バグ多きこの世界で生き残れたら上等だと思う【旧名:昔だからこそ】   作:翠晶 秋

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吾輩は軽量金属大剣である。名前はまだない。

「ふっ……あぁ……」

「随分とでっけえあくびだな」

「しょうがないじゃない、眠かったんだもの」

「テロさん、お茶です」

 

おっ、どうも。

いやあ、なんか色々あり過ぎて2年くらい寝てた気がするな!

覇王を倒すためにも、天空族のセーリャ、大魔法使いの卵アリスと一緒に頑張らないとな! まずは勇者候補になるために試験官と渡り合える武器が必要だなー!!!!!!!

 

なんてことを考えていたら、教会のドアをノックする音が。

シスターさんが出て何かを話している。今日の牛乳の配達だろうか。

 

「なあセーリャ。そう言えば俺の武器ってどうなったんだ?」

「武器……ですか?」

「そういえば、鍛冶屋と何かを話していたわよね」

「そんときもアリスは寝こけてたんだよな」

「ねっ、寝こけてないわよ……」

 

目を泳がせるアリス。魔法使いってみんなたくさん寝てるイメージあるけどなんで?

 

「ふふ。それでしたら、素材を前もって全て購入した後に加工費を支払うという形に落ち着きました。採取スキルを持っている方を雇い素材を集める案もあったのですが、それですと本末転倒ですので……」

「さすがセーリャね。パーティの財布を担うだけあるわ」

「地頭が良いんだよなセーリャは」

 

簿記三級とか取ってそう。結婚して! もうしてるわ。

 

「あの方のモチベーション次第になりますので、届くのはあと少しかと思いますが……どうしてですか?」

「いや、特に何かあるわけじゃないんだけど。そろそろ勇者に立候補するのも悪く無いんじゃないかって思ってさ」

「……確かにそうですね。一度鍛冶屋まで行って確認を取ってみますか?」

「おー、頼んだ」

「では行って参ります」

 

え? もう行くの? まだ朝早いよ? あらまあ行っちゃった。

パンを咥えてとてとてと玄関へ向かっていくセーリャを見送り、朝ごはんの卵焼き? をひとかじり。

 

「アリスは今日は何する?」

「決めてないわね……。まぁ、近場で適当な依頼でも受けたら良いんじゃないかしら。蜂の巣駆除とか」

「あー、そういうの得意そうだよなアリス」

「炎の魔法には自信あるのよ」

 

そう、アリスは特に炎と爆発の魔法の才能を持っている。

攻略本のウラバナシ!みたいなページにも、アリスは炎や爆発の攻撃魔力ステータスだけ上限が文字通り桁違いになっているとか書かれていた。公式チートなんだよね、もう。

 

「俺はどうしようかなぁ……」

「て、テロさんテロさん」

「セーリャ? どうした?」

 

さっき出て行ったはずのセーリャが縦長の木箱を抱えて帰ってきた。鍛冶屋まで行ったにしては早すぎる。

 

「もう、届いてました……」

「え早っ」

「牛乳よりも先に教会の前に置いてあったようです……。腕は確かなようですね……」

 

勇んで出て行ったというのにそこにPON☆とおいてあったから肩透かしくらったのか。

まあええわ。

 

「じゃあ早速開封してみるか? 俺の剣……なんだよな?」

「はい。ぜひ開けてみてください」

 

セーリャとアリス、そして教会のシスターと子供たちが見守る中、ゆっくり箱を開けていく。

赤い布がかけられた何かだ。ピアノの鍵盤の上にかけられたやつみてえだな。高級感がある。

して、本命の剣の仕上がりは?

 

「……おお……」

「すっげー! 本物の剣だ!」「でっけー!」「おれが持つ!」

「ちょっ、ガキどもあぶねえぞ! あと俺の剣だ! ベタベタ触るんじゃねぇ!」

「「「「けちー!!!!」」」」

 

けちってなんだお前ら。

……布の下には大剣が鎮座していた。

柄が長く、鍔が縦にした円盤のような形をしている。真ん中にある小さな赤い石が丸くて綺麗だ。

そして、その鍔からすらりと伸びる白銀の───陳腐な言葉だが───刀身が、俺の顔を反射して映していた。

そしてその横に、革で作られた鞘がある。紐が伸びているから……そもそも剣が大剣と呼べるほど大きいので背負う物なのだろう。

俺には腕輪があるから関係ないけど。

 

生唾を呑んで柄に触れる。

持ち上げてみると見た目より重く無い。例えるなら、金属パイプの椅子を持ったくらいの……重いには重いけど持てなくは無いって重量。

 

「綺麗な剣じゃない」

「な。なんか使うのがもったいねぇわ」

「使うために作ってもらったものなので、使ってください……?」

「でもほんとにもったいなくて……なんか感動だな。俺の武器!って感じでさ」

「その気持ち、少しわかるわ。自分専用のものが手に入ったときはとても感動するわよね」

 

アリスが机に立てかけた、赤い装飾の杖を撫でる。

確かあの杖にもバックストーリがあって、父親が娘に残した5本の杖の一つ……だったはず。

アリスの最強装備では無いけれど、序盤、中盤の間は使いっぱなしでも大丈夫なほどハイレベルな武器だった。

 

それはそうとして、武器のオーダーメイドって初めてだ。

テロスター=サーガでは市販の武器しか使えなかったから、なんかワクワクしてくる。

 

「あぁ斬りたい、肉でも野菜でもいいから斬りたい……」

「あ、危ない人みたいになってますよ……」

「その気持ちもわからなくは無いのだし、討伐でも受けましょうか。……あ、でも冒険者登録がまだだったわよね?」

「斬りたい斬りたい斬りたい……」

「わかったわよ……私も協力してあげるから、落ち着きなさい」

 

腕輪に剣を登録、そして収納。

パンを腹に押し込んで俺は駆け足で部屋を出た。

 

「えっ、もう行くの?」

「先に言ってるぞ!」

「あっ、テロさん、待ってください……!」

 

後ろから声が聞こえるけどまあいいか!

どうせ後からついてくるし!

 

俺の冒険は、まだこれからだ!

 

 

 

 

───なんて言っていた時期が俺にもありました。

 

「やだー! 俺の特注品なんだぞー! アレで戦わせてくれよお!」

「仮にも勇者候補に立候補するって奴が駄々こねんな! モンスターの前で武器の選り好みができると思ってんのか!」

「びええええ!」

 

冒険者ギルドに併設された、石造りの施設。

覇王を討伐する勇者……()()を募集している、王都と冒険者ギルドが手を組んで建てたものだ。

 

「だいたいな、お前な。勇者候補に立候補するのはいいが、身分証も無い奴の武器を容認する俺たちじゃねえんだよ」

「けちー!」

「ケチじゃねえ子供かお前」

「いい加減諦めなさいよ……私たちも同じなのだから」

「あ、アリスさんは冒険者認定証あるんで良いっスよ。形上、身体測定とメイン攻撃の威力テストだけで済むっス」

「扱い違いすぎるだろ!?」

「身分を証明できねえやつを受け入れてるだけありがたいと思え!」

 

ちくしょお……俺の剣がぁ……。

まあ駄々こねたにはこねたけど、理由は理不尽でもなんでも無いし最初から納得はしてたんだよなあ?

俺と同じくセーリャも冒険者登録していないので身分証が無い。だからアリスとは比べ物にならん量の試験を受けなきゃならない。

 

「剣ならすぐに返してやるから。今日中に終わるから頑張ろうぜ、少年」

「はーい」

「アンタら、読み書きは?」

「できます」

 

セーリャが答える。

俺も日本に住んでたんだし、義務教育は出ている。

読み書きくらいは…………。

 

「じゃあ、これはなんて書いてある?」

 

………………。

 

「薬草、です」

「うん、正解だ」

 

わから、ない……!?

いや、だって俺この世界に来てからもたくさん文字は読んで……!

 

 

 

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話す 強さ

 

 

 

 

日本語だこれ……!!!!

そういえばセーリャも俺の図鑑を覗き込んで「なんて書いてあるんですか?」とか言ってたな! そうか! テロスター=サーガと日本って言語違うのか! 話してる言葉は日本語に聞こえるけど文字が違え!

と、そんな俺の沈黙に気付いたのか隣のセーリャが俺を見る。

 

「…………」

「テロさん……あの、もしかして……」

「読み書き……できません……ッ!」

「おいおいマジかお前……」

 

だってだってわかるわけないじゃん異国の言語とか!

 

「か、代わりに私が読みますので、読み書きは大丈夫です!」

「お嬢ちゃん、甘やかしはそいつのためにならねえぞ」

「お、教えます! 読み書きを!」

「……はぁ……命拾いしたなぁ坊ちゃん。冒険者ギルドの試験なら書きはともかく読みができてない時点でアウトだぞ」

「はい……精進します……」

「ま、読み書きは嬢ちゃんが受けるとして……坊ちゃんは初っ端からマイナス点だな。頑張って挽回しろよ。……そんじゃ、名前と扱える武器、特技等を書いてくれ」

 

セーリャに2枚の紙が手渡され、机が運ばれてくる。

アリスは既に外に出て魔法の威力を測定しているようだ。さっきからボンボン音が聞こえてくる。

 

「ええと……名前がテロ、それとセーリャ……。扱える武器は……剣で良いですか?」

「うん。悪いね」

「いえ、いずれはテロさんにもできるようになってもらいますし。特技は……」

「召喚の魔法で良いんじゃない?」

「わかりました」

 

さらさらと紙に事項を記入していくセーリャ。

その文面を見て、兵士が俺の顔をまじまじと見た。

 

「お前召喚魔法使えるの?」

「まあ、ちょっとだけ」

「基礎魔法以外の魔法が使えるのに剣士やってるのか。どうせなら召喚士とかやれば良いのに変な奴だな」

「後衛だけだとバランス偏るんで」

「大体その腕輪もなぁ……。アレだろ? 大魔法使い? だったかが発明したって言う、武器が出るまあまあの値段するやつ。そんなもん持ってるとかマジモンの坊ちゃんかよ」

 

えっ何それ知らない。

この腕輪そんなバックストーリーあったの?

 

「手に入らないわけじゃねえけど、思いつきで買おうって思える額じゃねえんだよな」

「はえー…………そうだったんだ」

 

装備品アイテムとしてカウントされてなかったから全然知らなかった……。

こういう、ゲームでは明かされなかった世界の謎の深掘りはすごく楽しい。「ゲームのシステム上そうなってる」ってアイテムや現象一つ一つにも理由がつけられてるの、感心しちゃうよね。異世界転生の謎についても教えて欲しいくらいなんだけどね。

 

「書けました」

「お、ありがとうな。……字も綺麗だし語彙もある。知識テストは飛ばしてもいいだろ。坊ちゃんは読み書きできないから論外で……獲物と特技は剣と召喚魔法。嬢ちゃんの方は基礎魔法と回復魔法、近接格闘術と……何か跡があるんだが消したか?」

「間違えてしまいまして」

「ふうん? まあいいか。じゃあ次は身体能力と接近戦、魔法の威力測定の試験だ。外に行こう」

 

ば、挽回しなきゃ……! アリスとセーリャだけが勇者候補になってしまう……!

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