インフィニット・ストラトス DEEP   作:右左右 右左

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途中にある歌詞は・・・気にするな。


更識 簪という少女

早朝。

 

まだ、なんとなく朝の寒さが残る5月。

 

今日は土曜日の授業も無く完全な休み。

 

俺は朝から行かなければならない場所があった。

 

整備倉庫だ。

 

OSW「エンド・ロール」を使用して中破したオール・フォー・ワンの修復作業を朱理と藍理が二人だけでやってくれている。

 

襲撃事件から数日の間で直すとは言っていたが土曜日の朝には出来るから取りに来いとは朝から稼働テストするつもりなのか?

 

無機質な倉庫の壁を見ながら、中に入っていく、勿論、いつもは工具の音や喧騒で騒がしいここもシーンと静かだ。

 

「おーい、朱理、いるか・・・って」

 

「zzZZZ」

 

倉庫の少し奥、オール・フォー・ワンの固定台がある場所に着くと直ぐに朱理を見つけたのだが、肝心の呼び出した朱理は無造作に床で爆睡していた。

 

「この感じ、金曜から徹夜でやったな・・・」

 

横のコンソールを見ると藍理は椅子に座って寝ていた、パソコンのデクストップもつけっぱなしだ。

 

「無理にやんなくてもいいのに・・・」

 

藍理はまだしも、朱理をこのままにするのは良くないな。

 

そこら辺を適当に片付け、近くにあった毛布を敷き、朱理を抱き抱える。

 

「よいしょ」

 

「ウ〜ン、薪・・・次の改修案は・・・ヤバくなったら頭と胴体が別れるぞ・・・」

 

「それは俺にトドメをさしているんだが・・・」

 

夢の中でも、ISをいじっているのか、変な寝言を吐く朱理。

 

朱理をゆっくりと即席ベッドの上に置く。

 

「・・・ありがとな」

 

「んん・・・」

 

頭を撫でるとゴロンと寝返りをうつ朱理。

 

朱理に毛布をかけた後、藍理にも毛布をかけてやる。

 

固定台に設置されているオール・フォー・ワンは3日前に見た時は全体的にボロボロで、OSWを装着していたアラクネの左腕は装甲が剥がれていて、テンペスタのウイングは余波の熱で所々、融解していたほどだったが。今は完璧な状態まで修復されている。

 

「・・・・」

 

自分の包帯が巻かれている左腕を見る。

 

「次は・・・どうなるかわからないか・・・」

 

楯無から言われたその言葉は自分の非力さを思い知るには十分だった。

 

人が乗っている訳でもない無人機のIS一機に手こずる所か、最悪やられていた可能性もあったのだ。

 

もしも、ソルのように戦えない人がいたら守りながらでもあのISを倒す事ができるだろうか?

 

いや、無理だな、今の俺には出来ない。

 

もっと力をつけなければ守るべき物も守れない。

 

その為には、一刻も早くISに乗り訓練をしなければ。

 

 

 

しかし・・・

 

 

 

「どうしたもんかな・・・二人とも寝てるし、起こす訳にはいかないし」

 

寝てる二人を見るがやはり起きそうな気配は一切無い、昨日電話をもらった時は朝から稼働テストすると朱理が意気込んでいたが、完全に寝てしまっている。

 

まあ、起きるまで待つか、起きそうになったら二人にミルクコーヒーでも・・・

 

そう思っていると俺達以外、誰もいない整備倉庫に人の声が聞こえる。

 

いや・・・

 

「これは、歌か?・・・」

 

整備倉庫の更に奥、そこから歌声が聞こえるのだ。

 

興味本意で歌が聞こえる方に言って見ると早朝なのにISを整備している人の背中を見つけた。

 

水色の髪・・・二つ結びの髪。

 

簪だった。

 

 

 

 

「バスターバスターAll Green♪ バスターバスターClear Up♪」

 

簪がISを整備しながら何か歌っている、なんだろう土曜日の朝なのに日曜日の朝みたいな感じがする。

 

「電子の回廊を駆け抜け 影から忍び寄るウイルスに銀の弾を撃て♪ 今こそ 力を合わせる時♪」

 

ああ、あれか・・・作業に没頭すると歌い出しちゃう奴か・・・まあ、まだ早朝だし、誰もいないと思ってるから歌ってるのか。

 

手の平でスパナを回しながら、体を小刻みに動かし手慣れた手つきでリズムよくパーツを組み上げていく簪。

 

「仮想の世界を守る為 魂をかけて戦うよ♪ 傷ついたって立ち上がる度に 勇気がわき上がる♪」

 

楽しく無邪気に歌うその姿はまるで整備倉庫を舞う妖精の如く・・・じゃない・・・なんだか見てはいけない物を見てしまった。

 

「終わりの無い戦いに 終止符をうて♪ 電子戦隊!バスターレンジャー! プ・ラ・ズ・マ・ブレード!」

 

くるんと真後ろに回って、持っていたスパナを剣のようにして空中を切りつける。

 

まあ、その目の前には俺がいるわけで・・・

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

早朝の倉庫にふさわしい、沈黙が辺りを支配する。

 

簪の顔が汗をダラダラと流しながら徐々に真っ赤に染まっていく。

 

さてプラズマブレードで切られてしまった俺はどうすればいいんだ・・・

 

「・・・あ〜、すまん簪・・・俺は蹴られたり切られたりするだけで爆発する芸当は持ち合わせていないんだ・・・」

 

「・・・い、いつから・・・見てたんですか・・・」

 

「えっと・・・バスターバスターオールグリーンの辺りから・・・」

 

「サビから見られてた!!」

 

しゃがみ込んで両手で顔を隠す簪。

 

サビだったのか・・・あれ・・・

 

「・・・死にたい・・・穴があったら入りたい・・・」

 

しくしくと泣き始めた簪の背中を見て、どうフォローしたものか考え始める事になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ・・・ヒーローものが好きなのか簪は」

 

「・・・はい、そう、です・・・」

 

簪が落ち着いた所を見計らって、二人して機材に座って先ほどの事を話し始める。

 

「傷ついても直ぐに立ち上がって、誰かを助けて最後は必ず敵を倒して終わる、そんな姿がカッコよくて、憧れてるんです・・・」

 

「まあ、そうだな、確かに最後は必ず勝つもんな」

 

「・・・子供っぽいって思いましたか?・・・」

 

「ん?・・・いや、今のご時世、大人だってよく見てるしあんまり気にする事はないんじゃないか?」

 

「そう、ですかね・・・」

 

未だに顔を赤く染めながら話す簪、確かにあんな堂々と歌ってる所見られたら恥ずかしいわな、それに簪、元々引っ込み思案な性格だし。

 

ヒーローか・・・

 

簪のいる環境を考えると確かにそういったモノに憧れを抱くのは分かる。何でも出来る姉に中々完成しないIS。そういった状況で苦しむ簪とって、カッコよく誰かを救うヒーローは心の拠り所になっているのだろう。

 

しかし、それはあくまでもテレビの中の世界のお話し、現実は甘くない。

 

簪は今のこの状況を誰かに救って欲しいのかもしれない、それこそヒーローの如く、しっかりちゃっかり。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

簪を救ってやりたいのは山々だが、俺はISの整備に対しては何の知識もないし、姉である楯無には俺も頭が上がらない状態である。それに問題なのは簪の心の強さもある・・・

 

どうしたもんかねぇ・・・

 

この子は問題が山積みだ、そう思っていると簪が俺の左腕を見て話してくる。

 

「薪さんのその左腕・・・この前の戦闘の怪我ですか?」

 

「ああそうだが・・・これくらいの傷は心配しなくてもすぐに治るぞ、明後日には包帯外していいって言われてるし」

 

「薪さん・・・あの正体不明のISからエンゲルベルト先輩を守りながら戦ったって一年生の間でも話題になってましたよ」

 

「守りながらって・・・ソルにはむしろ俺が助けられたんだが・・・」

 

噂には尾ひれが必ずつくものだな。放っておいたら更に噂が膨張しそうだ。

 

「すごいですよ・・・私だったら・・・怖くて、逃げちゃいますよ・・・」

 

「・・・・」

 

いや、最初、こんなバケモンと戦えるか!って真っ先にソルを抱えて逃げるを選択したけどな俺。

 

「ま、まぁ、やるしかない状況に追い込まれちゃったし・・・案外、誰でも火事場のクソ力ぐらい・・・」

 

「誰かを救って、敵まで対して・・・まるで・・・ヒーローみたいでした・・・」

 

「簪・・・」

 

うっ・・・なんだか簪から凄くキラキラした目で見られてる気がする。

 

というか実際キラキラした目でこちらを見てくる簪。

 

どうしようこの子の期待に答えられそうにない!

 

「ヒ、ヒーローねぇ・・・」

 

「はい・・・」

 

俺がヒーローとか絶対に合わないな、そんな人間じゃないし。悪の敵と戦う時にお膳立てする位の弱小ヒーロー位だし。黄色か緑だし。もしくはもうピンクでいいし。

 

自信がないとしかいいようがない・・・あ、そういえば、もう一人ヒーローがいるじゃないか、ウチの学園には。

 

「一夏はどうだ?アイツは確か、最後に凰を庇って負傷したって聞いたぞ、女の子を守る為に傷つくなんて、カッコいいじゃないか?」

 

簪に聞いてみる、俺なんかよりもルックスもいいし、グラスの女子どころか学園全体で人気があるし、十分ヒーローらしい奴なんだが、どうだろうか?

 

「織斑は・・・」

 

しかし、俺の期待を裏切り簪は突然ムスッとした表情になる。

 

「嫌い」

 

「え?」

 

あれ?また、地雷踏んだか俺?

 

「・・・本当は嫌いって訳じゃないけど・・・私のISが未完成なのは間接的に織斑のせいでもある・・・」

 

「なんだか話しが飲み込めないな・・・なんで簪のISが未完成なのは一夏のせいなんだ?」

 

「・・・私の打鉄二式は元々、倉持技研が開発していた第三世代機体のISなんですけど、織斑の白式の開発が急遽決まって・・・それでずっと後回しにされてる・・・」

 

簪が固定台に置かれている未完成のIS見つめる。

 

ああ、そういう事か・・・だから間接的にって事なのか。

 

「彼は悪くはないのに・・・なのに・・・なんだか許せなくて・・・」

 

ギュッと制服の胸元を握り締める簪。

 

その表情はなんだか苦しそうだった。

 

簪自身、今自分が抱いているこの感情は嫌いなんだろうな、あまり人に対しては理不尽な事は言わないような子だし。

 

「ふん・・・まぁ、気にするな簪、アイツは女の子に恨まれるのには馴れてるしな、もし会うような事があったらその時に感じた事を言えばいいさ」

 

「・・・織斑はいつも女の子に恨まれてるの?」

 

「いや、いつもと言う訳ではないが・・・」

 

そう、だよな?・・・一夏、信じてるぞ。

 

しばらくの間、簪の悩みを聞いていると一人整備倉庫に入ってくる子がいた。

 

「おはよ〜う、かんちゃん・・・ふぁあ・・・眠いよ〜」

 

「おはよう本音、眠いなら無理して手伝わなくてもいいっていつも言ってるじゃない」

 

「そう言っても、私はかんちゃんのメイドだし・・・なにかあったら怒られるのは私だよ〜」

 

のほほんっとした子が来た、制服は袖がダボダボで目は糸目、そんなシャキッとしないメイドがこの世にいてたまるかと言った感じの雰囲気だった。

 

「あ、確か、先輩の薪先輩だ〜」

 

俺に気づいてテクテクと歩いてくる本音と言われた少女。

 

「はじめまして、布仏 本音です。かんちゃんのメイドさんやってます」

 

「ああ、よろしく、風見野 薪だ」

 

メイドさんって・・・ああそいや楯無が前に更識家は古くから日本にある家系っていつか言ってたような・・・というか更識姉妹って二人ともお嬢様なわけか・・・うわ楯無似合わねぇー。

 

「よろしくお願いします、本音って呼んで下さい、マッキー」

 

「マッキー!?」

 

いきなり後輩からアダ名で呼ばれた、というか前に楯無が言ったアダ名じゃねぇかそれ、発案者はお前か!

 

「それにしても・・・」

 

フワフワとした感じで俺と簪を見てくる。

 

「かんちゃんがこんなにマッキーになつくなんて、なんだか兄妹みたいだねぇ」

 

いきなり言われてビクッとなる簪。

 

兄妹って・・・

 

「本音って言ったな、いきなりそんな事言うな、簪だってこま」

 

「お兄・・・ちゃん・・・」

 

ああ、なんかまた簪がキラキラした目でこっちを見てくるんだけど、姉じゃなくて兄が欲しかったとかいい始めそうな感じだ。

 

俺はお兄ちゃんなんかじゃないぞ簪、正直者ヒーロー以上に期待に答えられそうにない!

 

「おお、なんだか、まんざらでもないかんじ、これは嬉しいねぇ」

 

「・・・・」

 

「お兄・・・ちゃん・・・」

 

こちらの袖を掴んでくる。

 

はぁ、面倒な事になった。

 

とりあえず、話していても進展はしなそうだし、なら、行動するべきか。

 

座っていた機材から降りて、立ち上がり、袖をつかんでいる簪に向かって言う。

 

「簪、あのISまだ組み上がってないんだろ?」

 

「う、うん」

 

「なら、コイツも来たしやっちまおうぜ、俺も手伝う」

 

「ま、薪さんの手を煩わせるわけには・・・」

 

「どうせ、朱理と藍理が起きるまでは暇だからな、それまでは手伝うさ、俺自身、ISの整備に関しては知識として欲しいな」

 

「・・・いいんですか?」

 

「おう、まかせな」

 

「じゃあ・・・よろしくお願いします」

 

「よ〜し、眠いけど取りかかっちゃおうかんちゃん」

 

「うん」

 

簪も座っていた機材から立ち上がり、未完成のISに向かって走っていく。

 

その後ろ姿を見つめる。

 

例え今すぐ、あの子を救う事が出来なくても。

 

あの子の助けになる事なら出来る。

 

たとえヒーローでなくても、誰にだって出来る簡単な事。

 

 

手を貸す。

 

 

今はそれだけでいいんだ。

 




この話しでは、簪にお兄ちゃん呼ばわりされてますが、これはそういう風に思われているっていうだけです。

あくまで薪は簪にとっての憧れのような存在であるスタンスをとっていきます。

後、本音との遭遇。

本音は・・・多分専用機持ちにするかもです。
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