで歩く。
二人の背中には、天空族に伝わる杖槍と、赤い装飾の上等そうな杖がある。
「……武器、かぁ」
「武器、ですか?」
「え、あぁ……うん。二人とも質が良さそうな武器を持ってるでしょ? けど俺はこの……クラフト性能がついてるナイフだけ。そろそろ、ちゃんとした武器が欲しいんだよ」
「たしかに。これから勇者に立候補するなら、試験官と渡り合えるくらいの武器は欲しいわね」
勇者に立候補するとき、やりかたは主に二つある。
ソロで立候補する方法と、パーティで立候補する方法だ。
試験官とは近接で戦うのがメインなために魔法を扱う後衛色が不利になる。だからパーティを組んで連携力もろとも審査してもらって……ま、詳しい話はまた今度。
とにかく俺たちはパーティで勇者に立候補する。リーダーは俺……俺だよね? あ、うん。ありがと。安心したわ。
俺なので、俺が先陣切って戦う必要がある。そのあとはパーティの連携力とかバランスとか審査してもらって……。ま、簡単に言えば、俺が勝てば良いって話。
そのために、武器が必要です。はい、以上。
「なにがいいかなぁ……剣がやっぱり無難かなぁ……でもスキル解放したら剣以外にもポイント振れるしなぁ……」
「最初は剣で良いと思うわ。見合う武器が後から手に入っても、売ることができるし」
「やっぱ剣かなぁ……中古でも需要あるもんなぁ……」
ゲーム時代はボスに合わせて武器を変えて戦ってたから、器用貧乏だしなぁ……。
こう、これ! って感じの武器はなかったんだよな。
でもまぁ、剣が良いか。リーチあるし、試験官は基本的に剣使いだし。
「剣にするか」
「じゃあ、依頼人さんから報酬をもらったら鍛冶屋さんですね。良い剣があると良いですね」
「じゃあ目利きは頼んでいい?」
「お任せください!」
そうして日が暮れる前になんとか王都へ戻った俺たちはしっかりたっぷりクエストの報酬を受け取り、
日が暮れた頃になんとか鍛冶屋の前にありついたのだった。
「なぁ。もう閉店ギリギリなんだがお前さんら?」
「だって! だって思いますか!? 依頼した人が奥さんに叱られてそれが夕方まで続くなんて! あんな雰囲気の中『クエスト達成しましたぁ』なんて突っ込めませんて!」
「お、おう……災難だった、なぁ……」
体力のないアリスが四肢を突いて突っ伏し、ゼェハァと荒い息を上げている。
セーリャが背中を撫でているところを呼び寄せ、本題の剣へと目を通した。アリスはもう少しかかりそうだ。
「で、どれが良いと思う」
「むむむ…………」
じっと並んだ剣を見つめるセーリャ。
俺も習って意味ありげに剣を睨みつけては見るが、うん、やっぱどれも同じに見えるわ。
よくある「おっさん……これらの剣、本気で打ってないな?」みたいな展開にはならなそうだ。しょぼん。
で、ちらりとセーリャを見ると……。
「ぐぐぐ……」
「うわシワすごっ」
眉間にこれでもかとシワを寄せ、俺の財布と値段を交互に見ていた。
「い、良いのはあった?」
「何本かは良さげなものがあったのですが……なんというか、値段が……」
「ほう。一体ウチの剣のなにが値段と不釣り合いなのか、言ってくれや」
にゅっと俺とセーリャの間に出てきたおっさんのスキンヘッドに内心めちゃくちゃびっくり。
それも意に介さず、セーリャが解説を始めた。
「テロさんの戦闘スタイルはヒットアンドアウェイなので、できれば軽めの剣が良いと思っていました。ですが、ここらにあるのはほとんどが重く、かなりその……多人数が揃って持つのに、つまり兵士が持つのに適していると思います」
「ほうほう」
「それで、ここにある軽めの剣は、なぜか値段が普通よりも高く設定されているような気がします」
そうなの? と思って見てみれば、確かに微妙に高い気がする。
なんだっけ……ショーテル? 刀身が曲がっていてアラビア〜ンな感じのする剣が一際高い。
次の言葉を待てば、セーリャが再び口を開く。
「テロさんに合う剣がここにない、話はそれだけで済む話ですけど……。すみません、どうして軽めの剣が置いてないんですか?」
「軽めの剣は打ちづらいからな。質を良くしようとするとどうしても重くなっちまうのよ」
「なるほど、質を考えてのことですか……私、目が利かないのですが、テロさん、ここの商品は全て質が良いことがわかりましたよ」
「お、おぉ……。おぉ……?」
結局なんなんだろう、今のやりとり。
お、俺の剣はどうなったんだ……?
「それで───」
「ほう、やりやがる───」
あ、もう理解できないとこまで行っちゃった。これは任せたほうがいいや。
あ、アリスさん大丈夫です? あぁ、大丈夫ならよかったです。回復かける? いらない? あぁ、うん。
微妙に青い顔をして立ち上がるアリスを介抱すると、もうだいぶ良くなったようで杖に体重をかけながら自力で立った。
心なしかツインテールもしょんぼりしているように見える。大きく作られた王都が悪いと思います。
「ありがとう。もう大丈夫よ」
「なら良いんだけど……なぁ、その杖ってどこで買ったんだ?」
「これ? これはお父さんの手作りよ」
「へぇ……」
ゲームではそんなこと明かされずに「アリスの杖」とだけ表記されてたな。
やけに魔法を使った時の攻撃力が高いと思ったら……大魔道士様のハンドメイドなら納得だ。
「先端に赤い宝石が付いているでしょう? これはお父さんの魔力を凝縮して……わからないわよね。ええと、とにかく、私と妹たちの分、世界に5本しかない特別な杖。大切な物よ」
「へぇ、世界に5本しか……ってちょっと待て! お前、妹いるのか!?」
「え、えぇ……それがどうかしたの?」
な、なんだその情報!! ゲームのときはそんなの影もなかったぞ!
っていうか、ほぼ終盤まで使われる最高ランクの杖が世界に5本!?
で、アリスレベルの魔法使いがあと四人も世界にいるのか!?
「…………自分の見聞の無さが恥ずかしいな」
「見聞っていうか、私の家系図を知っていたら普通に怖いのだけれど」
「あぁうん……そういうことじゃないんだ、ごめん」
いやぁ……もしアリス含めた姉妹五人が一箇所に集まって覇王討伐に向かったら……かなり捗るだろうなぁ……。
でも場所が知らない以上、集めるのは困難。
もう少しアリスと仲良くなったら、協力を仰げないか持ちかけてみよう。
「……で、セーリャは? どうだ、そっちは?」
「なかなか良い交渉をしました」
「おう。まさかこんな嬢さんがいるとはこっちも思わなんだ。良いのを持ってってやるよ」
「お願いします。ではテロさん、なにがあったかは帰り道に話しますので、今日のところは帰りましょうか」
「え? あ、うん……アリス、行くぞ」
「は、走らないわよね……?」
上機嫌で店を出るセーリャを追っていくと、セーリャが嬉しそうに語り出した。
曰く、特別な交渉をして、双方得な商売をしたんだとか。
「それで、あちら側に先に半分払い、素材を揃えてもらって───」
セーリャはとにかくおっさんを褒め、信頼していることを表に出しまくり、提案を呑んでもらえるよう好感触にしたらしい。
深夜ということもあり眠そうにしているアリス。
「通常の剣と同じ値段で、良いのがあればそれを、無ければ素材を───」
パーティの財布はセーリャが握っていたほうが良さそうだな、なんてことを思いながら歩く。
アリスがうつらうつらと船を漕ぎ始めた。
「で、最終的にはかなり安めの額で良い品質の物が手に入ることになりました!! ……急に財布出してどうしたんですか?」
「パーティの財布はお前が握れ」
「は、はい……」
アリスは寝た。