“黒”の紅茶《完結》   作:山中 一

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四十六話

 獅子劫は“赤”のセイバーと共に空中庭園を目指した。

 用いたのはルーマニア空軍が正式に採用している戦闘機ミグ21近代化改修型である。別名を「Lancer」といい、ソ連で生まれ、半世紀あまりも運用されているミグ21シリーズを現代戦に通用するようにしたものである。

 セイバーが有する『騎乗』スキルは、動物に限らず人間の乗り物であればなんであれ対応する。操縦席に座れば、それだけで一流のパイロットを上回る機体制御を可能とする。

 そうして、“黒”のサーヴァントたちが“赤”のサーヴァントを抑えている隙を突き、“赤”のセイバーは空中庭園の中に何の妨害を受けることもなく侵入できた。

「さて、これは好機だぞ、セイバー。今、“黒”も“赤”も互いに全力でぶつかり合っている。これがどういうことかっていうと」

「聖杯まで一気に突っ切れるかもしれねえ」

「そういうこった」

 にやり、と互いに笑いあった。

 二人の目的はあくまでも聖杯の確保である。“黒”の陣営を利用してはいても、決して仲間として戦っているわけではない。隙あらば出し抜き、自分たちで聖杯を手に入れ願いを叶える――――その方針は、当初から変わっていない。

 しかし、やはりここは“赤”のサーヴァントの中でもとりわけ悪辣な女帝セミラミスの究極宝具の内部である。そこかしこにトラップが仕掛けられていて、侵入した当初のように一気に突っ切れるかも、などと甘いことを言っていられる状況ではなかった。

「ああ、クソ。またかッ」

 セイバーは剣を振り回して襲い掛かってくる竜牙兵を斬り倒し、蹴り砕き、そして放り投げた。

 竜牙兵はまだ優しいほうだ。

 底の見えない落とし穴や、落ちてくる天井などファンタジーゲームの定番から空間そのものに対する魔術など生きた心地のしない凶悪な罠の数々に、獅子劫はもとよりセイバー自身も大いに危機感を抱いていた。

「頼むぜ、セイバー。もうお前だけが頼りなんだからな」

「マスターもなんかやれよ」

「さっきから偵察してやってるだろ」

 獅子劫は、フクロウの目を使って自分では見えない場所を見ることができる。罠が至るところにしかけられているこの状況下では、先に罠の存在を確認するというのは非常に重要な作業であった。

 それでも、最後に頼りにするのはサーヴァントだ。

 特にセイバーの『直感』は、こうした危機的状況において力を発揮する。戦闘時に限られるが、どのような行動を取るべきか、理屈を抜きにして感じ取ることができる。逆に言えば、『直感』のスキルが発動しているということがそれだけ危機的状況となっているわけであり、敵が目の前にいないが戦闘状態に突入していると認識されているということになるのである。

 はずれの部屋も多い。

 扉を開けた途端に大爆発ということも一度や二度のことではなかった。獅子劫は、自分が今大した怪我をすることもなく動けている現実に感謝すると共に、意地の悪い罠を仕掛けた女帝への恨み言を心中で漏らしていた。

「おら、出て来いよセミラミス! つまんねえ罠ばっかりでヒキコモリってか? 最近流行りのヒッキーかぁ? お城の奥深窓の令嬢ぶってんじゃねえぞ、カメムシババア!」

「お前ホント口悪いな」

 獅子劫は呆れながらセイバーの後ろについていく。

 獅子劫が“赤”のアサシンへ悪口を言わないのは、偏に相手を怒らせるのが嫌だったからだが、セイバーはそんなことは一切気にしていない。むしろ、獅子劫の心中を知ったら臆したか、などと言って食って掛かってきそうだ。

 挑みかかるのは最悪の魔女。世界最古の毒使い。悪女と名高いセミラミス。セイバー自身、『アーサー王伝説』の黒幕とも言うべき母親(モルガン)に似ていると初見で感じるような人物である。セイバーの性格からすれば、“赤”の陣営への協力を続けるなど初めからありえなかったし、激突するのは時間の問題だったが、やはり相手の領分での戦闘となると相応の覚悟が必要である。まして、相手は『キャスター』と『アサシン』を兼ねる怪物である。

「マスター。あれ」

 セイバーが前方の扉を顎でしゃくった。

「ゴールか?」

「サーヴァントの気配がする。二騎だな」

「アサシンとキャスターか?」

 待ち構えているサーヴァントならば、その二騎が疑わしい。アサシンもそうだが、未だ姿を見せない“赤”のキャスターも気になるところだ。

 だが、セイバーは首を振った。

「一騎は“黒”の誰かだな。戦ってるみてえだ」

「一番乗りは取られた後か」

「順番なんて気にすんな。最後に勝ったヤツが勝ちなのさ」

 セイバーらしい清清しい言い回し。獰猛な笑みを浮かべて剣を一回転させ、肩に担いだ。

「で、どうする?」

「無論、嫌がらせするに決まってんだろ」

 壁の奥で、魔力が脈動している。強烈な魔術が連発されているようだ。ここまでくれば、獅子劫の魔術回路も強大な魔力を感知して意図せず励起してしまう。

 正直に言えば、サーヴァントとして召喚されるような強大な魔術師に現代の魔術師でしかない獅子劫が立ち向かうのは自殺行為に等しい。セイバーがいなければ、近付こうとすら思わないだろう。

 敵の悪意を、セイバーも感じ取っている。

 セイバーは鎧をガチャガチャと鳴らして、最後の扉に向かって歩いていった。

 

 

 

 □

 

 

 

 苛立ち紛れに“黒”のアサシンを甚振っていた“赤”のアサシンであったが、相手は飛び跳ねるだけでまともに反撃してくることもなく、ただこちらの攻撃を凌ぐだけでまったく話にならない。やはり、宝具に特化したサーヴァントであったらしい。発動条件を厳密に暴いたわけではないが、現状ではあのアサシンの宝具が使われる気配はなく、ただ“赤”のアサシンの手加減した魔術によって磨り潰されるだけになっている。

 “黒”のアサシンの両手両足はすでに機能していない。

 女帝として君臨する。それが“赤”のアサシンの願望であり生き方だ。暗殺者は権力者の天敵であり、発覚した場合には凄惨な死に方をするのが歴史の常である。使い古したボロ雑巾のようにして、何の希望も抱けないままに消滅させてやろう。

「それにしても、もう少し抵抗してくれてもよかったのだがなぁ。まあ、いい。死ね小娘」

 うつ伏せに倒れた“黒”のアサシンは逃げることなどできはしない。

 雷撃がたゆたい、“赤”のアサシンの挙げた腕に纏わりついた。遊びはこれまでとし、跡形もなく蒸発させることにした。

 計画を邪魔してくれた“黒”のアサシンへの罰は、これでいいだろう。

「む……」

 “赤”のアサシンは、振り下ろしかけた腕を真横に振るった。雷撃は“黒”のアサシンではなく、王の間の扉に向けて雷光の蛇が迸る。

 王の間への入口は、この一撃で砕け散った。

 粉塵が舞い上がる。その中を斬り裂いて、二つの人影が飛び出てきた。

「“赤”のセイバー。早かったな」

 “赤”のアサシンは舌打ちをした。“黒”のアサシンで遊びすぎたか。いや、時間の配分を失敗したとは思えない。ただ、セイバーが罠を突破する時間が想像よりも早かっただけである。

「聖杯、貰い受けに来てやったぜ!」

「抜かせ、裏切り者が吸うべき空気など、ここには一ミリも存在しない」

 赤雷と紫電が交錯した。

 

 

 初めから二騎の相性は最悪だった。

 自らに比肩する者の存在を許さない女帝と王と国を滅ぼした反逆の騎士では、そもそも在り方が正反対である。反逆者は“赤”のアサシンにとって罰する対象であり、王は“赤”のセイバーにとって討ち果たすべき存在である。まして、セイバーから見れば、“赤”のアサシンは忌々しい母親に雰囲気がよく似ている。それだけで、警戒するし、嫌悪感を抱く。

 “赤”のセイバーと“赤”のアサシンの激突は、どうあっても避けられなかった。これは両者が同じ聖杯戦争に召喚されたその瞬間に確定した未来であり、この場での戦いはある意味では初めから定められていたともいえるだろう。

「どりゃあああああああああああああああああ!」

 雄叫びを上げて斬りかかるセイバーを、玉座に座る“赤”のアサシンは軽々と迎撃する。空中で魔術と剣が衝突して弾け跳ぶ。

「どうした、セイバー。ほれ、我が首はここだぞ」

 トントンと、“赤”のアサシンは自分の首を叩いてセイバーを挑発する。

「あんだと、こらァ」

 『魔力放出』でブーストした疾走で、セイバーは“赤”のアサシンに迫る。一撃を入れれば、勝てる。しかし、ここは“赤”のアサシンが支配する領域である。彼女にとっては、この王の間の内部は『虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)』の機能を凝縮したかのような環境である。“赤”のアサシンは玉座に座っているだけで、世界を支配する。 

 セイバーの突貫も、“赤”のアサシンにはまったく危機感を抱くに値しない。指を鳴らし、口笛を吹き、発動した魔術で押し返す。

 セイバーの『対魔力』は、Aランクに満たないレベルでしかない。現代の魔術師で傷つけるのが難しいというレベルの『対魔力』も、“赤”のアサシンにとっては紙でしかなく、セイバーですら直撃は避けなければならない。

「ずいぶんと下手な踊りよな。セイバー」

「ふん、ガキ甚振って悦に浸る魔女にゃ、踊りなんて分かりそうもないがな」

 セイバーは襲い掛かってくる緑色の鎖鎌を一刀の下に斬り捨てる。

「さて、その減らず口、どこまで開いていられるかな」

 女帝は艶美な唇を凶悪に歪めて、手を挙げた。

 その瞬間、身体に走り抜けた戦慄は聖杯大戦に参戦して以来感じたことのないほどに強烈だった。詰んでいる。この空間にいる限り、“赤”のセイバーはどこまでも敗者でしかなかった。

「マスター! 今すぐ逃げろおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 声を荒げたセイバーは、魔力の突風で獅子劫を打ちのめした。マスターに対してするような行為ではないが、今はそれ以外にマスターを逃がす術がなかった。

 突然、セイバーに吹き飛ばされた獅子劫であったが、それがこの部屋で戦う不利を悟ってのことだというのは説明されなくても分かった。よって、勢いを殺すことなく地面を転がり、身体強化まで使って破壊された入口から転がり出た。

 その後をセイバーが追おうとする。

「貴様は逃がさんよ、セイバー」

 意識一つでこの空中庭園を組み替えることができる“赤”のアサシンは、当然のように出入り口を塞いだ。そこまでなかった壁が出現し、継ぎ目すらなく王の間を外部から隔離する。

「チィ……!」

 逃げ場を失ったセイバーは最大限の警戒心と共に『燦然と輝く王剣(クラレント)』の柄をしっかりと握りこむ。

「では、終われ。セイバー」

 “赤”のセイバーの奮闘にも戦意にも、まったく評価を加えることなく、無慈悲なままに“赤”のアサシンは、この舞台に幕を引くため、己が伝説の象徴たる第二宝具を発動した。

 

 

 

 □

 

 

 

 ルーラーは回廊を駆け下りる。

 自らをこの世界に呼び出した聖杯が、この道の先にある。待ち受けるサーヴァントは二騎感じ取れる。一騎はキャスター、そしてもう一騎は天草四郎時貞に間違いない。

 ルーラーの知覚力は、聖杯大戦のサーヴァントに機能するものだが、これだけ近距離にあれば魔力の反応などほかの機能を駆使して四郎を捉えることができる。

 回廊を駆け下りているときに、“黒”のセイバーの消滅を確認した。

 対峙していた“赤”のランサーがどのような状況にあるか分からないが、“黒”のセイバーと戦って無傷ということはあるまい。ほかの戦場にランサーが現れるまで、まだ時間があるはずである。

 一歩歩を進めるごとに、天草四郎の願いを思う。

 全人類の救済。強制的な魂の昇華の果てに、人類に平和がもたらされると、彼は本気で信じている。

 しかし、その先に本当に平和があるという保証はない。

 ――――保証がなければ手を伸ばさないのか。

 脳裏に声が響く。

 誰のものでもない己の疑問。

 もしも、本当に天草四郎の願いが世界のために正しいのなら、ここでルーラーが彼を止めることにどんな意味があるのだろう。

 “黒”のアーチャーはやり直しを奇跡に求めるべきではないと一蹴した。彼の理念は正しく美しい。そして、そうして失われたすべてを救いたいという四郎の願いもまた、正しく思える。正しいということは、こうまで難しく理想への到達には、人類にとってあまりにも長い道のりを必要とする。

 ならば、やはり四郎の遣り方は性急に過ぎるだろう。

 人の考える平和は千差万別で、確定した答えは何一つない。その人生も何一つ同じものはない。画一的な救済は、決してすべての人類を救済したことにならないのではないか。

“見えた”

 回廊の終わりが見えた。

 大きく重厚な扉が聳え立つ、無機質な石の空間。その扉の向こうに、サーヴァントの気配を明確に捉えて、ルーラーは一瞬だけ躊躇した。

 天草四郎と姿を見せぬキャスター。

 戦闘での脅威で言えば、キャスターのほうを警戒すべきだが、単なる魔術は神代のものでも弾けるルーラーに、正統な魔術師は相性が悪い。しかし、キャスターの恐ろしさはありとあらゆる方法で攻撃することができるという点にある。

 単純な魔術攻撃以外にも環境を創り変える、武器を生み出す、恐るべき魔獣を召喚する。系統は数え切れないほどに分化し、どの系統に属するかで脅威の度合いが大きく変わる。

 今まで現れなかったキャスターは果たしてどのような人物なのか。

 願わくば、はずれサーヴァントであってほしい。

 亜種聖杯戦争では度々報告される事例だが、偶々キャスター適性を持っていただけの名もなき魔術師モドキが召喚されることがあるという。戦闘能力を持たないが故にそもそも戦争が成立しない。

 残念ながら“赤”のサーヴァントは魔術協会が聖遺物を選別したというから、はずれが出てくる可能性はほぼ皆無である。伝説の勇士ならばまだしも、魔術の総本山が魔術師の聖遺物で選択を誤ることはあるまい。

 ともかく、どのような敵が現れるにしてもルーラーが剣を納める理由にはならない。

 そっと手を伸ばすと、扉が思いのほか軽い音を立てて開いた。魔術によるロックなどは何もなかった。

 そして開かれた世界は、まるで聖堂の内部のような静けさと厳粛さを併せ持つ広大な空間であった。

「ようこそ、ジャンヌ・ダルク。あなたなら、真っ先にここに辿り着くと思っていましたよ」

 装いを新たにした天草四郎時貞が、青白く発光する大聖杯の下に佇み、ルーラーに淡い微笑みを浮かべていた。

 そして、その背後には、四郎に仕える宮廷道化師のような男がいる。

「イングランドの……シェイクスピア」

 距離は遠く、貴族服が舞台俳優のように映えている。“赤”のキャスター――――シェイクスピア。生前に面識はなかったが、彼がジャンヌ・ダルクを題材とした著作を残していることは知っている。レティシアの知識の中に、彼の著作があったからである。

 敵味方(フランスとイングランド)に分かれていたこともあって、ジャンヌ・ダルクの扱いは決してよいとはいえなかったが。

 作家系サーヴァントとともなれば、前線に出ることはまずない。戦闘能力のない『キャスター』の代表格が作家系サーヴァントである。その一方で、作家系サーヴァントは宝具が強力であることが多く、決して油断はできない。

「初めまして、片田舎の狂人娘。如何にも、我輩が“赤”のキャスターです」

「あなたが、わたしの相手をするのですか?」

「ハハハ。そうですな。あなたがあともう少し、ほんの少し早かったのなら我輩が誠心誠意お相手したことでしょう。我が宝具の出来もなかなかですからな。しかし、あなたは間に合わなかった。間に合わなかった以上は、我輩は最後の足掻きを観戦するだけ。真打は、我輩ではありませんのでな!」

 長々と、キャスターは大声で喋りぬく。大仰な台詞と仕草ではあったが、結局彼が言いたいことはルーラーとは戦わないということだろう。

 彼も聖杯に託す願いがあるのなら、聖杯を死守しようとするだろうが、自分以外に適任がいれば当然、そちらに戦いを譲る。

 キャスターは戦わない。

 それはいい。初めから、彼に戦闘ができるとは思っていない。それよりも、もっと重要なことをキャスターが言っていなかったか。そう、――――。

「間に合わなかった?」

 まさか、とルーラーは大聖杯を見上げた。

 茫、と淡く光る大聖杯。膨大な魔力の塊を湛えるそれが、胎児の心臓を思わせる。

「大聖杯は、すでに我が願いを聞き届けました。直に、全人類を不老不死にするために稼動を始めるでしょう」

「ッ――――」

 ルーラーは絶句する。

 聖杯大戦の決着を待たず、天草四郎は願いを強行しようとしている。これはまずい。願いの規模が大きいために、即座に稼動を始めることはないにしても、それも時間の問題であろう。

「本当に実行するつもりですか、天草四郎!」

「我が願いはかつて宣言した通り。この七十年を、私はこのために生きてきた。止めたければ、俺を滅ぼしていくがいい!」

 大聖杯が大きく輝いた。

 かつての邂逅で、ルーラーは天草四郎の願いを知りながら“黒”の陣営に就いた。最早その時点で九割方敵であると四郎は認識している。

 四郎が掲げた腕に呼応して、宙に魔力が結集する。それはさながら巨人の腕のようであった。

「私は確かにあなたには及ばない、極東の聖人モドキです。しかし、大聖杯と接続した今の私はご覧の通り、余剰魔力だけでもあなたを討ち果たすだけの力がある」

 四郎としてはこの余剰魔力であっても無駄にせず、大聖杯にくべたいところであったが、ルーラーを四郎の実力だけで止めるのはほぼ不可能である。強大な聖杯の補助を受けて初めて彼女と対峙できる。

「キャスター。聖杯の様子には気を配ってくださいね」

「ええ、ええ。もちろんですとも。一世一代の大仕事ですからな!」

 キャスターが待ちに待った展開。天草四郎とジャンヌ・ダルクの激突だ。世界的に有名な聖人を、極東の小英雄が打倒できるか否か。精神面では、成熟しつくした四郎に軍配が上がり、サーヴァントとしてはジャンヌ・ダルクに軍配が上がるが、果たしてどのような形に落ち着くか。作家として、この戦いは目に焼き付けておきたい。

 

 

 

 青い光がルーラーの視界を覆い尽くす。ただの一撃が致命傷になる。天草四郎の両腕を基点とし、強大な魔力が吹き荒れている。

 四郎の両腕はあらゆる魔術を使用する万能の魔術回路。大聖杯と接続したことで、その膨大な魔力を魔術師では扱えない規模で支配できる。

 それは結晶と化してルーラーを襲う。種別は物理攻撃。『対魔力』では防げない。

 ルーラーが掲げるのは純白の旗。

 幾多の戦場を乗り越えてきた白は、聖杯の魔力如きには侵されない。

 途方もない衝撃がルーラーの全身を駆け抜ける。

 四郎の光はルーラーの守りをして脅威である。

 突進するルーラーと佇む天草四郎。ルーラーには時間がなく、四郎の攻撃も馬鹿にできない。力いっぱい旗を振るって拳を打ち払う。

「天草四郎。あなたは、そうまでして人類の可能性を摘み取りたいのですかッ?」

「不特定な未来のために、人類は無益な血を流してきました。有限の命は人類が夢を叶えるには少なすぎる。結果、強い者だけが未来を掴む世界ができあがる。あなたはそれを、肯定するのか」

「それでも人類は前に進んでいる。――――わたしたち過去の亡霊には、それは実感できるはずです」

 四郎の言うことは一つの真理だ。すべての人間が望みを叶えることなどできはしない。幸運と実力とその他様々な要素を満たした人間だけが望みに手を伸ばすことができる。その過程で、争いが生まれることは否定できない現実だ。

 しかし、ルーラーは思う。

 人間はそれでもよく前に進んでいる。

 彼女を焼き殺したイングランドと祖国のフランスは、事あるごとに戦争を繰り返してきた歴史がある。しかし、現代に擬似的に蘇り、人の営みを見てみれば分かる。世界は確実に戦争を忌諱する方向に進んでいる。それは、長い時間をかけて人間が学び、語らい歩んできた証ではないか。

 人類の歩みと営みは正しかった。

 ルーラーは自信を持って宣言できる。

「人類の歴史――――その過程で流れた血を思えば、決して正しいとは言えない!」

 だが、四郎は過程を嫌悪する。結果を求めて血が流れるのなら、結果を求める必要はない。四郎がすべてを用意する。大聖杯で以て不老不死を授け、未来に餓える必要性を取り除く。それで、すべてが解決する。

「そんなものは思考停止に他なりません」

「かもしれません。故に、血も流れません」

 爆音が響き渡った。

 四郎の砲撃をルーラーが逸らしたことが原因だ。あらぬ方向に飛ばされた光が床石をこれでもかと打ち砕いた。

「――――ッ!」

 ルーラーは歯を食い縛り、銃弾のような速度で四郎に肉薄した。

 突き出される旗。

 音速を超えて打ち出された旗を、四郎は腰に佩いた太刀で払った。

天の鉄槌(ヘブンフレイル)――――落ちろ!」

 二合打ち合い、四郎はルーラーの攻撃を凌ぎ切った。第三撃で太刀が叩き落された。留めの一撃は頭蓋狙いだが、放つことは許さない。空から墜ちる鉄槌がルーラーと四郎を分断する。

「く……!」

 ルーラーは旗で一撃を受け止めて、顔を歪めて後ずさりした。

 惜しい。

 後一瞬、四郎の反応が遅ければ相打ちでも仕留められたものを。

 ルーラーは墜ちてくる巨人の腕を防ぎ、旗を振るう。

 あの天草四郎が、二度の接近を許すことはないだろう。ルーラーの武装は最終宝具を除いて近接戦用。旗も剣も武器として使えば、間合いまで近付かねばならない。

 少し、逡巡する。

 宝具の使用はルーラーにとって大きな賭けになる。使い方を誤れば、すべてを無為に帰してしまう。四郎の底が見えないのに使っても大丈夫だろうか。

 悩んだのは、ほんの数秒だった。

 ルーラーは真っ直ぐ天草四郎を見据え、覚悟を固める。そして、左手で旗を支えながら、空いた右手で己の剣を抜き放ったのであった。




実は性別偽ってましたってサーヴァントも増えてきたから、それで聖杯戦争が見たい。大体セイバーが多いからあれだけど、数だけなら揃ってるだろうし。
セイバー・・・アルトリア
アーチャー・・・ノブ
ランサー・・・アキレウス
ライダー・・・ネロ
アサシン・・・桜セイバー
バーサーカー・・・ヘラクレス

こんなところか。ほかにももーさんとかアストルフォとかいろいろいるね。

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