後、三人称で書きます。
夜の学園、真っ暗な廊下、昼は生徒達が過ごすこの学園も深夜帯にもなれば誰もいない。
そんな、学園の食堂へと続く道に二つの人影が・・・
「真耶ちゃん、誰にも見つかってないですよね?」
「はい、大丈夫ですよ、王先生。尾行は無しです」
「よし、でわ、抜き足差し足で進みますよ〜」
「はいッ・・・」
辺りを注意しながら進んで行く二人、閉まっている食堂のドアを開け真っ暗な中を進んでいく。
食堂の食券カウンターに既に誰かがいる。
「お、ちーちゃんももう来てましたか]
「来たか、美・・・・なんだ今回から真耶も呼んだのか」
「特に知らされずについて来たんですけど・・・まさか・・・本当にやるんですか?」
「ああ、一ヶ月に一回はな・・・」
「これがなきゃ教員生活なんですかやってられませんよ!」
多少、困惑気味の真耶にウキウキ気分の二人。
しばらく、その場でとどまっていると、閉まっていた食券カウンターのシャッターがガラガラと上がり、調理場の光と共に一人の男の声が聞こえた。
「いらっしゃ〜い、IS学園裏食堂の開店です」
中から現れたのは二十代位の青年、優しそうな顔をした爽やかな顔つきをしている。
「よっしゃ!今椅子もってきますですね」
「あ、私を手伝います」
王と真耶がイスをとりに行っている間、その出てきた青年と顔を合わせる千冬。
「先月はやらなかったけど、どうしたの千冬?」
「少し、てんやわんやしててな、お前だって分かってるだろ、千秋」
「ああ、千冬の弟の一夏君と、もう一人の男性操縦者の薪君だっけ?時々、食堂で働いてても見るよ」
「その二人の手続きやらなんやらでな・・・5月に入って落ち着いたと思ったら、この前の襲撃事件だ・・・」
「大変だね、千冬は」
はぁ、頭を押さえながらため息をつく千冬、それを見た千秋はフフと笑い、料理の準備をし始める。
「さて、なに食べたい?のと、なに飲みたい?一ヶ月やってなかったし今日は豪勢に振る舞うよ」
「フ、そうだなじゃあ・・・」
深夜の食堂・・・そこで行われていたのは、昼は食堂で働いいる有里 千秋が定期的に開いている大人の隠れ飲み会だった。
真っ暗な食堂のなかカウンターの所だけの明かりの中飲み会が始まった。
普段使っている食券カウンターを居酒屋のカウンターバー変わりにして飲み始める、大人達。
教育者が学園内でこんな事やっていいのかという声はここにはない、大人だって隠れて悪い事をしたい時もある、人間だもの、と誰かが言った、そんな気がした。
「真耶ちゃん、おかわりは?」
「えっと、じゃあ、カルーアミルクってありますか?」
「うん、あるよ、今作るからちょっと待ってね。そっちの二人は?」
「「生ビール!!」」
「はいはい」
手慣れた手つきでビールをジョッキに注ぎ、二人に渡す千秋。渡された二人はゴクゴクとビールを飲み干していく。
「「プハァ・・・」」
「飲むねぇ、二人とも」
「普段飲まないからですね」
「そうなのか?私はよく寮の部屋で一人飲みしてるが」
「ちーちゃんは安酒でもいいと感じてるからいいんです、大人なら、こうもっと旨い酒を・・・」
「そう言ってお前、この前安物のワインを飲んでただろ」
「あれは、貰い物でしてですね!」
「まあ、二人とも飲み過ぎはほどほどにね・・・はい、真耶ちゃん、カルーアミルクとエビとアボカド和え出来たよ」
「わぁ、ありがとうございます、千秋さん。まさか学園で飲めるなんて考えても見ませんでした」
「ま、楽ですよねー、いちいちモノレール乗って町まで行って居酒屋探すより、学園で飲んだ方が早いですし」
「そうだな、これなら心配せずにいくらかでも飲めると言うものだ」
再びゴクゴクとビールを飲む二人。
「「プハァ・・・おかわり!!」」
「はいはい」
ちなみに、学園の食堂になんでビールサーバーがあるんだというのはその他諸々全部、千秋が持ち込んでいるからである。
ジョッキを受け取り、肴をつまんでは食べる。
「くぅ〜ん、この、炙り〆鯖。脂がほどよくのっていて、濃厚って感じですよ」
とろけるような顔をする、美友。
「千秋は料理が得意だからな。家庭料理からこういった肴まで、実家がバーやっているおかげで酒にも詳しい」
「え、そうなんですか?」
「うん、そうだよ。千冬はもう常連さんだしね。真耶ちゃんも今度くれば?」
「そうだな、夏にでも連れてこう」
「い、いいんですか?おじゃましちゃって・・・」
「お客様なら大歓迎だよ・・・。はい、千冬。できたよ]
カタと緑色が盛られた皿が千冬の前におかれる。
「これは、空マメか?」
「うん、春も直ぐに終わっちゃうからね、旬の物を」
「そうか、って、熱っ、アチ」
手のひらで踊る空マメをなんとか剥いて、口の中に入れる千冬。
「ふむ、青くさい・・・だが、うまい」
「塩のみの味付けだから、マメの味がよく出るでしょ?」
「ああ、ビールには枝豆もいいが、これもあうな」
パクパクと三人で食べていると酒も進み、酔いも回ってくる、そうすると人は自然と色々な事を聞いたり、話したりしたくなる物だ。
「そういえば、織斑先生と千秋さん・・・お二人はどういう関係なんですか?」
「ああ、真耶ちゃんそれ聞いちゃいますですか?初見で見たら凄く気になりますですよね」
真耶が放った発言に美友が乗っかる。
「こ、コイツとはただの友人だ、別に特にこれと言った関係がある訳ない、要らん詮索はするな真耶」
「あれ〜?そうでしたっけ〜?どうでしたっけ?千秋君?」
「お、おい!美!」
お酒で酔っているのか、どうなのかはわからないが顔を赤くしながら美友を止めようとする千冬。だが、ヒョッイと交わされてしまう。
それを見ながら、新しいビールを持ってきた千秋が答える。
「千冬とは友人関係だよ、恋人とかじゃなくて」
「ええ、そうなんですか・・・」
なんだつまらんとガックシと肩を落とす真耶。だが、千秋が続けて言う。
「ただ、千冬とは昔からの付き合いでね、幼なじみって所」
「幼なじみですか!?」
「うん、小学生六年生くらいかな、まあ、本格的に話し始めたのは中学生になってからだけど、実は、初めて話した時に千冬ったら」
「はいはいはいはい!!」
キラキラと目を輝かす真耶。
「バカ!止めろ!」
「ステイ、ステイですよ、ちーちゃん」
千秋を止めようとする千冬だが、逆に美友に羽交い締めにされて動けなくされてる。
「千冬は美人だねって言ったら顔面を思いっきり殴られたんだ」
「え、えぇ?」
「プハハハハははは!」
「くぅ・・・」
困惑する真耶。爆笑する美友。赤面する千冬。
「それで、中学生の時に千冬についたアダ名が、殴るナイフって言うのがついたんだ」
「プッ・・・」
真耶が噴いてしまった。
「千秋ぃぃ!!くッそ!離れろ美ッ!」
「ぐぁ!?ちょ!アイアンクローはなしですよ!?」
「あの時は!!お前がいきなり初対面にも関わらず名前でよんで変な事を言ってきたからだ!」
「僕は基本、人には人の名前があるのだから名前で呼ぶけどなぁ、名前も似ててなんだか親近感が沸いたし。それに、見て感じた事を言ったまでだし」
「見て感じたって・・・お、お前・・・!」
「いまでも、美人だよ千冬は、綺麗な女の子って感じ」
「綺麗って、女の子って・・・お前のそういう所が私は!・・・」
指をさして、顔を真っ赤にしてしばらくの沈黙。
「・・・私は?」
「い、いや・・・なんでもない・・・」
ストンとイスに座り、アイアンクローをしていた美友を席に置き、チビチビとビールを飲み始める千冬。
それを見た横目で見ていた真耶は・・・
(これは・・・脈アリ!!)
そう、思った。
「くかぁ〜」
「おい、美、まだ始まって1時間とちょっとしかたってないぞ」
カウンターに突っ伏し、寝息を立てる美友。
「美友ちゃん、体がちっちゃいから、酔いが回るのが早いのかな?」
「まあ、直ぐに起きるさ、美も飲み足りないだろうし」
そう言って、グイッとジョッキを仰ぐ、千冬。
「おかわり?」
「くれ」
「はいはい」
厨房の方を向き、ビールを注いでいると。食堂の入り口から誰かがコッソリ入ってくる。
「お、やってる、やってる」
「来たわよー!千秋さーん!」
入って来たのは二名、二人とも教員だ。
「あ、フランシィ先生、榊原先生、イスそこら辺から持って来て下さい。私、王先生を寝れる場所に移して来ますね」
「ああ、すまない」
真耶が美友を抱えて長椅子がある方に行ってしまう。
それと、入れ替わるように千秋がカウンターから顔を覗かせる。
「はい、生ビール」
「ああ」
受け取ろうとして、千冬と千秋の手が触れあう。
「ッ!?」
「おっと・・・危なかった、気をつけてね」
「す、すまん・・・」
落としそうになったジョッキをなんとか支えて、持ち直した。
手元に置いたビールを見ながら千冬が呟く。
「なぁ・・・私は本当に綺麗だと思ってるのか・・・?」
「うん、千冬は綺麗だよ」
「そうか・・・それは、嬉しい・・・」
「うん」
沈黙、二人して目を合わさないでいると千冬が意を決して言う。
「千秋・・・あの時の約束・・・覚えてるか?・・・」
約束・・・千秋は思い出すように言う。
「・・・・うん」
「なら・・・」
「でも、今じゃないかな・・・」
「ッ・・・そうか」
拒否された、そんな感情が千冬の中を駆ける。
「まだ、何が起きるかわからない。あの二人も今後どういった行動をとるか・・・予想はできない」
「全てを乗り越えた後か・・・」
「うん、その時になったら・・・僕から約束を果たすよ」
耐えられない思いが体の中を渦巻き、ついに口から言ってしまう。
「・・・でも、私はっ!」
「イッエーイ!!、飲んでるか!?ちーちゃん!美友ちゃんの復活だぜぃ!!」
「「・・・・」」
「ありゃ?どうしたのですか二人とも?」
「なんでない・・・酒が入り過ぎただけのようだ・・・」
「え〜?酔いすぎですか〜?千秋君、お冷や下さい!」
「・・・うん」
厨房の奥に千秋が消えていく、その背中を見て千冬は思った。
(そうだ、私・・・今は・・・今は、これでいいんだ・・・高望みはするな・・・)
そう、自分にいい聞かせた。
大人達の夜はふけていく、拭え切れない感情を置いて。