強化と言えるものなのかわからないですけど。
時期は5月に入り、そろそろ本格的に学校が活発になり始める頃。俺はオール・フォー・ワンが置かれていた、在庫倉庫から移動し、整備士科が主だって使うISの整備倉庫に来ていた。
「そこの、スパナ取って!」
「ヒート・カッター使用の申請してくるね」
「ちょっと!最後にハイパー・センサーの基準値いじったのは誰!?測定値振り切ってるんだけど!」
基本的に二年生や三年生がこの倉庫で日々ISの整備と調整に勤しんでいる。場所によっては笑い声や時には怒号が飛び交う中、俺は朱理に連れられて、歩いて行く。
「とりあえず、ここ二週間ほどで得た、薪のデータを元に、私なりにオール・フォー・ワンの改修案を考えてみた」
「強化か・・・そいつはありがたいが何すんだ?腕をもう一本つけるとかいい始めるなよ」
「あー、オール・フォー・ワンの左腕のアラクネからの発想か?それも面白そうだからやってもいいんだが、今日はもっと基礎的な部分の改修だ」
アラクネって本来そんな機体なのか・・・というか面白さを求めてISをいじくらないで欲しい。
そこらに転がる機材をものともせず、ズイズイと倉庫の奥へと進んで行く朱理。
朱理の背中を追いかけるその途中、見覚えのある小柄な女の子を見つける。
クラスメイトのフォルテ・サファイアだ、確かギリシャ代表候補生で、専用機持ちなんだっけか・・・
水色に近いホワイト、淡いブルーとでも言えばいいか。そんなカラーリングをしたISに乗って、整備士と話し合っていた。
サファイアとは特に話すこともないし、声をかける必要もないか・・・
そのまま目の前を通りすぎ、朱理の後をついて行こうとする。
「ん?風見野?なにやってんスか、こんな所で?」
逆に声をかけられてしまった。
振り返り、ISに乗って少し高い位置にいるサファイアを見る。
「朱理に連れられて、オール・フォーワンの改造だ、あっちの倉庫じゃあ、機材が全然無いからな」
「ああ、ようやくあのスクラップ置き場から、脱出したんスか」
「スクラップ言うな、俺も時々言うけど」
サファイアは比較的小柄な体系をしている、王先生ほど小さくはないが、中学生と見間違えるサイズだ。
・・・貧乳。
「なんスか、人の体をジロジロ見て」
「いや、なんでも、後輩との会話を思い出しただけだ」
「はぁ?・・・意味わかんないっス」
ずっと同じ体勢を取っていて、肩が凝っているのか、顔を右、左と動かすサファイア。
「そういう、サファイアはここでなにしてんだ?」
「相方のダリル先輩とのハイパー・センサーのマッチング設定中っス」
「相方?」
サファイアにそう言われ、隣を見ると、金髪の身長が大きい女性が乗ったISがあった。
そのISの両肩には犬の頭のような形を模しており、機体全体のカラーリングはダーク・グレーだ。
ダリル先輩と呼ばれた、女性は目を瞑って、ISに乗っていて、俺達の会話を聞いたのか、チラッと片目を少し開き俺を見てくる。
・・・なんか、怖い先輩だな。
「風見野、知らないんスか?私達のコンビ名」
「え?コンビ名なんてあんの?」
突然言われ、再び少し上にいるサファイアを見る。
「ふふん、三年生のダリル・ケイシーと二年生のフォルテ・サファイアのコンビ・・・その名も「イージス」っス!」
イージス、ねぇ・・・
「先輩の乗る、ヘル・ハウンドver2.5の炎と私の乗るコールド・ブラッドの氷による攻防一体の布陣による、コンビネーション技が売りっスよ」
「そうか両機とも第三世代機体か、すげぇなそんな事出来んのか」
タッグか・・・俺もいつか誰かと組んでコンビネーション技とか生み出す事になるのだろうか・・・いや、俺のIS、第三世代機体じゃないからそんな芸当できそうにないな。
俺とサファイアが話していると先ほどのダリル先輩と呼ばれた人から声が飛んでくる。
「おい、フォルテ。めんどくせぇから、早く、ハイパー・センサーのリンクしろっていつまでも終わんねぇぞ」
「はい、はーい。今やるっスよ」
そう言って、サファイアは目の前の空中ディスプレイをいじり始める。
「そう言えば、風見野」
「ん、なんだ?」
「さっき、奥の方で楯無を見たっスよ、色々世話になってるなら、顔出しといた方がいいんじゃないスかねぇ」
げ、最近どこ行ってもアイツの顔見るな。まあ、教えてもらってるし、声かけとくか。
「じゃ、俺は行くぞ。頑張れよ、ゼウスの肩パット」
「おお、風見野も頑張・・・って!肩パット言うなっス!」
「おい!!フォルテ!!ちゃんとリンク先を参照しろって!わけわかんない数値出てるぞ!」
ワー、ギャー騒ぐ声を背に、倉庫の奥へと進む。
その先では当たり前のように朱理と藍理が待っていた。
「おし、来たな、薪、早速、とりかかるぞ」
「おう、よろしく頼む」
ISを展開しISの固定台にオール・フォー・ワンを設置させる。
「で、結局なにやんだ?」
「へへ、これだ」
そう言って、朱理が取り出したのは手のひらサイズという訳ではないが両手で持つ事が出来るくらいの四角く、若干長方形の黒い箱のようなものだった。
「なんだこれ?」
手に持ち、様々な角度から見るがいまいちわからない。
そんな俺を見て、朱理はニヤリと笑う。
「これは、追加スラスターだ!」
「スラスター?」
なんでそんな物を?
そう思っていると藍理がディスプレイを見ながら答える。
「今、オール・フォー・ワンに必要なのは快適な足回りとそれを制御するための制御機構です、二年生での戦いの殆どは、第三世代機との戦いになります。その為、まずは、機動力の確保を最優先に今回の改修案を出して見ました」
「なるほど、足回りか・・・」
確かに、楯無との戦いの時、無理なバレル・ロールをした際に姿勢制御が不可能になり思わず、地面に手をついでにしまった事を思い出す。
最初は自分の技量不足と思っていたが最近オール・フォー・ワンを使っていても、どこか体を動かし辛いと感じていた所だ。
「これを、両肩と両足、そして左右の腰とリア・アーマーにもつける。これだけあれば、瞬時加速の際も安全に姿勢制御が出来る」
「おお・・・これだけ作るのも大分時間かかったろ、ありがとな朱理」
たった一人でパーツを作る、俺が楯無と訓練している間もコイツは頑張っていたんだな、本当にいいヤツだよ。
俺は心の底から感動したが、朱理は逆に、は?みたいな顔をした。
「いや?ようつべの動画見ながら作ったから、あんまり時間は気にしなかったな?」
「プラモ感覚で作るんじゃねぇ!!」
台無しだった。
駄目だやっぱり信用性ゼロだ、この前のカスタム・ウイング爆発事件から何も学んでねぇ、コイツ。
「まあ、気にすんなって薪!確かに数多いから面倒だと思ったけど、安全は藍理が保証すっから!」
「テストは妹に任せるとか、姉としての威厳はいいのか!」
「私と藍理は同い年だからそんなの関係ねぇよ!」
「まぁ、姉さんも薪さんもそこまでにして、早く追加スラスターを付けて飛行テストをしましょう、耐久テストはしましたけど、そちらはまだなので・・・」
追加スラスターを持ち、オール・フォー・ワンに取り付ける準備を始める藍理。
それを見て、ため息を付く。
「耐久テストってまさか、床に100回落とすとかじゃないよな・・・藍理、信じてるぞ」
「なんだ、薪?スラスターに不満か?」
「・・・無いよりはましだが」
「ったく、しょうがないなぁ、薪は」
やれやれと首をふる朱理。
「そんな、薪に、実はもう一個、追加のパーツがあるんだ」
「え?マジ?」
ふふんと、鼻を鳴らす朱理。その後、俺の肩を掴み、藍理に聞こえないように話し始める。
「藍理には内緒なんだけどさ、実は既にオール・フォー・ワンにOSWを搭載させたんだよ」
「そのOSWって?」
「私の考えた最強武器、
「何それカッコいい・・・で、何処にあるんだそのOSWってのは」
「あれだ、あれ」
そう言って、朱理がゆびを指した先にはオール・フォー・ワンの左のカスタム・ウイングがあった。
え?
「おい、あれのどこが武器なんだ?というかこの前爆発したお前の自作のヤツだよねぇあれ」
「それは言うな薪、あれはカスタム・ウイング兼、武器なんだよ本来は」
なにそれ〜?、最初かっらそんなん搭載してんなら言えよ、使ったわ、楯無との戦いで。
「あれは、凄いぞ薪。なんせ・・・」
「なんせ?」
「・・・ビームが出る」
ビーム・・・
「細かく言うとビーム状の剣になる」
「すまん、ライト・サーベルとビーム・セイバーの違いがいまいちわからない俺が言うのもなんだが、それは意味がある物なのか?」
「混ぜるな薪、あのカスタム・ウイングの正式名称「エンド・ロール」はブースターの射出口から超高熱とISのエネルギーを最大限ぶちまかす事が出来る仕組みになっている。まあ、瞬時加速を相手にぶつけるような物だ」
「よくわからんが、ヤバいってのはわかった」
「だろう・・・ただ・・・」
「ただ?」
今まで自信満々だった朱理の顔が曇る。
「安全性ど外視の出力を持っているが為、公式戦で使うような物だったら。まず、相手はミンチより酷い状態になる。そして、オール・フォー・ワンは半壊して、最悪、薪の左腕はふっ飛ぶ」
「早く外せ馬鹿」
流石に朱理の頭をひっぱ叩いた。
「ッ痛った〜・・・」
「痛った〜、じゃねぇ、俺に殺人させるつもりかお前は」
「だってよ〜!ロマンがよ〜!」
「安全基準の中でロマンは求めろ」
「姉さ〜ん!早く付けましょうよ〜!」
オール・フォー・ワンに乗っかって、もう取り付ける準備が終わっている藍理が叫ぶ。
「あいよ〜、今行くよ〜」
「はぁ・・・」
朱理が頭を押さえながら藍理の元へ行くのを見届けた後、俺は追加パーツが取り付けられるのを待つ間、近くの機材に寄りかかる。
馬鹿と天才は紙一重とはよく言ったものだ、朱理は馬鹿と天才の境目を行ったり来たりしているようなヤツだな。
結局、オール・フォー・ワンに対しての不安が憑きまとう中、改修されるのを見ていると、倉庫の更に奥に見覚えのある影を見る。
水色の髪・・・楯無?こんな奥で何やってんだ?
不思議に思い、その背中を追って倉庫の奥に入って行く。
ガチャガチャと工具の入った箱を探っている、楯無を見つけ、肩を叩く。
「おい、一人で何やって・・・」
「ひゃ!?」
その楯無はおっかなビックリしたような声を上げ、こちらの手を振り払う。
「うぉ!?どうした?楯・・・な・・・し?」
「・・・・」
楯無だと思っていたその少女は眼鏡をかけていて、少し髪型も違っていた。
怯えた表情のその子はこちらの顔をうかがいながら、ゆっくりと口を開く。
「・・・楯無は、姉です・・・」
「え、妹!?」
アイツ妹いたのか、知らんかった。確かに、妹と言われるとどことなく楯無の面影を残しながら、全然違う。
「えっと・・・あ〜、すまんかった、声かけて悪かったな」
楯無の妹と名乗った少女の顔が非常に怯えていたので、ここは一時退散しよう、いつ悲鳴が上がるかわかったものではない。
そう思い、朱理達がいる場所に戻ろうとすると、楯無の妹から声をかけられる。
「あの・・・風見野 薪さん、ですよね?」
「へぇ、簪って言うのか」
「はい、薪さん」
楯無の妹で、そして簪と名乗った少女 更識 簪と、一緒に近くの機材に座る。
いざ、話してみると、活発的な楯無とは違いどこかオドオドとした会話をするが、とても大人しく、しっかりとした子のようだ。
そして、この子はなんと代表候補生らしい、姉はロシア国家代表で妹は日本代表候補生ってとんでもない姉妹だな。
「あの、薪さんは、お姉ちゃんと戦ったんですよね」
「ああ、フルボッコにされたけどな」
うぁ、見てたのかあの試合・・・こうして直に自分の試合の評価を聞く事になるとは思わなかったな。しかも、後輩から。
「いえ・・・凄いです。あのお姉ちゃんに挑むなんて」
「挑む・・・というか、ほぼ強制参加型の負けイベントだったがな、見てたならカッコ悪いって思ったろ」
「そうなのかもしれないですけど・・・それでも私はお姉ちゃんに立ち向かう、薪さんを、カ・・・」
「か?」
「あ、いえ・・・・」
簪は何か戸惑っているように見えるが意を決して俺を見てくる。
「薪さん、聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「その、どうしたら、薪さんみたいに強くなれますか?」
「え?」
意外な質問だった。というか俺はまだクソザコミジンコドチビなので言える事なんて何もない、未だに訓練の際にも楯無から初心者と言われ続けているくらいだ。
「すまんが、俺は弱いぞ」
「いえ、そうじゃなくて、その・・・」
「?」
簪は目を伏せて言う。
「薪さんは弱いのに凄いです・・・回りは皆強い人ばかりなのに、そんな中で、戦うって決意してるのが、強いなって、思ってるんです」
「・・・簪」
今、弱いってハッキリ言ったね、この子。メッチャ心にぶっ刺さったわ。後輩から言われてハートクラッシュしそうだわ。
じゃなくて、多分この子は心の強さの話しをしてる。簪は大人しいのでは無く、内気な性格なのか・・・そして、それを改善したいと思っている。だから、俺から心の強さを学ぼうとしてる、と言った所か・・・
しかし、そんな事言われてもな・・・俺からして見ると、対した心構えがある訳じゃあないんだがな・・・割りと適当にやっている所もあるし。
さて、どうした物かと、辺りを見渡していると正面に未完成のISがある事に気づく。
「あのISは?」
「・・・私の専用機です・・・訳あって、未完成で、私一人で組み上げいる所です」
「一人で?」
「はい、一人でやりたいんです」
「ほう、楯無みたいだな」
「ッ!・・・」
あれ?なんか地雷を踏んだみたいだ・・・
簪の顔色が急に変わった・・・楯無となんかあるのか?
突然出てきた不穏な空気を払拭すべく別の話題に変える。
「ああ、えっとだな・・・あのISはいつ頃、完成予定なんだ?」
「夏・・・いえ、冬になるかもしれません」
「遠いな」
「フレームを組むだけでしたらニヶ月ほどで完成しますけど、第三世代機としてのイメージインターフェースは・・・全然」
「もったいないな」
「え?」
「ん、ああ、空を飛べないのはもったいないってな」
心から出た言葉だった。
わかった、この子はきっと、自分と姉を見比べているのだろう。
楯無は確かに完璧なヤツだ。学園最強だし、国家代表だし、料理とか勉強とかなんでも出来るヤツだし。
そんな姉を見て、自分も完璧でなければいけないと思っているのだろう、楯無は一人でISを完成させた(回りの人に手を貸してもらっているが)、そう思ってるから自分も一人でISを完成させようと思っているのだろう。
そんな事は気にしなくていいんだと、理解してもらわなければ。
「まずは、空を飛べるようにしたらどうだ?」
「空ですか?」
簪が驚いたように言う。
「そうだ。空はいいぞ、いい気分になれる」
「空・・・そうなんですか?」
「ああ、こんな倉庫でジッとしてるなんてもったいない、ISも外に出たいって思ってるさ」
「・・・でも」
簪がまた目を伏せてしまう、駄目だここはもっとしっかり言った方がいいか。
「簪、別に誰もいきなり完成品を出せとは言わないよ、ゆっくりでいいんだ、着々と完璧な物に仕上げてけばいい、俺も手伝うし」
「ゆっくり・・・」
「俺のオール・フォー・ワンだって、未完成品みたいなもんだぞ、いつしっかりとした機体になるのやら」
というか、不良品の類いに片足を突っ込んでいるのだが、主に朱理のせいで。
「だから、まずは、ISとして作って空を飛んでみろって、俺は簪と空を飛んでみたいな」
「・・・・」
俺の目を見て、その後小さくコクンと頷いてくれた。
良かった・・・
なんとか了承してくれたみたいだ。
そう心の中で安堵していると誰かが近づいてくる足音が聞こえる。
「ん?、あー!薪が下級生にナンパしてる!」
朱理だった。
「してねぇよ、終わったのか?、そっちは」
まったく、タイミング悪く来るなコイツは。
「おう、完璧だぜ!早く飛ばしに行こうぜー!」
「ラジコン飛ばすみたいに言うな、ったく」
機材から立ち上がり、朱理の後をついていく。
「ああ、そうだ、簪」
「?」
最後いい忘れていた事があった。
「俺が心が強い理由ってヤツだが・・・正直、俺にもわからん」
「え?」
「ただ、俺は今のままはヤダって思ってる、だから挑むんだ」
「・・・・」
「お前だって、今の自分は嫌だから、頑張ってるんだろ?だったらお前も強いさ」
「・・・そ、そんな事は」
また、目を伏せようとする簪。
だが、伏せる前に言わして貰う。
「いいや、お前は強いよ簪。弱いと思うならこれから強くなればいい」
「・・・・」
「俺は一足お先にそうさせてもらうよ。またな、簪」
そう言い残して俺は朱理の後を追って飛行訓練をするために外に出る。
心の成長は身体の成長より、遥かに難しい事だ。
俺自身、育て方ってのがよくわかってない。
だが、色々なものに挑戦して、力をつけなければ始まらない。
簪の心が成長する事を祈りながらも、まずは・・・
俺が強くならなければ。
でも、挑戦のしすぎは良くないな。
その日の飛行訓練で、藍理が用意した軌道コースは常識を逸脱していた。
なるほど、朱理がジェットコースターって例える訳だ。
若干の後悔を俺は体半分を地面に埋めながら感じていた。
頑張るのはほどほどに。
簪かわいいな・・・
いや、みんな、かわいいけど。
今回の事で簪のISの完成が早くなる事はありません、早くなっても未完成の打鉄ニ式が臨海学校に出るくらいです。原作介入は出来る限りしたくないので、バランスとって一夏ヒロインの子達には接していきます。