“黒”の紅茶《完結》   作:山中 一

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三十話

 以前からもしかしたらと思っていたが、やはりそうかと“黒”のアーチャーは納得した。

 時刻は現地時間で午後九時を回ったところである。

 激戦を越えたばかりで疲労もあるだろうが、アーチャーは確認したいことができたために“黒”のバーサーカーのマスターであるカウレスの部屋を訪ねていた。

 相変わらずカウレスはパソコンを弄るのに忙しいらしく、アーチャーが尋ねたときも画面の前の椅子に腰掛けていた。バーサーカーはベッドの上にちょこんと座って感情の掴めない顔のまま虚空を眺めている。こうして見ると、装飾などもあって本当に人形のようである。

「で、なんだよアーチャー。聞きたいことって」

「フィオレのことだ」

「姉さんの?」

 カウレスはパソコンの前の椅子に腰掛けたまま、アーチャーのほうを見た。

「君は魔術師としての彼女をどう見ている?」

「は? 突然どうしたんだよ、アーチャー」

 カウレスはアーチャーの言葉に目を丸くする。

 ダーニック亡き後、フィオレはユグドミレニアを背負って立つ魔術師となった。繰り上がりではあるが、そうなったのは魔術師としての力が抜きん出ているからである。

「そりゃ、俺と違って優秀な魔術師だと思うぞ。何か不満があるのか?」

「いや、そういうわけではない。例の魔力供給が途絶えた後も、我がマスターからの魔力供給は私の戦闘を支えるのにまったく支障がなかったからな」

「じゃあ、何だってんだ」

「ユグドミレニアの歴史は私も伝え聞いている。ダーニックが一代で築き上げたに等しいこの血族を纏め上げるには、それ相応の政治的センスが必要だ。聖杯大戦を生き残れば否応なく魔術協会との権謀術数に明け暮れることになるだろう、――――果たして、彼女にそれが耐えられるか否か。それが心配なのだ」

「ッ――――」

 ユグドミレニアの長となるということは、それだけで命懸けである。

 これまでの発展は、ダーニックの政治力に支えられてきたことが大きい。卓越したカリスマ性を持つ指導者がいたからこそ、成り立っていた組織であると言える。指導者が優秀であればあるほど、次世代への負担は大きくなる。まして、一族の存亡がかかった戦いの後である。今ですら、一部の血族からはユグドミレニアから離脱する動きがあるくらいなのだ。

 聖杯を手に入れなければ、ユグドミレニアは滅亡する。そして、その際に責任を取るのは、間違いなく長として纏めている人間である。歳若いフィオレが、魔術協会の老人たちを相手に策略を繰り広げることができるかと聞かれて、カウレスは答えに窮した。

 できないということはないだろう。フィオレは頭がいい。通常の外交であれば、問題なく乗り越えられるだろう。

 だが、それが穏当な手段によるものではなくなったとき、彼女はその現実を受け止められるのだろうか。

 魔術協会との交渉が不調に終わり、実力行使に発展した場合、そこには命のやり取りが発生する。今までは、命じられているからという免罪符があった。しかし、長となれば、命じる立場になるのだ。自分の仲間に死ね、あるいは殺せと命じるのはかなり強固な精神が必要となる。

 ずっと傍で見てきたカウレスは理解している。

 フィオレはそのように育てられてきたわけではないし、そのように育ったわけでもない。

「そうだとして、どうして俺に言うんだよ?」

「出会ったばかりの私では、そこまで深く踏み込むわけにはいかないからな。フィオレを傍で見てきた君に尋ねたほうがいいと思っただけだ」

「確かにアーチャーの言うとおり、姉さんは良識人過ぎるところがある。多分、魔術に関わらないのであれば、それで正しいんだろうけど」

「魔術師となれば、人道に反する行いをすることもあるだろう。一族の長となれば、その機会も増える。してはいけないと分かっていることを、平然と行わなければならなくなったとき、彼女は想像を絶する苦しみを味わうことになるのではないかと、私は危惧しているのだ」

 アーチャーの表情には冗談の気配はなく、憂いの色がありありと浮かんでいた。

「君たちは理想的な姉弟だと私は思う。しかし、魔術師としてはどちらも足りないものがあるな」

「余計なお世話だ」

 フィオレは魔術師たらんとする心が、生来の感性に追いついていない。魔術師としての倫理観を醸成する前に、人間としての倫理観を持ってしまったのであろう。肉体的に魔術と相性がよくても、心が魔術を求めなければその世界で生きていくことは難しい。

 カウレスは魔術師としての心構えを持っている。好んで殺人をするわけではないが、魔術師として必要に迫られればするだろう。完全にとは言えないが――――しかたないと割り切ることができる。ただし、肉体面では魔術の才能に恵まれたわけではない。

「どっちにしても我が家はどん詰まりか」

 魔術を研究する者としてはカウレスのほうが適性がある。突き詰める楽しさを知っている彼は、状況次第では命にすら手を伸ばせる。しかし、魔術を使用するスペック、後継者としての才能ではフィオレが格段に上である。家としてはフィオレがこのまま跡を継いで、魔術を極めてくれればいいのだが、そうはいかないかもしれない。研究には情熱と覚悟が必要だからだ。

「アーチャーは姉さんがこのまま魔術の世界にいたらどうなると思う?」

「さあな」

 と、アーチャーは腕を組む。

「だが、非人道的な行いを否とする良識を持ちながら、罪を犯さなければならない世界に飛び込んだ人間はまともではいられない。大概が、壊れるか慣れるかの二通りに分かれる。壊れれば自暴自棄になって破滅するが、恐ろしいのは慣れてしまった場合だな」

「慣れるとどうなるんだよ」

「罪を犯すべきか否かを機械的に処理するようになる。理想と現実の狭間でもがきながら、強迫観念に突き動かされるように行動し、自分は悪くないと言い訳を並べて自らの行いを正当化しようとする。麻薬中毒みたいなものだな。自分では決してその道から抜け出せず、壊れるまで動き続ける。こういうのはな、自分が正しいと信じられるのなら負担にはならないし、しかたないと割り切れるのなら苦しくもないのだ。問題は、割り切りたくても割り切れないタイプの人間だよ」

「姉さんはそういうタイプだってことか?」

「私が見た限り、彼女は人の生き死にに対しては一般人並の感性だ。理性的に魔術師であろうとしているがな」

 フィオレの性格は、カウレスも承知している。

 だから、アーチャーの指摘を覆せる材料がない。

「フィオレがどのような選択をするにしても、覚悟は必要だ。そのとき、傍で支えになる人間が必要になる」

 魔術師を続けるのは、フィオレの精神に多大な負担を強いるだろう。それでも、彼女は優秀だから心の悲鳴を無視して研鑽を続けられるかもしれない。しかし、数年、数十年先に彼女がトラウマに悩まされずにいられるかどうかは不透明だ。そして、魔術師を辞めるのは、さらに覚悟のいることである。ユグドミレニアとフォルヴェッジ、双方の未来と過去に背を向けるのは、並大抵の覚悟では選べない道である。どちらにしても、フィオレには茨の道となるだろう。

「なんだ、長々と話して結局は姉さんを助けてやれってことが言いたかっただけか」

「端的に言うと、そうなる」

「分かったよ。もともと、俺は姉さんに取って代わろうなんて思ったこともないしな。判断は姉さんに任せるとして、どっちに転んでも最善になるように俺が姉さんを支えるよ」

 魔術師の家系に生まれた子どもは跡取りになれるかどうかで未来が定まるのが普通だ。フォルヴェッジ家の場合は長子のフィオレが優秀だったために、何の疑いもなくフィオレに家督が約束され、弟のカウレスはフィオレのスペアとして魔術を学んだ。

 どこまで行っても、カウレスはフィオレの弟でありフィオレの影なのだ。そして、それすらも自明のものとして受け入れてきたカウレスは、フィオレを支えるということをアーチャーに頼まれなくても当然のようにするだろう。

「それを聞いて安心した」

「別にいいよ。そもそも、弟は姉の後ろをついていくものだって昔から決まってるからな」

 それを聞いたアーチャーは、今までで一番大きく表情を変えた。

 驚いたというわけでもなく、面白がったわけでもない。どこか悲哀を感じさせる表情であるような気がした。それも一瞬のことで、アーチャーは苦笑して、小さく、

「耳が痛いな」

 と呟いただけだった。

「では、私は失礼する。やはり、君たちはいい姉弟だよ」

 そうして、アーチャーは霊体化して去っていった。

 カウレスは頭を掻いてからパソコンをシャットダウンする。

 ベッドの上ではバーサーカーが唸りながらゴロゴロと転がっている。バーサーカーは彼女自身の宝具が永久機関となっているので、実体化しているだけならば非常に低コストで運用できる。ホムンクルスを用いた魔力供給が半ば停止していても尚、カウレスのスペックでこうして遊ばせていられるのも、宝具のおかげであった。

 フィオレとカウレスがいい姉弟だというのなら、フィオレとアーチャーはいい主従といったところだろうか。

 プツン、と画面が暗くなった。

 昼間に一眠りしたが、まだ眠い。夜型の生活には慣れているが、完全に昼夜逆転は厳しいので寝ることにする。

 バーサーカーを霊体化させてから、カウレスはベッドに潜った。

「もしかしたら、アイツにも姉がいたのかな」

 明かりを消した後、窓の外に浮かぶ月を眺めていて、ふと、そんなことが頭を過ぎった。

 姉弟関係に言及したり、カウレスの発言に思うところがありそうな表情を浮かべたりとアーチャーなりに感じるところがあったのかもしれない。

 

 

 

 □

 

 

 

 集合場所は前日と同じく会議室である。“黒”の面々とルーラーは渋い表情を浮かべて集っていた。“赤”のアサシンの超宝具は、黒海方面にゆっくりと移動しているのが分かっている。動きは鈍重なので、飛行機でもあっという間に追いつくことができる程度であるが、迎撃されることを考えれば、十分に対策を取る必要があった。

「で、それは分かったけど、肝心の飛行機は?」

「もう少し待ってください。物が物だけに、まだ三日はかかります」

 ダーニックが積み上げた資産の大半をつぎ込む必要があったが、それでもユグドミレニアは一般の感覚からすれば、超大富豪である。飛行機を数機購入することも不可能ではないのである。

「“赤”に対するのはまた次の機会にしましょう。今は、もう一つの問題に取り組まなければなりません」

「もう一つ?」

 フィオレは、ライダーに新聞を渡した。

「?」

 ライダーは新聞の見出しを見て、呟く。

「切り裂きジャック? 何これ」

 それは、ルーマニア国内で起きた殺人事件の記事であった。

 連続殺人は分かっているだけですでに十件を上回り、犯人の正体は依然として不明というところから、かつてイギリスを恐怖に陥れた伝説的殺人鬼に準えて報道されている。

「これが?」

「“黒”のアサシンによる犯行と思われます」

「あえ?」

 ライダーは妙な声を出した。ルーラーも新聞を覗き込んで尋ねた。

「“黒”のアサシンはあなた方の管理下にないのですか?」

「恥ずかしいことですが、わたしたちが用意したマスターは、アサシンを奪われたようなのです」

「どういうことですか?」

「詳しいことは分かりません。“黒”のアサシンのマスターとして参加した相良豹馬は、アサシンとして召喚されるべきハサン・サッバーハに限界を感じ、最新の英霊であるジャック・ザ・リッパーに活路を見出しました。彼は、ジャックと相性のいい土地として地元の東京を選び、そこで儀式に臨みました。それ以降の消息は、不明です」

 『気配遮断』スキルを有する『アサシン』のサーヴァントはマスターの天敵として知られている。基本的に『アサシン』の戦闘能力は低く、サーヴァント戦では後れを取る機会が多くとも、人間であるマスターを殺害すればサーヴァントも消滅する。『アサシン』は有効活用さえできれば、極めて強力な手駒となるのである。

 しかし、『アサシン』のクラスはそのクラスそのものが触媒の役割を果たしており、召喚されるのは「アサシン」という言葉の語源となったハサン・サッバーハの中の誰かであると特定されてしまう。

 聖杯戦争が世界各国で行われるようになると、十九人のハサンは宝具も癖も情報が明らかとなってしまい、暗殺者にとって致命的な状況に陥ってしまった。

 対ハサン戦術が確立した以上は、ハサンを召喚するのはあまりにも危険である。

 よって、最近は召喚の呪文に改良を加え、別の触媒を用意することでハサン以外の『アサシン』を召喚するのが定石となっていた。

「相良豹馬は、ジャック・ザ・リッパーの情報の少なさに着目しました」

「サーヴァント戦を想定しなければ、戦闘能力はそれほど重要ではありませんからね。近代の英雄でも、マスターを殺害するのは難しくありませんし」

 ルーラーは、“黒”のアサシンを選んだ理由については納得した。

 しかし、どこかで“黒”のアサシンは他者の手に渡り、今ルーマニアで凶行を繰り返している。

「“赤”と雌雄を決するのに、後方をアサシンに撹乱されては力を注げません」

「では、今日ここに集まったのは」

「“黒”のアサシンの討伐、あるいは合流するためのものです」

「まだ合流の可能性はあるのですか」

「戦力の一つに変わりありません。もっともアサシンが制御不能となれば、討伐するしかありませんが、わたしたちは未だ意思疎通すらも行えていない状況です」

 犠牲者の中には一般人だけでなくユグドミレニアや魔術協会の魔術師たちも含まれる。これまでは、“赤”の陣営との本格的な戦いに備えていたために、それほど“黒”のアサシンに力を注いでこれなかった。

 しかし、即座に“赤”の陣営と戦えないとなれば、その時間を“黒”のアサシンに使うことができるようになった。

 だが、その反面、時間もない。フィオレたちは、“赤”の陣営との戦いの準備が整う前に“黒”のアサシンの問題を解決する必要があった。

「姉さんとアーチャーは、前に“黒”のアサシンと接触しにいったんじゃなかったっけ?」

 カウレスに聞かれたフィオレは頷いた。

「ええ、でもそのときは“赤”のセイバーとの戦いに発展してしまったから」

「“黒”のアサシンがどんなやつなのか、見なかったのか?」

「え、いえ。見ましたよ。ステータスも読み取り、ました……し……」

 フィオレは言葉尻をすぼめて愕然とした。

「アーチャー、アサシンがどのようなサーヴァントだったか覚えていますか?」

「む、そういえば、どうだったか。……奇妙だな、思い出せない。アサシンの宝具かスキルか」

 フィオレも“黒”のアーチャーも、どちらとも目視したはずなのに記憶に残っていない。記憶が消しゴムでかき消されたかのようであった。

「アサシンの宝具かスキルってことね。自分の情報を抹消する能力があるわけ」

 気だるそうにするセレニケが会話に加わる。

「手掛かりがないとなると、アサシンを討伐するのも難しいんじゃない?」

「しかし、アサシンの問題をどうにかしなければ“赤”の陣営との戦いにも問題になります」

 仮に“黒”のアサシンを放置したまま“赤”の陣営に勝負を挑んだとすると、どう頑張ったところでマスターががら空きになる。そこを突かれれば一溜まりもなく“黒”の陣営は敗北するだろう。

 だが、“黒”のアサシンの討伐は非常に困難である。

 『気配遮断』スキルを持つサーヴァントは気配を辿ることで探り当てることはできない。“黒”のアサシンが攻撃してくるのを待つのが定石ではあるが、こちらにはその時間はない。

「ルーラー、あなたは“黒”のアサシンの居場所を掴めますか?」

「難しいですね。『気配遮断』をされると、大まかな位置を把握するのが限界になります」

「とにかく、足を使うしかないですね。まずは、トゥリファスで連絡を絶った魔術師の潜伏先に向かわなければなりません」

 ユグドミレニアの所属する魔術師たちが、次々とトゥリファスで連絡を絶っている。十中八九“黒”のアサシンの手に掛かったと見るべきである。

「では、わたしが行きましょう。大まかとはいえ、アサシンの居場所が掴めるわたしがいるほうがいいでしょう」

「お願いします、ルーラー。それから、セレニケにも頼めますか?」

「わたし? まあ構わないわよ、やることもなかったし」

「もしも、魔術師が殺害されているのなら、黒魔術が使えるあなたがいると情報が引き出しやすいですからね。それにライダーは『対魔力』のランクがAもありますし」

 魔術師の工房に足を踏み入れるのだから、魔術に対する対策は必要だ。その点、“黒”のライダーは『対魔力』がAランクと現代の魔術師では傷一つ付けることができない領域にあるので、工房の調査には都合がいい。

「フィオレはどうしますか?」

「わたしはこの通りの足ですので、追撃戦には向きません。何か手掛かりがないか、こちらで分析してみることにします。それにアーチャーにもセイバーにもやってもらいたいことがありますし、ゴルド叔父様も忙しいですからね」

 ゴルドの必死の修復作業のおかげで、魔力供給はかなり持ち直している。これから、調整を続ければ、魔力の供給効率がさらに上がる余地が残っており、ゴルドはこの会議の後でその作業にかかりきりになる予定であった。

「じゃあ、とりあえず俺も行くか」

「カウレスも?」

「ここにいてもすることがないからな。外で役に立てることがあるかもしれない」

「そう。じゃあ、お願いね」

 カウレスはこれまで活躍できていないと感じていたから、少しでも役に立ちたいと思ったのであろう。

「それでは、みなさんお願いします。当世風の衣装が必要な方には用意させますので、少し待ってください」

 そうして会議は終わった。

 “黒”のアサシンを探し、接触を図るために“黒”の陣営は動き出した。

「アーチャーとセイバーは別に頼みたいことがあるので残ってください」

 呼び止められて、“黒”のアーチャーと“黒”のセイバーはその場に残った。

「私たちは何をすればいいのだ?」

「戦後も踏まえて、できる範囲で資金を掻き集めておきたいのです」

 聖杯が“赤”の陣営に奪われたことで、“黒”の陣営は非常に敗色濃厚となってしまった。もちろん、敗れるつもりはまったくないが、聖杯が手元に戻ってこない可能性もある。そうなれば、聖杯大戦には勝利できてもその後の魔術協会との戦いでは手も足もでなくなる。

「そこで、申し訳ありませんが、アーチャーにはそこそこの礼装を用意していただきたいのです」

「あー、つまり……売りさばくつもりか?」

「そうなります」

「守銭奴と言われそうだな」

「罪を犯すわけではありませんから、とやかく言われる筋合いはありません」

 ぴしゃり、とフィオレはアーチャーの皮肉を斬り捨てる。

「しかし、魔術協会と断交した今、どのように資金を集めるのだ?」

「叔父様が構築した裏ルートがあります。魔術協会から離れてもキャスターの宝具の材料を集めることもできたわけですから、問題はありません」

 なるほど、とアーチャーは苦笑しつつ引き下がった。

 マスターは本気なようだ。

 飛行機の購入にも多額の資金を投入する以上、資金を集めるのも戦争の一つであろうか。残り数日でどこまで金に換えられるかは分からないが、アーチャーは投影するだけなのであまり労力は使わない。

「それで、俺は何をすればいいのだ?」

 アーチャーが物品を用意するのは分かった。では、“黒”のセイバーは何故呼び止められたのか。

「セイバーには『黄金律』のスキルがありますので、手伝ってもらいます」

「……あのスキルは俺が金銭に困らないという程度でユグドミレニアに恩恵はないが」

「ですが、セイバーが稼いだお金をユグドミレニアに寄付という形にすることは可能ではないですか?」

「できなくはないが……」

「それではお願いします。時間を無駄にはできないので、一時間後に交渉に入りますので、準備をお願いします。アーチャーはとりあえず宝剣を百ほど用意してください」

 セイバーのスキルは彼が言うとおり彼にしか影響しない限定的なスキルである。であれば、セイバー自身が稼げばいいというのは理屈としては分かるが、天下の大英雄にさせることではない。フィオレもそれを分かっているが、無為にするのはもったいないので思い切って協力を申し出た。

 セイバーのスキルがどこまで恩恵をもたらすかは不透明だが、アーチャーの宝剣は極めて高い価値で取引されるに違いない。

 アーチャーとセイバーはどうしたものかと視線を交わした。

 

 


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