ピット ロッカー内
訓練が終わり、一夏を隣に着替えている、平日は学年そのものが違うので一緒に着替える事なんてないが、今日みたいな土曜日などには都合が合うと二人でロッカー部屋を占領している。
「痛って〜」
なんだか大口径の弾の跳弾を頭に食らった際に首を痛めたようだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、少しひねったみたいなもんだ明日には治るよ」
首を擦っているともう既に着替え終えている一夏から心配される。
「そいえば、シャルルは?」
「アイツ、なんだか俺らと一緒に着替えたく無い見たいで、先に部屋に行ってます」
「・・・一夏、嫌われてんじゃね?」
「えぇ・・・まぁ、確かに少し強引に誘ったりしたせいかもしれないですけど、男同士だし気にしなくてもいいんじゃないかって思ってるんですけどね」
一夏が少し残念そうに言う。
「あのー、織斑君とデュノア君と風見野君はいますかー?」
「はい?えーと織斑と風見野先輩だけならいます」
ドア越しに呼んでいる声が聞こえる。確かにこの声は余り面識がない山田先生だったか?
「入っても大丈夫ですかー?まだ着替え中だったりしますー?」
どうやら俺達に何か伝えたい事があるようだ。
「先生、今なら大丈夫ですよ。入って来て下さい」
「そうですかー。それじゃあ失礼しますねー」
バシュッとドアが相手山田先生が入っくる、王先生ほどではないがやっぱりこの人も小さいな・・・
「あ、すいません、風見野君はまだ着替え前でしたか」
「いいえ、気にしないで下さい」
「は、はい。えっと・・・デュノア君は一緒ではないんですか?今日は織斑君と実習しているって聞いていましたけど」
そう、言われ一夏を見る。
「あ、まだアリーナの方にいます。もうピットまで戻ってきたかもしれませんけど、どうかしました?大事な話なら呼んで来ますけど」
「ああ、いえ、そんなに大事な話でもないですから、二人から伝えておいて下さい。ええとですね、今月下旬から大よくが使えるようになります。結局時間帯別にすると色々と問題が起きそうだったので、男子は週に二回の使用日を設ける事にしました」
「本当ですか!」
一夏が突然喜び山田先生の手を取って感謝の言葉を並べる。
・・・しかし、風呂か。シャワー生活に慣れて来てしまったが為に風呂の喜びを忘れてしまった。まぁ、嬉しいと言えば嬉しいか・・・
一夏が山田先生に詰めより、先生は顔を赤くしている。
一夏・・・やはりお前は天然の女ったらしか・・・
先生と生徒の禁断の関係に発展しそうになるのを見ていると、ロッカーの影からシャルルが出てくる。
「・・・一夏、何してるの?」
一夏がドキィッ!として人形のように振り替える。
「まだ更衣室にいたんだ。それで、先生の手を握って何してるの?」
「あ、いや。なんでもない」
一夏が山田先生の手をパッと話す、それに続き山田先生も恥ずかしくなったのか一夏に背を向ける。
「シャルル、そりゃ、一夏だぞ。一夏が女性に対してする事といったら・・・わかるだろ?」
「・・・一夏はやっぱりそう言う人なんだ・・・」
「待て!違う違う!薪先輩も変な事言わないで下さい!というかシャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいぞ!」
「そう」
少し、一夏をからかって見たが、なんだかヤケにシャルルが不機嫌だ、何かあったのか?
「ああ、そういえば織斑君にはもう一件用事があるんです。ちょっと書いて欲しい書類があるんで、職員室まで来てもらえますか?白式の正式な登録に関する書類なので、ちょっと枚数が多いんですけど」
「わかりました。シャルル、先輩。自分はちょっと時間がかかるんで先に部屋に帰ってシャワーでも浴びてて下さい」
「おう」
「わかった」
一夏はそう言って山田先生とロッカーから出ていく。
そして、シャルルと二人きり・・・
「先輩は早く着替えないんですか?・・・」
こちらを見ないままタオルで頭を拭きながら、シャルルが訪ねてくる。
コイツ、一夏の言った通り本当、人と着替えたがらないな。
俺はロッカー内の服を取り出し着替えなが言う。
「シャルル・・・何があったか知らんが一夏に言えない事があるなら俺に言え、相談にならのる」
「・・・いえ・・・大丈夫・・・です」
大丈夫・・・ね。コイツ、嘘はつけないタイプみたいだ、何か抱えているみたいだが、まぁ、言いたくないなら無理に聞く必要性はない。
「そうか・・・」
着替え終わり、ロッカーを閉める。未だに着替え始めないシャルルに対してどうしようかと考えていると、再び外から声が聞こえる。
「薪君〜、いるのは分かってるんだから出て来なさ〜い」
声からして楯無か、いいタイミングで来てくれる。
「シャルル少し遅くなるかもしれないから、先にシャワー浴びといてくれ」
「はい・・・」
シャルルを横目に更衣室から出るとそこにはもちろん楯無がいたが・・・
「・・・どうしたんだよ、そんな膨れっ面して」
「別に・・・」
ここにも機嫌が悪い子が一人。
「なんでも、舞姫ちゃんがこの後直ぐに寮の自室に来て欲しいって言ってたわよ」
「え、俺一人で?」
「そうよ・・・はぁ、なんでソル、フォルテに続き舞姫ちゃんまで・・・」
・・・楯無が何かブツクサ文句を言っているが。しかし鴉堕か・・・確か少し前に話した時は関西弁を使う女の子って印象だったな。後は日本代表候補生だから簪の先輩に当たる訳か。
「わかったじゃあ行ってく・・・」
「二年生の寮までは一緒に行きましょ」
グイっと腕を抱きしめられ、そのまま俺ごと移動し始める。
「ちょっ、楯無いきなりなんだ!?」
「その・・・薪君がなびかないか心配で・・・」
少し進んだ所で止まり、いきなり恥ずかしそうにソッポを向く楯無。
・・・・えーとこれはつまり・・・誰かになびくって事か?確かにここ最近は楯無以外にソルやサラ、クリスさんにサファイアにも指導してもらっていたが、次に鴉堕も来る可能性が出てきたからか?
「なびくってお前・・・別に気にすんなよ、たかが指導だろ」
「だって・・・」
楯無って結構独占欲強い方なのか?というか俺なんか独占した所でなんになる。
「俺の師匠はお前だ楯無、そこは絶対に変わらないから安心しろ」
「本当?」
「本当」
楯無の赤い瞳がこちらの目をジッと見てきたので、見つめ返していると、楯無がニッコリと笑う。
「じゃあいいわ」
そのまま楯無に腕を抱きしめられたまま俺は二年生寮に向かうのだった。
楯無から解放されて直ぐ、俺は鴉堕の部屋の前にいた。
「何の為に俺をよんだんだか・・・」
とりあえずドアをノックして部屋にいるか伺う。
「は〜い、今いく〜」
声からして鴉堕のようだ、ガチャとノブが回る音がしてから鴉堕が出てくる。
「鴉堕、呼ばれて来た風見・・・」
部屋から出て来た鴉堕の姿を見て驚く。
返り血を浴びた顔。
血がこびりついたエプロンに三角頭巾そして・・・
血のついたドス。
「あ・・・え、と。取り込み中でしたか?」
「え?・・・ああ、おまんの為にな、ちょいと捌いとった所やで・・・」
「さ、捌く・・・?」
血のついたドスの刃をスッと指で拭き取るの見てから後退りしてしまう。
「えっと、出直した方がいい感じ?・・・」
「別に気にすんなや、直ぐ出来上がるし、部屋に上がって待ってろや」
「いや、なんていうかその・・・」
なんかヤバい匂いがプンプンする、匂いって言うか実はトマトでしたみたいな感じじゃない、マジの血の匂いが鴉堕から感じる。てかなんで包丁じゃなくてドスなの?
そんな思考を巡らせていたら、部屋の中のベッドに誰かが倒れているのを見つける、その僅かに見える手の肌は血の抜けたいやに白い肌だった。
これ、絶対ヤバイ、ヤツだー!
逃げよう、俺の頭の中の脳内会議で全員一致のエマージェンシーと言う結論が出た。
「すまん鴉堕。俺急用を思い出したから、これにて・・・」
背を向け、真っ直ぐダッシュしようと思ったが後ろの襟首を掴まえられて、引きずられる。
「まぁ、待てや、直ぐに食えば十分に間に合うやろ」
「いやだー!まだ死にたく・・・え、食う?」
「ああ、うちの作った料理食わしてやるわ」
鴉堕の言葉に唖然としているとそのまま部屋のドアがパタンと閉まった。
魚捌いてただけかよ・・・
部屋に入り机に座ってると、お皿に乗った魚料理が出てくる。
「鴉堕、お前自炊すんだな」
「ここの食堂もええ味しとるけど、うちが食べたいと思った物ちゃうからな、そんな日はこうして作っとるんや。まぁ、趣味や趣味」
血のついたエプロンと三角頭巾をとり一緒に椅子に座る、もちろん顔についていた血も綺麗になくなっている。
寮では自炊も出来るが鴉堕のように実際にやっている生徒は少ない。後はお弁当を作る生徒がちらほらいたはずだ、確かこの前一夏が箒と凰とオルコットのお弁当を食べたとか言ってたし。ソルも楯無のお弁当は旨いとかも言ってた記憶がある。
「つーか、魚の血どんだけ浴びたらあんな状態になるんだよ、後なんでドス?」
「うちもようわからん、料理は出来る方なんやけど、なんでか汚れるんやわ・・・ドスの事は聞かん方が身のためやで・・・ああ、ちょいと待ってくれや、起こさあかん」
身のためって何?・・・
鴉堕がベッドに近寄り、倒れている人の肩を揺らす。
「ほら、ご飯出来たで、冷める前に起きんかい」
「ん・・・」
ムクリとベッドから起き上がる子が一人、先ほど死体かと思っていたその子はまさかのクラスメイト、霞・オウアランダーだった。
「・・・ッ!?・・・」
寝ぼけ眼のまま辺りを見渡し、俺がいる事に気づき驚く。
「よう・・・邪魔してる」
「こ、こん、ばんわ・・・」
相変わらず怯えた表情でこちらを見てくるオウアランダー、まさか、鴉堕とルームメイトだったとは。
オウアランダーも席に座り、三人で手を合わせる。
「ほな、食べるで。いただきます」
「「いただきます・・・」」
なんだこの状況・・・クラスメイトの部屋に行ったらご飯食わされるとか突然過ぎて意味わからん。
箸を持つが、いまいちご飯を食べる気にはなれない。とりあえず二人の様子を見るが・・・
「霞、頬っぺたにご飯粒付いとるで」
「え?・・・あ、ごめん・・・」
「気にすんなや・・・ほら、動かへんで」
「あ、ありがとう・・・」
「ええんよ、それより今日のご飯はどや?旨いか?」
「うん・・・舞姫の作るご飯はいつも美味しい・・・」
すげぇ、鴉堕、あのオウアランダーと会話してる。
思わず親子か!と言いたくなるような場面だが、オウアランダーの始めて見る顔に終始驚く。
「なんや、風見野、ボヘっとしてはよ食わんのかい」
「あ、いや・・・」
こっちは突然の事だらけで驚きっぱなしなんだよ!
そう思いつつ、ご飯を食べようとするが、思いきって聞いてみた。
「なぁ、鴉堕。俺に何か用があって呼んだんじゃないか?」
「・・・・」
さっきまでオウアランダーを見ていた優しい目とは真逆に突然冷たい鋭い目付きになる。
「なんや、本当しっかりしとるやん・・・楯無に甘やかされてばかりやと思うたわ」
なんだ・・・突然。
暖かかった空気から一変、突然辺りが冷たい空気に変わった気がした。
「いきなり、仲もよくない人間から、飯を食えと言われても、手ぇつけないくらいには平和ボケしとらんようやな・・・けど・・・」
「は?何を言って・・・」
「単刀直入に言ったるわ、おまん、このままだと死ぬで」
突然鴉堕からそう言われて頭の中が困惑だらけになる。
死ぬって・・・
「いまいちわかってないようやけど、簡単や風見野、お前は弱すぎや」
「・・・おま」
「ここ最近の戦績と、こないだの襲撃事件の映像、見させてもろたで。正直、今後あんな事起きたら次はないで、おまんは必ず死ぬ」
「そんな事、やって見ないと!」
「「エンド・ロール」やったけ?上手いタイミングで使えればええけど、場合によっては操縦者に危険が及ぶんやろ?とは言ってもおまん・・・使う気マンマンやろ・・・」
「ッ・・・」
確かにいざとなったらまた使う気はあった、ちょっと腕が怪我したくらいだし、あれがあれば一人でも無人機は落とせる自信はある。
「そう言う所や、慢心が死を呼ぶで、この前も大丈夫やから、次も大丈夫はないんや」
「だけど・・・」
「日本政府からも、おまんと織斑 一夏を守れって通達が来とるんや、下手に前線に立たれたら困るのはこっちや。悪い事は言わん・・・これからは普通に過ごせ・・・」
「・・・それは、つまり」
「せや、もう、訓練はするなってこっちゃや」
ギュッとテーブルの手を握りしめ、自分の不甲斐なさを呪うが・・・同時にさっき楯無に言った事やソルの事、そして今パートナーとして組んでいるサファイアの事を思い出す。
ここで、はい、そうですねって納得は出来ないんだよ。
だから、俺は意を決して言う。
「なら、お前より強ければいいのか?」
「は?」
「お前を倒して、強い事を証明出来ればいいんだよな?」
鴉堕が面を食らった顔をした後、笑う。
「・・・風見野・・・ふっ、ええで、そっちの方が分かりやすいなぁ。なら、タッグ・マッチでケリつけようやんか、うちのおまんの戦争や」
「わかった・・・それで決まりだ」
言いたい事は言い切った為、立ち上がって部屋から出ようとする。
「おい、待ちぃや」
「なんだ?まだ何か・・・」
鴉堕が俺の目の前に置かれていた料理を指さす。
「もう、腹割って話した仲や・・・料理くらい食ってけ」
「・・・・」
グゥゥゥとお腹が鳴る。
「はぁ・・・」
椅子に座り箸を取る。
「お話し・・・お、終わった?」
「おお、すまんな霞。変な空気出して」
「・・・喧嘩してるの?」
「ケジメみたいな物や・・・気にせんで食べな」
二人のやり取りを見た後、料理を口に運ぶ。
「旨いな・・・」
思わず口にしてしまった言葉を鴉堕は聞き逃さない。
「せやろ、腕には自信があるんや」
あんな話をした後だが、鴉堕は優しく笑っていた。
コイツなんと言うか・・・切り替えが早いな。
「なんで、国家代表候補生に喧嘩売ってんだよ俺は・・・一夏じゃねぇんだぞ」
鴉堕の部屋でご飯を食べた後、一年生寮に帰還した俺。
今までの公式戦では初戦から国家代表に当たっていて無理ゲーだからという事ですましていたが、今回は勝利予告までして喧嘩を売ってしまった。国家代表ではないと言ってもその実力は折り紙付き、いつも通りにボコボコにされる未来しか思い浮かばない。
「はぁ〜鴉堕のご飯美味しかったな〜」
なんて事を呟き、現実逃避を試みるが意味なんてない。
とりあえず、今日はシャワー浴びて寝よう。
そう思って、部屋のドアを開ける。
「ただい・・・何やってんのお前ら?」
「うぁ!?え、これは!・・・」
「え!?、えっと!・・・」
一夏とシャルルが部屋でご飯を食べていた、というより一夏がシャルルにご飯を食べさせていた。
そんな二人は俺が部屋に入ったくるなり飛び起きるよいに椅子から立ち上がり、一夏はシャルルを隠すように、シャルルは一夏に隠れるように動いた。
今、男が男にアーンってしてたよな・・・
「一夏・・・シャルル・・・お前はやっぱり・・・」
「ち、違いますよ!シャルルが箸苦手なんでそれで・・・」
「なら、スプーン使えよ」
「それは・・・俺も言いましたよ・・・」
「一夏が甘えていいって・・・」
二人共ゴニョゴニョと何かを言っているが聞こえない。
「まぁ、いいシャルルも一夏もシャワーはもう浴びたよな?」
「「シ、シャワー!?ですか!?」」
「お、おう・・・」
なんで二人して顔を赤らめてんだ?
「もう、俺が入るぞ」
「「ど、どうぞどうぞ」」
バスタオルを掴んでシャワー室に入る。
なんかよくわからんけど訓練終わった後の不機嫌なシャルルは消えたな。
良かった良かった。
そう思い、シャワー室に入ろうとした時、洗面台の籠の中に何かを見つける。
ん?これはサラシ?いやコルセットか?
・・・サラシなら・・・箒か!
多分箒の物だろう、絶対持ってそう。
「一夏〜!」
洗面所から手だけ出してサラシか何かを一夏に見せる。
「な、何ですか薪先輩ってうぁ!?」
「きゃあ!?」
ん?今女の子の声が聞こえたか?
「これ箒の忘れものか?」
「え・・・あ、はい、そうです、いや〜箒のヤツめ、こんな忘れ物するなんて・・・」
一夏が受け取りそのまま持っていく。
よし、今日は疲れたからとっとシャワー浴びて寝よう。
後になってから何故あの時気づかなかったんだろうと常々思う。