バグ多きこの世界で生き残れたら上等だと思う【旧名:昔だからこそ】 作:翠晶 秋
「それでは、魔法の使い方と武器の出し方を説明します」
気を取り直して、セーリャが俺の手に視線を向ける。
見ると、両腕に控えめな装飾の腕輪が通されており、真ん中に宝石が埋め込まれていた。
「メインウェポンの出し方を説明します。○ボタンを押してくだ……なんですか○ボタンって」
「いや俺に言われても。多分右のことだ」
「え、えーと……。どう説明すれば良いのやら」
ゲーム内チュートリアルの台本だからな、それ。
本人は自分の口から出た言葉がわからなくて困惑しているのだろう。
「使えねえ……」
「なんですと!?」
「ゲームだとボタン押したらキャラクターは腕を振ってたな……」
ブンと腕を振るも、手に武器はやってこない。
「イメージが重要なんじゃないですか?物語では顕現する武器の名前を叫んで武器を出していました」
「うーん……。『出でよ』とかか?」
フォン。
……出んのかよ。
手のひらに現れたのは小さなナイフ。
確か初期装備の『小さなナイフ』だったはず。
「おお、出ましたね。サブウェポンも同じ要領で出るのでそこは割愛しますね」
「お、おう」
「それでは魔法を教えます」
メインウェポンである杖槍……後半で合成してやっと手に入るようになる【合成武器】を出して、セーリャは構える。
その瞬間、セーリャの武器の穂先から炎の塊が放たれ、空に緋色の花を咲かせた。
「……使えるじゃないですか」
「なんでだろうなー」
チュートリアルだからです。
ここでプレイヤーはセーリャが威力の高い魔法を使えることを認識し、ここからセーリャは魔法をいつでも放てるようになる。
「あの」
「ん?」
「覚えてますよね?初対面で私の……」
「……あー」
「『ファイアボール』ッ!!!!」
俺の顔面に10のダメージ。
じゃなくて。
「うん、熱いよ?ふつうに熱いよ?」
「チッ、面の皮が厚いんですかね……」
「ちょっとうまいけど熱いからね?」
なお、『テロスター=サーガ』にはもちろんHPがある。
攻撃を受けた際に、HPを消費して傷を治してくれるのだ。
HPが切れた状態で攻撃を受けると普通に怪我をする。
つまりは、HPは体力の表れではなく、残り再生回数の表れなのだ。
HPは鍛錬やらなにやらで増やすことができるが、もちろん今の俺は純粋無垢のなにもしていない状態。
RPGで言うところのレベル1だ。
その低いHPでも受け止められたということは、セーリャもそれなりの手加減をしてくれたのだろう。
……つまり。
「素直じゃないなあ」
「なっ、なんですか、急に。いいから魔法を練習しますよ」
「……三角ボタン」
「まずは△ボタンを……え゛っ」
ゲームでは魔法は【モンスター狩人】のアイテム選択のように、使う魔法を選択していた。
手順としては……△ボタンを長押ししながら十字キーの横で魔法選択。
これ伝わるの一部の人だろうな。
「使い方わかるんですか?」
「いやぜんぜんわからんけどどうせ『出ろ』とか念じる系のじゃねえかなって」
ビュウと強い風が構えた俺の左手から放たれた。
出ますよね、知ってた。
「え、ええ……」
うむ、チュートリアル役のセーリャさんも困惑気味である。
最初から使える四属性の魔法の一つ、炎の魔法を使おうとすると、脳内に浮かんだ風のイメージが燃え盛る火となった。
出ろと念じる。ライター程度の火が飛んだ。
……どんな仕組みなんだこれ。
「と、とにかく、魔法は使えるみたい……ですね」
「そうみたいだ。さて、あとは地上に降りるだけなんだが」
「……地上」
「そ。どうにかして降りれないもんかなって」
「一つだけ……降りる方法があります」
この浮島から降りる方法。
それが、最後のチュートリアル。
「この浮島のダンジョン……『天空の大樹』を攻略することです」
「よし行くか」
「驚かない!?」
◇
大樹の根元付近に、小さな石の祠がある。
セーリャが槍をかざすと祠の紋様が光り、大樹に人が入れそうな穴があいた。
これがダンジョンの入り口。
ダンジョンには塔タイプ、地下迷宮タイプ、洞穴タイプがあり、今回のダンジョンは大樹の葉の中にある水晶に触れることでダンジョンクリアとなる。
ダンジョンは全部で4フロア。ダンジョンの構造上どうみても大樹に入りきらないのだが、もうご愛嬌だ。
右手を振って小さなナイフを出す。
セーリャも俺がナイフを出したのを見て槍を構え直し、二人でダンジョンに挑戦した。
なお、ゲームにはダンジョンに入る前にこのダンジョンの説明があったはずなのだが、今回は無かった。
ストーリー無視はやっぱりキツイかな。
「大樹のダンジョン……中身がこうなっているとは」
「そっか。お前は初めてなんだな」
「あなたもでしょう?……あ、そういえば名前を聞いていませんでした」
ちなみに名前を聞くイベントはチュートリアル前の主人公が起きた直後にある。
もうここまでぐちゃぐちゃならどうでもいいや。
「そういえばそうだった。俺は……テロ。テロって名前だ」
「テロさんですか。わかりました。テロ、テロ……」
なんか違う意味のテロに聞こえる。
「セーリャはなんでついてきたんだ?ダンジョンに」
「あなたは私がいないとダメでしょう。非常識で装備も弱くて……」
「言いすぎじゃね?」
「…………天空族の子孫を残す前に死んでもらっては困りますから」
照れ隠しである。
しばらく進んでいると、お馴染みの青いフォルムが見えた。
「テロさん、モンスターのバブルです。せっかくですから攻撃してみましょう」
「りょーかい」
しゃがんで足跡を消し、バブルが後ろを向いたところにナイフを突き刺す。
背後からの先制攻撃、この二つが合わさると初撃が必ずクリティカルになる。
バブルの頭上のHPバーがすべて消え、ナイフの先には青いゼリーが残った。
名前をバブルゼリーというこれは序盤の装備の強化素材となる。
バブルゼリーはどこかへ消え、代わりに後ろからセーリャが抱きついてきた。
「アイテムをゲットしましたね!アイテムはメニューから確認できま……メニュー?メニューって……?」
「あー、うーん。なんだろうな、シラナイナー」
『メニュー』とか適当に念じれば……ほらみろ出てきた。
目の前に現れた水晶パネルのようなソレはセーリャには見えていないらしい。
メニュー
アイテム◀︎ ずかん
そうび 地図
はなす ???
アイテムの欄をタッチするイメージ。セーリャがいるのに虚空を指差すとかできない。
アイテム
バブルゼリー×1
よーしよし、こんなもんか。
『閉じろ』……うむ、閉じた。もう何も言うまい。
あとの欄はセーリャがいないときや寝ているときに試すとして……。
「階段を見つけましたね!階段を上るか下ると次のフロアへ行けますよ!」
そう、1フロアと2フロアはチュートリアルフロア。
1フロアでモンスターとの戦いとメニューが開けるようになるのだ。
まあそれはいいんだが、セーリャのセリフがすごくチュートリアル。
『!』とか普段つけねえだろ。
階段を上ると当然だが2フロアについた。
バブルを一匹ぶん殴って進むと金の装飾の箱が見えてきた。
セーリャがまた口を開く。
「宝箱を見つけましたね!宝箱に近づいて○ボタンを……○?まる?まるぼたん?」
「もう気にするな」
宝箱を開けると中に入っていたのは薬草。
HPを微量回復させるただの薬草である。
これでアイテムは二種類。
くくく……順調だ。この薬草は使わないようにしよう。
しばらく彷徨っていると階段を発見、3フロアへ。
たしかここから本格的なダンジョンなんだよな。
バブルを殺めていると、レアドロップが出てきた。
バブルをモチーフにしたデザインのピアス……バブルイヤリングだ。
これは序盤ではアクセサリーとして高く売れる。いしし、儲けものだ。
あまり代わり映えしないな……。
まあ最初のダンジョンだからわかりやすくなってるし、モンスターの配置が階段に誘導するように配置されてるんだよな。
とまあ、4フロアに繋がる階段を見つけたわけだが。
「いました、ダンジョンボスのアルラウネです!」
4フロアはボスフロア、終盤で雑魚モンスターとして出てくるアルラウネさんが出てくるのであった。