バグ多きこの世界で生き残れたら上等だと思う【旧名:昔だからこそ】   作:翠晶 秋

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ダンジョンボスを倒したい

 

「アルラウネです!」

「知ってる。あいつが射程圏内に入ったらぶっ放していいから」

 

小さなナイフを取り出して、魔法のイメージを炎に変える。

炎は使う気は無いけど……ま、一応。

このゲームのNPCは勝手に行動する。なんたってアクションゲーム、いちいちコマンドを選択していたら自分の操作がおろそかになるから。

セーリャは基本的に槍杖で殴るか魔法を放つことで相手にダメージを与える。

魔法を放って、M P───まほうポイントが無くなったら近接がデフォルトだ。

細かく命令もできるらしく、調べた限りだと仲間に指示を出してプレイヤーも操作するとかいう廃人もいたらしい。

 

もち、俺はそんな廃人ではないのでセーリャには好きにしてもらう。

んで、戦闘はセーリャに任せて俺は近くの突出した岩場へ。

 

「なに逃げてるんですかぁ!?ゲンメツです!」

「逃げてねぇよ!アルラウネをこっちにおびき寄せてくれ!」

「おびき寄せる?なにがあるんですか、おびき寄せて!」

「俺が喜ぶ!」

「───っ!コレは指輪のせい、コレは指輪のせい……!ああもうわかりましたよ!あとでご褒美くださいね!」

 

セーリャにこちらにおびき寄せる指示を出し、岩にもたれる。

セーリャがジリジリと寄ってくる。

アルラウネがこちらに気づいた。

触手が俺を攻撃してくる。

 

迫り来る触手を俺は──────真正面から食らった。

 

「なっ!?」

「イッテェ!?」

 

吹き飛ばされる俺。

後ろには岩。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬目を瞑る。

空白。

そして振動。

 

「ちょっ……!?」

「キシャ……!?」

「ああああああっああああっああああ揺れるううううううう」

 

俺の体は岩にめり込み、当たり判定からガタガタと上下に揺れていた。

挟まり次元バグ。

アルラウネをを倒すに当たって見つけた、必勝法。

ナイフを構える。

 

───ナイフには、『投げ』という概念がある。

装備アイテムをぶん投げて攻撃する。もちろん、投げたナイフを回収するまで装備は素手になってしまうのだが……。

 

「ああっ、ああああああああああ」

 

ガクガクブルブルと位置揺れによって振動する俺の手には、何本ものナイフが握られていた。

この強さは、投げた先からナイフが手元に増えることにある。

上手い挟まり方をした場合は、相手の攻撃も届かないのだ。

 

「せええりゃああ、よけけけけっろろろろろ」

「え?え?え?……はい」

 

でたらめにナイフを投げる。

どうせ揺れている、狙っても当たらない。

下手な鉄砲百撃ちゃ当たる。

放たれた無数のナイフはアルラウネを地面に縫い付け、さらに触手の大半に突き刺さった。

 

「hayセーリャ!」

「はいっ」

 

セーリャが飛び跳ねる。

身動きが取れないアルラウネの喉元にセーリャが槍杖を刺し、炎の魔法で内側から爆散させた。

HPバーが一気に消え去る。

 

「「やった!」」

 

ダンジョンボス、アルラウネをいとも簡単に討伐した瞬間であった。

 

 

 

 

「それはそうと、ちょっとこれ引っ張ってくんない?」

「それ、どうなってるんですか……」

 

バグの存在は教えない。

 

「俺の力が物理法則を越えた結果だ」

「そ、そんな能力が……?」

「そうそう。これからもたまにあるかもしれないから、あってもノーコメントで頼むな」

「えぇ……?まぁ、はい……」

 

流石はお姫様、優しく寛容で吸収が早い。

セーリャの手が俺の腕に触れる。

……小さいんだな、手。

 

「これだけなのにちょっとドキドキしてる自分が情けないです……指輪って呪いの装備なんでしょうか」

「そのドキドキは自分に害があると思うか?」

「それ、は……無いですけど」

 

すぽんと岩から抜けた俺に、赤面しつつも安堵の視線を向けてくるセーリャ。

 

「なら呪いの装備じゃないな」

「むう……装備の効果による恋心なんて偽物です」

 

セーリャはしばらく頰を膨らませた後、頭をこちらへ向けてきた。

すわっ、頭突きかと思ったが、どうも違うらしい。

 

「ご褒美」

「あっ」

「ナデナデしてほしいです」

 

あぁー……ご褒美がナデナデって……いやはや。

差し出された頭に、躊躇いがちにもぽんと手を乗せる。

髪、サラサラだ……。

 

「えへ、んふふ……」

 

首回りを撫でられる猫のように目を細めるセーリャ。

……首回りを撫でられる猫。

顎を持ち上げ、首筋を軽く撫でる。

 

「んにゃっ!?な、何を……んっ……」

 

色っぽい声を上げるセーリャに調子に乗った俺は、さらにヒートアップして撫でる力を強める。

逃げ出そうとしたってそうはいかない。

腰に手を回して逃げ出せないようにガッチリガード、首筋から顎の下までを執拗に撫でる。

 

「ん……やめっ……ぅぁ……んふゅっ……!」

 

ぴくぴくと痙攣し始めた体に、トドメの一撃。

顔を近づけて耳元に。

 

「ふー」

「いっ…………にゃぁぁぁぁぁぁ〜〜〜ッ!!!!」

 

顔面に拳が飛んできました。

きりもみ回転。

どしゃあと無様に倒れる俺。

 

「バカなんですか。バカなんですかっ」

「ゴメンナサイ調子に乗りました」

「まったく……キュンときちゃったじゃないですか」

 

すぐに体勢を立て直して完璧な土下座を披露する俺に、そう言ってお腹を抑えるセーリャ。

ん?触ったのは首なのになんでお腹を抑えるんだ?

 

「はぁ……もういいです。次からはちゃんと確認を取ってからやってください」

「許可取ればやっていいのか?」

「………………まぁ……たまには……」

 

一気に赤面し、蚊の鳴くような声でぼそぼそと告げられた声は、もちろん俺の耳を通って脳に焼き付いた。

言質、得たり。

 

「よしじゃあやるぞ」

「きょっ、今日はもう……ダメ……耐えられないです……」

 

言ってて恥ずかしくなっているのか、ついにイチゴのように真っ赤になってしまった。

さりげなく『今日は』とか言ってるあたり、かなり気に入っているのだろう。

欲望に忠実な女だ。

 

「まあいいや明日またやろう」

「〜〜〜ッ!!」

「それよりもドロップアイテムだ、なにが出たかな……」

 

とりあえず、確定ドロップでリンゴ10個は出るんだが……期待すべきはレア泥。

運が良ければ通常ドロップで武器素材となる木材が手に入るのだが……さらに運が良ければ、レア泥で装備品がもらえる。

布っぽいのがあれば……あっ。

 

「あったああああああああああああッ!!!!」

「うわっちょ、なんですか、驚かさないでください!」

 

自然のポンチョ。

男が装備した場合、ボタン1つだけ止めてショートマントのようになる。

女が装備した場合、ボタンを全部止めてなんかこう……可愛い。

 

……まぁ、それはともかく。

 

「行くか。地上に」

「そうですね」

 

呼吸を整える。

アルラウネがいたところの後ろ。

そこに浮かぶクリスタルに触れれば地上に行ける。

これからが冒険の始まりなんだ。

 

「行きましょう」

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「せーのっ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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