バグ多きこの世界で生き残れたら上等だと思う【旧名:昔だからこそ】 作:翠晶 秋
……で、気になる観光の場所だが。
「よしよし、だいぶ近くなってきたからそろそろ降りるとしよう」
「や、やっとですか……」
「やっとって言うがな、今日のうちにこれただけまだマシと思え」
「…………」
セーリャが微妙な顔でこちらを見つめる。
ワイバーンのおかげで移動時間を短縮できたことはちゃんと理解しているらしい。
ワイバーンを不時着させ、召喚スキルで元に戻す。
召喚スキルのモンスターはそれぞれにちゃんと住処があるから帰してやらなきゃな。
どのモンスターが呼ばれるかはランダムだが、好感度や平伏度が高ければ高いほど、同じモンスターが来やすい。
尚、自分で好感度が高いとか低いとか、呼べるモンスターを指定できるので楽チン。
「さ、これから検問があるのですが」
「はい」
「セーリャは俺と自分の分、通行許可証を持っているかな?」
人の集まる王都に無料で入れると思ったら大間違いだバカめ。
ま、それはそれとして門を通るには通常許可証が必要なのだ。
「いえ、持っていません……」
「そうだな。なら買うしかないよな」
もちろん買える。紛失したり、ふらりとやってくる旅人も多いからな。
……さてお気づきだろうか。
「ぼきら、お金持ってる?」
「ぼきら持ってないです」
金がねぇのだ、文字通り一銭も。
肉やら木の実やらキノコやら、アイテムはたくさんあるけどね。
世の中、物々交換じゃ上手くいかんのですよ。
ちなみにチュートリアルでセーリャのご両親の宝箱からお金が出てくるはずだったんだけど、チュートリアル無視してダンジョン潜っちゃったからね、仕方ないね。
引き換えそうにも遥か上空、ワイバーン君は浮島の力で近くまで飛べない。ダンジョン、試練扱いだから初心者のダンジョンにワイバーンとかいたら詰みだもんな。
「……と、いうわけで」
「嫌な予感がしてならないのですが」
「不法侵入します」
「本気で言ってるんですか?本気で言ってるんですか??」
「あぁ。常に兵士が上を巡回していて大砲完備、別々の石を積んだ三段甲状二枚重ね、大型モンスターの突進も受け止められる壁を通り越して不法侵入するぞ」
「本気で言ってるんですか???」
「ええい再三に渡って正気を疑うでない小娘が!」
今こそアレを使うべきだろうがい。
どっちにしろギルドに登録してカードみたいなのが貰えればそれが身分証明書になるし、王都に入ったら通行証は用済みだ。
「はい、まずは壁に張り付きましょう」
「か、壁に」
大の字になるように壁に張り付くセーリャ。
これは岩に埋まって安置からアルラウネを攻撃したときの応用だ。
「今から攻撃するから、お前は前に進むことだけを考えろ。下手な思考が入ると壁に埋まって死におるぞ」
「き、危険なんですか!?」
「これ以外に通り方法はない!以上!」
「ひっ!」
きゅっと体を硬らせるセーリャの背中に、肩たたき程度の連撃を繰り出す。
押しては引いて、押しては引いて。それを加速させる。
「オラオラオラオラオラ!!!!」
「きゃぁっ!?」
セーリャの姿が消えた。あとはあいつ次第だ。
もちろん壁の向こうからこっち側に声は届かない。クッソ高いしね。
それじゃあ俺も行きますか。
まずは攻撃を受けるのが条件のこのバグ。実は抜け道がある。
セーリャとは違い、壁に背を向ける。
そしてそのまま……勢いよく後ろにジャンプした。
「ヤヤヤヤヤヤヤッフヤッフヤッフゥヤッフ」
俗に言う、ケツワープってやつだ。
衝突ダメージでも無敵時間と起き上がり時間は稼げるらしい。
そのかわりダメージ調節ができないけど!HPが減るわ減るわ!
だが後ろに行くという意思だけは持ち続ける。
……と、ぐわりと世界が歪んだ。
真っ暗な空間の中、一歩くらい前に先ほどまで立っていた道が見え、下を覗くと洞窟や発光する鉱石が見えた。
そして、瞬きの瞬間。
「げふぅ!!」
ケツワープ、成功。
背中を地面に叩きつけたものの、ことなきを得た。
「だ、大丈夫なんですか!?」
「セーリャ」
「はい」
「パンツ見えてる」
殴打。
「殴りますよ?」
「事後なんだが」
「殴りました」
「殴りedだ……」
おうおう。最初の頃の恥じらいもなくなっちゃってまぁ。
天空族のお姫様がそんなんでいいのかね全く。
とにかく、王都に侵入ができたんだからヨシ!
門番の目を掻い潜るように路地裏に周り、ちょっと寄り道して遠回りしつつ大通りに出る。
「なんだかここに来たことがあるような手際の良さですね」
「よく周りを見てるだけですねぇ」
嘘は言ってないでおま。
……服装よし、腕輪よし、指輪よし、荷物よし。
典型的な旅人な感じだ。怪しまれることはないだろう。
兵士の全員が全員、通した人の顔を覚えてるわけでもなければ、このゲームの世界観では写真機は高価なものだ。
「普通に繁華街に来てしまいましたが……本当に観光なんですか?」
「ん?なにかあると思ってたんか?」
「いえ、夕方辺りまでに宿を取らないと予約がいっぱいになってしまうのではと……」
片手にバニラアイスみたいな氷菓を持ち、セーリャが首を傾げる。
……露天の店主からただでもらった奴だ。
まぁ待ちたまえ少女。ちゃんと行きたい所の目星はついてるし、宿屋だって……若干運任せだが、考えてるから。
「気になるのも仕方ないけど、空島で生きてきたんだから別に野宿でもよくねぇ?」
「……ぐ。それを出されると……」
ここに来る時も野宿したじゃん……あっ、なに目ェ逸らしてんだよこっち向けお嬢様。
客の呼び込みや談笑雑談などで忙しそうに回る繁華街を見渡し、脳内地図を写す。
徹夜、三人称視点で見ていたマップは一人称視点になるとかなり見づらく感じる。
というか正直脳内地図なんて飾りだ。全ッ然わかんない。
正直に言って周りの看板とかで判断してるもの。
しかし、ドットだらけでまったく美しく見えなかったのに綺麗になったなぁ。
これが異世界ってやつでっかぁ。
「とりあえず行きたいところは決まってるんだ。ちょっと行けるか不安ではあるけどな」
「はぁ……そうですか」
「気の抜ける返事だな」
「気も抜けます。あのブツリホウソクを無視する技が私にも使えるなんて」
「使うのか」
「使いません。ぐにょぐにょで、チカチカで、気分が悪くなっちゃいます」
初めてのバグ技が壁抜けは確かにトラウマかもな。
死ぬかもとも言われているし、この様子なら一人でバグ技を使うこともなさそうだ。
「お、あれだあれ、見えてきたぞ」
「あれは……教会ですか?」
「聖堂っつーか……まぁ教会だな。あそこに用がある」
「……?」
教会の門をくぐると、庭で遊んでいた子供たちが一斉にこちらをむく。
獲物を見つけた獣の目だ。セーリャの背中を押す。
「え、え?」
わっと囲まれた。
「おねーさんどこからきたの?」「だれー?」
「武器だー!」「旅人ぉ?」「あそんでー!」
「ちょ、ちょっと待ってください、いっぺんに……て、テロさん、助けを……」
「シスターに用があるからその間邪魔が入らないように頼む。それじゃ」
「裏切り者ー!」
満ち満ちている子供の膂力に完全に敗北しているセーリャは好奇心旺盛な少年少女になす術もなく連れ去られていく。
そりゃそうだ、対した特徴もない男より、綺麗で武器を持った旅人然とした女性の方が人気があるだろう。
よし。
扉を開けると祈りを捧げる礼拝堂の中のキャンドルを二十代前半のシスターが取り替えていた。
「ごめんください」
「……?あっ、はい、どちら様で?」
「これから冒険者……もとい、旅人になろうとしているんです。今表で子供達と遊んでいる女の子と一緒に」
「はいはい、なるほど……その子にはお礼をしなければなりませんね。……して、それで?」
「あの、差し出がましいようでしたら、一泊だけ倉庫か屋根裏を……」
あぁ、とシスターは微笑む。
「でしたら一泊と言わず、旅人として準備が整うまでこの教会をお使いください。食事も用意できますよ?」
「ありがとうございます!」
やった、宿の確保完了。
今日中に勇者に立候補していれば確かに一週間分宿が無料になる。
しかし、それでは得られないメリットがこの教会にはたんとあるのだ。
その一つがこのNPC、シスター。
「でしたら、今日の夕飯は買い足さねばなりません。夕食が豪華になりますね、ふふ」
この教会出身の彼女はめちゃくちゃに清楚なのだ。
どうして教会なんかやっているんだと問いたいくらいに清楚で顔もよく、そして料理がうまい。癒し枠なのだ。
「……あっ、一つ忘れてしまっていました。その、実は空いている部屋が一つしか無いのです。ですので、その……」
あぁ、そうだ、それも目的の一つだった。
確か今の時期は女の子が俺たちと同じくご厄介になってるんだった、
「大丈夫だと思います。口ぶりからして女の子でしょう?聴いてみます」
「助かります。それでは私は、ご飯の買い足しに行ってきますね」
シスターが出て行ったから12時……ちゃうわ、買い足しはイレギュラーだから時間の把握ができん。
とりあえずだれもいなくなった礼拝堂から出て、セーリャに手を振った。
ぜえぜえと子供の相手になっているセーリャは背中に女の子を背負ったままこちらへやってくる。
「あの、なんでしょう?」
「シスターに……さっき出て行った人ね。その人に聴いてみたら、準備が整うまでここに住まわせてくれるって」
「ほんとですか!」
「ねーちゃんここに住むの!?」
「ふぐぅ!!」
おっともう一人セーリャに組みついた。
可憐な少女には子供といえど人二人は辛かろうて。少年を引き剥がし、地面に下ろしてやる。
「よくわかんない男も一緒についてくるけどな」
「えー」
「えーじゃねぇだろ」
笑われた。
まぁ拒否されてないならよかったかな。
たしかこの子たちからのクエストみたいなのもあったはずだ。お金がない序盤はアイテムが貰えたりするクエストがあるのがありがたい。しょぼくれた薬草だって立派な回復アイテムだ。
「それじゃあ、俺たちと戦ってよ!」
「戦う?」
「チャンバラ!」
木の枝を渡してきた。
なるほど、この教会に入る試験ってことね?
わかったわかった、やってやらあよ。
「俺の名前はリック!一応、この教会で一番強いんだぞ!」
「俺の名前はテロ!いずれこの世界で一番強くなる予定の男!」
ガキ大将ってわけじゃない。周りの盛り上がりからするにこの教会に入る者に行われる洗礼───恒例行事なんだろう。
「なかなかに強いです!テロさん、頑張って!」
「お前は既に戦ったのか……連戦状態でここまで元気とは、子供はすごい!」
「制限時間はシスターが帰ってくるまで!怒られちゃうからな!それまでに相手により多くのダメージを与えた者が勝利となります!」
「実況は俺……ごほん、わたくしカイン!」
「解説はクーちゃんことクーリンゲルでお送りします!」
うっわぁ、どたどたと簡易決闘場が作られていく……改めて言うけど子供すごい。
もはや観客───セーリャも含む───のボルテージはマックス、その火蓋が───。
「それではリックvs新入、テロ!レディー?」
「「「「ふぁいっ!!」」」」
切って落とされた。